第2話

文字数 1,364文字

夕食にメアリーは来なかった。

「メアリーは?」

メアリー父は聞いた。

「さっき部屋に見に行ったけど、ぐっすり眠っていたわ。」

メアリー母は安堵したように答える。
どうやら昼間は体調が非常に悪く、ずっと魘されていたらしい。

僕は縮こまりながらその話を聞いていた。

何だか食欲がでない。また風邪だろうか。
僕は夕食のお粥をたんまり残して部屋に戻った。



眠りにつく前、僕は宝箱がないことに気づいた。
机、ベッド、クローゼット、鞄、服の中。くまなく探したけれど見つからない。

ふと、僕は思い出した。

そういえば、秘密基地に置いてきてしまったんだ。
あの中には大切な物が入っているのに、と嘆き頭を抱える。

カーテンの隙間から暗がりを覗く。

雲に覆われた月が薄ぼんやりと草木を浮かび上がらせ、森に紛れていた豚小屋がチラリと影を落としている。

ざわざわと木々が揺れ、どこからともなくカラスの声がした。

大丈夫。大丈夫。大丈夫。

僕は拳を握り、静かに廊下に出た。隣部屋のメアリーは寝ているようで電気が点いていない。

けれど、リビングはまだ明かりが点いていた。そこからメアリーの両親のひっそりとした声が聞こえる。

僕は物音を立てないよう、慎重に玄関の扉を開けた。

夜の外気が足元から全身を取り巻き、予想外の闇とカラスの声に圧し閉まっていた不安が煽られる。

ほんの短い間で雲が分厚くなってしまい、ほんのり照らされていた世界はもう道さえ教えてくれない。

僕は恐怖でいっぱいだった。

けれどもしかし、僕は宝箱を取りに行かなければいけない。

知らぬ間に握っていた拳が震えている。

「怖くない。怖くない。」

僕は何度も自分に言い聞かせ、豚小屋に向かって密かに歩き出した。


不気味なカラスの鳴き声が一層増していく。

今にも泣き出したいのをギュッと堪えながら、何とか古い豚小屋に着いた。

昼間、秘密基地だった小屋は、真っ黒な大量のカラスの住みかと化している。

パッと取ってくれば問題ない。

一羽のカラスが僕を見ていた。

瞳をギラつかせて、じっと僕を凝視している。

まるで観察するかのような目付きだ。

僕はカラスを刺激しないように静かに小屋へ入った。


僕は真っ暗な足元に十分気を付けながら、壁伝いに一番奥へと進む。

コツン。

何かを蹴ってしまった。

もしかしたら宝箱かもと思い、僕は四つん這いになって床を探る。暗闇なので目を凝らしても何にも見えない。

手の感触を頼りに探していると、それらしいものに触れた。

僕はそれが宝箱なのか確かめるため、よくよく触ってみると宝箱にはない、ザラついた感触に肩を落とした。

今まで隠れていた月が、ぼんやりと豚小屋の小窓から差し込み、それの正体を暴く。

なんだ、錆びたバケツか。

変な虫の死骸とかでなくて、僕はホッと息を吐く。

安堵したのもつかの間、突然バサバサと大きな羽音とともに、大量のカラスが一斉に空に消えた。

古い豚小屋があちこち不穏に軋む。

それはカラスが飛び去ったからだけではないようだ。


ギシ、ギシ、ギシ。

重たく床が鳴り、それとともに誰かの足音が近づいてくる。

僕は危険を感じ、とっさに藁の中に潜り込んだ。


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