4・運命の日、あの場所で

文字数 1,652文字

 母こと姉。
 優麻であり佳奈は、十年前に起きたことから説明を始めた。

 ことの発端は十年前に殺された要人、議員のある男と雛本一族の女性の婚姻にある。
 一族は子を持たないという条件つきでその婚姻を容認した。
 そして男には、一族に迷惑をかけないという誓約を指せていたのである。
 彼らは結果的にどちらの条件も満たすことはなかった。
 夫となる男には、彼女が子宮に問題を抱えており子ができ辛く、命に係わることもあるから避妊をするようにと言い聞かせていたのだ。

 だが懸念していたことが起きてしまう。
 彼女は妊娠した上に、その事実を一族に隠したまま子を産んだのである。
 一族がその事実を知ったのは記事によって。
 そして恐れていたことが起きてしまう。
 その子が『時越え』をし、いなくなってしまったのである。

 初めは誘拐も疑ったが、彼から子の記憶が失われたこと。
 彼女の証言を元に精査した結果、『時越え』と断定された。

 雛本一族はこの記事に関しては、何もしてはいない。
 誤報として各社が自ら削除したのである。
 だからすべてにおいて確認したわけではないのだ。
 どこの会社にも無能な奴はいる。削除し忘れた記事が後に問題となるとも思わずに。

 それでも彼の汚職疑惑の話しが出るまでは、平和だったと思われる。
 彼女は雛本医院にて、二度と子のできない身体となったが。
 汚職については真実は闇の中。
 死人に口なし。
 
 だが雛本一族にとって、彼が汚職しているかどうかは関係ない。
 一族に迷惑が掛かることが問題なのだ。
 案の定、新聞社の女『結城』はその議員のことから雛本一族との繋がり、果ては秘密を暴こうとした。
 一族にとっては危機である。

 雛本医院へは何度か来訪しており、その応対を優人の父で和史が担当した。
 和史は一族の中でも一番の切れ者と名高い。女性にはモテなかったが。その彼に任せることで、一族は危機を乗り切ろうとしたのである。

「わたしはあの日……銃の音で全てを思い出したの」
 母に過去へ行けと言われたこと。
 それは未来へ向かおうとする力と逆行する為、とても負荷がかかるということ。けれど、必ず辿り着くから信じて欲しいと。
「母に一枚の地図を渡されたの」
 それは雛本本家への地図であり、飛ぶ前の地点の地図だった。
 過去とは情景が変わるのではないか? と言えば、
『未来からきた証拠になるから、それでいいのよ』
と母は言う。

 母である優麻は、将来の自分だったのである。
 でも彼女はそのことを話さなかった。
 いずれ分かるからと言って。

「でも、今ここにいる未来は母が成しえなかった未来なのよね」
 ありがとうと微笑む彼女。
 やっと時のループ地獄から解き放たれたのかもしれない。
「そして議員の彼が撃たれた日わたしは全てを思いだし、娘である佳奈に伝えるべきことを伝えた」
 翌日の為に。
「ただ、その後がどうなるのかわたしにも分からなかったの。佳奈の記憶では、逃げろと言われた先を知らない。父が亡くなったのだろうということをぼんやり覚えているだけ」
 彼女は結城が来た時、別の部屋にいるように和史から指示を受けたらしい。

「一族の女性が無理やり『時渡』をさせられ、議員の彼との婚姻の事実が人々の記憶から抜け落ちる中、結城はしっかりと覚えていたの」
 雛本一族が何かしているのではないかと思い、話を聞きに来たようだが当の和史の記憶からも抜け落ちていたため、余計に変だと思われたらしい。

「どうしてキャリーケースを外に投げたの? 一緒に燃えてしまえば結城さんが来たという事実を隠滅できたかもしれないのに」
と優人。
「大きな音がして、二人のいる部屋に近づいたの。そしたら……」
 彼女の兄がこちらに向かっているという結城の発言が耳に入ったかららしい。
「事件に彼女が関わっていると分かれば、そのお兄さんも事を荒立てたりしないと思ったの。だから燃やすわけにはいかなかった」
 その時、玄関のチャイムが鳴った。びくりとする二人。
「誰だろう?」
 二人は恐る恐る玄関へ向かったのだった。
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