前編 神聖

文字数 22,036文字

 つまらない。
 まるで耳朶に息をかけられたような冷たい声音に背筋がぞっとした。
 人々が行き交うペデストリアンデッキの真下に設置された喫煙所は日陰でありながらも、やけに暑かった。
 真っ黒のジャケットがずっしりと重みを帯び、糊のきいたシャツとネクタイに息苦しさを覚える。
 両肩に怨霊が憑いているのではないか、と大真面目に思うほどの身体の鈍い重さに辟易していたが、まだ服を着崩すわけにはいかなかった。この服を脱いでしまえば、何事もなくいつも通りの日常に帰ってしまう。それが怖かった。
 声のほうに顔を向けると、そこには一人の女性がいた。
 黒縁の眼鏡をかけて、長髪を簪で編み込んで丸めた女性が煙草をくわえて、手元の紙束を俯瞰するように見つめている。睥睨する冷ややかな眼つきは飢える獣のように鋭利だ。本能的に、それが彼女の本性の一部なのだなと思った。
 長月に入ったとはいえ、厳しい暑さが地上に降り注いでいる。それでも女性の灰色のストールを羽織った場違いな服装は、季節に取り残された挙句、自分だけ吹雪で荒れる銀世界にいるのではないかと思わせた。
「なにか言いましたか?」
 なんともないように声をかけると、女性はこちらを向いた。
 先刻までの鋭い雰囲気はすっと消えて、柔らかで淡い笑顔を向けてくる。
「すまない。つい考え事が口から洩れてしまったみたいだ。悪い癖だと自覚しているんだが、どうにも……」
 恥ずかしがるというよりもバツが悪そうに煙草を持った手で頭をかく。煙草の煙がしなやかな指先に巻きついては名残惜しい気に消えていく。
 妙齢な女性の、今まで出会ったどの人にも当てはまらない物言いにほんの少しの間、言葉を失った。
「自分の姉もよく独り言を呟くので分かりますよ。『人間椅子ってほんとにいるのかしら。もしいたとしたら、弟子入りしたいくらいだわ』って」
「君のお姉さんは面白いな」
 次は困ったような笑み。ころころと変わるニュアンスの違う笑みに僕は親近感を覚えた。それは感情の起伏が小さいというよりも人の様子を伺う表情の変化だ。
 どことなく凪乃に似ている。表情が移り替わる一瞬、中身のない感情がこちらを覗き込んでくるところ。無表情とは違う。まるで世界の残酷さを目の当たりにした時の何もかもを諦めた心情に似ている。
「会ってみたいね」
「え?」
「君のお姉さんに会ってみたいと言ったんだよ」
 これは意外な返しだった。上辺だけの会話だとしても、女性がそんな言葉を放つとは予想もしていなく、思わぬ角度からボディブローをくらった気分になった。
 女性は煙草の火を消して、紙束とともにクリップで挟んであった小切手のような紙を丸めて、ゴミ箱めがけて投げた。果たして、放物線を描いた紙はゴミ箱のふちに当たり、床に落ちる。
「残念」女性は呟いた。
「よければあげるよ。このあと時間があれば観に行くといい」
 自分が落とした食べ物を拾って食べろというような言葉だった。状況を理解するよりも先に女性は紙束をゴミ箱に入れ、ストールを羽織り直して出て行った。その後ろ姿は、彼女の強気な口調とは反対に小さく、弱々しい印象を与える。古びた陶器のように触れてしまえばたちまち壊れてしまうほど華奢な背中が遠くなっていく。
「まるで手負いの獣のようね」
 小さいが、自然と耳まで届く透き通った声が聞こえてきた。女性とは反対の方で制服を着た凪乃(なぎの)がこちらを向いていた。眼を細めて懐かしむ眼差しに僕は居心地の悪さを覚えた。
 凪乃の羨望に近い意味を持つ眼差しは昔から苦手だ。人の心を直接覗いているようで、そのすぐ裏にある憎悪が見えてしまうことが恐ろしい。
「勇ましく、猛々しい。諸刃を携えた獣性。威圧的で懐柔的。華奢でありながらも、それをものともせずに奸計を張り巡らせる」
 凪乃の言葉は綿のように軽く、僕の思考に覆いかぶさる。時に、意味を持つようで持たない言葉を投げかけては僕を混乱させる。綿を退かそうにもふわふわしていて、それが本当に僕にとって必要なものなのかと浮かび上がっては首を絞める綿が問いただしてくるのだ。
「それはどういう意味?」
 努めて嫌悪を隠しながら、眉をひそめて問いただす。
「あなたなら知っているでしょう?」
 凪乃はそれ以上、言葉を投げてこなかった。
 煙草を灰皿に押しつけると、備え付けの掛け時計が午後六時を知らせる鉦を鳴らした。
 窓の外では大きな劇場へと繋がる階段を上る人の波がうごめいていた。足元ではゴミ箱に入れ損なったくしゃくしゃの紙が転がっている。それを拾い、しわを伸ばした。
 それは劇のチケットだった。
 凪乃はいない。眼鏡の女性は去って行った。
 午後六時の鉦が徐々に消えていく。
 喧騒に埋もれる人の波に眼をやった。
 しわくちゃのチケットを乱雑にポケットへと突っ込むと、うんざりするほど蒸し暑い外へと踏み出した。

 隣の席は開演しても空席だった。
 最前列より数列後方の中央席といった舞台全体を眺めることができる席に座り、背もたれに深く体重をかけた。
 呼吸一つひとつが鼓動のように身体中を伝い、まだ僕は震えているのだと自覚する。
 スーツに加えて、劇場の人の熱気に汗が噴き出す。それでも手先は嘘のように冷えていた。
 ざわめきは光とともに消えていき、怖いくらいの闇の中で沈黙だけが存在していた。いつまでも、このしじまが続けばいいのにと思いながら始まりを待った。
 疲れていた。これまで以上にないくらい、このまま眠りにつきたかった。
『もう行くの?』
 不意に母の言葉を思い出した。
 くそ、と内心で舌打ちをする。思いもよらぬ記憶の奔流が洪水のように蘇る。
 開け放たれた窓とそよ風に揺れるカーテン、朱色に染まり輝きを放つ蓮華柄のティーポット、蝋燭の影に浮かぶ澄んだ横顔。
 忘れるはずがなかった。
 ひしめき合い、喧騒を生み、美化した思い出を傷つける嵐が現実のように忘れたはずの記憶を浮かび上がらせる。
 ひどく困惑していた。暗闇の中で耳を塞いで外界からの感覚を遮断した。
 それでも忘れられるはずがなかった。
 久しぶりに訪れた実家の玄関で革靴の紐を結んでいる時、背中にかけれられた声は非難を孕んだものだった。
 それは記憶を辿ればたった数時間前のことだ。今では遠い昔の、子供の頃の思い出のように薄れた記憶だ。だが、皮肉なことに母が向ける言葉とその印象は美化されていない。鮮明ではなく、ぼんやりとした記憶だとしても、容易に僕の心を揺さぶる。
 親は卑怯だ。自分の子が幼い頃は反論を受けつけず、大人になれば自分は年を取り、弱々しい振る舞いで子を惑わせる。
 八の字にした眉と不安げな眼差しは、まさに僕に対しての愛情の一つの形を体現しているように見えた。怒っているなら、いっそ叱ってほしかった。そうしてもらえるほうが何倍も楽だった。
 その時、閉じていた視界が真っ白になり、空気が震える感覚が肌に届いた。
 眼を開けると、風光明媚な軽やかなドレスをまとった女性が曲に合わせて踊りを披露していた。
 舞台の両脇に設置されたスピーカーから流れる音は劇場全体に届き、アンビアンスを共有させる。
 思わず、身体中の震えが嘘のように止まった。
 僕のことを柔らかに迎え入れる光は
 だが、肝心の物語が始まると、僕はすぐに辟易してしまった。
 ダンスを基盤としたスポーツと恋愛の物語というところまではすんなり落とし込んではいるが、節と節の間に紛れ込んでくる家族や兄弟愛のこそばがゆさが蛇足でしかなかった。役者のしおらしい演技もジャズのしっとりとした音楽も安っぽさを加速させる。
 ただでさえ甘ったるいのに、ホイップクリーム五割増しのショートケーキを出されたようなもので参ってしまう。
「世界平和を誰もいない裏路地で語るくらい無意味な題材ね」
 隣の席で背筋をまっすぐ伸ばし、行儀よく膝に手を合わせていた凪乃はとうとうあくびを噛みしめるように口元に手を当てた。
「想像以上にありきたり。私、もっと激しいのを期待していたわ」
「たとえば?」
「そうね」
 凪乃は視線だけを上に向けて続ける。
「オペラ歌手の女性がオペラハウスの地下に住む怪人に歌を教えてもらうために連れ去られてしまうの。怪人は彼女の美声に聞き惚れてしまうけれど、女は地上に戻りたいと願うお話。私、やってみたいわ」
「それは愉快だね」
「本当にそう思っているの?」
「本当だよ。じゃあ、僕は彼女の婚約者の男になろう。君を前にすると太陽さえも嫉妬して月の後ろに隠れてしまうよ、と誓いの言葉を口にして怪人から君を救い出すんだ」
「驚いた。蓮ったら、詩人にはなれそうにないわね」
「残念。僕はこれでも小学生の頃から詩人になりたかったのだけれど」
 ほんと残念ね、と凪乃は妖精が囁くような笑い声をこぼした。
 ふと隣から視線を感じて顔を向けると、中年の女性が気味悪そうにこちらを見ていた。さすがにマナー違反だったかなと反省して、また鼻につく物語に意識を向ける。
 しかし、なぜ僕がここまで気に食わないのかは、おそらくテーマ性に対しての生理的な嫌悪感があるからなのだろう。僕にとって家族や愛情の素晴らしさと説かれたところで、そんな押しつけがましいものに動じるわけはなかった。
 喪服を着た母の泣き崩れる姿が思い出される。それは今まで見たくないと切に願った記憶の一つだ。
 そうして、劇が終わった。
 スタンディングオベーションだった。
 まず、僕の前に座る観客の数十人が立ち上がり、続けて隣の席の観客が立ち上がっては痛くなるのではないかと思うほど拍手を送っていた。気がつくと、僕を除いた全員が万雷の喝采を舞台で頭を垂れる役者たちへと注がれていた。
 そうして、幾ばくのカーテンコールが終わり、照明が客電へと切り替わったところで二時間近くに及ぶ劇は終わりを迎えた。
 三々五々に劇場を出る人の波を早足で縫うように追い抜いていく。
 いっそう疲れが身体中を巡っていた。よりにもよって僕が忌み嫌うテーマ性の物語が地獄のような二時間を作り上げていたのだ。一足先にロビーに出た僕は頭を下げるスタッフを尻目に一刻も早く劇場を出た。
 気がつくと、暗闇に浸かった外を行く宛てもなく歩いていた。
 残暑の熱気は暗闇に溶けていき、冷気が外を満たしている。
 ジャケットを羽織り直しても寒かった。
 かじかんだ手に息を吹きかけて微かなぬくもりで寒さをしのいだ。
 スクランブル交差点にある巨大な電光掲示板には天気予報が流れていた。
 思わず仰ぐと、鉛色の曇天が一面に広がっていた。
 天蓋に届くかと錯覚させるビル群と街灯の数々はきらびやかに輝きを放ちながら、暗闇を嫌う人たちを照らしている。
 数多の人たちが僕のことなど気にもせずに忙しなく通り越していく。
 そんな人たちと鋭い明かりが陽炎のように揺らめいて、友華の姿と重なった。
『凪乃は逝ったのよ』
 秋月友華(あきつき ゆうか)は凪乃の親友で、僕のクラスメイトだった。
 畳の上に敷かれた布団の中で澄んだ顔で眠っている凪乃。何度も言われたはずの言葉を前にして、未だに信じることができなかった。
 いつもみたいに猫のように眼をこすりながら、眠いと戯言を呟いて起き上がるような気がしたからだ。
 部屋の中は蝋燭の明かりだけが灯っていて、凪乃の顔にかげりが生まれていた。それが死神の手のように頬の輪郭を辿り、首筋にかかる。
 その凪乃に寄り添う友華は目尻に涙を溜めて、非難する眼差しでこちらを睨みつけていた。
 友華は何も言わず、そのまま泣き出した。
 凪乃を支え、いつも強気な態度の友華が声をあげて泣いていた。涙は凪乃の頬へと落ち、やせ細った輪郭を伝ってシーツを濡らした。
 まるで凪乃が泣いているように見えた。
 通夜も告別式も僕は泣かなかった。自分だけ違う世界を傍から見ているのだと思っていたからだ。
 当然そんなはずはなかった。
 何事もなく葬式が終わりを迎えた夜更け、実家の隣り合わせのバルコニーに出て凪乃を待った。凪乃と家を出て二人暮らしをする前、いつも夜中になれば凪乃がバルコニーへと出てきて無駄話をしたものだ。だが、いつまで経っても凪乃は現れなかった。
 凪乃は死んだ。双子の姉であり、同じ時間を共有した片割れが自殺した。
 友華は泣かない僕の頬を叩いた。
 それは現実を見ろという意味か、はたまた不甲斐ない僕への叱責かは忘れてしまった。
 思い出して、いまさらながら目尻が熱くなった。
 感情が熱を持って傷口を焦がしていく。
「泣いているの?」
 凪乃は言った。
 子どもをあやすような優しい眼差しの凪乃は、高校時代の制服を身にまとい、静かに僕の心の奥を覗き込んでくる。
 言葉にならない疑問は延々と頭の片隅から蝕んでいく。
 誰もが幸せそうで誰もが不幸そうな道端で、迷子になった子どものように途方に暮れていた。

 この世には祝福と呪いという二種類の縛りがある。
 佐倉凪乃の死は、僕――佐倉蓮(さくら れん)にとって祝福と呪いの両方だった。
 凪乃とは生まれた時からともに過ごしていた。双子ながらも姉としてのプライドが働いていたのか、さほど面倒のかからなかったはずの僕をわざわざお姉ちゃんぶって面倒を見てくれていた。たかが数十分先に生まれただけなのに、呼ばれ方ひとつでここまで育ち方が異なるのか、と手を引いて歩く凪乃の後ろ姿を見て常々思ったものだった。
 幼稚園から高校まで凪乃とは同じ道を歩んだ。なんとなく凪乃と同じ学校に通うことが当たり前といった意識が働いた結果だろう。
 頭一つ背が高かった凪乃を僕が追い抜かした時期から僕らは対等な関係へと進んだ。
 凪乃は僕に対して余裕を見せ始め、僕は凪乃に対して同じ高さの目線で話すようになり始めた。
 それからはお互い平凡な学園生活を送り、恋愛も部活も何一つ他の人たちと遜色のない人生を歩んだ。
 高校を卒業すると僕と凪乃は実家を出て、地方の都市で二人暮らしを始めた。大学こそは別々だったが、近くに今までと同じように凪乃がいる環境が僕にとっては至福の一つでもあった。
 だが、一年と続いた共同生活は音沙汰もなく終わりを告げた。
 二十歳。その年の長月上旬、凪乃が死んだのだ。
 自殺だったそうだ。
 僕が大学から帰ると、夕陽の差し込めるリビングで彼女は眠るようにダイニングテーブルに突っ伏して倒れていた。ガラスのティーポットと僕の名前にちなんだ蓮華柄のティーカップが古ぼけた思い出のような色彩と輝きに染まっていた。
 それがあまりにも綺麗な光景ですいぶんな時間をかけて足を動かすことを思い出し、凪乃のきめ細かな頬に恐る恐る触れた。ひんやりとした頬は夕陽のせいか、微かに熱を帯びていた。
 今でも鮮明にその感覚を思い出すことができる。
 穏やかな表情で薄目を開けた凪乃の唇が微かに動いたこと。緩やかなカーブを描く長いまつ毛。触れたことにより落ちる烏の濡れ羽色の髪。
 美しさは時に死の香りを含むものだが、凪乃の死は美しさそのものだった。死してもなお美しいのではない。死したことによって美しさが際立つ。
 ゾッと己の感覚に恐怖した。心の隅で凪乃が死んだことによって、自らが犯すかもしれなかった罪をなきものにできた安堵があったからだ。
 警察の事情聴取に応じたが、僕のほうが凪乃について知りたいくらいだった。
 凪乃が死んで状況は一変した。
 実家での葬式のために帰省した僕を迎えた母は魂が抜け落ちたかのように放心していて、心はすでに腐っていた。父は、そんな母を痛ましげに眺めているだけだった。
 母は凪乃の生前から僕より凪乃に溺愛していた節があり、僕と母の仲は良好とは言い難かった。一人暮らしをしている理由の一つがそれである。凪乃の葬式以来、一度だけ帰省したときは何かと気にかけてくれたが、未だに頭の中は凪乃に蝕まれていて、口を開けば凪乃を中心とした会話が生まれた。僕は凪乃の遺品を持ち帰り、それっきり実家に帰らないと強く決意した。母は今でも文句もしくは心配のために連絡してくるが、父はおそらく僕の意思を汲み取って何も言わずにいる。
 僕はというと本当に様々なことがあった。
 まず、趣味で書いた小説が入賞してしまったことだ。凪乃が死してほどなくして、送った小説が傷が癒える間もなく大賞というお冠をもらって帰ってきたのだ。だが、当時の僕はとても表彰のために壇上に上がることができずに受賞を辞退した。それでも才能を買ってくれた出版社から本を出すことができ、僕は晴れて駆け出しの作家へと姿を変えた。
 凪乃が死んでから一年間、大学を休学して様々なことをした。掛け持ちでバイトをして金を稼いだ。とにかく、金が必要だった。旅をしたり、知らない街に長い間滞在して過ごしてみたり、凪乃のことを考えないようにがむしゃらに生きた。
 そうして、二年の月日が経ち、僕は二十二歳となった。
 デビュー作の発売から半年。
 僕はまだ二作目の筆を取ることができていない。
 元々、凪乃の死によって自らの感情を整理するために書いた物語である。これ以上自分の感情と折り合いをつけて小説を書いてしまえば、自分の中でひしめく処理しきれない凪乃の死を簡易的に片づけてしまうことに繋がるのではないか、と危惧していた。もし、その折り合いの付け方を間違っていたら、もし自分の凪乃への想いを裏切ってしまったら、それは取り返しのつかない事態になるのではないか。そう思うと、文字が何一つ出てこなくなった。
 そんな茫然自失の螺旋を巡っていた時、意外なところから声がかかった。
 それは役者として劇に出てみないかという申し出だった。
 劇団バブル。
 今や万雷の喝采が送られる人気劇団だ。正直言って、僕がそんな有名どころの劇団で役者を担うなんて場違いである。
「私は峰宮彼方。久しぶりだね、佐倉蓮くん」
 峰宮女史は真っ白なベッドの真っ白なシーツにくるまっていた。
 月の明かりが差し込めるだけの薄暗い部屋だった。窓は開け放たれ、中途半端に引かれたカーテンが風に揺れている。ベッドの横にあるテーブルには淡青色に光る水槽が置かれていて、中では名前も知らない魚が群をなして泳いでいた。
 峰宮女史は、そんなお伽噺のような世界の中で僕を見つめていた。
 日焼けを知らない純白の肌がシーツの裾から見え隠れする。簪で編み込んで丸めた後ろ髪のせいできめ細かな首筋が月明かりに溶けていく。どこまでも艶めかしい姿だが、ひどく華奢な手足や身体つきを目の当たりにしてしまうと、途端に痛々しい感情が沸きあがる。
「君には一度挨拶しておかなくちゃと思ってね」
「ベッドの上で?」
 冗談半分で笑みを向けて言葉を吐いた。
 峰宮女史はその意図を把握したかのように眉を上げた。
「生理なんだ」
 至極当たり前に戯けるように放たれた言葉は虚空に溶けていく。
 だが、僕はベッドの上にいる峰宮女史の本当の理由を知っていた。
「二年前、会いましたね。チケットをもらってびっくりしました」
「それはこっちの台詞だよ。まさか、同じ物語を紡ぐ人種だっただなんて。案外、面白いことを言うから安心したけどね」
 僕は彼女のことを知っていた。
 二年前、凪乃の葬式からの帰り道に寄った喫煙所で出会った女性だ。偶然か必然か、僕は獣のような本性を持ち合わせる女性と再会を果たした。
「それにしても、えらく広い家ですね」
 ここは峰宮女史の寝室であり、さらにこの家は峰宮女史個人が所有している屋敷らしい。一戸建て住宅が三つほど入る庭と遅咲きの桜、三階と屋上まである屋敷を目の当たりにして、地図を何度も見直した末でも信じられなかった。その上、インターフォンを押して、開口一番に出た言葉が『寝室に来い』という色恋から任侠までを網羅する様々な沙汰が脳裏を駆け巡った。かくして、脳が理解することを放棄したことにより、僕はすんなりとベッドの上に佇む峰宮女史と対面することとなった。
「僕を役者に推薦したのは峰宮さんだと聞きましたが」
「そうだよ。周りの反対を押し切ってワガママを通した。大変だったよ」
 峰宮女史は劇団バブルの劇作家として活動している。他にも、小説やコミカライズ原作など他の媒体を利用した作品も多く世の中に出している。もちろん、小説家としての僕も彼女の存在を知っていた。文面から滲み出る知的さと繊細さ。筆者が書くべき表現と読者が想像するべき表現の線引きをコントロールする。そんな書き方だった。おそらく、彼女はとてつもなくクレバーだ。
「君の小説を読んだよ。えげつないほどに生々しい――そんな講評を書いた作家がいたね。その批評に納得がいくものだった。穢れを知らないピュアな文体のように見えて、ところどころひしひしと感じる生々しい人間の本質が映す影。人間の骨幹を描いたどす黒い感情。筆者はこの先同じレベルの小説を書いていけるのか、と懸念する審査員もいたが、概ね皆から高い評価を受けていたそうだね」
 あまり話題にされたくないものだった。
 峰宮女史が物語に精通する劇作家だからでも、作品の批判を受けるのが怖いわけでもない。
 彼女が僕に向けている双眸があまりにも鋭利だからだ。本性の一部を剥き出しにした瞳孔は猫のように縮小している。
「あなたは、それを読んでどう思いました?」
 それでも聞かざるを得なかった。作家となり、新たな人生を歩み始めても宿業は切っても切り離せないものだ。僕にとって、あの小説は唯一の前世の過ちにして未来永劫償い続けていくしかない代物なのだ。
 峰宮女史はさらに眼を細めた。それは興味を示した眼差しというよりも、より深く目の前の男のことを観察しているという様子に近い。
「レインメーカーのようだと思ったよ」
 幾重もの深い沈黙の末に峰宮女史が吐き出した答えはそんなものだった。
 レインメーカー。
 日本語に訳すと雨乞い師という意味を持つ。
「あれは君の感情の一部を切り取った文章。それは過去の経験から感じたものを盛り込んだものだ。かといって事実だけを抽出したいのかと言えば、また違う。ともすれば、君の書いた物語は事実を含んだ上で自らの救済を望むためのものだ」
 表情も感情も言葉の隅々まで無へと帰結した彼女の姿は極めて恐ろしいものだった。
「実の姉との決別、母との確執、近親愛……極めつけには自分は善人だと説いた。悲劇のヒロイズムに浸り、全ての事柄を被害者として仕立て上げた。物語というのは人の心的外傷や人格形成の基盤、二次性徴時の記憶に直結する。どれだけ甘い蜜で包みこもうが、その人物の祈りが必ず見える」
 その先の答えは、おそらく分かっていた。
 いますぐに耳を塞いで彼女の言葉を遮れば、傷つかなくて済む。
 そうすれば、もうここに来ることはないだろう。
 背負わなくてもいい罪を今一度目の前に突きつけられることを強要する者がどこにいよう。だとしても、僕は罪悪感を減らすためにそれを待った。
「君は、そんなにも姉のことが好きだったのかい?」
 人の心臓を鷲摑みにする勢いで冷徹さを見せる峰宮女史はそう言った。
 束の間の息継ぎの時間。僕は彼女のことを見つめ続けた。
「そりゃあ実の姉なんですから、それくらい普通でしょう」
 至極努めて言葉を返したつもりだったが、峰宮女史のいつか見た鋭利な双眸がこちらを射抜いていた。
「人間が本能的に避けるものが二つある。なんだか分かるかい?」と峰宮女史が言う。
「それは殺人と近親愛だ。君は、その片方を犯した」
 動悸が沸騰せんばかりに刻むペースを速める。
 逸らしていた眼を峰宮女史のほうに向ける。彼女は変わらずにこちらを見つめ続けていた。
「君は、そんなにも佐倉凪乃のことが好きだったのかい?」
 ほとんど先刻と同じ意味を持つ問いだったが、決定的な部分は彼女が凪乃の名前を知っているということだった。だが、そんなことは調べれば簡単に分かることだ。だとしても凪乃と僕の関係性を知っていることには繋がらない。
 その質問に行き着くことは小説以外に他にはない。
「どこまで、凪乃のことを知っているんですか?」
「おそらく、全部。君が佐倉凪乃に恋愛的好意を抱いていたことから佐倉凪乃の末路とその経緯まで全て知っているさ」
「僕を役者に推薦したのは、それが理由?」
「私にだって劇作家の誇りがある。成し遂げるほどの器量があると思ったからに他ならない」と僕が来て初めて穏やかな笑みを向けてきた。
「なんら恥じることはない。君はただこの公演を演じきればいい」
 何の確証もなく、ただ一度しか顔も合わせたことしかない相手に言う言葉ではないが、胸を張って彼女は言い切った。

 初めての稽古はずいぶんと酷いものだった。
 役者としての実力が金魚すくいのポイよりも破れやすく、ぺらぺらなものは自明の理であり、さらに言うのなら役者としての僕には発言権がないに等しい。
 だからこそ、初めて台本の読み合わせをした時など目も当てられなかった。
 台詞はいちいち噛むわ、改行するごとにどこを読んでいるのか見失うわ。一ページ目にして己と他人の実力を推し量ることができるとはなかなかない経験だった。
「あんたが峰宮のお眼鏡に適ったって冗談だろう。いくら金を積んだんだ」
 読み合わせが終わって、隣の男が紡いだ開口一番の言い草がこれである。先が思いやられる。
 へこむことさえ許されない状況下において、それはどう解釈を広げても批判ですらなく罵倒であった。
 宮地聖(みやち ひじり)。
 劇団バブル結成メンバーの一人であり、二年前に僕が観た公演の脚本・演出、さらには主演を務めた人物でもある。歳はおそらく僕の三、四歳上だろう。ご丁寧に眉を吊り上げて眉間に皺を寄せているところを見るとずいぶんと毛嫌いされているらしい。
 稽古は動きやすい格好で行うからか、ジャージにティーシャツ一枚というラフな恰好だが、筋骨隆々とした身体つきが眼に入り、威圧感を増す。
「実力や才能以前にカリスマ性がない」
 大いに同意したところだ。さしもの僕も自らがカリスマ性を持ち合わせているとは思っていない。役者経験は皆無。社会的認知度も彼の方が高い。その上、留年学生というどう足掻いても言い逃れできない弱い立場にある。
 それ以上に役者参加に対しての多額の報酬に眼を眩むくらいには平凡な人間である。人は皆、金のおかげで弱くなれるのだ。
「ちょっと、お兄ちゃん! ごめんなさい。この人、単純に口が悪いだけだから気にしないでください」
 図星を突かれてだんまりしていると、横からデニムのジャケットを羽織った女性が介入してきた。彼女も今回の公演のメインキャストの一人である。
 名前は宮地野乃花(みやち ののか)と言い、宮地聖の妹だという。
 今にも目の前の草食動物を視線だけで殺せそうな眼つきと顔の聖さんに対して、野乃花さんは眉を下げながらも精一杯反論をしている。
 凪乃の弟である僕が言うのもなんだが、本当に血が繋がっているのだろうか。顔も性格もまったく似ていないではないか。
「この人って言い草はないだろう。そもそも本当のことを言ってんだよ」
「そういうところが人望をなくすって言ってるの。下手なのは仕方ないじゃない」
「実力がないことを免罪符にされたら、上手い奴が報われないだろ」
「だから、そういう意味じゃないって」
 となにやら僕を放り出して口論を始めだした。他の劇団員はいつも通りといった視線を向けている。
「狼とうさぎ」
 無意識的に放った言葉は予想以上に両者の琴線を刺激したのか、すぐに二人に睨まれた。人生は世知辛い。

 峰宮女史の演技指導を受けるということが、契約の一つとして入っていた。
 その日はアルバイトもそこそこに帰路についていたところだったが、峰宮女史から連絡が入り、彼女の元に早急に来ることを迫られた。すでに終電が動いてもいい時間帯であることを確認したが、そもそも二年の再会を経て、姉のことが好きだったのか、と過去の産物を根掘り葉掘り問いただす人間が常識的なはずがない。
 理由を訊くと、晩酌をやろうと言い出す始末。この後も家を出ることを嫌う峰宮女史が事あるごとに使いっぱしりとして夜な夜な僕を呼び出すのだが、それはまた別のお話。
 酒とその他諸々を買って峰宮邸を訪れると、相変わらず明かりが灯っていなかった。だが、峰宮女史の寝室兼仕事部屋にだけノートパソコンの明かりと水槽の青白い明かりが微かに部屋を照らしている。
 酒の肴として僕が宮地聖に言われたことを峰宮女史に告げると、彼女は身体をくの字に曲げてベッドの上で笑い転げた。
「さすが宮地兄だ。カリスマ性ときたか。物語の紡ぎかたは稚拙だが、冗談だけは私にも勝るに劣らない。彼はこれ以上伸びる見込みのない役者なんか辞めてピエロにでもなったらいいのに」
 彼は彼で真面目に忠告したことを峰宮女史は考える間もなく一蹴した。
「それ、本人の前で言わないでくださいね」
「そんな必要があるものか。私と彼はアイコンタクトだけで会話するくらい仲が良いんだぞ」
「それって睨み合ってるだけじゃないんですか」
「宮地兄は私のことを何か言っていたか?」
「空前絶後の変態、だと」
「ふむ、では君は類稀なる凡才だと伝えてくれたまえ」
 そんなことを言えるはずがない。
 彼も峰宮女史を毛嫌いしているような口ぶりをしていたが、顔を合わせた当初からこんな調子なのか。そう考えると、他の劇団員の苦労も伺えるものだ。
「とはいえ、こんな人なんだから無理もないか」
 つい出てしまった苦言に対して、峰宮女史は素知らぬ顔をしていた。
「まあ、君が下手なのは百も承知だ。そもそも私は稽古初日からそんな期待をしていない。演劇は小説と違ってスタンスというものが千差万別な上に論理的なものではないからな」と峰宮女史は言った。
「演じるということは、役に入りこみ、別人になるということだ。君はこれから散々言われることになるだろうが、舞台の上で演技をするなとか演じている間は自分をなくせとか、とにかく十人役者がいれば、十通りの答えと不条理がある。表情の作り方から舞台上での動き方まで。君が思う以上に君は自覚していないから当たり前のことを言うが――」
 彼女は一拍置いて、言葉を紡いだ。
「台本を持った瞬間から私怨はなくせ。君の都合も佐倉凪乃の都合も完成された物語には一切不要な異物だ」
 素人の僕を誘った時から峰宮女史がどこまで本気なのか、いまいち実感がなかった。何百人もの眼の肥えた観客を前に僕の演技が通用するのか心配で、彼女はからかうためだけに舞台の上に立たせるのだと思う時もあった。
 だが、峰宮女史が放つ言葉にはそんな冗談めいた要素は一つも孕んでいなかった。
 どんな状況でも、彼女は劇作家なのだ。
 己の描いた物語に完璧さを求める種類の人間。
 自分とはけっして相容れないであろう。
「僕は、あなたが苦手だ」
 峰宮女史は、その極大な興味心に従って赴くままに笑みを浮かべた。
「なぜ?」
「あなたが僕と凪乃のことを知っているから」
「なるほど。続けて」
「凪乃と同じで本心を隠していることを隠さないこと」
「佐倉凪乃は、そんなもったいぶったやつだったのか」
「凪乃のことを知っているのでは?」
「あいにく、私は神様ではないんだよ」
 峰宮女史はパソコンで操作をしながら、一連の会話をしていた。真面目に取り合う気は毛頭ないらしい。
 時折、峰宮女史が凪乃と似ていると思う時がある。
 それは眼だ。
 あの獣のような眼つきが、奸計と悪戯に考えを巡らす時と似ている。
 嗤いに近い表情。それが峰宮女史と会話していると、彷彿してしまう。
「……人は、死んだらどこに行くんでしょう」
「どこにも行かないよ」
 不意に出た言葉に峰宮女史は、あっけらかんと返した。
「……まさか、人の心の中で生き続けるなんて言うんじゃないでしょうね」
「馬鹿を言うな。朽ちたモノはどこにも行かない。私はインテリジェント・デザイン論を知った時から、魂やあの世という不可逆的なものを信じなくなったんだ」
 おどけるように片眉を上げて、肩をすくめる。
「なあ、蓮くん」
 まるで昔話を語る大人のように優しく、彼女は続ける。
「人とはな、生きていることだけですでに矛盾を抱えているんだ。来世も天国も何もない。人が死んだら終わりだ」
「……そんなわけないですよ」
「では、佐倉凪乃はどこにいるんだい?」
 僕は赴くままに手を伸ばした。
「あなたの後ろに」
 だらり、と粘液のように垂れた長い黒髪が峰宮女史の肩にかかっている。
 いつも通りの制服を着た凪乃の顔は見えず、ただ俯いている。
「私の後ろに?」
 峰宮女史は何ともないように言うと、躊躇なく振りかえった。
「何もいないじゃないか」
 当たり前だ。
 凪乃は、僕にしか見えないのだから。

 峰宮女史の演技指導と劇団の稽古は叱責を受けながらも順調に進んでいったある日、夏季休暇が終わりを迎えて大学の講義が再開した。
 申し訳程度で履修登録をした『演劇論D』の講義を終えて、さほど混み合っていない学食のテラス席に座って、昼食を摂っていると誰かが話しかけてきた。
「席、ご一緒してもいいですか?」
 レンゲを片手にそちらを見ると、野乃花さんがいた。暖色のチュニックワンピースにカーディガンを着込んだ彼女の手にはお弁当箱が掲げられている。こうして見ると、上品にまとめられた髪と服装から、いかにも大学生してますといった雰囲気をしている。同じ身分だが、違う世界の人間のように感じてしまう。
 軽音かダンスサークルに入ってそうな佇まいだな、と思いながら席を促すと野乃花さんは一礼して席に着いた。
「遅い昼食ですね」
「さっきまで講義だったんだ、『演劇論D』」
「ああ、宗教的儀式・祭礼に基づいたギリシア悲劇に関する講義でしたっけ。前期に受けましたけど、退屈で居眠りばっかりしていたらレポートが大変でした」
「野乃花さんがそんなこと言うの、なんか意外だね」
 そう言うと、コーヒーの入った紙コップに口をつけたまま固まり、首を傾げる。
「意外というと?」
「初めて会った時から私は優等生ですって感じだったから。居眠りばっかりなんて」
「よく言われます。私、意外と悪い子なんですよ」
 悪い子ね。口の中で反芻する。
「先日は兄が無礼を働いてしまい、すみません」
「大丈夫。彼の言いたいことはなんとなく分かるから」
 それから峰宮女史にダメ出しを受けたことを言うと、彼女は微かに眼を見開いて驚いたような表情をした。
「峰宮さんがそんなことを仰っていたんですか……ずいぶん期待されているんですね」
「期待……夜中に呼び出された挙句に徒歩三分のコンビニに板チョコ一枚を買いに行かされることが期待?」
 彼女が訳の分からない言葉を使ってきた。きっと、異国語か何かなのだろう。
 歯に衣着せない物言いには期待の意図があるなど初対面の何人が気付けるものなのか。宮地聖の妹ということで峰宮女史のことは昔から知ってるようだが、面識があるだけであの傍若無人の人間性を推し量れるほど人の物差しは万能ではない。
 電卓で登場人物の心情を求められるはずがない。そもそも規格が違うのだ。
 そう言うと、野乃花さんは口元に手を当てて笑った。
「峰宮さんはそこまで気難しい方じゃないですよ。とても可愛らしいじゃないですか。髪なんてさらさらなのにふわふわなんですよ。出かける際はおしゃれだし、あと外見から想像できないほどモノマネが上手なところとか」
 野乃花さんがさらに理解の枠を越えた言語を喋り出した。
「かわ……ふわ? ごめん、何の話をしているのかな。ポメラニアンとか?」
 野乃花さんはまた笑った。
「峰宮さんのこと、本当に何も知らないんですね」
「知らないっていうか、何も教えてくれないんだよ。突然、素人の僕を客演として呼ぶくらいだよ」
「いえ、なんというか、ここら辺の演劇界隈なら知らない人はいないって意味です」
 遠回しに演劇自体に詳しくないのかと言われてしまった。
「峰宮さん、考え事をする時なんて床や壁、お構いなしにメモを綴っていくんですよ。それも見たことのない文字で。なんでも峰宮さんが作り出した人工言語らしくて、前に一度だけファンタジーものの脚本を書かれたことがあるんですけど、その時も二つの人工言語をその脚本のためだけに作ったって噂があるくらいなんです」
 峰宮女史が多才なことは一般的な人からかけ離れた言葉選びから薄々感じ取ってはいたが、常識を逸脱していた。
 彼女は何者なんですか、と客演に招待された時、劇団バブルの主宰に尋ねたことがあった。その時返ってきた答えは「生粋の粋狂」という誉め言葉には程遠い言葉だった。
 だが、そんなことを思う間もなくそれは告げられる。
「そんな人に直々に呼ばれるなんて、佐倉さんはすごい作家さんなんですね」
 それは無垢というよりも無条件な憧れに見えた。
 かつての僕と同じ。環境を共にするだけで心を許すことができる。人はそれを素直とも言うし、愚かだとも言う。
 その澄んだ瞳に映るのはかげりではなく、陽の光の輝きなのだろう。
「……大学二回生の秋だったかな。今から二年前、双子の姉が死んだんだ」
 こんな話をするのは初めてだった。それは彼女が僕と同じ匂いがするからだ。危うげな橋の上で絶海を見渡している。人を魅了することも殺すことも簡単な景色に僕たちは敵わない。ふとした瞬間に投げ出され、落ちていく。
「姉はちょっとだけ変わり者でね、よく独り言を呟くし、本心を意味ありげに隠すことが常だった。顔は似ていないし、性格も真逆で、よくケンカすることもあった。けど、やっぱり彼女はお姉ちゃんでさ、仲直りは必ず向こうからだった。どんなに嫌った時があっても常にかけがえのない存在だった」
 ふと視線を外すと、銀杏並木の向こう側に一人、制服を着た少女が立っていた。
 その顔は少しだけ寂しそうだ。
「けど、僕は利用したんだ。姉の尊厳と思い出と感情を弄んで、金を稼いでいる。それは紛れもない事実で、僕が書いた小説はフィクションも入っているけれど、核となる部分は嘘偽りない実録なんだ」
 えげつないほどに生々しい、と誰かが言った。
 たしかに姉の生涯と引き換えに手に入れた栄光は穢れに満ちていた。
「それでも君は僕が『すごい作家』なんて言えるのかな」
 人の生き様を書くことは苦しい。人生の楽しみも苦しみも一緒くたに己にのしかかってくるのだから、眼を逸らすことができない。
 楽しいことなんて一つもない。僕が筆を取った原動力は希望に満ちた類のものではなく、負の感情なのだ。凪乃への想いと愛情を与えてくれない母親への感情。
 人はソレを憐憫と呼ぶだろう。
「ええ、私は言えます」
 それでも宮地野乃花は言い切った。
「私は、佐倉さんが利己的だなんて思いませんよ」
 これ以上にない優しいさがこもった声音と笑顔で彼女はそれを紡いだ。
 穢れを知らない純情な瞳には何が映っているのか、今一度問いただしたいところだった。

 翌日、朝起きると野乃花さんから連絡があった。
 内容は至ってシンプルで、昨日の突然の誘いに対する謝罪と待ち合わせ場所だった。
 あの後、どこか気分転換に出かけないかとお誘いを受けて、今日に至るというわけだ。
 アポイントと拘束時間を提示されるだけでも良心的である。最近の峰宮女史は夜間に限らず、交通機関が途絶えた未明に電話で叩き起こすことが多々ある。
 役者としての指導の名目で峰宮女史と会うことが契約のうちに入っていたが、すでにそんな契約は彼女にとってどうでもいいことなのだろう。近所のコンビニに出向く時間があれば、それだけで僕の一か月のアルバイト代を稼ぐことができるのだから、ぐうの音も出すことができない。なにせ、そんな貴重な時間を僕のために浪費しているのだから。
 待ち合わせまで時間があるため、朝食もそこそこにパソコンを開いて白紙の画面と向き合う。
 動かない指を見つめながら、輪郭をなぞって形を確かめるように凪乃との思い出を探す。
 記憶の中にいる凪乃はどれも笑っていた。輝かしい思い出ばかりを抱き寄せて、己を傷つける都合の悪い記憶はどこかに捨て去ってしまったのだろう。
 人間は身勝手な生き物だ。
 凪乃が哀しみ、時には泣いていたかもしれない記憶を忘れてしまうなんて、それは彼女への冒涜なのではないのか。
 ほこりを払うように優しく記憶を掘り起こしていく。
 分からないことのほうが多い。
 凪乃が死んだことも、彼女が僕のことをどう思っていたのかも、ぜんぶ分からない。
「凪乃……君はどうして死んでしまったんだ?」
 震えた声が出た。目尻が熱くなり、気を抜くと視界がぼやけてしまう。
 ただそれだけだった。それだけを知りたかった。
「その疑問を抱く資格があなたにはあるの?」
「あるよ。だって、君は僕の姉だもの」
「二年も過ぎたのに?」
「この二年間、考え続けても分からなかったんだ」
「じゃあ、あなたは峰宮彼方を死なせるわけにはいかないわね」
「どうして、そこで峰宮さんが出てくるんだ」
「彼女は自らを蝕む病理を治そうとせず、死を選んでいる。これじゃあ、私と彼女に違いはないじゃない」
「……君はいつもずるいな」
 パソコンを閉じた。結局、一文字も筆を進めることができずに時間だけが過ぎただけだった。
 支度を整え、バスに揺られること数十分。駅前の待ち合わせ場所に到着した。
 待ち合わせの時間の五分前に赴くとすでに野乃花さんはそこにいた。
 デニムスカートに藍色のシフォンブラウスを身にまとって、人目もはばからず台本を読んでいる。
 そういえば、日付と時間だけを指定されていたため、今日はどこに行くのかは聞いていなかった。
 彼女の服装を見た感じ、山や川など無茶な場所へは行かないだろう。
 これが峰宮女史なら行きかねないな、と片隅で思いながら声をかける。
「今日は佐倉さんの地元を見てみたいんですが」
 伏目がちにこちらを見ながら、野乃花さんは恥ずかしげに言った。
 咄嗟になるほど、と呟いてみせたが内心では困惑していた。
 実家暮らしから凪乃との二人暮らしを経て、現在は一人暮らしをしているが、現在も二人暮らしの時も実家からさほど遠いわけではない。
 否応なしに凪乃と母親のことを思い出す環境にいるのは心の準備がいるものだ。
 なにより残り香が強すぎる。
「どうして僕の生まれ育ったとこを見たいの?」
 純粋な疑問を投げると、野乃花さんは笑った。
 僕は彼女のよく笑うところが好きだ。凪乃に似ている部分がそこだからなのだろう。
「前に佐倉さんのお姉さんのお話を聞いて気になったんです」
「面白いことなんてないよ。蟻の行列を何時間も見続けたり、人の出っ張った背骨を延々と撫で続けたりする、よく分からない姉に期待されても困る」
「私、あんなガサツな兄しかいないので、そういうお姉さんのこと知りたいなって思って」
「嬉しいこと言ってくれるのね、この子」
 うるさい、出てくるんじゃないよ。
「それに、お姉さんのことを話す佐倉さんって生き生きしているじゃないですか」
 一瞬、思考が止まった。
 ああ、なるほど。これは励まされてるのか。
 今までそんな人間は周りにいなかった。
 母親は、凪乃が死んだと分かった直後、電話越しであんたが死ねばよかったんだと繰り返したし、父親は母親を気遣ってか何も言わなかった。友華は僕の不甲斐なさから怒り出し、峰宮女史に関しては今でもよく分からない。
 分からないなぁ、と心の中で呟く。
 こういう時、どんな顔をしてどんな態度をとればいいのか皆目見当がつかない。
 甘え方を忘れてしまうというのはこういうことなのか。
「じゃあ、行きましょう」
 返答に困っていると野乃花さんは僕の手を引いてずんずんと歩いていく。見かけによらず、彼女は行動派なのかもしれない。

 最初に公園、次に喫茶店、最後に図書館に訪れると朱色に染まる夕刻になっていた。
 本棚と本棚の間の通路で西日から逃れるように本を読む野乃花さんがこちらを見る。
 地方都市から少し離れた片田舎の図書館とあって休日だというのに人はいない。カウンターの司書も奥に引っ込んでいる。
「佐倉さんはよく本を読むんですか?」
「人並みにはね。『ライ麦畑でつかまえて』、『グレート・ギャツビー』、『サロメ』あたりが好きかな。あと、『人魚姫』とか」
「どれも読んだことないです。けど、『人魚姫』なら知ってます。最後に人魚が泡になるんですよね」
 本を棚に戻して、野乃花さんは続ける。
「実は私、そこまで演劇が好きじゃないんです」
 伏目がちでかげりのある表情だった。束の間の息継ぎによる沈黙は一秒と満たないが、数十分にも伸びたような気がする。
「……奇遇だね。実は僕もそこまで小説を書くのが好きじゃないんだ」
 同じじゃないか、と陽気に告げると彼女はさらに身を縮こまった。
「同じじゃないですよ。佐倉さんはそれでしっかり結果を出しているじゃないですか」
「それは君もだろう。そうでなくては、そんなに若くあの規模の劇団に関われるわけがない」
 彼女は居心地の悪そうに身じろぎすると、頼りなさげに微笑んだ。先刻と比べて二回りほど小さくなったように見える。自信に満ちあふれた天真爛漫な一人の女性だと思っていたが、そんな簡単な話ではないか。僕は伸ばしかけた手を引っ込めるように話題を転換させようと試みる。
 他人の大切な何かに触れてしまえば、僕が僕としてその人に特別として確立されてしまう。それはとても駄目なことだ。
「私が今回、客演として呼ばれている理由はお兄ちゃんの身内ということです。私がこういった場に立てるのはいつもお兄ちゃんの活躍のおかげだからです」
 兄妹の確執はよく分かる。
 理解していてもどうしようもないことだ。影響が波及するのは、己ではなく周囲であり、それを止めることは容易ではない。
 どんな兄妹仲であっても何かに傷ついて何かを手放すしか道はない。
 帰り道に路上販売していたアイスクリームを買って、並んで食べた。
 人と出かけることはおろか食事を共にすることすら久しぶりだった。
「私、思うんですよ」
 ベンチに座って落ちていく夕陽を眺めながら、野乃花さんが言った。
「天国って案外近くにあるんじゃないかって」
「……というと?」
「例えば人ってあの世とか宇宙の外側とかそういうものを深く論じないじゃないですか」
 なんだかいきなり峰宮さんみたいなこと言うようになったな、と思う。
「現実に迎合することが大人になるってことなんじゃないかな」
「そうですよね。けど、地獄はとっても遠いけど、天国は石を投げれば届く距離にあると思うんです。だって、そうじゃないと色々報われませんもん」
 とても子供みたいな言い草を野乃花さんが言う。それは希望的観測に近い綺麗事だ。
「峰宮さんならあの世なんてないと一蹴しそうだけど」
「峰宮さんらしいですね。あの人は一番死に近いところにいる。それが羨ましくもあって、悲しくもあります」
「……羨ましい?」
「はい」
 その伏せた横顔はどこか憂いがあるものだった。どこまでも凪乃に近い顔や雰囲気をする野乃花さんに僕は微かな吐き気と巨大な名称不明の感情が込み上げてくる。
「姉のことが好きだったんだ」
「はい」
「僕は、凪乃の恐怖を、蠱惑を、獰猛を、愛情をもらった。表裏ある彼女の姿を日常の端で理解しながらも、それから目を逸らし続けた」
 脳裏にあの日の記憶が蘇る。
 凪乃が亡くなる前日、彼女と共にハーブティーの材料を摘みに行った。凪乃がハーブティーが好きなことも、自分でブレンドして作ることも知っていたため、それ自体には何も不審に思わなかった。
 しかし、彼女が僕に摘ませたそれだけについては微かに胸騒ぎがした。
 奇しくも僕はそれを知っていた。その名前もその特性も。
 それを何に使うの? と言うと、彼女は微笑みを返すだけだった。
 僕は凪乃のことを聖人君子だと思い込んでいた。神聖視していて、全てが正しいと信じていた。
 だからこそ、その根拠のない信頼が僕を狂わせた。凪乃が亡くなった今、どこにも向けることのできない感情を宙ぶらりんにして途方に暮れていた。
 僕は凪乃が好きだ。
 言葉にして、初めてそれを心の底から理解した。
「だから、ダメだよ。死に近いことが羨ましいなんて言っちゃいけない」
 そう言うと、彼女はくしゃりと表情を崩して、微笑み返した。
「佐倉さんはとても正しいですね。やっぱり、私はそれが羨ましいです」
 それがどれを指すのか、僕には分からなかった。

 別の日、野乃花さんとの個人稽古だった。
 僕の実力がようやくポイと同じくらいに上達したからか、それとも以前のまま今の状況では役が務まらないからかは知らないが、追加の稽古日は二人で行うことになっていた。
「佐倉さんは無駄な間が多いので、掛け合いの際は早いテンポで台詞を進めていきましょう」
 幾度目かのダメ出しの後、野乃花さんは休憩しましょうと言った。稽古中はお互いあまり話をしない。というより、あの日以来野乃花さんは僕のプライベートに踏み込むことを避けているように思える。それはあちらにしても同じなのかもしれない。
 お手洗いから戻り、稽古場の扉を開けようとして手が止まった。
 Edelweiss Edelweiss every morning you greet me.
 エーデルワイス。
 どこまでも優しい、細やかな歌声が延々と流れている。
 僕は廊下の壁に背を向けて座りこみ、その歌を聞きながら眼を瞑った。
 そういえば、稽古を記録しているボイスレコーダーがあの部屋の中にあるな、とぼんやりと思う。
 この歌を録音しているだろうか。
 していたらいいな。
 僕はきっと、いつまでもこの繊細で野乃花さんを表した歌を聴いていられるだろう。
 いつまでそうしていたのか、いつの間にか眠っていた僕を起こしたのは野乃花さんだった。
「疲れているんですよ。帰りましょう」
 僕を気遣うように笑いかけて、身支度をし始める彼女の背中に向かって僕は言った。
「歌、上手だね」
 彼女は驚いたように肩を震わせた。
「聴いていたんですか?」
「少しだけ。それで寝ちゃったんだ」
 そう告げると、野乃花さんは安堵したように笑った。
 それは泣いているようにも笑っているようにも見えた。
 どこまでも澄んだ瞳には夕暮れの雲が映っていた。

 予感はなかった。
 その日は夜中に峰宮女史に呼び出されて、終電で彼女の屋敷へと赴いた。
 相変わらず屋敷の明かりは付いておらず、鍵すらついていない玄関の扉を開けても沈黙だけがそこにはあった。
 他人がテリトリーに足を踏み入れるという想定がされているはずがなく、スリッパなどという人を歓迎するものはない。そのため、冷たい廊下をつま先立ちで進んでいく。
 廊下の突き当りに鎮座する扉を開ける。いつもならベッドの上でシーツにくるまってノートパソコンを眺めていたり、名前も知らない魚に餌を与えていたりする峰宮女史がいるはずだが、ベッドはもぬけの殻だった。
 思わず、周囲を見渡す。
「なにを、してるんですか?」
 ベッドとは真逆に位置する壁に向き合う峰宮女史は毛布に包まりながら手を動かし続けていた。彼女の華奢な手のひらには似合わない太い油性ペンが白い壁を走っていく。
 室内は薄暗く、ここからでは何を書いているのかは読み取れない。
 なにかに身体の制御を乗っ取られたかのように腕先だけが動く後ろ姿は人ではなく、妖怪やそういった怪異にも思わせた。
「人は死んだらどこへ行くのか……いつだったか、君は私にそう問いを投げかけたことがあるね」
 月の明かりだけが頼りの薄暗い部屋の中で、峰宮女史は口を開く。
 大蛇が身体中を這う感覚に心臓が飛び跳ねる。鼓動が周囲の音をかき消し、冷や汗を手で拭う。
 開け放たれた窓から風が吹き込んだことにより、光を遮っていたカーテンが音を立てて揺れた。
 月明かりが差し込んだ部屋中の壁には写真やメモ用紙がびっしりと張り付けられている。掲示物と掲示物がマスキングテープで繋がり、一つの大きな蜘蛛の巣が形成される風景は異様な不気味さを放っていた。
「朽ちたモノはどこへも行かない。神が在るだけで信仰が生まれるように、死は在るだけで人を臆させ、朽ちさせる。先にあるのは虚無だ」
 峰宮女史は振りかえると、凶眼を作って僕を睨んだ。
 それは憎しみでも怒りでもない。
 だが、僕には分かる。その双眸はきっと哀しみだ。
 心から溢れた感情は眼に現れる。
 凪乃の瞳はいつも明るいものだった。
 嬉しさや楽しさ、恋さえも宿った瞳に僕は魅了された。だが、神聖視してしまったからこそ、その奥に潜む残酷さに気がつくことができなかったのだ。
「私たちは表現者だ。眼の開いた先にある世界を美しいと涙する」
 彼女が持つペンは今にもその圧に耐え切れずに折れて曲がっている。
「水面に映る自分を見つめながら霧の漂う湖畔の上を歩くことも、満天に輝く星に手を伸ばせして摑み取ることもできる」
 だが、と峰宮女史は立ち上がって壁と向かい合う。
「死者を蘇らせることだけはできない。私たちは、あくまで表現者なのだから」
 峰宮女史は微笑んだ。嘲笑でも冷笑でもない、それは慈悲を孕んだ冷徹さ。
 世界の残酷さを突きつけることを否として優しさを人に与える、そんな目だ。それは峰宮女史が初めて僕に見せた優しさなのかもしれない。
 君のせいではない、仕方がないことだと言うように。
 彼女は十二単をまとうようにシーツを引きずりながらベッドの上へと戻った。
「宮地野乃花が自殺した」
 ガラス玉のような意思を持たない瞳で虚空を見つめる蠱惑の女性は抜け殻のように眠りに就いた。
 おぼつかない足取りで壁へと近づくと、立つことさえままならない足を曲げて這うように貼り付けられたものをもぎ取っていく。
 野乃花さんの写真だった。
 屈託のない笑顔でピースサインをする野乃花さんがいた。
 張り巡らされた写真やメモ用紙に眼を通していく。それはまるで宮地野乃花の相関図のようだった。僕の写真とメモ用紙もあった。
 動悸がうるさい。視界が目まぐるしく歪み、思わず体勢が崩れて床に手がついてしまった。その拍子にコートのポケットからボイスレコーダーが落ちる。鈍い音とともにノイズが走り、それは流れた。
 Edelweiss Edelweiss every morning you greet me.
 静寂を破る声音は野乃花さんに他ならなかった。最後に見た笑うような泣き顔が脳裏に浮かぶ。
 どこまでも、本当にどこまでも澄んだ声はひたすらに美しく切なかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み