砂漠のコロシアム
文字数 1,795文字
砂煙と共に、怒号や歓声、悲鳴が青空の下に響き渡った。
その巨大な闘技場の中、二人の人間が向かい合っている。
「南!!戦神ノルンの加護を受けし、砂漠の狼!オルフ・ワンワンオ!!」
「ワォォオン!!」
アナウンスに名を呼ばれた狼型の獣人は、気高く遠吠えをあげた。その遠吠えに観衆は沸き立ち、呼応するように、うおおお!と歓声を上げた。
恐らく人気の選手なのだろう。女性からの歓声が多いような気がする。
「北!!名もなき放浪者!!シロ!!」
名もなきと言いつつ名前呼んでくれるんだ、とシロは思ったが、相手の殺気から咄嗟に身構えた。
相手の武器は、砂漠の盗賊が好む『ククリ』というへの字に曲がったナイフだ。それを両手に持ち、軽くステップを刻んでいる。
シロはホルスターに収まっていたリボルバー型の拳銃に手をかけ、いつでも抜ける体制をとった。
「始め!!」
その合図とともにシロはリボルバーを抜き、相手に照準を合わせ、一気にトリガーを引いた。シリンダーが回転し、ハンマーが雷管を叩き、轟音とともに弾丸が射出される。
しかし、それを読んでいたようにオルフは射線から外れ、余裕を見せつけるかのようにククリで弾道を更に反らした。その一瞬のうちにオルフは地面を蹴り、飛び掛かるようにシロへの距離を詰める。
「もらったぞ!ワンワォン!!」
オルフは逆手に持ったククリを、シロののど元に素早く振りかぶるが、シロは上体を反らしてそれを避けた。避けた体制のまま片手を地面に付き、身体をひねって足払いをすると、オルフはそれを膝裏に受けて転倒した。
しかし、オルフはすぐさま跳ね起き、シロの足があった場所にククリを振るが、それは空しく砂煙を斬った。
ハッとして身を守ろうとするが既に遅く、脇腹に衝撃が走ったあと何度か転がってから見えたのは、青空とシロの見下ろす顔だった。
「ワフッ…強いな貴さ…ッ!?」
シロは素早く銃口をオルフの頭に向けると、即座に発砲した。ドォンという重たい音が響き、闘技場にどよめきが起きた。それから少し間を置いた後、そのどよめきを引き裂くようにオルフが吠えた。
「痛ってぇえええええ!!」
オルフは穴の開いた耳を抑えながらうずくまる。その耳から滴った血が地面に落ち、シミをつくった。
シロはリボルバーをホルスターにしまうと、衣服についた砂ぼこりを両手で払った。
「何故殺さない…!この俺に情けでもかけているつもりか!」
「いいえ、無駄に殺して背負いたくないんですよね、そういうの」
ワンワン騒ぐオルフを尻目に、舞台の門へ向かって歩き出した。それを合図に、オルフ戦意喪失、勝者シロとアナウンスが告げ、会場から歓声があがった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
負傷し、腕が変な方向に向いたまま、担架に乗せられ放置されている者や、既に息がないであろう屈強な戦士達が詰め込まれた闘技場の裏。血生臭く、地獄絵図とも言える場所にも、闘技大会専属の演奏家による軽やかで勇猛な音楽が鳴り響く。
シロは詰所で銃の整備していた。リボルバーをバラバラにし、隅々まで磨いていた。その手際はかなり手馴れている。
すると医務室から出てきたオルフが、床板をギシッと慣らしながらシロの隣に座った。
「なぁ、貴様、ここは初めてだろ?何をして生きてきたらあんな動きができる」
「あぁ…」
シロは手を止めると、少し考えるように天井を見た。
「多分言っても理解できませんよ。誰かのように、何か目的をもって生きている訳ではありません。今回の大会も賞金目当てです。」
「貴様も大変なのだな。しかし、それ故に興味深い」
「僕はあなたにそれほど興味はありませんし、話す気もありません。あと、闘技大会は初めてですが、人を殺すのは初めてではないです。」
シロはリボルバーの整備を終えると、ふっと銃身に息を吹きかけてホルスターにしまう。そして整備に使った道具を拾い集めると鞄にしまった。
少し間をおいて、頭に深くかぶったフードを払い取ると、オルフに微笑んだ。その顔は男性とも女性とも取れ、長めの髪で透き通るような白い髪色をしていた。
「何人殺した?」
「…さぁ?」
そういうとシロは体格のいい戦士風の誘導員に連れられ、次の相手の待つ舞台へ向かった。
「あーいうやつは死なないんだよな」
ククッと笑うとオルフは穴の空いた耳を触った。
シロが舞台についたころ、一段と大きい歓声が会場を揺らした。
その巨大な闘技場の中、二人の人間が向かい合っている。
「南!!戦神ノルンの加護を受けし、砂漠の狼!オルフ・ワンワンオ!!」
「ワォォオン!!」
アナウンスに名を呼ばれた狼型の獣人は、気高く遠吠えをあげた。その遠吠えに観衆は沸き立ち、呼応するように、うおおお!と歓声を上げた。
恐らく人気の選手なのだろう。女性からの歓声が多いような気がする。
「北!!名もなき放浪者!!シロ!!」
名もなきと言いつつ名前呼んでくれるんだ、とシロは思ったが、相手の殺気から咄嗟に身構えた。
相手の武器は、砂漠の盗賊が好む『ククリ』というへの字に曲がったナイフだ。それを両手に持ち、軽くステップを刻んでいる。
シロはホルスターに収まっていたリボルバー型の拳銃に手をかけ、いつでも抜ける体制をとった。
「始め!!」
その合図とともにシロはリボルバーを抜き、相手に照準を合わせ、一気にトリガーを引いた。シリンダーが回転し、ハンマーが雷管を叩き、轟音とともに弾丸が射出される。
しかし、それを読んでいたようにオルフは射線から外れ、余裕を見せつけるかのようにククリで弾道を更に反らした。その一瞬のうちにオルフは地面を蹴り、飛び掛かるようにシロへの距離を詰める。
「もらったぞ!ワンワォン!!」
オルフは逆手に持ったククリを、シロののど元に素早く振りかぶるが、シロは上体を反らしてそれを避けた。避けた体制のまま片手を地面に付き、身体をひねって足払いをすると、オルフはそれを膝裏に受けて転倒した。
しかし、オルフはすぐさま跳ね起き、シロの足があった場所にククリを振るが、それは空しく砂煙を斬った。
ハッとして身を守ろうとするが既に遅く、脇腹に衝撃が走ったあと何度か転がってから見えたのは、青空とシロの見下ろす顔だった。
「ワフッ…強いな貴さ…ッ!?」
シロは素早く銃口をオルフの頭に向けると、即座に発砲した。ドォンという重たい音が響き、闘技場にどよめきが起きた。それから少し間を置いた後、そのどよめきを引き裂くようにオルフが吠えた。
「痛ってぇえええええ!!」
オルフは穴の開いた耳を抑えながらうずくまる。その耳から滴った血が地面に落ち、シミをつくった。
シロはリボルバーをホルスターにしまうと、衣服についた砂ぼこりを両手で払った。
「何故殺さない…!この俺に情けでもかけているつもりか!」
「いいえ、無駄に殺して背負いたくないんですよね、そういうの」
ワンワン騒ぐオルフを尻目に、舞台の門へ向かって歩き出した。それを合図に、オルフ戦意喪失、勝者シロとアナウンスが告げ、会場から歓声があがった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
負傷し、腕が変な方向に向いたまま、担架に乗せられ放置されている者や、既に息がないであろう屈強な戦士達が詰め込まれた闘技場の裏。血生臭く、地獄絵図とも言える場所にも、闘技大会専属の演奏家による軽やかで勇猛な音楽が鳴り響く。
シロは詰所で銃の整備していた。リボルバーをバラバラにし、隅々まで磨いていた。その手際はかなり手馴れている。
すると医務室から出てきたオルフが、床板をギシッと慣らしながらシロの隣に座った。
「なぁ、貴様、ここは初めてだろ?何をして生きてきたらあんな動きができる」
「あぁ…」
シロは手を止めると、少し考えるように天井を見た。
「多分言っても理解できませんよ。誰かのように、何か目的をもって生きている訳ではありません。今回の大会も賞金目当てです。」
「貴様も大変なのだな。しかし、それ故に興味深い」
「僕はあなたにそれほど興味はありませんし、話す気もありません。あと、闘技大会は初めてですが、人を殺すのは初めてではないです。」
シロはリボルバーの整備を終えると、ふっと銃身に息を吹きかけてホルスターにしまう。そして整備に使った道具を拾い集めると鞄にしまった。
少し間をおいて、頭に深くかぶったフードを払い取ると、オルフに微笑んだ。その顔は男性とも女性とも取れ、長めの髪で透き通るような白い髪色をしていた。
「何人殺した?」
「…さぁ?」
そういうとシロは体格のいい戦士風の誘導員に連れられ、次の相手の待つ舞台へ向かった。
「あーいうやつは死なないんだよな」
ククッと笑うとオルフは穴の空いた耳を触った。
シロが舞台についたころ、一段と大きい歓声が会場を揺らした。