第4話 万年筆の話……LAMY【safari】

文字数 22,116文字

 かちゃり、という軽い音がしてふみ子は振り返った。
「おおっとと」
 巌志があわてて、床に落としたペンを拾い上げようと屈む。商品かな、と思ったら違った。今日、巌志の胸ポケットに刺さっていた万年筆だった。
 と、屈んだ時にまた胸ポケットから黒革カバーの本がぱさりと落ちる。
「ああ、もう」
 少し腹立たし気に巌志は、カバーについたほこりを丁寧に払った。巌志がカバーをぐっと開いた瞬間をふみ子は見逃さなかった。
「……らいぬま……さとし? って読むんですよね?」
「ん? ああ、そう。合ってるよ。雷沼さとし。いつだかに言った、遠雷町出身の作家さんの本」
「変わった名字ですね」
「……よくそこからこの小さな文字が見えるね」
「両目とも2.0です」
「ふーん」
 巌志は少し悔しそうな、羨ましそうな目でふみ子を一瞥した。
「もう一つの方の、あのモレスキンのノートには何を書いてるんですか」
「何でもいいでしょうが」
「まあ……そりゃ何でもいいんですけど」
 ふみ子がちょっと拗ねたような声を出した。巌志は自分の声が思いのほか冷淡になってしまったことを取り繕うように、「日記」とややおどけた様子で言った。
「あ……日記?」
「そう。この雷沼さとしさんに影響を受けてね。真似してやってるの。昔からね」
「へえー。好きな作家に影響を受けてねぇ」
「……何かちょっとイジってきてない?」
「全然イジってないですよ」
「ならいいけど」
「ラミー、珍しいですね。店長が使ってるの初めて見ました」
 ふみ子は、いましがた巌志の胸ポケットから脱走した万年筆を指さした。
「ああ、これ。これは……」巌志は、落とした時についたごく小さな傷を人差し指の爪で削り取るようにこすった。「サラリーマン時代は、よくこれを使って日記を書いてたんよ」
 ふみ子は、何度も爪でこすってはシャツの裾でペンの軸を磨く巌志を見て微笑んだ。
「大切なんですね」
「まあね」
「思い出の品とかですか」
「うーん……そんな大層なもんでもないけどね……」
 ふみ子のやわらかな微笑みに、好奇心のきらめきが加わった。
「そういえば、初めて聞いたかも。店長にもサラリーマン時代があったんですね」


 今日一緒にデパートに行かへんか、と巌志に誘われた高田は、あまりに突然の申し出に少々面食らった。
「今からですか?」
 高田は右手に携帯電話、左手には歯ブラシを握ったままだった。
「そう、今から」
 この人からの電話内容は相変わらず唐突で、電話での話し方は相変わらず朴訥だ、と高田は思った。時計を見ると、朝の九時だった。
「まだどこも開いてないですよ」
「だから十時くらいに梅田で待ち合わせ。いけるやろ? 近いし」
「まあ大丈夫ですけど。多田野さん、歩きですか?」
「そうやね。君は?」
「僕、チャリです」
「あ、そう」
「お昼どうしますか?」
「買い物した後で食べよか。どっか定食屋でも」
「いいですね。買い物って何なんですか?」
「うん。多分ペンかな」
「へえ」
 (多田野さんの家は文房具屋のはずやけどな。なんでわざわざ外で買うんやろ?)
 そう思ったが、高田は黙っていた。
「じゃあ、まあそういうことで」
「はい。阪急百貨店のどこで待ち合わせます?」
「入り口前やね」
「入り口って、いっぱいありますよ阪急百貨店」
「あ、そうか。どこがええ?」
「正面玄関って聞いたらわかりやすそうですけど」
「そうか。じゃあ正面玄関前で」
「了解です」
「十時に」
「はい。失礼します」
 高田は電話を切り、歯磨きを再開した。それにしても、と高田は歯ブラシを動かしながら思った。
 多田野さんはちょっとぼんやりしている所がある。部活中、複数人で会話している時でも、流れをぶった切って唐突に意外な角度から次のトークテーマを放り込んでくる。そしてそのトークテーマに皆が乗りだすと、多田野さんはまた次のことを考えている。
 じゃあ聞いていないのか、というとそうでもなく、突然「ああ、それは違うよ。そうじゃなくて……」と訂正したりする。
 天然なのかそうじゃないのか、長い付き合いだけれどいまいちわからない。
 でも、入社一年で役職者になっていることを考えれば、仕事はできる人なのだろう。二年目の人事で主任になった社員は、あの会社では多田野さんだけだ。といって、常識的なことにめっぽう疎い部分もあるし、やたらマニアックな豆知識を持っていたりもするし……と、とにかく掴みどころがない人だ。まあそういうところを全部含めて魅力なんだけど。高田は洗面台で口をゆすぐと、歯ブラシを洗った。
 高田は高校、大学とずっと巌志の後輩だった。そして巌志の後を追うように、巌志と同じ会社を目指し、採用内定をもらった。しかも希望を出していた企画部への配属も決まっている。これも巌志が席を置く部署だ。
 これには巌志も「高田はゲイではないのか」と疑いの目を向けたが、高田は断固否定した。
「僕も先輩と同じくマスコミ志望ですよ。狭い大阪で広告制作系の仕事を探すと、会社がカチあうのは当然じゃないですか」
 というのが高田の弁だった。それに対し巌志は、この会社が第一希望だったか? と聞いた。高田は「当たり前やないですか、だって多田野先輩のいる会社ですよ!」と応えた。
 こういう調子のいいところが多少ムカつきもするし、なんか憎めへんのよなあ、と巌志は思った。


 待ち合わせ時間の十分前に阪急百貨店に行くと、巌志はすでに到着していた。ジーンズにグレーのカーディガンという装いの巌志は玄関のすぐ横の壁にもたれ、難しい顔をして文庫本を読んでいた。
「おはようございます」離れたところから少し大きな声で高田が声をかけた。「多田野さん、早いですね」
「あ、おはよう」
 横目でちらりと高田を見て、巌志はまた本に目を落とした。
「今いいところですか」
「んー? うん」
「誰の本なんですか?」
 巌志は黒い革製のカバーを外し、表紙を見せた。
「雷沼さとし、ですか。へー知らないですわ、僕」
「地元やで。僕らとおんなじ町の出身やねん、この作者」
「へえ。僕らのOBに作家なんかおったんですね」
「変わりもんが多い町やからね」
 巌志は栞をページに挟み、本を鞄にしまった。
「さて、と」
「行きますか」
 二人はエレベーターを使い、文具売り場のあるフロアで降りた。
「欲しいペンって決まってるんですか」
「うーん。大体は」
「百貨店って高級品が多いイメージですけどね」
「そうでもないよ。今はかつての高級ブランドも、こぞって千円台のお手頃価格のペンを作ってるからね。東急ハンズとかロフトとか、百貨店の文具売り場もその辺りの値段帯はカバーしてるよ」
「へえ」
「ここやな」
 勝手知ったる家のように文具売り場をどんどん歩き進めた巌志は、とあるショーケースの前で立ち止まった。
 高田は目をみはった。
 そのショーケース内は色彩に満ちていた。高田が抱いている、百貨店に置かれている文具のイメージとは随分違っていた。その大きなショーケースの右端には名刺大サイズのプレートがあり、そこには〈LAMY〉と書かれていた。
「めっちゃカラフルですね、ここだけ」
「うん」
「形もなんか、独特な雰囲気で」
「やろ? カラフルで独特なデザインが、この」巌志はプレートを指さした。「ラミーの持ち味やねん」
「ラミー……アメリカのブランドですか?」
「ドイツやね」
「へえー。奇抜ですね」
「うん。確かに奇抜やけどね」巌志はショーケースの真上から、とあるペンを指さした。「例えばこれ。万年筆やねんけど」
「え。これ万年筆なんですか」
 それもまた、高田の持つ万年筆のイメージとはかけ離れた品だった。
「変わった形ですねー。すんごいデザイン」
「キャップもボディの軸部分もめっちゃシンプルやけど、持つところ。あそこだけ変に窪んでるやろ」
「あ、ほんまや」
「あの窪んだところに親指と人差し指を添えて持ったら、万年筆の正しい持ち方ができるらしい。だから本場ドイツではね、子どもの内からサファリを使わせてペンの正しい持ち方を矯正する家庭もあるんやって」
「へえ。子ども、大変ですね」
「工業大国ドイツは文具先進国でもある」
「オシャレを意識したデザインじゃないってことですね」
「プロダクトを優先させたら自然にきれいなデザインになるよ」
 その万年筆のそばに置かれてあるネームプレートには〈safari〉とある。黄、黒、白、赤、青、とカラーバリエーションもさることながら、同じ青の中でも四種類の形に分かれており、〈safari〉だけで数十本あった。
「ああ、そうか。青の万年筆バージョンと、シャーペンバージョンと……」
「油性ボールペンと、水性ボールペン」
「水性? ボールペンに水性ってあるんですか」
「あるよ。で、お目当てはこの万年筆やねんけどね。高田やったら、何色を選ぶ?」
「僕ですか? そうですね……僕ならやっぱりここは黒を選びたいですね」
「黒か」
「ビギナーやし男子なんで。あと、万年筆は黒、ってイメージやから」
「そうか。ビギナーで男子は黒か。なるほど」
 巌志はすみません、と店員に声をかけると「プレゼント用にして下さい」と言ってさっさと金を払った。高田は慌てた。
「ちょっと。多田野さん」
「何」
「いいんですか、僕が決めて」
「ええよ」
「参考にならないですよ、僕の意見なんて。誰が使うかわからへんのに」
「ええんやって」
 ありがとうございます、と言って巌志はプレゼント包装を店員から受け取った。
「はい、プレゼント」
 巌志は包装を、紙袋ごと高田に突き出した。
「……え? 僕?」
「うん」
「なんでですか」
「なんでって。就職祝い」
 高田は紙袋を両手で持ったまま、茫然としていた。巌志がこんな気が利いたことをする、というデータは高田の頭にはなかった。
「就職祝いのプレゼントを、自分の店の商品でっていうのも何かちゃんとしてなくて嫌やったから。こういうもんはやっぱり昔から百貨店で買うべきもんなんかな、って思って」
「……ありがとうございます……」
「何ぼーっとしてんの?」
「いや、別に」
「飯、行こうか」
「あ。ああ、はい。行きましょう」
 巌志は来た時と同じようにすたすたとエレベーターを目指して歩いた。
「何食べたい?」
「定食とか言ってませんでしたっけ」
「えー。今日は定食って気分じゃないなあ」


 その誤植を発見したのは、ページを担当した高田自身だった。
「私たちと一緒に働きましょう!」と指示したはずのコピーが「私たちと一緒に働きましょ」になって印刷が上がってきた。文章が途中で切れている。
 高田は先週の記憶を探った。そして、切れた文章に気付きながらもばたばたした状況下で修正指示を入れ忘れて校了し、印刷に回してしまったことを思い出した。
 入社後二ヶ月にして、初のミスだ。高田の背中には冷たい汗が流れた。
 (これでも意味は通る、か?)
 間違いではなかった、計算してこうしましたと言い切るか。「働きましょ」の方が肩の力が抜けていていい、とか。このクライアントは業種の性質上、広告でもカジュアルな雰囲気を打ち出した方がいい、とか。それとも正直に頭を下げるか。いや、そもそも誰も気づいていないと願ってとぼけるか。いやそれとも。高田は逡巡した。
「どう、その後。万年筆の調子は?」
 横の席から巌志に声をかけられ、高田はどきりとした。
「あ、はい。万年筆ですか」
 がさがさとペン立てを探り、ラミーを引っ張り出した。
「この通り。持ってきてますよ」
 巌志は体を自分のデスクに向けたまま顔だけ高田に向け、ぼんやりと高田の指に挟まったラミーを見つめた。
「使ってる? 万年筆」
「あ。ああ、いや。まだあんまり……」
「そうやろうなあ」
 巌志はため息をつき、椅子を回転させると体を高田に向けた。
「なあ高田。キーボードを叩けば誰でも簡単に大量の文章が作れる現代やからこそ、万年筆みたいな文具が大事なんやで」
「……そうっすよね」
「手紙なんてパソコンで打てばすぐ書ける。でもね、万年筆やとすごく時間がかかる。きれいに書こうと思えば、なおさら」
「はあ」
「だからこそ、ここぞという時の自筆の手紙には価値がある。パソコンで書かれたメールと万年筆で書かれた手紙、高田やったら貰ってどっちが嬉しい?」
 どっちでもあんまり変わりませんね、という言葉を高田は飲み込んだ。
「万年筆、ですね」
「そうやろ? 相手が高田のために時間かけて書いてくれたんやで」
 机に目を落としていた高田が、ふと巌志の目を見た。いつもの柔和な表情は消えていた。
「誤植、マネージャーに報告したから」
「え?」
「先方にももう電話入れてるから。高田は万年筆使って詫びの手紙でも一筆書いとき。一緒に謝りに行こう」
 高田は再びうなだれた。巌志の目を見ることができなかった。
「はい。あの、多田野さん」
「ん?」
「すみませんでした」
「……お客さんにとっては、その一枚が唯一、この月に発注した原稿やったりもする。人間である限り誤植は絶対にあることやけどね」
「わかりました」
「ん」巌志は高田に便箋を渡した。「手紙もね、ちゃんとするんならボールペンじゃなくて万年筆で書いた方がええんよ。慣れたら、万年筆の方が絶対にきれいに書けるしね」
「はい」
 高田がラミーのキャップを外し、メモ用紙にペン先を走らせた。
「あれ」
「どうした」
「インクが出ないんです」
「貸してみ」巌志は高田の手からラミーを取った。「インクが残ったまましばらく放置してるとインクが乾いて、ペン先が詰まったりするよ」
「あ、そうなんですか。うわ、やばいなあ」
「……いや。でもその心配ないわ」
 巌志はボディーをつまんでくるくると回し、グリップ部分を抜き取った。
「だって君。まだインクすら入れてないもん。未使用やもん、このラミー。詰まるわけないよなあ」


 バーベキューに飽きた高田と数人は、とっくにレンガ造りのかまどから離れてサッカーボールを蹴っている。巌志は焼きすぎてほぼ炭化してしまっている牛肉をトングで取り、ビニール袋に移していた。
「多田野さん。わたしやりますよー」
 会社にいる時より少しきつめのメイクをした女子社員が両手を突き出し、巌志に歩み寄った。
「ああ、大丈夫やで」
「えー女性にやらせて下さいよー、そういうの」
「大丈夫大丈夫。まだ炭はばちばち燃えてるから危ないし」巌志は高田の方を顎でしゃくった。「サッカー、参加してきたら。あ、いつの間にか人数増えてる」
「ほんまですね。あ、マネージャーもおる」女子社員は大きな口を開けて笑った。「じゃあ、お言葉に甘えて行ってきますね」
 女子社員は紙コップを片付けていた同僚に何か一言声をかけ、ボールを奪い合っている一群に混ざった。
 巌志はそれを見届けると、再びかまどの掃除に向き直った。炭に水をかけ、完全に消火できたことを確認すると、それもトングでつまんでビニール袋に入れた。野菜や肉の残りはラップし、ビールやジュースの入ったクーラーボックスにしまった。
 作業が完了すると巌志は大きく一息つき、バーベキュー場に隣接されたトイレで用を足した。そしてトイレで手と顔を洗った。
 バーベキュー場に戻ると、三つある東屋の一つで高田が椅子に寝そべっていた。残りのメンバーは、もう一つの東屋で三人の女子社員が真剣な顔で何やら話し込んでいる以外は、全員がサッカーに参加していた。
 巌志は一番端の東屋の椅子に腰かけ、新しいビールを開けた。そしてジーンズの後ろポケットに入れていた文庫本を引っ張り出すとページを開いた。と、すぐに内容に引き込まれ、巌志は文章の海を泳ぎはじめた。
「また違う本ですか?」
 気づくと、巌志の横の椅子に高田が腰かけていた。
「おお」巌志は目を見開いた。「いつの間に。起きてたん」
 高田は派手に寝癖のついた後頭部をばりばりと掻き、微笑んだ。
「五分くらい前からいましたよ。相変わらずすごいですよね、その集中力」
「本を読むと、どうしてもね」
「羨ましいですよ。僕は電車とかで読んでても、周りのざわざわ感が気になって本に入れないんですよ」
「それは読んでる本が面白くないからじゃないの」
「そうなんですかねえ」
「最近はどんなん読んでるの?」
「最近は……何やろう」
「前は幻想文学とか好きやったよね。泉鏡花とか、澁澤龍彦とか稲垣足穂も読んでた」
「ああ……。そうでしたね。そういうの読んでましたね」
「……今は?」
「え?」
「今は読んでないん」
 高田は狼狽し、鼻の頭を掻いた。
「そうですね、今は……本屋で平積みにされてる面白そうなミステリーとか、ドラマ原作本とか、エンタメ系を片っ端から買ってますね。でもなかなか進まなくて。積みあがっていくばっかりです。ちょっと、仕事から帰ったらなかなか読む気に……」
「そうか」
 巌志は高田から目を逸らした。そして数秒間、自分の手の中にある本に視線を落とした後、また高田の目を見た。
「……多田野さんは何読んでるんですか?」
 巌志はカバーと外して、表紙を見せた。
「水木しげる。へー、マンガ以外も書いてるんですね。鬼太郎の人でしょ。どんなこと書いてはるんですか」
「やっぱり妖怪のことは多い。でもそれだけじゃなくてね……この人はね、結構な苦労人やねん。戦争も経験してるしね。しかも南方の最前線で戦ってる」
「それって鬼太郎とかの前ですよね」
「そうやね。南の島でマラリアにかかって、高熱出して寝込んでるところを爆撃されて左腕を失って」
「え。水木しげるって片腕でマンガ描いてるんですか」
「それだけですごいやろ?」
「すごいっす」高田は腕を組んだ。「俺もがんばらななー、って思いますね」
 巌志は苦笑した。
「ほんまに思ってる? それ」
「思ってますよ、ほんまに。鬼太郎とかはその後ですか?」
「そう。水木しげるは売れるまで不遇の時代を長く過ごしてたんよ。若い頃は人生とか死について漠然とした不安を抱いてたみたいやから、救いを求めて哲学書とかも随分読んだらしいよ、この本によると」
「ふうん。なんか、意外な感じですね」
「なんかね、肩の力が抜けるよ、この本を読むと。気が楽になる。君の言葉やけど、自分も頑張らないとな、って思うよ。まあ妖怪の存在とかあの世の存在とかを真っ向から肯定してるような人やからね、死生観も哲学も独特やから」
 巌志は一気に話すとビールの缶を口に持ってゆき、すでに空であることに気付いた。
「あ、多田野さん」高田が巌志の手にある缶を指さした。「もう一本飲みますか」
「うん。じゃあ、もらおかな」
 高田は隣の東屋のテーブルに置いてあるクーラーボックスの中から、巌志が飲んでいるものと同じビールを取り出して巌志に手渡した。
「ありがとう」
 よく冷えている缶を軽く一回振ると、巌志はプルトップを起こした。高田も同じビールを開け、中身を一口飲んだ。
 以前、広場ではサッカーボールの奪い合いが続いていた。わあわあという声に、不気味なほど低空を飛ぶ旅客機の爆音がしばし重なり、遠のいた。
「独特の死生観、ですか」
「うん」
「それってどんなんですか」
「うーん」巌志はビールを一口飲んで口を湿らせた。「水木しげるが戦争で南方にしばらく住んでいた時にね、ニューギニアのトライ族っていう原住民とすごく仲良くなったらしい。で、その人達の生き方とか、死後の世界に対する思想に深く心酔したようやね。あの世とか神様の世界とかはもう、当然のようにあるに違いない、と。いつ行くか、どう行くかというだけの問題であってね」
「はい」
「つまり死ぬことは特別なことじゃなくて。今はこの世を去ったとしても、命は輪廻のように回りまわって、いつかまたこの世界に帰ってくる、ってこと。水木しげるは、まるで見てきたかのようにあの世のことを語るからね。なんかもう、うっすらと信じてしまってるもんね、読み進めるうちに」
 高田は中空を見つめ、しばし沈黙した。
「そういうの興味あるの? 高田」
「え」
「死生観とか、あの世のこととか」
「うーん。興味っていうか……」
 巌志はシャツの胸ポケットから煙草を出すと、ライターで火を点けた。それを見て、高田もバッグから煙草を取り出して一本咥えた。
「多田野さんは興味あるんですか」
「僕の場合は、この作者が好きやから。でも読むことによって、ちょっとしんどさが減ったりするかな」
「ストレスですか。仕事の」
「まあね」
「多田野でも、ストレスあるんですか」
 巌志は苦笑した。
「どういう意味よ、それ」
「いや、だって仕事できるし。お客さんからも、山脇マネージャーからも信頼厚いし」
「僕にだってストレスくらいあるって」
「それって、」僕のことでですか、と言う言葉を高田はぐっと飲み込み、ごまかすように自分の煙草に火を点けようと、ジッポライターのフリントホイールを親指で擦った。しかし、二度、三度、四度と擦っても火は点かない。巌志は自分のライターを高田に渡した。
「すみません」
 巌志が渡したライターは一発で着火した。高田は煙を深々と吸い込み、吐き出した。
「多田野さん。さっきの話ですけど」
「どの話?」
「命はめぐる、って話です」
「うん」
「万年筆みたいですね、なんか」
 巌志も深く煙を吸い、ゆるゆると吐いた。
「万年筆?」
「はい。多田野さんは言ってたでしょ。万年筆は名前の通り、古くなっても部品を換えたらいつまでも使えるって。万年使えるから万年筆、って」
「言ったね」
「魂が健全やったら。何度でも、肉体っていう入れ物を換えたら生まれ変われるんやったとしたら、それは永遠に生きるってことに近いんかな、って思って。死んだ瞬間、ぱっと真っ暗になって、何もかも無になるわけやないんなら、なんか救われる気分ですね」
「ふーん。面白いね、それ」
「そうですか?」
「うん。魂万年筆論。面白い。あ、灰皿ある?」
 高田はジーンズのポケットから携帯灰皿を出して、巌志に渡した。巌志は灰皿を受け取ると、短くなった煙草をぐしぐしと擦りつけた。
 巌志はビールの残りを一気に飲み干した。高田は時間をかけ、少しずつ飲み続けた。
 広場のメンバーはいつの間にかボールの奪い合いを終え、めいめい勝手に草の柔らかそうな場所を見つけ、寝そべっていた。
 快晴だった空はいつの間にか曇りはじめていた。
 遠くには雨雲も見えた。


 ここ数日抱えていたストレスと疲れを、巌志はまったく解消できないまま朝早くから出社していた。
 このひと月、高田はミスを連発していた。そのうち三つはかなり重大なもので、巌志は高田と二人で二回、さらにそこへ直属の上司である営業部マネージャーの山脇を加えた三人で一回、クライアントに直接会って謝罪していた。
 (――風呂、今日は入らんと……)
 巌志の頭は皮脂でべたついていた。連日の残業、さらに帰宅後にも残務整理が続き、私生活もままならない状態が続いていた。とはいえ水曜日は週の山場であり、その日の内に入稿し、印刷に回さなければならない原稿は山ほどある。
 (カイナホさんの分は二時までに終わるか……)
 巌志は、クライアントの要望の中から原稿に使用する写真を選び、キャッチコピーを考え、専用端末を使用してそれらをレイアウトしながら常に原稿の残数と締め切りまでの残時間を天秤にかけていた。
 (BBさんのが五時ギリまでで行けそうやから、これ終わったらコンビニ走って)
 社長から直で急な案件も入ってきたが、何とかなりそうだ。脳内での計算を終え、巌志はふと気づいた。
 (あ。高田との資料作りがあった)
 あれはあれで今日の夕方までにアップしなければならない。巌志はため息をついた。横を見ると、高田は自身の担当している原稿で泡を食っていた。
「高田、ちょっといい?」
 余裕がないのは承知で、巌志は声をかけた。
「……はい」
 高田はパソコンの画面を見つめたままで返事をした。
「あれどうなってるかな」
「ちょっ。ちょっと待って下さいね」
 キリのいいところで作業を保存し、高田はパソコンから目を離して巌志を見た。
「はい。なんですか」
「昨日頼んだやつ。資料作りのネタ集めとか」
「資料作り?」
「新卒の」
「えっ。……あー。あれは」
 高田の顔に一瞬、苦渋の色が浮かんだ。
「あれは……僕が担当することになってたんでしたっけ」
 ごく自然に、巌志の口は重力に引っ張られるようにゆっくり開いた。
「何度も言ったよ」
 自然ときつい言い方になった。ネタさえ集まっていれば、一時間もあれば作成可能な仕事だったのだ。腹の中でふつふつと、高田に対する怒りがこみ上げてきた。
「聞いてください、多田野さん。実は――」
「言い訳を聞いてるヒマはない。とにかく行動しないと」
「もう、間に合わない……ですよね?」
「間に合わないじゃなくて。手分けしてネタ探そう」
 じわり、とこみ上げた怒りを巌志は飲み込んだ。高田は「やべー、やってもうた」という表情で巌志を見ていた。その表情にどこかあざとさを感じ、巌志の怒りは一気に膨れ上がった。
 立ち上がろうと巌志が机に手をかけた瞬間、声をかけられた。
「多田野。ちょっと」
「……はい」
「ちょっといいか」山脇がミーティングブースを指さした。
「はい」
 巌志は高田の顔から目を逸らしたまま、手帳とペンを持ってブースに向かった。
「……失礼します」
 ブースの壁をノックし、覗き込むと、山脇はすでに着席していた。手のひらをテーブルの上で組んでいる。
 (ああ……マジ話のポーズ)
 胸の内で呟きながら、巌志は山脇の向かいに座った。
 山脇は組んだ手のひらでテーブルをこんこんと叩いた。
「高田、どう?」
「……はい?」
「高田のことよ。昨日のおかげ屋さんの件も、結局は高田の組んだ見積もりが適当やったから起こったことやろ」
「いえ、あれは」巌志は俯いた。「僕が彼に完全に任せてしまってたせいです。高田は悪くないです。僕の責任です。すみません」
「それ言うたら話終わると思わんときや」
 普段の山脇とは雰囲気の異なる硬質な声色に巌志は顔を上げた。
「メンティーのミスが自分の責任や、って言うんなら処理するところまでカバーしやんと。多田野、それができてないから俺が昨日行くはめになったんやろ?」
 巌志は再び俯いた。返す言葉もなかった。
「だから多田野、管理責任うんぬんはひとまず置いといて。高田、あの子は使い物になりそうか?」
「使い物……って」
「さっきも聞こえてたけど。今日のミーティング用の資料もできなさそうなんやろ。彼、ちょっとぼんやりし過ぎちゃうか」
「いや……」
「おまえの昔からの後輩なんやろ? 庇いたくなる気持ちはわかるけどな。新卒入ってきたら、あのレベルでは先輩としてはおられへんぞ。すぐに追い抜かれまくって、惨めな思いをするのは高田やからな」
 巌志は再び山脇の目を見た。
「それはつまり……クビにするって話ですか?」
 山脇は曖昧に頷いた。「無自覚な行動が続くようでは、会社はそういう判断をすることもある、ってこと」
「いや、あの」机上で巌志は山脇に頭を下げた。「すみません。もうちょっと見てやって下さい。あいつ、ぼーっとしてますけど、ちょっとまだ勘が掴めてないだけで。コツがわかれば化けるやつなんで、昔から。中学高校大学と、ずっとそうやったんです」
「コツ? まだ掴めてないんやったら、それはそれで問題やぞ。彼、もう入社して何ヶ月経つ? 君はメンターとしていったい何をしてる?」
 巌志はさらに深く頭を下げた。
「すみません山脇さん。もうちょっと待って下さい」
 山脇は口をへの字に結び、腕を組んだ。
「ええよ多田野、おまえが頭下げんでも。そんくらい頭下げてなんぼや、っちゅうことを彼に教えたってくれ」


 深夜一時を回ってすぐに、巌志は帰宅した。
 自室で鞄を置いてスーツを脱ぎ、一服もしないままバスルームに入って五分でシャワーだけ浴びた。さっぱりした体で台所へ行き、ビールを取り出そうと冷蔵庫を開けるが一本も入っていなかった。巌志は軽く舌打ちし、麦茶のボトルを取った。
 (まあ、呑んだら十秒で寝てまうやろうしな)
 麦茶の入ったコップだけ持って、自室へ入るとデスクに着いてノートパソコンを開く。次いでプリントアウトした資料を複数枚、見やすいよう机上にレイアウトし、パソコン上でパワーポイントを起動した。
 (……高田ががんばって集めた資料)
 巌志は約三十分前、オフィスを出る際に高田にかけた言葉を反芻した。
「頼むから……見積もりは、見積もりくらいはまともにやってくれよ。な?」
 二人ともへとへとにくたびれていた。こと、巌志はここ三週間ほとんど休みを取っていなかった。とはいえ、いたわりに欠ける言葉を使ってしまったことに巌志は後悔した。
 (見積もりくらいは。くらいは、って……何を偉そうに言ってるんや)
 きっと自分が思っているよりずっと嫌な顔をしていたんだろう、と巌志は思った。
 言われた瞬間の高田の顔が脳裏に焼き付いていた。恨めしさ、悔しさ、情けなさ、申し訳なさ。そういった感情がないまぜになった表情だった。高田はがっくりとうなだれた。
 高田にあんな顔をさせたくなかった、が、それが自分の甘さであることも巌志は重々承知していた。巌志は自身に喝を入れるべく、けっこうな力で両方を平手で叩いた。
 (考えてもしょうがない。とにかく、何とか明日までに企画書にまとめんと)
 巌志の意識がぐぐ、っと資料の中に潜り込んだ。眠気はなかった。一枚目の資料の要点を掴み、パワーポイントに直接つらつらと書き込んでいく。巌志の手が二枚目の資料に伸びた時。集中力が途切れた。部屋のドアがノックされたのだ。
「あ……はーい?」
「ええか?」
 無表情で室内にのっそりと入ってきたのは巌志の父、信範だった。
「ま……ええけど。仕事してるから」
「怖い顔してるぞ、おまえ」
「……そう?」
「狛犬さんみたいやな」
 巌志は小さく舌打ちした。「なんか話? 仕事しながらでもいい?」
「いや、まあ……話っちゅーか」
 信範は所在なげに、六畳の室内を歩き回った。ごま塩頭をごしごしとこすりながら口笛を吹き、やや出っ張った自身の腹を撫でつつ巌志の本棚を眺め回す。
「おっ。雷沼さとし読むんか」
「読むよ」
 巌志は手元の資料に目を落とした。
「面白いよな」
「そうやね」
「サラリーマンは面白いか?」
「面白いかどうかでやるようなもんやないでしょ」
「父さんは文具屋やるの面白いぞ」
「そりゃ、趣味で始めた店なんやから面白くないと」
「おまえ言い方きつくなったなあ。昔はあんなにおっとりしたヤツやったのに」
 集中できやしない。巌志はやや強めにエンターキーを叩き、信範に向き直った。
「だからなに?」
「なにって?」
「話よ。僕、明日必要な資料を――」
「父さんな、文具屋閉めようと思ってる」
 巌志はデータをセーブし、保存されたのを確認してから、じっと父の顔を見た。信範はニンマリと笑っている。
「え……ドッキリ?」
「いやマジで」
「だって、あの店は母さんと」
「元気やった頃の母さんの思い出がつまった店やけど、まあ俺も六十三やしな。あ、今日明日って話やないで。まああと一年、二年くらいか。お客さんみんなに、ゆっくり挨拶しながらな」
「そんな……」
 長屋の一階部分の半分を占める店舗〈文具屋のぶ〉は父のライフワークだ、と巌志は思っている。
 巌志が幼い頃、信範は脱サラして店を始めた。のんびりした時代だった。ウェブサイトなどなくても、信範こだわりの個性的な品ぞろえと母の丁寧な接客が評判を呼び、客足は途絶えなかった。巌志は店のマスコットのような存在で、顧客から可愛がられた。うろ覚えの知識で接客まがいのことをしているうちに、文具への知識が深まっていった。詳しくなるたび、今は亡き母からは褒められ、父からは商品についてのクイズを次々と出された。
 巌志にとっては、三人家族がもっとも良い関係だった時代だ。巌志にもずいぶん思い入れがある。
「まあ、二十年近くも好き勝手やらせてもらったよ。金も、豊かとは口が裂けても言えんけど自分が食ってく分は貯まってる。おまえに、ちょっとでも残してやれたらええんやけどな」
 巌志は床に視線を落とした。「そんなんどうでもええよ」
「どうでもええことないぞ。まったく期待されへんのはさすがに親父としてちょっとさみしい」
「いや。そうじゃなくて。……僕は店が無くなるのが」
「さみしいか」
「そりゃそうやわ」
「おまえにはおまえの仕事があるやろ。継げなんて言われへんわ。俺、親がやってる仕事やからって息子に当たり前のように継がせるヤツ大っ嫌いやねんなー」
 巌志はぐっと言葉につまった。
「……じゃあ誰かを雇って継いでもらうとか、ウェブサイト作って募集かけるとか――」
「おい。あんま勝手なこと言うなよ」
 巌志は父の声のトーンが変質したことに気づいて顔を上げた。信範は真顔になっている。
「あれは俺の店や。俺は俺で勝手にあの店をやった。その金でおまえを大きくしたんや。巌志、おまえはおまえで勝手にやってる。それをどうこう言うつもりはないぞ。俺もおまえも、ひとりの大人の男やからな」
「…………」巌志は唇を噛んだ。
「何か不満そうやな、巌志」
「……なにを偉っそうに」
「はあ? 何がや」
「父さんもサラリーマン続かんかったんやろ?」
 信範は大きなため息をついた。「あーそうや。だから脱サラしたんやろ、とでも言いたいんか」
「違うん?」
「おまえは文具屋を嘗めてるなぁ。悲しくなるよ」
 信範はきびすを返し、ドアに向かった。そして部屋から出る時、小さく「あんま無理すんなよ」と巌志に声をかけると、静かにドアを閉めた。
 巌志は、しばし呆然とドアを見つめ、やがてのろのろとパソコンに向き直った。
 一時間後、トイレに立った巌志は、同じく用を足しに起きた父と廊下でばったり会ったが、お互いに口をきかなかった。


 眠り始めてまだ一時間ほどだった。巌志の携帯電話が鳴った。
 朝五時に巌志の携帯電話がなるのは初めてのことではなかった。厳密には二度目。一度目は印刷で大きな誤植があり、クライアントから賠償を迫られていたとき。その時も今回も、電話をかけてきたのは山脇だった。
「お疲れ様。朝早くにごめん」
 およそ山脇らしくない抑揚を欠いた話し方と無駄を省いた言葉の選び方に巌志の胃は収縮し、眠気は一瞬で消え去った。
「何かありましたか」
「ああ。……うん。何と言えばええか」
「はい」
「多田野。落ち着いて聞いてほしいんやけど」
「……はい」
「高田が自殺をはかった可能性がある」
「……え?」
「高田が、自殺をはかった可能性がある」
 物資運搬のトラックが、その日もほぼ同じ時間に巌志の家の前の道を通った。
 それは目覚まし時計の代用となり得るほど正確に、決まった時間に轟音を立てて走り去る。巌志はその音で一旦目を覚まし、時刻を確認したのちもう一度寝なおすというのが日課のようになっている。
 しかし、今この瞬間だけは、巌志の脳には山脇の声以外は滑り込んでこなかった。
「――聞いてるか」
「聞いてます」
「うん。それでな」
「はい。え? え、どういうことですか」
「俺が知ってる範囲のことでしか喋られへんけどな」
 高田は、自宅で睡眠薬を大量に服用した。
 六畳間で膝を抱えるようにして倒れた高田の手には家族の写真。そして体の周りにはまるで献花のように顧客リストと見積り書が大量にちりばめられていた。
 見積りに書かれた数字は、とても巌志が首を縦に振れるようなものではなかった。
「え。でも、大丈夫なんですよね? あいつ」
「今はチューブだらけで病院にいる。しばらくは療養せんとあかんみたいや」
「後遺症とかは」
「それは俺もわからん。医者じゃないからな」
「いや、でも――」
 山脇が長い溜息をついた。巌志はそれを受話口で受け、言葉を詰まらせた。
「多田野。これはおまえの責任じゃない。おまえは悪くない。昨日の夜な……いや正確には今日の深夜三時頃か。俺の携帯に電話があったんよ」
 しかし山脇はその時は着信に気付かず、奇しくも朝、高田の緊急入院を知らせる警察からの連絡で、深夜の高田からの着信の存在を知った。
「着信を知らせる赤のLEDがな……救難信号みたいでな」
 しゃがれた声で山脇は言った。
「山脇さん」
「ん」
「僕の携帯には……連絡は入りませんでした」
「そうか」
「どうしてでしょうか」
「おまえは公私ともに仲良かったからな。かけづらかったんかもな。高田の気持ちもわかるやろ」
「山脇さん、僕は」
「多田野」山脇の口調が変わった。「取りあえずは以上や。今は病院に行っても、俺らにできることはない。今は行くな。詳しくは出社してから話す。わかったか」
「山脇さん」
「わかったか? 多田野」
 巌志は意識して大きく息を吸い込み、吐き出した。
「わかりました」
「よし。多田野、もう一度言うけどな。これはおまえの責任やない。おまえは会社の命令を聞いて、その通りに業務を遂行しただけや。これは会社の、いや俺の責任や。しょいこむな」
「…………」
「多田野」
「……はい」
「うん。じゃあ、また後でな」
「はい。失礼します」
 巌志は電話を切った。
 ベッドに腰掛け、煙草の乗った盆を引き寄せると一本取り、咥えた。そして枕元にあるシンプルな銀色のジッポライターで着火した。
 ささやかですけど万年筆のお礼です、と言いながら高田が差し出したものだ。
「ジッポってのはけっこうね、当たり外れがありましてね。値段の高いとか安いとかは全然関係なくね。選んだ奴が火付きいいかどうかは、買ってみないとわからないんですよ。だから、このプレゼントしたやつが良いジッポかそうでないかは……、まあ後のお楽しみということで」
 高田の愛用するそれとは違い、火は一発で着いた。
 大きなため息をごまかすように、巌志は吸い込んだ煙を力いっぱい吐き出した。


 それから二日経っても、オフィス内は騒然とし続けていた。
 誰もがひそひそと小声で話し合っている。巌志の姿を見ると驚いたように挨拶し、そそくさとその場を離れる者、気遣いの言葉をかける者、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに離れた場所から巌志を眺める者など、高田の自殺未遂についてのリアクションは様々だった。
「――違うよ。多田野さんが一方的に高田くんを追い込んだらしいよ」
 本人達は音量を抑えているつもりだろうが、そういった声は巌志の耳に容赦なく突き刺さった。
 善意、悪意、それらの一切を巌志はシャットアウトした。巌志は自分のデスクに着くと、隣の高田の席から必要と思われるファイルを複数手に取り、黙々と引継ぎをおこなった。
 案件の量はこまごまと多い。問題の少ないクライアントばかりだが、面倒なばかりで何も面白くない仕事ばかりだ。
 (……でも、仕事に面白いも面白くないもない。当たり前のことや)
 それはもちろん巌志にもわかっている。しかしそれが自分を納得させるためだけの正論であることも巌志にはわかっていた。昨日も一昨日も一週間前も一か月前も、高田がずっとどんな気持ちでこれらの案件を処理していたのかと考えると、巌志はこの場で今すぐ自分の頭をぶん殴ってやりたくなった。
「多田野さん、お電話です」
 巌志は自分のはす向かいに座っている女性社員の方を向いた。女性社員は、なんだか申し訳なさそうな顔をしている。
「……誰からですか?」
「高田さんです。……病院からだって」
 巌志は自分のデスクにある電話を取り、赤く点滅しているボタンを押した。
「――高田?」
 電話の向こうで何か音がしたが、巌志には聴き取れなかった。
「高田。大丈夫か?」
「多田野さん。……お疲れ様です」
「いや……体は? 電話して大丈夫なのか」
「はい、まあ………点滴はしてますけど」
 そこで高田が「すいません」と小さく言い、受話器の向こうでせき込んだ。せきはしばらく続いた。
「……ごめんなさい、声を出すと、どうしてもせきが」
「聞いてられへんわ。早く寝ろって。ベッドへ行って」
「いや、でも引継ぎが」
 巌志は呆れた。「……引継ぎの電話? これ」
「はい。多田野さんに迷惑ばっかりかけて……」
 それからしばらく、高田は抑揚のない声でぼそぼそと引継ぎについて話した。時折激しくせき込んでは巌志をはらはらさせた。
 およそ五分で、電話は切れた。最後の言葉は「本当にすみませんが、よろしくお願いします」だった。
 巌志は受話器を置き、ため息をついた。
「引継ぎでしょ? 高田のヤツ」
 後ろの島から巌志に声をかけたのは、高田の同期入社の谷井だった。巌志は谷井へ顔を向け、あいまいに何度か頷いた。
「僕のとこにも電話が来たんですよ。飯田さんとこの件で」
「ああ、そう……」
「八十島リーダーんとこにも電話があったらしいし、三村んとこにもあったらしいす。一緒にプロジェクトやってるメンバーほとんどのとこに引継ぎの電話してるんじゃないですかね、あいつ」
「ほんとに?」
 あ、あとは、と言って谷井は言葉を継ぐ。
「山脇マネージャーのとこにも電話してるらしいっす」


 前日の雨は引き続き街を濡らしていた。
 携帯が鳴っていることはわかっていたが、駅の喫煙所に着いたばかりで巌志の両手は鞄と大型の書類ケースと傘でふさがっていた。
 巌志は無視してもいい、と思っていた。誰からかかっているか、予想はついていたのだ。
 着信音は鳴りやまない。雨に濡れた手で電話を引っ張り出した。巌志の予想通り、公衆電話からの着信だった。
「……もしもし。多田野です」
「多田野さんですか」
「ああ……お疲れさん」
「昨日の電話の続きなんですけど、大丈夫ですか」
「ああ、その件やったら。もういいよ。うまくいったから」
「え、うまく?」
「うん。打ち合わせた結果、全然別の雰囲気の原稿を提案することになったから」
「あ……そうなんですか」
 巌志は煙草を咥え、火を点けた。
「社長さんの鶴の一声があったみたい。ちゃぶ台をひっくり返されたんやって。だからまた一から、僕が全然違う原稿を作るから。大丈夫」
「そうなんですか」
「高田、もう電話しなくていいから」
「え?」
「休んでくれ、ってこと。難しいかもしれへんけど、今はゆっくり休んで体調整えてくれ」
 高田は沈黙した。
 巌志も会話を止め、煙を大きく吸って、ゆるゆると吐き出した。
 くすんだ白色の煙を巌志は目で追ったが、すぐに曇天の灰色に混ざりこむように溶け込んでいった。
「……じゃあ」
「うん」
「本当にすみませんが、よろしくお願いします」
 なぜだか唐突に、巌志の胸の中心に火が点いた。
「あのなあ、高田」
「はい」
 巌志は短くなった煙草を、びしょ濡れの灰皿に勢いよく投げ捨てた。
「おまえいい加減にしろよ‼ 入院してまでなに謝ってんねん⁉ おまえはなあ、今病院で治療中や、引き継ぎなんか気にするな! おまえがおらんでも僕がおらんでも会社はな、おる人間が回すねん! ええから寝ろ‼ 寝て――」巌志はごくり、と大きくのどを鳴らして息を飲みこんだ。「……一日でも早く元気になってくれよ」
 改札前にいた人間全員が、狂人を見る目で巌志を睨んだ。が、巌志の目に周囲の光景など映っていなかった。
「で、一緒に企画書作ろう。高田」
 高田は電話の向こうで黙り込んでいた。
 そしてぽつりと「ごめんなさい」と言った。
 消え入りそうな声だった。
 巌志の脳裏に、受話器を持って小さくなっている高田の姿がありありと浮かんだ。
「……いや……それからな、高田」
 巌志は大きく深呼吸し、口を開いた。
「前にも言ったけど、まず僕に電話してこいよ。僕、おまえのメンターなんやから」
 五秒ほど沈黙が続いた。かすれ声で小さく、ありがとうございました、と聞こえた。
 電話は唐突に切れた。
 巌志は電話をパンツのポケットに滑り込ませると、煙草を取り出して新しい一本を咥えた。そして少し躊躇したあと、吸うのをやめて箱にしまった。


 夜の七時台に最寄り駅を降りることなど何日ぶりのことか。いや、何週間ぶりか。
 巌志はコンビニに寄り、缶ビールを四本とつまみを適当に買った。そして重い足を引きずるようにして帰路を辿った。
 と、〈文具屋のぶ〉の照明が赤々と灯っている。
 店が開いているのを見るのは久しぶりだった。営業時間が夜の八時までなので、巌志が帰宅する夜遅くには必ず真っ暗になっている。とはいえ、店舗には近づかずに玄関の方に回ろうとした。店の前で信範と鉢合わせしたくはないのだ。
「――ありがとうございましたっ」
 元気いっぱいの父親の声に、巌志の足は止まった。正面のガラス戸が開き、客とおぼしき中年男性と信範が出てきた。巌志はあわてて電信柱の陰に身を潜めた。
 (……なんで隠れる必要あるの?)
 巌志は自分自身のとった行動がいささか疑問ではあったが、堂々と父の前に姿を見せるのは嫌だったので取りあえずはそこから二人の様子を盗み見ることにした。
 二人は万年筆とモレスキンのノートについて話していた。が、話の内容より何より、父親の表情が印象的だった。巌志には、それは営業用スマイルではなく、この客が好きで仕方がない、文具について話したくて仕方がない、といった笑顔に見えた。
 自分が、職場でいつから笑顔になれていないか、巌志には思い出せなかった。
 (笑顔? そりゃ楽しかったら僕だって笑うよ。でも楽しくなくたって、営業用スマイルを使いこなすのも仕事のうち――)
 ――いや、違う。いつから笑顔になれていないか、以前に。
 いつからすべてに対し、こんな正論じみた、自分を納得させるための言い訳をするようになったのか。いつから自分の直感を理屈で論破するようになったのか。
 自分はただ社会人として綺麗にまとまろうとしているだけだ。その実、言い訳にまみれている。それなのに、どうして高田の言い訳を聞いてやれなかったのだろう。


 その夜、巌志は久しぶりに日記をつけた。
 日記といっても簡単な内容だった。その日の天気。服装。朝昼晩の食べたもの。その日の大まかな出来事。その日に感じたこと。その程度なので、仕事のちょっとした空き時間に携帯電話のメモ機能を使ってメモしていた内容を多少清書して並べるだけでよかった。
 愛用しているモレスキンのノートを開き、どの万年筆を使おうかとペンスタンドの周囲をさ迷っていた巌志の手は、ぴかぴか光る樹脂でできた一本の前で止まった。
 (ラミーのサファリ)
 巌志はサファリ万年筆を取ると胴軸をひねって外し、カートリッジ式のラミー専用インクをセットした。そして怒涛のようなここ数日の出来事について、そのとき感じたことについて記し始めた。
 そばに置いたカップに入ったコーヒーは、薫りを放ちながらゆっくりと冷めてゆく。ゆるゆると、しかし確実に白いページは埋まってゆく。それは巌志にとって何にも代えがたい、心のほぐれるひとときだった。


 明け方、巌志は夢を見た。
 夢の中で、巌志はすべてから解き放たれたような軽い気持ちで仕事をしていた。
 仕事のアイデアはいくらでも思いついた。
 それらを文章にまとめるのが楽しかった。
 要点を拾って資料化するのが楽しかった。
 それを客前でプレゼンするのが楽しかった。
 いくら企画書を作っても、アイデアは途切れない。
 求められるまま、いくらでも立案した。
 上司から、同僚から、顧客から評価された。
 巌志は浮かれていた。そんな巌志をただ一人冷静に見つめる者がいる。部下だ。
 部下の顔をよく見ようと、巌志が近寄って――


 目を覚ますと、もう朝十時を回っていた。
 あわてて飛び起き、今日が祝日であることを思い出した。巌志はのろのろと起き上がり、リラックスできる服に着替え、二階にある自室を出て階段を降りながら、夢に登場した部下の顔を思い出そうとした。がうまくゆかなかった。
 台所へ行こうとして、巌志はふと思い立ち、店舗に向かった。店舗では信範がせかせかと動き回っている。店舗も今日は休みだった。信範は掃除したり、在庫を調べて店頭に補充したりと忙しそうだった。
 声をかけようかどうしようかと逡巡していると、ぷしゅっ、という耳馴染の良い音が聞こえた。信範は巌志に背を向けたままの姿勢で、うまそうに缶ビールをぐびぐびと飲んだ。そして「ふおおおお……おおう」という、ため息とも苦悶ともつかない不可思議な声を絞り出した。
 その様があまりにも滑稽で、巌志はつい含み笑いをしてしまった。信範が振り返る。
「おう。やっと起きてたか」
「マンガじゃないんやから」
「え?」
「ビール飲んで、あんな声出して……っていうか、朝からビール?」
「休みの日は朝から景気づけに呑みながら店片づけるんや」
「そうやったっけ」
「最近は店もあんま手伝ってくれんやろ、おまえ。だから知らんのや」
「……僕の買ってきたビールやし」
「冷蔵庫に四本あったぞ? 父さんと呑むつもりで買ってきたんやろ」
 図星をつかれ、巌志は黙り込んだ。そして台所へ行き、自分のビールを取って店舗に戻った。
 巌志がプルトップを開け、おずおずと父に向けた。「……じゃあ」
「かんぱーい!」
 信範も乾杯の仕草をし、またごくごくとビールを飲んだ。巌志もつられてぐぐっと飲む。空腹に応えた。飲みなれた銘柄だが、やけに苦く感じた。
「……ちょっとはマシな顔になったな」
「え?」
「こないだは嫌な顔になってた」
「嫌って、どんな」
「狛犬さんみたいな顔や」
「……茶化さんといて」
 巌志はため息をつき、またビールを一口飲んだ。「後輩を怒鳴ってもうてさ」
「ほう?」
「僕、生まれて初めてちゃうかな。人を怒鳴ったのって」
「ま、おまえはおっとりした男やからな。それで?」
「その子は……いま、病院におる」
「そうか。……その子は仕事辞めるんか」
「まだわからんけど、」巌志は、ごくりと唾をのんだ。「辞めるかもね」
「……ま、会社だけが人生やないよ」
「僕も会社を辞めようかと思った。なんか、色々嫌になって」
 信範は沈黙することで、巌志に話の先を促した。
「で、父さんの店を継ごうかとかも、考えた。……けど」
「けど?」
「それこそ文具屋を嘗めてると思って、考え直した」
「……そうか。俺は、やりたきゃまあ、細かいことにこだわらんでもええと思うけどな」
 巌志はややためらい、ポケットからサファリ万年筆を取り出した。
「おまえ、サファリ使うんやな」
「うん」
「使いやすいか?」
 巌志は、ふるふるとかぶりを振った。「ペンを握った時の、親指と人差し指の置く位置が決められてるのが、どうも僕には合ってないような……」
 信範が頷いた。「俺もそう思う。好きなとこ握って書きたいからなぁ」
「でも、使ってるうちに慣れてくるかも」
「そうかぁ?」
「うん。僕はそう思う。だから使い続けてみる。手に馴染んだものだけしか使わんかったら、自分が駄目になっていくような気がして」
 信範は苦笑した。「意地を張るようなことかよ」
「僕にとっては、張るようなことや。……昨日の夜、店からお客さんと一緒に出てきた父さんを見て、思い出した」
「あれ? おまえ見てたんか」
「うん。見てた」
「何を思い出したんや」
「僕は今の仕事を、好きで始めたんやってこと。仕事やから、楽しいばっかりじゃなくて……というか、辛いことの方が多いけど。それでも、自分が好きで選んだ仕事やったんやってこと。今さら思い出したよ」
「いまあなたが辞めたい会社は、かつてあなたが入りたかった会社です、ってか」
 巌志はきょとんとして父を見つめた。「何?」
「昔の、なんかの求人のキャッチコピーや」
「ふーん。ええね、それ」
「あのなあ、巌志」
「何?」
「辛いとか、自分で選んだとか。俺はな、そんなんいっぺんも考えたことないぞ。このお客さんはこの話が好きやろとか、今日はこのペンの魅力について話したろとか、そんなことばっかり考えてるぞ、毎日。仕事を楽しんでいったい何が悪いんや。自分が楽しいから客も楽しくなるんや」
 信範は呆れたように言った。
「だから、それは父さんが好きで始めたから――」
 言いかけて、巌志ははっとして黙り込んだ。
 軽い言葉の裏に、父のとてつもなく大きな責任と決意が垣間見えたのだ。
「……おまえも好きで始めた自分の仕事や。だったとしても、晴れの日もあれば雨の日もある。時には台風の日だってある。それだけや。ほんまに、ただそれだけのことや」
 信範は、缶の振って、残りのビールを一気に飲み干した。そして「うまい! もう一杯!」と言って台所へ向かおうとした。巌志も、かなり残っていたビールを一気にぐびぐびと飲み干した。自然と胃からせり上がってくるげっぷを必死で抑えつつ、巌志はあわてて父を呼び止めた。
「おまえもおかわりか?」
「ビールはもういい。……けど」
 信範はじっと巌志の目を見た。
「会社は、自分が納得いくまで続ける。誰のためでもなく」
「そうか。ええこっちゃ」
「でも――」
「でも?」
 巌志は信範に、深々と頭を下げた。
「もっと勉強します。だから、いつかはこの店を継がせてください」
 頭を下げたままの姿勢で巌志は、小さく「お願いします」と言った。
 しばし真剣な表情で巌志を見ていた信範は、ややあってにんまりと笑い、巌志を残してすたすたと台所へ歩いていった。
 巌志の耳に、信範からの声が届いた。
「まあ、今の知識じゃあ話にならんなぁ」


 駅前にはバスロータリーがあり、ロータリーを囲むように作られた広場の中心には大きな噴水があった。夏の渇水期以外は景気よく、水を大量に吹き上げている。
 噴水の周りに等間隔に配されたベンチに、巌志は一人で腰かけて昼食を摂っていた。
 巌志はネクタイの襟元をゆるめ、パンを頬張りながら、噴水の細かなしぶきが作る虹を見るともなく見ていた。吹き上げられた水はプール部分に落ち、側溝からゆっくりと吸い取られ、モーターの力で強制的に再び噴水となって吹き上げられた。吹き上げられた水は次々と、また新たな虹を作り続ける。一瞬ごとに、新たな虹を。
 (永久機関……あ、そうか。魂万年筆論か)
 巌志は思った。
 終わることのない命のループ。噴水。
 (そういえば、万年筆ってたしか英語で……)
 巌志は缶コーヒーを一口飲みながら、先日話した時の、いくぶんしわの増えた父の顔を思い出した。
 バスロータリーと車道を挟んだ向かいの歩道を、拡声器を持った男がゆっくり歩いていた。
 神はいつでも救いの手を差し伸べている。それに気づくかどうかはあなた次第だ、といった内容のことを、平坦な口調で語っている。
 が、拡声器の音は極端に割れていて、そのほとんどが巌志には聞き取れなかった。抑揚のない拡声器の声は遠のき、巌志は煙草に火を点けた。
 その日もジッポライターは快調に仕事をした。
 空は目に染みるほど青く、晴れあがっていた。雲はどこにも見えなかった。
 煙を吐き出した巌志はもう一つ、あの夜父の言った言葉を思い出した。
 その言葉を反芻し、ベンチから立ち上がった。
「晴れの日も、雨の日も。グッドタイムス・バッドタイムス――」


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