私、雄太君、由美ちゃんの三人は、何となくの流れで一緒に校門を出た。
偶然な事に三人共途中までは方向が一緒らしく、自然に私達の足並みは揃う。
くくくっ……だってさ、『先生さようなら。皆さんさようなら。』って幼稚園児かよ。アハハ!
図書室を出てからずーっとニヤけていた雄太君は、もう我慢できないという感じで大爆笑する。雄太君に睨みを利かせながら、由美ちゃんの微妙なフォローに私は脱力した。
でも確かにアレはないなぁ~と落ちこみながらさっきの事を思い出す。
いやあれはキョトンとしてたって。あの時の先生の顔思い出したらますます笑える。ははっ……!
半ば呆れながら注意すると雄太君は『わりぃ、わりぃ』と言って笑いを収めた。
勢いで言ってしまった幼稚園児みたいな帰りの挨拶。あの時の先生の顔が頭から離れない。
雄太君の言う通りキョトンというか、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。そしてしばらく固まった後、いつもの優しい顔に戻ってこう言ったのだ。
『風見さんは元気いっぱいですね。また明日もその笑顔を見せて下さい。気をつけて帰って下さいね。さようなら。』
その言葉を聞いた瞬間、自分の頭からボンッと火が出たような気がした。それからはよく覚えていない。気づいたら由美ちゃんにつられ、昇降口にいた。
今思い出しても顔が熱くなる。私は頬に手を当ててため息をついた。
唐突に由美ちゃんから話しかけられて変な声になってしまった。慌てて由美ちゃんの方を見る。
え、えっと、もうすぐだよ。ほらそこのコンビニの裏。
50~60メートルくらい行った所にコンビニがある。その裏に住宅街があって私の家はそこだ。すると由美ちゃんは嬉しそうな声を上げた。
じゃあ近いね。私の家はコンビニから右に曲がってすぐの所にあるの。
いつもは亜紀ちゃんと一緒に帰るんだけど、亜紀ちゃん、週に二回塾に通ってるから一緒に帰れない時があるんだ。今日千尋ちゃんと話してみてもっと話したいって思ったの。ダメ?
『ダメ?』と可愛らしく小首を傾げてみせる。小柄で清楚で桜とはまた違った可愛さがある由美ちゃんに頼まれて頬がニヤけた。可愛い子には目がない私としてはこの頼みを断る選択肢はない。(別に変なアレじゃないけど)
いいよ。私も由美ちゃんともっと仲良くなりたい。桜とは逆方向だからいつも一人で帰ってたんだ。
せっかく癒されてたのに雄太君の声で台無しにされる。私はあからさまに眉を潜ませてみせた。
二人って仲良いんだね。そういえば一年の時もいつも一緒にいたね。
由美ちゃんの発言に私と雄太君、二人の声が重なった。
由美ちゃんの笑い声がする。私達は顔を見合わせて口をつぐんだ。
夕焼けの沈む街に由美ちゃんの大爆笑する声が響いた……
それから何日か経って七月に入った。梅雨が明けると蒸し暑い日が続き、流石の私でも若干バテてます……
やっぱり可愛い子は汗はかかないんだな~
なんて思ってたら教室の外から名前を呼ばれた。
そこにいたのは高崎先生だった。先生は私と目が合うと手招きした。
笑いを堪えながら桜が手を振る。それに苦笑いを返し、先生の方に向かった。
もうすぐ夏休みですね。一学期の間はHR委員長として色々と助けて頂き、ありがとうございました。
え?あ…もちろん私はそのつもりでいましたよ?というか、一年間通しての委員長ですよね?
言ったじゃないですか。最後までやり通すって。女に二言はありません!
え?別にこれといっては。桜と海行ったりお互いの家で遊ぶ以外は予定という予定はないです。
顎に手を当てて考え込む先生。私は何故急にそんな事を言ってきたのか戸惑った。
夏休みの間十日ほど、補習があるのは知ってますよね?
はい。確か期末テストの結果、赤点の生徒が受けなきゃいけないっていう……
そうです。まだ日程は決まってないんですが、八月の前半を予定してます。
何だか嫌な予感を抱きながらも聞くと、先生は申し訳なさげに口を開いた。
実は、その補習のお手伝いをして頂きたいのですが……
予感が的中してちょっと落ち込む。でもこれって自分の気持ちを確かめるチャンスなんじゃ……
あ!やっぱりせっかくの夏休みに学校に来て仕事なんて嫌ですよね……
良かった!今回は全クラスの委員長に頼んで来て貰うように校長先生に言われてたので。担任も全員強制参加だから若い先生方は休みが十日も潰れるって泣いてました。
先生だってまだ若いじゃないですか。私達とはそんなに離れてないでしょ。
HR委員長は各クラスに一人だけなんで、できればもう一人くらい助っ人が欲しいんですが。風見さんの方から誰かに声をかけてみて下さい。あ、強制ではないので無理しなくても良いですよ。
『助っ人』と聞いて真っ先に思い浮かぶのは桜だ。でも桜引き受けてくれるかな~
と思った瞬間、閃いた!
無理矢理握手をすると、私はそのまま教室へとダッシュした。
この話を聞いた桜が即座に首を縦に振ったのは言うまでもない……