色々な紙

文字数 917文字

「やあ、トイレットペーパー君。キミ、カラフルでオシャレだね」

「やあ、ちり紙君か。カラフルなのは僕を包むビニールの服さ。いいだろ?」

「うらやましいよ。キミはオシャレで清潔なトイレに行くんだろう?
僕なんか暗い和式トイレさ。
生まれたときから行き場所が決まってるって、不公平だよね」

「いいじゃないか、和のおもむきもキミの地味な服にマッチしてるよ。はっはっは」

「僕は元々新聞紙とかだったらしいけど、最後に行き着いたのがここさ。
まあ、ラストは人間のお尻をきれいにして、溶けて泥に帰るよ。
キミは水洗で水に溶けて海に行くんだろう?最後まで美しく散っていいね。
さすがパルプ100%」

「ははっ、キミとは生まれが違うからね。僕は美しく生まれて、美しく散って行くさ。
おっ、早速金持ち風の老婦人が僕を手に取ってくれたよ。
じゃあ、また生まれ変わったらどこかで会おう」

「ああ、最近は君たちが主流だからね。僕はしばらくここにいると思うよ。
良い旅を」

「キミも、くみ取り式じゃ無いことを祈るよ」

「ははっ、別にいいよ。大事に使って貰えれば、それで。
最後はちゃんと土に帰るから」


欲のない再生紙だな。
僕らは別れて、レジを過ぎると小さな車に載せられた。
すぐに下ろされるかと思ったら、ずいぶん走る。
だんだん窓から見えてくる景色は、木が一杯で懐かしい気がした。

『ねえあなた、トイレの紙をね、パルプ100%のにしたのよ。
簡易水洗にしたから、たまにはいいわよね』

がーーーーーんっ!!
ええーーっ?!簡易水洗って、くみ取り式じゃないか?!
なんてこった、まったく付いてないぜ。

『へえ、そりゃあ贅沢だ、大事に使わないとなあ』

『ねえ?高かったけど、リフォームのお祝い。
嬉しいわ、水回りがきれいになって。長生きして良かったわあ』

『ははは、大げさだなあ』

『あなた、安全運転よ!』

『はいはい』

着いた所は古い家で、なのにお風呂とトイレだけピカピカで、老婦人はとても嬉しそうだった。
きれいにビニールを切って、大事に大事に、使い心地がいいわねと褒めてくれる。

なんだ、
なんだよ、

大事に使って貰えるなら、それで十分じゃないか。
あいつも今ごろどこかの家かな。
大事に使って貰ってればいいな。

紙の願いはささやかな願い。

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