最期の一日
文字数 2,383文字
いつもより少しだけ早く目が覚めた。緊張でもしているのだろうか。いや、あと24時間ほどで俺は死ぬのだ。いつも通り過ごせるほうがおかしいだろう。
昨日、1日中考えて願いは決まった。
「おい、死神」
そう呼ぶと死神は何処からともなく現れた。
「おはようございます、デュロック様。なんとも清々しい朝ですね。今日は快晴。まさに死に日和でございます」
なんてデリカシーのない死神なんだ。お前は何度も死の瞬間を見ているかもしれないが、俺はただ一度の人生、最初で最後の死なんだぞ。それに日和もクソもあるか。
「願いが決まった。
俺の願いは俺が死後どうなるのかを見ることだ。まさか殺すことが目的ってわけでもないだろ。殺されたあと、俺の体がどうなるのか最後まで見届けたい」
死神が少しだけ顔を伏せ、ニヤリと笑うのを俺は見逃さなかった。
「デュロック様の願い、承認いたしました。
私の命に賭けてその願い、遂行させていただきます」
まあ、賭けるのはデュロック様の魂ですけどね、などと言って死神は笑ってみせる。
「なに、死神ジョークですよ」
さっきからこいつのジョークは死が間近に迫っている当人には全然笑えない。
「これから24時間、私はデュロック様がお亡くなりになるまで隣で記録させていただきます。これは規則ですので拒否はできません。
もし、お邪魔でしたら姿は消しますので無視いただいて結構ですし、お暇な時間の話し相手にしていただいても構いません」
「わかったよ。とりあえず、今は姿を消してもらえないか。もう少しだけ感傷に浸りたいんだ。あんたがいると、どうもおちゃらけた雰囲気になっちまう」
「そうでしたか。それは申し訳ありません」
死神はわざとらしく大げさに謝った。そういうところを言ってるんだ。
「それでは思う存分浸って下さい。それはもうビチャビチャになるくらいに」
笑い声を残して死神は消えていった。
午後1時。
やつが来た。死神というとあのおちゃらけた死神と混ざって紛らわしいので、死神(仮)とでも呼ぼうか。
死神(仮)はいつものように俺たちの部屋の扉を開け、外へ連れ出した。
反抗する気は起きなかった。どうせ俺の寿命は今日で終わりと決まっているんだから。
外へ出ると、そこには大きなトラックが待ち構えていた。そして、死神(仮)は俺たちはトラックの中へ誘導していった。
どれくらい経っただろうか。ここは外の光が入らないので時間の感覚がおかしくなる。もう10時間はトラックに揺られている気がする。何もせずにただ立っているだけ。頭がおかしくなりそうだ。
「おい、死神」
たまらず俺は死神を呼んだ。
「はいはい、デュロック様。ようやく呼んでいただけましたね。私、退屈で退屈でもう死んでしまうかと思いました。
まあ、死神だから死なないんですけどね」
これだから呼びたくなかったんだ。
「トラックに乗ってからどれくらい経ったんだ」
「約10時間といったところですね。デュロック様、ピタリ賞ですよ。素晴らしいの時間感覚をお持ちのようで」
なんと、思考まで読まれているのか。どうやら俺にプライバシーなんてものは存在しないらしい。
「いえいえ、この24時間に限った話ですよ。これも記録を取るためですのでお許しください」
「なあ、これから俺はどうなるんだ」
「未来のことに関することはお話できないのですよ。規則で定められているんのです。私とデュロック様の仲でもそれは破ることはできません。ご容赦ください」
死神はわざとらしく肩を竦めてみせる。
死神というのはこういう奴ばかりなのだろうか。俺の人生は1回しかないのでどうにも確かめようがない。
そこから4時間ほどは死神とたわいもない話をして過ごした。俺の担当は残念ながらこのお喋りな死神なので、幸い暇を持て余すことはなかった。
トラックの揺れが止まり、扉が開いた。空はまだ暗く、死神の話を信用するならば午前3時。死まで残り2時間。
扉を先には見たことがないほどの大きな鉄の建物があった。
死神(仮)は建物の入り口で別の死神(仮)と話をしている。しばらくして、ようやく俺たちはトラックから出され、建物の中へ連れていかれた。
建物の中は新しい世界だった。一切外の光は入っていないはずなのに外よりも明るく、途切れることなく続く騒音。上の窓には用務員らしき人物が見えた。
俺はここからどうなるのだろう。
「デュロック様」
知らぬ間に姿を消していた死神が突然現れた。
「いきなり消えたと思ったらまた現れて、一体なんなんだお前は」
「カウントダウン開始します。10、9」
それは突然だった。もう数秒後に死ぬというのか。
「8、7、6、5」
ここの部屋には隣の部屋に続く通路のようなものがあるだけで他には何もない。こんな場所でどうやって俺を殺すというんだ。
「4、3」
幾ら何でもいきなりすぎる。
まだ覚悟なんて出来ちゃいない。
「2」
なんで俺なんだ。
「1」
俺はまだ死にたくな
「0」
「お疲れ様でした、デュロック様。この二日間、悔いのないよう過ごせたでしょうか。
死因は電気ショックによる感電死でございました」
「肉体を持っての生はこの瞬間をもって終わりましたが、デュロック様の願いにより、魂の旅はまだ続きますよ。
どうか最後までこの旅をお楽しみ下さい」
昨日、1日中考えて願いは決まった。
「おい、死神」
そう呼ぶと死神は何処からともなく現れた。
「おはようございます、デュロック様。なんとも清々しい朝ですね。今日は快晴。まさに死に日和でございます」
なんてデリカシーのない死神なんだ。お前は何度も死の瞬間を見ているかもしれないが、俺はただ一度の人生、最初で最後の死なんだぞ。それに日和もクソもあるか。
「願いが決まった。
俺の願いは俺が死後どうなるのかを見ることだ。まさか殺すことが目的ってわけでもないだろ。殺されたあと、俺の体がどうなるのか最後まで見届けたい」
死神が少しだけ顔を伏せ、ニヤリと笑うのを俺は見逃さなかった。
「デュロック様の願い、承認いたしました。
私の命に賭けてその願い、遂行させていただきます」
まあ、賭けるのはデュロック様の魂ですけどね、などと言って死神は笑ってみせる。
「なに、死神ジョークですよ」
さっきからこいつのジョークは死が間近に迫っている当人には全然笑えない。
「これから24時間、私はデュロック様がお亡くなりになるまで隣で記録させていただきます。これは規則ですので拒否はできません。
もし、お邪魔でしたら姿は消しますので無視いただいて結構ですし、お暇な時間の話し相手にしていただいても構いません」
「わかったよ。とりあえず、今は姿を消してもらえないか。もう少しだけ感傷に浸りたいんだ。あんたがいると、どうもおちゃらけた雰囲気になっちまう」
「そうでしたか。それは申し訳ありません」
死神はわざとらしく大げさに謝った。そういうところを言ってるんだ。
「それでは思う存分浸って下さい。それはもうビチャビチャになるくらいに」
笑い声を残して死神は消えていった。
午後1時。
やつが来た。死神というとあのおちゃらけた死神と混ざって紛らわしいので、死神(仮)とでも呼ぼうか。
死神(仮)はいつものように俺たちの部屋の扉を開け、外へ連れ出した。
反抗する気は起きなかった。どうせ俺の寿命は今日で終わりと決まっているんだから。
外へ出ると、そこには大きなトラックが待ち構えていた。そして、死神(仮)は俺たちはトラックの中へ誘導していった。
どれくらい経っただろうか。ここは外の光が入らないので時間の感覚がおかしくなる。もう10時間はトラックに揺られている気がする。何もせずにただ立っているだけ。頭がおかしくなりそうだ。
「おい、死神」
たまらず俺は死神を呼んだ。
「はいはい、デュロック様。ようやく呼んでいただけましたね。私、退屈で退屈でもう死んでしまうかと思いました。
まあ、死神だから死なないんですけどね」
これだから呼びたくなかったんだ。
「トラックに乗ってからどれくらい経ったんだ」
「約10時間といったところですね。デュロック様、ピタリ賞ですよ。素晴らしいの時間感覚をお持ちのようで」
なんと、思考まで読まれているのか。どうやら俺にプライバシーなんてものは存在しないらしい。
「いえいえ、この24時間に限った話ですよ。これも記録を取るためですのでお許しください」
「なあ、これから俺はどうなるんだ」
「未来のことに関することはお話できないのですよ。規則で定められているんのです。私とデュロック様の仲でもそれは破ることはできません。ご容赦ください」
死神はわざとらしく肩を竦めてみせる。
死神というのはこういう奴ばかりなのだろうか。俺の人生は1回しかないのでどうにも確かめようがない。
そこから4時間ほどは死神とたわいもない話をして過ごした。俺の担当は残念ながらこのお喋りな死神なので、幸い暇を持て余すことはなかった。
トラックの揺れが止まり、扉が開いた。空はまだ暗く、死神の話を信用するならば午前3時。死まで残り2時間。
扉を先には見たことがないほどの大きな鉄の建物があった。
死神(仮)は建物の入り口で別の死神(仮)と話をしている。しばらくして、ようやく俺たちはトラックから出され、建物の中へ連れていかれた。
建物の中は新しい世界だった。一切外の光は入っていないはずなのに外よりも明るく、途切れることなく続く騒音。上の窓には用務員らしき人物が見えた。
俺はここからどうなるのだろう。
「デュロック様」
知らぬ間に姿を消していた死神が突然現れた。
「いきなり消えたと思ったらまた現れて、一体なんなんだお前は」
「カウントダウン開始します。10、9」
それは突然だった。もう数秒後に死ぬというのか。
「8、7、6、5」
ここの部屋には隣の部屋に続く通路のようなものがあるだけで他には何もない。こんな場所でどうやって俺を殺すというんだ。
「4、3」
幾ら何でもいきなりすぎる。
まだ覚悟なんて出来ちゃいない。
「2」
なんで俺なんだ。
「1」
俺はまだ死にたくな
「0」
「お疲れ様でした、デュロック様。この二日間、悔いのないよう過ごせたでしょうか。
死因は電気ショックによる感電死でございました」
「肉体を持っての生はこの瞬間をもって終わりましたが、デュロック様の願いにより、魂の旅はまだ続きますよ。
どうか最後までこの旅をお楽しみ下さい」