第二十話 一件落着、そして舐められる
文字数 1,633文字
「ごめんなさい……」
僕とメリィが見守る前で、グレーテルはエレンに頭を下げた。
「僕に免じて、グレーテルの事、許してくれないかな?」
「わたくしからも、お願いします! ――……陛下?」
しばし瞑想するように目を閉じていたエレンは、
「……許すも何も、こ こ に 【地 掘 種 】はい な い 。当事者でもない余が、そこの龍を許す事はできん」
「それじゃあ……!」
グレーテル、それにメリィの顔がぱあっと明るくなる。
「勘違いするな! 貴様に謝ってほしい事は他にある……部屋を荒らした件についてだ」
エレンが魔法で片づけた部屋は、コーネリアさんに斬られパニックに陥ったグレーテルが散らかした。
その件について、エレンはまだグレーテルから正式な謝罪を受けてはいなかった。
「ごめんなさい……なの」
「貴様を攻撃したあの近衛隊長にも、後で謝罪するよう、余の方から言っておこう。これから忙しくなるだろうが、必ず行かせる」
「――‶行かせる〟?」
「龍は死なずとも、シューの大事な家族を斬った女だ。ミレニアシルの名に懸けて、必ず……だ」
「ありがとうなの! えれん!」
「こら、ひっつくなぁああああ~!」
ぎゅっと強く抱き締め全身全霊で感謝してくるグレーテルに顔を舐められつつも、顔を赤らめるエレンはまんざらでもなさそうにしていた。
紫色の長い舌が蛭のように這い、エレンの頬、うなじ、そして耳の裏をてらてらと唾液で濡らしていく。
「えれんから出てる魔力、甘くて……森の味がするのぉ。【森棲種 】の血のせい?」
「どこ舐めて……ひゃうっ!?」
舌といっしょに息を吹きかけられたエレンの身が、陸に打ち上げられた魚のように跳ねた。【精霊回路】から魔力を吸われたせいか、小刻みに震えるエレンの足腰が徐々に覚束なくなって、吐息を吐く姿は、怪しい薬を盛られたみたいになっていた。
「もぉ……ひゃめれぇ……」
呂律が回らなくなるエレンとは対照的に魔力を回復させたグレーテルは、リザードンのような姿から、再び、少女の姿形を取りはじめた。エレンの魔力を多く摂取した影響か、垂らした髪は金色で顔立ちにはエレンの面影があった。
「もっと、もっと……もっと」
そしてグレーテルはエレンをぺろぺろしながら、静かに告白する。
「実は、この前、屋敷にえれんが来た時。グレーテル……えれんを殺すつもりだったの。ぱーぱのせいで邪魔されちゃったけど」
あの時、エレンを見つけたのはじゃれようとしたのではないと。ものすごいカミングアウトだったが、話に集中して聴ける気力は、今のエレンには残っておらず、唾液に洗い流されていた。
「だけど――よかったの。あの時殺さなくて。グレーテル、もっと……えれんとなかよし
になりたいの」
エレンは、グレーテルを受け入れるしかなかった……。
「あの、旦那さま……これは」
「うん……」
皆まで言おうと、だが躊躇うメリィに、僕も同意する。
グレーテルは、すっかりエレンの〝味〟に病みつきだった。
女王という立場からグレーテルを救った――その恩返しが〝これ〟とは。雨にでも降られたようにエレンの身体はグレーテルに隅々まで調べられ色んな場所、というか……部位がびちょびちょだった。
「魔力を吸い取りながら、少女の姿で迫るドラゴン! 一方嫌がりつつも、ドラゴン娘に身を委ねるしかないロリ女王! 長い舌が、糸を引く唾が、赤い糸となってふたりの絆を深めていく。触手ともまた違う、この圧倒的背徳感。だが――二人のやり取りが微笑ましく見えてしまうのはなぜだろう! アタシは今、ノーベル賞はじまって以来の歴史的瞬間に立ち会っている――否。彼女達がラノベ界の未来を切り拓くダイナマイトだ!!」
たったひとり。小説家も顔負けな表現力を叫びながら、興奮したさと姉は歴史的瞬間とやらを収めようと、構えたカメラのスイッチを連打、連打……連打し続けた。
高性能カメラの閃光が、エレンとグレーテル。
地面の窪みを目で数え、煩悩を消そうしていた僕、メリィを写し出したのだった。
僕とメリィが見守る前で、グレーテルはエレンに頭を下げた。
「僕に免じて、グレーテルの事、許してくれないかな?」
「わたくしからも、お願いします! ――……陛下?」
しばし瞑想するように目を閉じていたエレンは、
「……許すも何も、
「それじゃあ……!」
グレーテル、それにメリィの顔がぱあっと明るくなる。
「勘違いするな! 貴様に謝ってほしい事は他にある……部屋を荒らした件についてだ」
エレンが魔法で片づけた部屋は、コーネリアさんに斬られパニックに陥ったグレーテルが散らかした。
その件について、エレンはまだグレーテルから正式な謝罪を受けてはいなかった。
「ごめんなさい……なの」
「貴様を攻撃したあの近衛隊長にも、後で謝罪するよう、余の方から言っておこう。これから忙しくなるだろうが、必ず行かせる」
「――‶行かせる〟?」
「龍は死なずとも、シューの大事な家族を斬った女だ。ミレニアシルの名に懸けて、必ず……だ」
「ありがとうなの! えれん!」
「こら、ひっつくなぁああああ~!」
ぎゅっと強く抱き締め全身全霊で感謝してくるグレーテルに顔を舐められつつも、顔を赤らめるエレンはまんざらでもなさそうにしていた。
紫色の長い舌が蛭のように這い、エレンの頬、うなじ、そして耳の裏をてらてらと唾液で濡らしていく。
「えれんから出てる魔力、甘くて……森の味がするのぉ。【
「どこ舐めて……ひゃうっ!?」
舌といっしょに息を吹きかけられたエレンの身が、陸に打ち上げられた魚のように跳ねた。【精霊回路】から魔力を吸われたせいか、小刻みに震えるエレンの足腰が徐々に覚束なくなって、吐息を吐く姿は、怪しい薬を盛られたみたいになっていた。
「もぉ……ひゃめれぇ……」
呂律が回らなくなるエレンとは対照的に魔力を回復させたグレーテルは、リザードンのような姿から、再び、少女の姿形を取りはじめた。エレンの魔力を多く摂取した影響か、垂らした髪は金色で顔立ちにはエレンの面影があった。
「もっと、もっと……もっと」
そしてグレーテルはエレンをぺろぺろしながら、静かに告白する。
「実は、この前、屋敷にえれんが来た時。グレーテル……えれんを殺すつもりだったの。ぱーぱのせいで邪魔されちゃったけど」
あの時、エレンを見つけたのはじゃれようとしたのではないと。ものすごいカミングアウトだったが、話に集中して聴ける気力は、今のエレンには残っておらず、唾液に洗い流されていた。
「だけど――よかったの。あの時殺さなくて。グレーテル、もっと……えれんとなかよし
になりたいの」
エレンは、グレーテルを受け入れるしかなかった……。
「あの、旦那さま……これは」
「うん……」
皆まで言おうと、だが躊躇うメリィに、僕も同意する。
グレーテルは、すっかりエレンの〝味〟に病みつきだった。
女王という立場からグレーテルを救った――その恩返しが〝これ〟とは。雨にでも降られたようにエレンの身体はグレーテルに隅々まで調べられ色んな場所、というか……部位がびちょびちょだった。
「魔力を吸い取りながら、少女の姿で迫るドラゴン! 一方嫌がりつつも、ドラゴン娘に身を委ねるしかないロリ女王! 長い舌が、糸を引く唾が、赤い糸となってふたりの絆を深めていく。触手ともまた違う、この圧倒的背徳感。だが――二人のやり取りが微笑ましく見えてしまうのはなぜだろう! アタシは今、ノーベル賞はじまって以来の歴史的瞬間に立ち会っている――否。彼女達がラノベ界の未来を切り拓くダイナマイトだ!!」
たったひとり。小説家も顔負けな表現力を叫びながら、興奮したさと姉は歴史的瞬間とやらを収めようと、構えたカメラのスイッチを連打、連打……連打し続けた。
高性能カメラの閃光が、エレンとグレーテル。
地面の窪みを目で数え、煩悩を消そうしていた僕、メリィを写し出したのだった。