第3章

文字数 1,673文字

 「母さん、お金ないからね、大学なんか行けるわけないでしょう」
 もう俺は高校三年生だ。進路もある程度決めていたので、いきなりそんなことを言われるとは思わなかった。
「え、俺、もう志望校も決めて、受験勉強も始めてるんだけど、、、」
 俺は焦っていた。だって、周りの人はみんな大学に行くのが当たり前のような顔をしていたらかだ。僕も当たり前に大学に行くものだと思っていた。
「あのね、翔、うち、母子家庭でしょ?だからね、あんたには働いてもらうしかないのよ。もう母さんも体限界だし」
「は?、なんで、奨学金、借りていけばいいだろ」
「だめ!奨学金なんて、ただの借金よ、借金をする余裕なんて、うちにはありません。」
 最悪だ、うちの母はこんな人だった。俺の言うことなんて最初から一つも聞いてはくれない。
「わかったよ。わかった。高校卒業したら、就職するよ。母さん、だから、落ち着いて。」

 そうだ、いつもこうなんだ。昨日も今日もこれからも、俺は母さんに気を遣って生きていかなければならない。でも、いいんだ。僕はそれで満足なんだ。母さんが幸せに生きてくれればいい。僕のことなんか、いいんだ。これは自分への慰めで言っているわけではない。本気でそう思っているから。

「え、田辺、大学行かないの?」
いつも一緒に登下校をしている宗一が話しかけきた。
「うん。母さんが大学には行くなって。」
「そっか。じゃ、社会人だな。かっこいいなお前」
「仕方なくだよ。」
 この進学校では大体の人は大学に行く。僕のように就職をしたいという人はほぼいない。
「で、何になるんだよ。一般企業に就職とか?」
「いや、自衛隊に就職しようと思ってる」
「まじか、尚更かっこいいな」
「そういえば、宗一はどこの大学いくんだっけ」
「ああ。w大に行こうと思ってる」
「w大か、じゃあ東京行くんだ。」
「うん。たまに東京で遊ぼうぜ。」

 そして高校も卒業の時期になり、俺は自衛隊に就職し、翔は無事w大に行くことになった。

「なあ。田辺。田中って覚えてる?」
「覚えてるよ、結局中学以来一回も会わなかったな。」
「そうだよ!たまにLINEしてたのにさ、いきなり既読つかなくなったんだよ」
「俺も。なぁ、ひさしぶりに会いたいよな。近状報告でもしたい」
そういうと、田辺はおもむろにスマホを手に取り、早速電話をし始めた。
「もしもし。もしもし。、、だめだ。やっぱ繋がらないや」
「あ!」
「どうした?宗一」
「折り返しきた!、、、ねぇ、ぼくだよ、宗一だよ。田中。俺のこと覚えてる?」
 宗一は通話をスピーカーに変えた。
「あ、ああ覚えてる、よ。どうしたの?久しぶりだね。」
 心なしか田中の声は随分と元気がなかった。
「久しぶりにさ、会おうよ。お前の近況報告とか聞きたいし。」
「え、うん、、いいね。会おう、でも私、今元気なくてさ、全然うまく話せないかもだけど、、、」
「なんだよそれ全然気にしないって。じゃ、また今度な」
「うんじゃあね」
そうして田中との電話は終わった

 そして田中と会う当日、中学の時と同様、田中は少し遅れていた。
「田中、22分遅れな、」
 久しぶりに会う田中は、少しだけ痩せていて、元気のない顔つきだった。
「久しぶりだね、翔も宗一も。」
「久しぶり。田中。お腹空いてるしょ?とりあえずさ抹茶館でお茶漬けでもたべようよ。」
「なんでいきなりお茶漬けなんだよ。」
「だって、田中元気なさそうだし、さ。お茶漬けだったら、食べやすいかなと思って」
「何それ、翔。でも、ありがとう。気使ってくれて。」
そして三人は抹茶館で二時間も話し合っていた。
 田中が高校在学中に鬱になり今は絶賛ニート中なこと。俺は行きたかった大学に行けず仕方なく自衛隊へ就職したこと。そして宗一は東京の大学へ進学すること。

「はぁ、僕たちさ、中学ん時は、高校生になってこんなにも合わないなんて思いもしなかったな。」
「そうだね。でも久しぶりに会えて、私、本当に楽しかったよ。またさ、大人になってもこうやって三人でたくさん会って、話でもしようよ。」
「当たり前だよ。三人とも離れちゃうけど、俺のこと忘れないでね。」














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