第2話 涙ながらの訴えの真実

文字数 1,567文字

「やっぱり・・・DNA検査とか、遺伝子検査を要求してくるなんて・・・そういう人なんです、よくわかりました。疑うことしかできない・・・、最低な男なんです。どうして、あんな男と結婚なんかしたのか・・・。もうあの人に、父親の顔をさせたくありません。これから生まれる子供に、あの人に会ってはほしくはないんです。養育費も、認知もいりません。お金なんかいりません。」
 涙を流し、必死に訴える彼女を、依頼人の彼女を、彼女の弁護士は、やはり涙を流しながら、
「何とか、彼には、元ご主人には父親の権利を与えることなく、報いを、負担すべきものを負担させますわ!」
 依頼人の脇で彼女を励ます、彼女の元夫とは全く正反対の誠実そうな、イケメンの好男子にも、違和感すら感じなかった。
 その彼とともに、女二人がお茶を飲んでいたのは、それから二週間ほどたってからだった。
「どう?」
「順調よ。」
 そう言って腹部を民華はさすった。膨らんでいるのがはっきりわかった。
「さすがにあの鈍感馬鹿下手野郎でも、わかっちゃう・・・かもしれないし・・・。」
 それだけではないと、彼女の顔には、脇の男の顔にも、それだけではないというものがあることを竹美は見て取っていた。"もう、あの人に彼女を抱かせたくないと嫉妬心を燃え上がらせていたのよね。"小さく含み笑いをしてしまうと、すかさず、
「なに?」
と民華に見とがめられた。
「安定期にそろそろ入るのよね。良かったんじゃない?」
と話しをそらせるように返した。恥ずかしそうにする二人だったが、すぐに真顔になって、頷きあって、民華が口を開いた。
「大丈夫だと思うけど・・・あなたからの情報はたしかに役立って、助かっているけど・・・。私達のこと・・いろいろと・・・あいつに告げたりなんてことは・・・。」
 男は、彼女の話し方がまどろっこしいという感じたのか、
「だから、あの糞ダメ男に、俺たちのことを流していないかということだよ。弁護士のことからして・・・あの早漏ちんけ薄らバカ野郎にしては手際が良すぎるんだよ。」
"こいつの素ね。大丈夫、民華?まあ、もう、私には関係ないけど。"
 ことさら、心外だ、という顔をした竹美は、
「情報漏洩していたら、こんなにうまくいった?あなた達が慰謝料請求されていたわよ、そうでしょう?。知らないでしょうけど、あいつの友人関係がすごかったのよ。彼が困っているから集まった面々が、手分けしてやった結果なのよ、しかもロハで奮闘したのよ。それに、あいつは、私達が思っているより油断できないんだから・・・。」
 民華が、目で"もうやめなよ。"と言ったので、男も"わかったよ。"という顔で黙った。
「それで式は何時?」
「やっぱり出産してからかな。式には呼ぶからね。」
「う~ん。」
と竹美は躊躇した。
「あのカスと、まだ付き合っているようだけど、まさか、あいつ、あんたに?」
「まあ、このまま結婚してもいいかな・・・と。一度は結婚してみたいし・・・、たっぷり貢いでもらって・・・飽きたらさっさと捨てるのもいいかもって・・・。」
 冗談めかして言ったつもりだったが、男の方がまず笑い出し、民華もそれに釣られて、吹き出した。彼女の本音と、彼らはとったのである。
「それはいいわね。でも、夜は期待できない・・・よく知ってるわね。たっぷりと・・・。」
「骨までしゃぶって・・・。」
 竹美は妖しい笑顔を浮かべた。
「うまくやってね。じゃあ、私達、手続きとか色々あるから。」
「そちらもお幸せにね。」
 手を握り、仲よさそうに歩く、美男美女のカップルの背を見ながら竹美は、
「理想的な男に見えるだろうけど・・・。」
とため息交じりに呟いていた。 
「まあ、もう、本当に私には関係ないから、いいけどね。」
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