蝉の国
文字数 2,070文字
ここは真夏の国『ムシアッツ』、虫族が多く住む国だ。
うだるような暑さの中、城の中はクーラーがよく効いていた。近衛騎士達は皆、クーラーの前に座り込み、「あっついねー」と中身のない会話を楽しんでいた。
すると突如、バンッと勢いよく謁見の間の扉が開かれる。近衛騎士達は壁にもたれかけていた槍を手に取り、すぐさまクーラーから離れ、入ってきた大柄の男へ槍先を向けた。
「何奴!!」
近衛騎士の一人が男を静止すると、男はまっすぐ王を見る。その男はボロボロの布に、皮の鎧をそれとなく付けただけの見すぼらしい姿をしていた。しかし、その体躯は素晴らしく、筋肉は隆起し、無数の傷跡がある。まさに屈強な戦士そのものといった風体をしていた。そしてその膝にはクマのパッチワークがされていた。
「来たぜ!!王様!!呼んだだろ!!」
男が大声で叫ぶと、王はゆっくり目を開いた。
「王様がお前のような者を呼ぶわけがなかろう!風呂にはいってから出直せ!」
近衛騎士の一人はそう言って男を槍の柄で押し戻そうとした。
しかし、男はびくともせず、その力強さに近衛騎士は圧倒され、ただただ力の限り押す事しかできなかった。
「ああ、来たか…死にそ」
王はゆっくり口を開いた。
王の名は『アッツダル王1192296世』ムシアッツ王国の1192296番目の王である。この国の王は代々、セミ一族が務めていた。
しかし、運命のいたずらか、はたまた呪いであるのか、短命であるセミ一族は王位に即して早い者で一週間しか生きられなかった。そのため、王位継承が凄まじい速度で行われ、1192296人もの王が誕生した。といっても、1000000回目を越えたあたりから何回目か分からなくなったため、現在は適当に数字を付けている。
「大丈夫ですかな?王様」
「ああ、口癖みたいなものだ。いつも心配をかけてすまないな…大臣よ…ああ、死にそ」
王はダルそうに男をもう一度見つめると、ミンミンと咳払いをした。
「遠路はるばるご苦労だ。アルフガンドの戦士よ。名をなんという」
男を取り押さえていた近衛騎士達は、王に一礼をし脇にはけた。
男は腕を組み、王の目をじっとみた。
「我が名はアルフガンド最強の戦士!!!バスターシャーク・ギンガ!!!我が王の命により、この国を助けにきたぜ!!で、どうかしたのかい!?」
ギンガは唾を飛ばしながら大声で名乗った。
アッツダル王はこくりと頷き、ゆっくり話し始める。
「わしはそろそろ死んでしまう。そういう呪いみたいなものに一族全員がかかっておる。だのでわしら一族の盟友である、お主の国を統べるトルチャツカ王にお主の派遣を要請したのだ」
「で、何をすればいいんだい!?」
ギンガは食い気味に用件を聞いた。戦闘センスはあるものの、長い話をあまり理解できないため、用件だけ聞きたかった。それを何となくではあるが、察した王はミンミンと咳払いをし、頭をかいた。
「そうか、用件を簡単に話そう。最近悪さをしている野党を討伐してほしい。」
「そんなの簡単だね!!この無敵の戦士バスターシャーク・ギンガ!!承る!!」
ギンガはガハハと腰に手を当てながら豪快に笑う。しかし、王の表情は険しかった。
「やばい…死にそう」
王は急に血を吐き、床にうずくまった。兵士や大臣たちが王の名を呼びながら心配そうに駆け寄る。王は顔を上げ、肩で呼吸しながらギンガに手招きをした。本能的に死を感じたギンガは王に駆け寄り、片膝をついて王の肩を支えた。
「ギンガよ、わしに子はいない…。この呪われた一族が王になること自体がこの国の過ちなのだ…。」
「よくわかんねぇや王様!!とりあえず王様が死んだらやべえってことだな!?」
「そうだ…。わしはこの国を変えたい…幼虫の頃からおかしいと思っていた…。そしてわしにもっと時間があればよかったのだが…」
「…王様!?声がちっせぇよ!!でけぇ声でいってくれ!!」
王はギンガに微笑みかけた。そして、震える手でギンガの手を優しく握った。
「この力強い手なら多くの民を守れるだろう…お主がこの国の王になるのだ…。あ、死…」
王はゆっくり目を閉じ、息を引き取った。王に即位し、5日目の事だった。
近衛騎士や大臣、世話係など、床に突っ伏して嗚咽をあげて涙した。その悲しみの叫びが、城全体が揺らすように響いた。
この国の王は口伝でしか王位継承が出来ない。そのため、本来であれば口伝で子孫に王位継承するのだが、王に子は居なかった。死の寸前、ギンガの目を見た王は、この男になら国を任せられると思ったのだ。
力なく握られた小さな王の手をぎゅっと握りしめ、ギンガは天を仰いだ。その目には涙が浮かんでいた。
「なんか悲しいぜ!!!」
次代の王、この国初めての人族、バスターシャーク・ギンガは王位継承し、王となった。
その政治は極めて分かりやすく端的であり、王の力強さや優しさ、寿命の長さに民は皆安心して生活することができた。
見ず知らずの国で、一日にして王位を継承した男として、バスターシャーク・ギンガの名は各国に知れ渡ることとなった。
うだるような暑さの中、城の中はクーラーがよく効いていた。近衛騎士達は皆、クーラーの前に座り込み、「あっついねー」と中身のない会話を楽しんでいた。
すると突如、バンッと勢いよく謁見の間の扉が開かれる。近衛騎士達は壁にもたれかけていた槍を手に取り、すぐさまクーラーから離れ、入ってきた大柄の男へ槍先を向けた。
「何奴!!」
近衛騎士の一人が男を静止すると、男はまっすぐ王を見る。その男はボロボロの布に、皮の鎧をそれとなく付けただけの見すぼらしい姿をしていた。しかし、その体躯は素晴らしく、筋肉は隆起し、無数の傷跡がある。まさに屈強な戦士そのものといった風体をしていた。そしてその膝にはクマのパッチワークがされていた。
「来たぜ!!王様!!呼んだだろ!!」
男が大声で叫ぶと、王はゆっくり目を開いた。
「王様がお前のような者を呼ぶわけがなかろう!風呂にはいってから出直せ!」
近衛騎士の一人はそう言って男を槍の柄で押し戻そうとした。
しかし、男はびくともせず、その力強さに近衛騎士は圧倒され、ただただ力の限り押す事しかできなかった。
「ああ、来たか…死にそ」
王はゆっくり口を開いた。
王の名は『アッツダル王1192296世』ムシアッツ王国の1192296番目の王である。この国の王は代々、セミ一族が務めていた。
しかし、運命のいたずらか、はたまた呪いであるのか、短命であるセミ一族は王位に即して早い者で一週間しか生きられなかった。そのため、王位継承が凄まじい速度で行われ、1192296人もの王が誕生した。といっても、1000000回目を越えたあたりから何回目か分からなくなったため、現在は適当に数字を付けている。
「大丈夫ですかな?王様」
「ああ、口癖みたいなものだ。いつも心配をかけてすまないな…大臣よ…ああ、死にそ」
王はダルそうに男をもう一度見つめると、ミンミンと咳払いをした。
「遠路はるばるご苦労だ。アルフガンドの戦士よ。名をなんという」
男を取り押さえていた近衛騎士達は、王に一礼をし脇にはけた。
男は腕を組み、王の目をじっとみた。
「我が名はアルフガンド最強の戦士!!!バスターシャーク・ギンガ!!!我が王の命により、この国を助けにきたぜ!!で、どうかしたのかい!?」
ギンガは唾を飛ばしながら大声で名乗った。
アッツダル王はこくりと頷き、ゆっくり話し始める。
「わしはそろそろ死んでしまう。そういう呪いみたいなものに一族全員がかかっておる。だのでわしら一族の盟友である、お主の国を統べるトルチャツカ王にお主の派遣を要請したのだ」
「で、何をすればいいんだい!?」
ギンガは食い気味に用件を聞いた。戦闘センスはあるものの、長い話をあまり理解できないため、用件だけ聞きたかった。それを何となくではあるが、察した王はミンミンと咳払いをし、頭をかいた。
「そうか、用件を簡単に話そう。最近悪さをしている野党を討伐してほしい。」
「そんなの簡単だね!!この無敵の戦士バスターシャーク・ギンガ!!承る!!」
ギンガはガハハと腰に手を当てながら豪快に笑う。しかし、王の表情は険しかった。
「やばい…死にそう」
王は急に血を吐き、床にうずくまった。兵士や大臣たちが王の名を呼びながら心配そうに駆け寄る。王は顔を上げ、肩で呼吸しながらギンガに手招きをした。本能的に死を感じたギンガは王に駆け寄り、片膝をついて王の肩を支えた。
「ギンガよ、わしに子はいない…。この呪われた一族が王になること自体がこの国の過ちなのだ…。」
「よくわかんねぇや王様!!とりあえず王様が死んだらやべえってことだな!?」
「そうだ…。わしはこの国を変えたい…幼虫の頃からおかしいと思っていた…。そしてわしにもっと時間があればよかったのだが…」
「…王様!?声がちっせぇよ!!でけぇ声でいってくれ!!」
王はギンガに微笑みかけた。そして、震える手でギンガの手を優しく握った。
「この力強い手なら多くの民を守れるだろう…お主がこの国の王になるのだ…。あ、死…」
王はゆっくり目を閉じ、息を引き取った。王に即位し、5日目の事だった。
近衛騎士や大臣、世話係など、床に突っ伏して嗚咽をあげて涙した。その悲しみの叫びが、城全体が揺らすように響いた。
この国の王は口伝でしか王位継承が出来ない。そのため、本来であれば口伝で子孫に王位継承するのだが、王に子は居なかった。死の寸前、ギンガの目を見た王は、この男になら国を任せられると思ったのだ。
力なく握られた小さな王の手をぎゅっと握りしめ、ギンガは天を仰いだ。その目には涙が浮かんでいた。
「なんか悲しいぜ!!!」
次代の王、この国初めての人族、バスターシャーク・ギンガは王位継承し、王となった。
その政治は極めて分かりやすく端的であり、王の力強さや優しさ、寿命の長さに民は皆安心して生活することができた。
見ず知らずの国で、一日にして王位を継承した男として、バスターシャーク・ギンガの名は各国に知れ渡ることとなった。