第14話

文字数 1,265文字

「令和の浦島太郎物語」(広島県福山市バージョン)第14話。

乙彦は、ゆっくりと体を起こすとポツリと呟いた。
「すみません。 あなたを傷つけるつもりはなかったのです。 だって私はダメな出来損ないの亀ですから。 あなたが私を憎む事はあっても、あなたがわたしを愛する事など決してないと、分かっていましたから…。」
乙彦は、うつ向くと悲しそうな表情で呟いた。
「私の父浦島太郎と、母の乙姫は、私のせいで死んだのです。
私が二人を殺したのです。
私が母のお腹に宿ったばっかりに、母は死ななければならなくなり、父は永遠に死ぬことも生きる事も叶わず、ずっと1000年以上時空をさ迷う羽目になりました。
私が大海神になる権利も、愛される権利も、本当はないのです。」
乙彦の頬を涙が伝う。
乙彦の涙は、真珠の様にキラキラと輝いて落ちた。

「あなたは、浦島太郎の伝説をご存知ですか?」
乙彦の言葉に、私は頷いた。
「では、これから私があなたに、浦島太郎の物語をお話ししましょう。」

昔むかし、あるところに、浦島太郎と言う少年がいました。
少年は、14歳の美少年でした。
太郎は、大変な美少年でありながら、決して嫁を迎えようとはせず、一人で海に出ては魚を捕まえて、町で売る生活をしていました。

太郎には、病気の母がいましたが、父は太郎が生まれる前に海で死んでしまいました。

太郎は、生まれた時から母により大切に育てられましたが、母は太郎が10歳の時に無理が祟り、すっかり体を悪くしてしまいました。

太郎の母は、14で結婚し、15の時に太郎を身籠りましたが、太郎の父はまだ17歳の若さで、波に飲まれて消えてしまいました。

太郎は、今日も魚を取りに海に出ました。
今日は波が荒い。
太郎以外は誰も海に出てはいません。
しかし、太郎はどうしても大物を捕まえて、母親に良い薬を買いたかったのです。
そんな太郎を、乙姫はずっと見てきました。
太郎が生まれる前に、太郎の父が海で死んだときも、母親がたった一人で太郎を生んだ時も、母親が体調を崩したまま、ずっとよくならない事も。
ずっと、ずっと見ていました。

気づけば太郎は14歳。
嫁を迎える年頃になり、その美しさは村中の噂になっていました。

乙姫は、ずっと太郎を見ているうちに、これが恋心だと気がついてしまいました。
「太郎をもっと見たい。近くで見たい。
太郎の側に行きたい。」

乙姫は亀の姿に化けると太郎の船に近づいて行きました。
しかし、荒れた波の悪戯か、太郎の釣竿の針が乙姫の甲羅の隙間に引っ掛かってしまいました。

「これは凄い引きが強い!
大物にちがいない!」
太郎はそのまま乙姫を吊り上げてしまいました。
「なんと!これは、珍しい亀じゃ!
金色に輝き、甲羅から流れるような金色の髭の様な尻尾が生えとる!
これは、神の使いか? 売れば高いじゃろうが…。 神の使いを売れば、祟りがあるかもしれん。」

浦島は、乙姫を逃がそうと針を抜こうとしました。

しかし
「大変じゃ! 高波じゃ! 海に近づいてはいけん! 早う高いところに避難じゃ!」

その言葉の矢先、高波が船を飲み込んだのでした。
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