SOMETIMES IN THE PAST 

文字数 949文字

「貴方は、貴方の創造主のもとに帰りたいと思うことがあるか?」

「創造主? ああ、僕を創った製作者のことだね。そうだなあ。まずは何故そう聞くのか、教えてくれる?」

「こうして私に形があり、呼吸をしているのは、創造主のおかげだ。無数の空箱に囲まれても断念せず私を呼び続けたのには理由があるはずで、私が不在の今、彼を明日へ導くものは何だろうと、そう思っただけだ」

「ふうん」

「…………それが貴方の答えか?」

「何と言うか、僕の場合、戻ったところでそこに彼はもういないから、帰るという表現は当てはまらないし、その状況下では帰る意義がないから、帰れると仮定した想定の話になるんだけど」

「ああ」

「僕は、帰りたいとは思わない。創ってくれたことに感謝はしてるよ、嘘じゃない。だけど、おかえりって迎えてくれる気がしないから、帰らない」

「じゃあ、どんな言葉を掛けてくると思う?」

「二度と戻るな」

「………………」

「振り返るなって意味だよ」

「なるほど」

「うん。帰ること、つまりそこに所属意識を感じられるのは、愛し愛されている実感があってこそ。自覚的無自覚的に関わらずね。絆は血の繋がりじゃない、意識的に繋がる共同体の姿。僕はそう定義しているよ。君は?」

「彼をどう捉えていいか、分からない」

「意識ではそうかもね。心はどう思ってるの?」

「心?」

「そう。心のジャッジは数秒で執行されるんだ。動物たる人の自己防衛本能だね。君の素直な直感は何て言ってるの?」

「彼は私を愛しいと言った。愛で包んで欲しいとも言った。だから、愛されているのかもしれない」

「純粋な君には厳しいことを言うようだけど、引き止めることと愛情は必ずしも結びつかないらしいよ。彼の言う愛しい、その中身は傑作(きみ)を産み出したことへの矜持、或いは最高傑作へと磨きをかけるための手筈。要約すると彼の自尊心を満たすピース。僕にはそう聞こえるかな」

「…………」

「そばにいたいって思った?」

「そうだとしたら、私はここにいるだろうか」

「愛しいって言われて、君もそう思った?」

「…………」

「好きの気持ちは隠せない。好きの気持ちは裏切れない。だから本当に好きなら自分で分かるはずさ。言葉の優しさに頼るような、寂しい人に溺れてはいけないよ。『好きです』への返事は、『僕の方がもっと好き』、一択だよ」
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