第1話

文字数 369文字

 わたしは美しい。
 ギリシア神話の女神を思わせる、かっきりとした顔立ちは彫刻のよう。
 深く艶やかな瞳は見るものを吸い込むようであり、いてもたっても居られない気持ちを沸き立たせる。

 誰もがわたしを手に入れたいと渇望する。
 わたしの桜色の唇を奪い、豊かに渦を巻く髪の毛を愛撫したいと、のたうち回るほどに願う。
 わたしの声を聞いたものは全身の力が抜け、耐えがたい官能に負ける。
 その場で座り込み、人目のあるなしに関わらず、体をよじって耐えかねる欲望に苦しむはずである。

 だが、次の瞬間、人は死よりも暗い絶望を味わう。
 わたしを見て、どうしても手に入れたい思いで瞬間的に心を燃え上がらせた直後、人はどうにもならない思いに狂いそうになりながら、その眼を逸らす。そして、一生、後悔するのである。

 わたしを、見てしまったことを。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み