(エピソード-4) 花のことば
文字数 1,346文字
アイは……、あたたかな光と、なんともいい匂いのする風にゆすられて目を覚ましました。
まぶたを開くと、目の前に、いままさにふくらみはじめた蕾みが、すてきなうたを唄いながらうす紅色の花弁 を開いているところでした。
アイは――、
おどろきとも、よろこびともつかない不思議な気持ちでその光景を見つめました。
つぎにアイを見つけたのは小鳥でした。
長い冬のあいだをまちわびた小鳥たちは、ひらいたばかりの花をめぐり、蜜を求めて飛びまわっておりました。
なかでもおませなメジロは、
葉っぱのかげにかくれていた色鮮やかなアイを見逃すことはありませんでした。
メジロは、だれにも気づかれないようにアイを拾いあげ、
もう片方の爪の先にこすりつけて――、
「キゃー~、かわいい! ……かな?」
メジロは、
そのあまりの鮮やかさに、
思わずアイを放り投げてなかまのところへ飛んでいってしまいました。
……と、そのときアイは、
自分のからだが二つに分かれてゆくのを感じました。
放り投げられたアイは、強風にまき上げられて高い空へと舞いあがり――、
もう片方のアイは、メジロの爪の先にくっついたまま、なかまとのにぎやかなお喋りに耳をかたむけておりました。
するとそこへ、人間の親子がうたを唄いながらやってきました。
♪♪
蜜によばれて小鳥たち
人のことなど花のそと
ひらいたばかりの花をより
枝から枝へと人のまえ
花にかくれたつもりでいたら
かよわき命のぬくもりは
この掌のなかへ舞いこんで
綿毛をぷるるとふるわせた
春によばれて花のなか
ふしぎなつぼみ、にぎってた
♪♪
「ねぇ、ねぇー、おかあさん。
お花ってどうして綺麗なの?」
「それはねー、春になってあたたかくなって、
お日様とおはなしができて、うれしいうれしいって、笑っているからよ。……きっと、」
そんな、人間のはなしを聴いていたアイは、目の前に、いま開いたばかりの花弁 に訊ねてみました。
「お花さん……。
お花さんはどうしてそんなにキレイなんですか?
どうすれば、そんなに綺麗になれるんですか?」
サクラの花は、アイのほうに顔を向けると、
「……坊や、
わたしはただ、小鳥や虫たちに、わたしの中からあふれるものを分けているだけ。
わたしたちは、あたたかなお日さまに呼ばれ、まぶたをひらいて大好きなうたを唄うの。
そして眠たくなったら、また枝をはなれて、土の中に還ってゆくのよ。
どうして綺麗かって?
それはきっと……、
それが蜜の味だから。」
アイは、この花弁のことばに、
ドキリッと、胸を突かれたような痛みを覚えました。
それはアイが、
自分のことばかりに悩んでいる。
……と、そっと教えてくれたからでした。
そこでアイは考えました。
『そうだ!
ボクはこれから、いろんなお花をたくさん描いて、うんとうんと上手になって、
そして……、このお花を描いて、見せてあげよう。
そしたら、このお花さんにもきっと喜んでもらえるに違いない!
そうだ、ボクは、みんなに喜んでもらえる絵を描こう!』
まぶたを開くと、目の前に、いままさにふくらみはじめた蕾みが、すてきなうたを唄いながらうす紅色の
アイは――、
おどろきとも、よろこびともつかない不思議な気持ちでその光景を見つめました。
つぎにアイを見つけたのは小鳥でした。
長い冬のあいだをまちわびた小鳥たちは、ひらいたばかりの花をめぐり、蜜を求めて飛びまわっておりました。
なかでもおませなメジロは、
葉っぱのかげにかくれていた色鮮やかなアイを見逃すことはありませんでした。
メジロは、だれにも気づかれないようにアイを拾いあげ、
もう片方の爪の先にこすりつけて――、
「キゃー~、かわいい! ……かな?」
メジロは、
そのあまりの鮮やかさに、
思わずアイを放り投げてなかまのところへ飛んでいってしまいました。
……と、そのときアイは、
自分のからだが二つに分かれてゆくのを感じました。
放り投げられたアイは、強風にまき上げられて高い空へと舞いあがり――、
もう片方のアイは、メジロの爪の先にくっついたまま、なかまとのにぎやかなお喋りに耳をかたむけておりました。
するとそこへ、人間の親子がうたを唄いながらやってきました。
♪♪
蜜によばれて小鳥たち
人のことなど花のそと
ひらいたばかりの花をより
枝から枝へと人のまえ
花にかくれたつもりでいたら
かよわき命のぬくもりは
この掌のなかへ舞いこんで
綿毛をぷるるとふるわせた
春によばれて花のなか
ふしぎなつぼみ、にぎってた
♪♪
「ねぇ、ねぇー、おかあさん。
お花ってどうして綺麗なの?」
「それはねー、春になってあたたかくなって、
お日様とおはなしができて、うれしいうれしいって、笑っているからよ。……きっと、」
そんな、人間のはなしを聴いていたアイは、目の前に、いま開いたばかりの
「お花さん……。
お花さんはどうしてそんなにキレイなんですか?
どうすれば、そんなに綺麗になれるんですか?」
サクラの花は、アイのほうに顔を向けると、
「……坊や、
わたしはただ、小鳥や虫たちに、わたしの中からあふれるものを分けているだけ。
わたしたちは、あたたかなお日さまに呼ばれ、まぶたをひらいて大好きなうたを唄うの。
そして眠たくなったら、また枝をはなれて、土の中に還ってゆくのよ。
どうして綺麗かって?
それはきっと……、
それが蜜の味だから。」
アイは、この花弁のことばに、
ドキリッと、胸を突かれたような痛みを覚えました。
それはアイが、
自分のことばかりに悩んでいる。
……と、そっと教えてくれたからでした。
そこでアイは考えました。
『そうだ!
ボクはこれから、いろんなお花をたくさん描いて、うんとうんと上手になって、
そして……、このお花を描いて、見せてあげよう。
そしたら、このお花さんにもきっと喜んでもらえるに違いない!
そうだ、ボクは、みんなに喜んでもらえる絵を描こう!』