第5話 休暇最後の日

文字数 679文字

もう小鳥に会うことはかなわないと思われたので、最後の晩、聡は潮見と話し合った。

「僕らは製薬会社として、人に有害な材料で薬を作らないということができます」
狭い寝床の中で聡は潮見に話した。
「でも世の中ではまだ安全性を担保できない化学薬品が作られていて、他の会社の製品について僕らがどうこう言えることはありません」
潮見は口を挟まず黙って聞いていた。
「もちろん豪華な『別荘』ではないにしろ、この貸し家が安かったのには理由があったんですね…」
そうしたら、出し抜けに天井からダンゴムシがぽとんと落ちてきた。
「この建物も、まあまあ安全かも知れないな」
潮見は笑ってダンゴムシをつまんでつぶやいた。そして、ダンゴムシを少し開けた窓の敷居に置いた。すると、窓の敷居から、ぶよみたいな虫がぷーんと部屋の中に飛んできた。
聡は反射的に両手でパチンと潰してしまった。
「いけない…生態系を壊したな」
と言ってダンゴムシを近くの枝に載せ、窓をぴったり閉めた。

翌朝、意外にも前とは違う青い色の鳥が来て、歌を歌ってくれた。
聡は嬉しくて、嬉しくて、潮見と一緒に手を叩いてその歌を褒めた。

後でネットで調べたら、この街の人たちが農薬散布に反対していて、散布量が減り、少しずつ動物たちが戻って来ていることが分かった。

聡は潮見と一週間一緒にいられたことが嬉しくて、夜も含めて特別なことは何もなくても、明日からまた頑張ろうという気になったのだった。できるだけ生態系を壊さないように仕事をしよう、と。


https://pantarhea.org/honoring-silent-spring/ より
(表紙画像も)




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