第1話

文字数 1,684文字

メアリーの家には小屋がある。

とても古びた豚小屋。

メアリーの祖父のお父さんが養豚場をやっていたそうだけど、だいぶ昔につぶれたようだ。

今は養豚とは全く関係のない仕事をしている。


ある日、僕はメアリーの家に一週間お世話になることになった。

両親が祖母のお見舞いに行くからだ。体の弱い僕は、二、三日馬車に揺られるだけですぐ体調を崩してしまう。

現に今も風邪を引いている。

だから、近所のメアリー家に預けられているのだ。


メアリーは僕の一つ下で妹のような存在だ。

家が近所なので一緒に遊ぶことも多い。

メアリーは昔から甘えん坊で、僕にくっついてくることは珍しくなかった。ただ一つの問題を抜かせば、僕は可愛いメアリーが大好きだった。

けれど、メアリーはこの三日間、お風呂とトイレ以外、朝から夜まで僕にピタリと張り付いてくるのだ。いくら可愛いといっても、正直鬱陶しい。

一人になりたくなった僕はメアリーにそれをやんわり伝えた。しかし、メアリーは僕に拒絶されたと感じたのだろう。彼女はとても怒った。

僕はメアリーから逃げるため、古い豚小屋に隠れることにした。

両開きの門のような扉には届かないところに関貫が掛かっていて押しても引いてもまるで開かない。仕方なく小窓から中に入ることにした。

元豚小屋の中は腐った藁と埃だらけで、とても汚くて臭かった。

剥がれた板とか、ぼろいホウキ、錆びたピッチフォークが転がっている。

僕はそれらを注意深く避けながら安全に隠れられそうなところを探した。


どんどん進んでいるうちに小屋の一番奥、行き止まりまでたどり着いた。

外に続く扉があるが、鍵が掛かっているみたいで開けられそうにもない。

僕は辺りを見回した。

比較的キレイないくつかの藁の山や錆びたバケツ、両角には座れそうな踏み台とテーブルになりそうな樽。

少し臭いがキツいけど小窓を開ければ何てことない。
ちょっとした秘密基地みたいでワクワクした。

もしメアリーが来たらこの藁のどこかに入ればきっと見つけられない。
僕はしばらくここに隠れることにした。


その日の夕方、僕がメアリーの家に戻ると、メアリーは泣いていた。

「ごめんなさい。ごめんなさい。」

昼間の喧嘩後、きっと謝るために僕を探していたに違いない。
メアリーは根は心の優しい子だ。

「僕の方こそごめんね。」

メアリーはまるで赤子のように大声で泣いた。しょうがないので夜はメアリーと一緒に寝た。



今日は本や宝箱を持っていこう。

僕はメアリー母にもらったサンドイッチを古い豚小屋にやって来た。

メアリーは熱が出たらしい。どうやら僕の風邪がうつしてしまったようだ。
申し訳なく思うし、心配でもある。けれど、僕は心置き無く秘密基地で過ごせるので内心ホッとしていた。

昨日はすぐに夕飯の時間になってしまったので、短い間しかここにいることができなかった。

メアリー家は厳格なのだ。特に時間にはうるさい。
ここで遊んでいるのも、メアリーの両親にバレたらきっと物凄く怒られるだろう。あの人たちは怖いのだ。

僕は過ごしやすくするため、樽や踏み台を動かすことにした。

テーブルと椅子は真ん中にしよう。

僕は踏み台を運び、樽を転がそうとする。

しかし、樽は重くてビクともしなかった。

貧弱とはよく言われるけれど、これは大人でも重いと思うだろう。

仕方ないので樽の側に踏み台を持っていきそこに座る。

よく見ると樽の上の方に真っ直ぐ入った横線が一つあった。ぐるっと一周した深い線。

凸凹としたその線を指でなぞりながら、僕はそこでサンドイッチを食べた。

お腹が満たされたそのあとは、お気に入りの本の世界に没入した。


気がつけば、小窓から夕日が差し込んできている。

一度だけメアリーの様子を見に家に戻ったきり、僕はずっと秘密基地で過ごしていた。

あと十五分もすれば字も読めないほど暗くなってしまうだろう。

本を閉じ、床の板とかを避けながらメアリー宅に戻った。
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