死神
文字数 2,243文字
頭が割れるように痛い。誰かの声が頭に響いている。
目を覚ますとそこには化け物がいた。
思わず声を上げる。
「お目覚めですか。おはようございます」
化け物は声は優しげだが、顔には不気味な仮面のようなものをつけていて表情は読み取れない。
「あんた誰だ」
「申し遅れました。わたくし死神と申します。この度はデュロック様の担当をさせていただきます」
「死神?」
言われてみれば不気味な仮面に黒いローブ。如何にもといった死神の格好をしている。
だがこいつは俺の知っている死神じゃない。
「死神ってのはここの住人たちを連れていったやつのことじゃないのか。それともあいつはお前の仲間かなにかなのか」
自称死神は少し黙り込んだ後、なにか納得したように唸ってクスリと笑った。
「あれが死神ですか。ハハッ。
まあ、あなた様にとってはあれも死神には違いないのでしょうね」
「はい。あれも死神なのですが、私はまた別の死神です。あれがデュロック様を直接死に誘うものであれば、私はデュロック様が亡くなった後の魂を頂くものなのです」
少し引っかかる物言いだが、別物だということはわかった。
物言いといえば、この死神。随分と畏まった口調をしている。死神というと、どちらかといえば乱暴なイメージなのだが。
「んであんたは何をしにきたんだ。まさか魂とやらを取り上げにきたのか」
「いえいえ、私たちはそんな強盗紛いなことは致しません。本日私はデュロック様の余命宣告、魂の査定、サービスのご説明に伺いました」
「もっとデュロック様と御話をしたいのは山々なのですが、時間もあまりありませんので早速本題に入らせていただきます」
「デュロック様の余命は残り2日でございます」
「えっ」
思わず驚きの声を上げてしまった。
俺の推測よりも1日長い。
「それは正確なのか」
「はい、絶対です。今は午前5時30分ですので正確には残り47時間と30分となります。30分ほど宣告が遅れてしまいましたが、デュロック様がまだご就寝なされていてお目覚めになられませんでしたので」
ということは連れ去られた後から1日猶予があるということか。まあ、それがわかったところでどうすることも出来ないだろうが。
「普通、余命宣告ってのはこんなに近くなってから来るもんなのか」
俺はたまたま自分の余命を把握していたから気持ちの整理がある程度付いていたが、他のやつならば気持ちの整理ややり残したことをやるのには全然時間が足りないだろう。
「種族によっても変わるのですが、デュロック様方の種族ですと2日前というのが規則になっております」
規定ならばこれ以上言っても仕方のない問題なのだろう。
「他にご質問が無いようでしたら、次の魂の査定に移らせていただきます」
失礼します、そう言って死神は俺の額に手を当ててきた。
少し怖かったので目を瞑っていたのだが、いつまで経っても触れられる感触がない。恐る恐る目を開けると、死神はもう額に触れていた。触れられた箇所は暖かくも冷たくもなく、なんの感覚もない。それを少し不思議に思っていると、不意に体の芯にゾクリとした感覚が走る。体の表面ではなく、中身を無遠慮に掻き回されるようなそんな不快さ。この死神に仮面以外ではじめて不気味さを感じた。丁寧な言葉遣いについ忘れてしまいそうになるがこいつは死神なのだ。油断してはいけない。
「お疲れさまです。これで魂の査定は終了いたしました。ここからは査定を元にしたサービスの御説明に入らせていただきます」
「先ほどの査定の結果、デュロック様の魂は徳も悪行も積んでいないニュートラルな魂でしたので、2つのサービスを受けることができます」
質問はないかというように死神が目で問いかけてくるが特にない。
俺の魂が徳も悪行も積んでいないというのは、まるで自分の人生に意味はなかったと言われているようで少しばかりショックだが。
「1つ目はカウントダウンサービスです。デュロック様がお亡くなりになる10秒前から、私が隣でカウントダウンを行い、魂となった後に死因をお伝え致します。
2つ目はデュロック様の望みを1つだけ叶えるサービスです。ですが、制約はいくつかございます。
まず、寿命の引き延ばしはできません。また物理的に何かに干渉することも控えていただきます。あとは私に出来る範囲でということになります。出来るかどうかはその都度私にお聞きください。
以上でサービスに関する説明を終了致します」
「デュロック様、サービスをお受け致しますか」
「ああ、受けるよ」
考えるまでもない。貰えるものは貰っておく。それが俺の主義だ。
「かしこまりました。2つ目のサービスに関してはすぐに決まるものでもないと思いますので、ご質問や決まった際にお呼びください。死神と呼んでいただければすぐに参りますので」
「それでは余生を悔いのないようお過ごしください」
そう言って死神はパッと消えてしまった。
さて、時間は少ないんだ。願いを考えないとな。これで少しの間でも死の恐怖と向かい合わなくて済むと思うと少しだけ心が軽くなった。
正真正銘、死まで残り1日
目を覚ますとそこには化け物がいた。
思わず声を上げる。
「お目覚めですか。おはようございます」
化け物は声は優しげだが、顔には不気味な仮面のようなものをつけていて表情は読み取れない。
「あんた誰だ」
「申し遅れました。わたくし死神と申します。この度はデュロック様の担当をさせていただきます」
「死神?」
言われてみれば不気味な仮面に黒いローブ。如何にもといった死神の格好をしている。
だがこいつは俺の知っている死神じゃない。
「死神ってのはここの住人たちを連れていったやつのことじゃないのか。それともあいつはお前の仲間かなにかなのか」
自称死神は少し黙り込んだ後、なにか納得したように唸ってクスリと笑った。
「あれが死神ですか。ハハッ。
まあ、あなた様にとってはあれも死神には違いないのでしょうね」
「はい。あれも死神なのですが、私はまた別の死神です。あれがデュロック様を直接死に誘うものであれば、私はデュロック様が亡くなった後の魂を頂くものなのです」
少し引っかかる物言いだが、別物だということはわかった。
物言いといえば、この死神。随分と畏まった口調をしている。死神というと、どちらかといえば乱暴なイメージなのだが。
「んであんたは何をしにきたんだ。まさか魂とやらを取り上げにきたのか」
「いえいえ、私たちはそんな強盗紛いなことは致しません。本日私はデュロック様の余命宣告、魂の査定、サービスのご説明に伺いました」
「もっとデュロック様と御話をしたいのは山々なのですが、時間もあまりありませんので早速本題に入らせていただきます」
「デュロック様の余命は残り2日でございます」
「えっ」
思わず驚きの声を上げてしまった。
俺の推測よりも1日長い。
「それは正確なのか」
「はい、絶対です。今は午前5時30分ですので正確には残り47時間と30分となります。30分ほど宣告が遅れてしまいましたが、デュロック様がまだご就寝なされていてお目覚めになられませんでしたので」
ということは連れ去られた後から1日猶予があるということか。まあ、それがわかったところでどうすることも出来ないだろうが。
「普通、余命宣告ってのはこんなに近くなってから来るもんなのか」
俺はたまたま自分の余命を把握していたから気持ちの整理がある程度付いていたが、他のやつならば気持ちの整理ややり残したことをやるのには全然時間が足りないだろう。
「種族によっても変わるのですが、デュロック様方の種族ですと2日前というのが規則になっております」
規定ならばこれ以上言っても仕方のない問題なのだろう。
「他にご質問が無いようでしたら、次の魂の査定に移らせていただきます」
失礼します、そう言って死神は俺の額に手を当ててきた。
少し怖かったので目を瞑っていたのだが、いつまで経っても触れられる感触がない。恐る恐る目を開けると、死神はもう額に触れていた。触れられた箇所は暖かくも冷たくもなく、なんの感覚もない。それを少し不思議に思っていると、不意に体の芯にゾクリとした感覚が走る。体の表面ではなく、中身を無遠慮に掻き回されるようなそんな不快さ。この死神に仮面以外ではじめて不気味さを感じた。丁寧な言葉遣いについ忘れてしまいそうになるがこいつは死神なのだ。油断してはいけない。
「お疲れさまです。これで魂の査定は終了いたしました。ここからは査定を元にしたサービスの御説明に入らせていただきます」
「先ほどの査定の結果、デュロック様の魂は徳も悪行も積んでいないニュートラルな魂でしたので、2つのサービスを受けることができます」
質問はないかというように死神が目で問いかけてくるが特にない。
俺の魂が徳も悪行も積んでいないというのは、まるで自分の人生に意味はなかったと言われているようで少しばかりショックだが。
「1つ目はカウントダウンサービスです。デュロック様がお亡くなりになる10秒前から、私が隣でカウントダウンを行い、魂となった後に死因をお伝え致します。
2つ目はデュロック様の望みを1つだけ叶えるサービスです。ですが、制約はいくつかございます。
まず、寿命の引き延ばしはできません。また物理的に何かに干渉することも控えていただきます。あとは私に出来る範囲でということになります。出来るかどうかはその都度私にお聞きください。
以上でサービスに関する説明を終了致します」
「デュロック様、サービスをお受け致しますか」
「ああ、受けるよ」
考えるまでもない。貰えるものは貰っておく。それが俺の主義だ。
「かしこまりました。2つ目のサービスに関してはすぐに決まるものでもないと思いますので、ご質問や決まった際にお呼びください。死神と呼んでいただければすぐに参りますので」
「それでは余生を悔いのないようお過ごしください」
そう言って死神はパッと消えてしまった。
さて、時間は少ないんだ。願いを考えないとな。これで少しの間でも死の恐怖と向かい合わなくて済むと思うと少しだけ心が軽くなった。
正真正銘、死まで残り1日