第10話    居場所

文字数 722文字

なんとか周囲を見渡せる場所に出て途方に暮れた。

まるで遊園地の迷路を上から見下ろしたような風景だが、もっと雑然として地平線まで続いている。

どのようにしてこのようなところに迷い込んだのかは分からないがここを出て行くのは何らかの交通機関を用いなければ困難だと思える。

ところがこの都市(ここに昇って初めて都市だと認識した)にその様な交通機関など見当たらない。

それどころか都市としてのインフラがどうなっているのか想像も出来ない。

とりあえず、ここで、これからどうするのかの方針を立てなければならないところだ。

とりあえずまた、階段を降り今いける場所である、弦楽器の奏者の店に行くことにした。

いまのところ他に何処へ行けばよいのか思い当たらない。

迷ったあげくではあるけれど運良く辿り着くと既に夕刻になっていた。

弦楽器の奏者はまるで帰ってくるのが当然だったような周到さで夕食の用意をしていた。

エスニックともなんとも言いようのない食事をしながら弦楽器の奏者の名前を聞いたが発音も表記も出来ない。

この都市の所在や交通機関の事を聞いてみたが、なにか分けの分からない話で理解できない。

しかも僕に対してどこから来たのか、何者なのかという問いかけすらなく、まるで、ここにいるのが当たり前といった様子なのだ。

弦楽器の奏者は殆ど話をしない。問いかけに対して給仕が彼女の様子を伺いながら代わりに答え、たまに、「そう」とか「それから」といって彼女が注釈を入れるぐらいだ。

姉妹の様でもあるが全然似ていない。

すっかり自分の部屋みたいに用意された窓のない部屋。

出られないのだからしょうがないというあきらめと言い訳ができる安堵感。

しかし、ここから出たとき、この状況を誰が信じてくれるだろうか。




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