第13話

文字数 777文字

未だ陽は傾きかけた所で車はアスファルトのほこりを舞いあげて行き交う。

T市駅前の交差点で信号待ちの為に彼女は車を止めた。

僕は歩道を歩いているあの絵を描いた女の子を見かけたような気がした。

けれども直に雑踏の中に姿を見失った。

見かけたところで、あるいは話しをしたところでなにも変わらない。

女の子に関心があるのではなくあの絵に関心があるのだから。

N市のホテルに到着する。

ホテルは海岸にあり砂浜に打ち寄せる波の音が聞こえる。

ガラス窓閉めると部屋は外からは隔離された様に音のない空間になる。

陽が水平線に近いところまで降りてきている。

何も変わらない。

何も起こらない。

今日と同じ日が明日も来る。

だけど今は感じないけれど確実に時間は過ぎて行く。


細い路地が入り組んだ古い街並みは城下町の名残りなのだろう。

山城だったであろう城跡からうねる様に作られたメインの道の両側には土産物屋や飲食店が並んでいる。

坂道を下り切るとホテルのある海岸まではそう遠くはない。
やや大きな通りのあるところまで来ると城下町っぽさはなくなり近代的なビルなどが立ち並んでいる。

道路をはさんだ向かい側の民芸品などお土産を並べた店の前にあの女の子の姿を見つける。

つい反射的に交差点に飛び出してしまう。

甲高いブレーキ音があって背中に鈍い衝撃を受けた。

僕の体は空中をくるりととんぼがえりをうって頭から車のフロントグラスに衝突した。

ボンネットを滑ってアスファルトに落ちた。

手足は痙攣を起したように震えている。

首筋や背中にぬるぬるしたものが流れてきて気持ちが悪い。

狭い視野の中で青い顔をした彼女が何か言っているが聞こえない。

視野が徐々に狭く暗くなって行く。

急速な墜落感がある。

電子音のような耳なりが激しく続いている。

五感を失った僕は世界を認識することが出来なくなる。

僕を中心とした僕の世界は僕に内包されたまま消滅した。
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