第11話

文字数 1,330文字

「令和の浦島太郎物語」(広島県福山市バージョン)第11話。

中国の皇帝の衣装を身につけた、ゾッとするほど美しい美青年が、女の私に股ぐらを蹴られて、踞る格好は滑稽以外の何者でもなかった。

私はその美青年、乙彦に向かって思いっきり怒りをぶちまけた。
「ホンマ、男っちゅう生き物は本能のままのケダモノ…グズばかりじゃな!
女を子を作る道具にしか考えとらんのじゃけぇな!
じゃが、男は自分が飽きたり、子供が自分の都合に合わんとすぐに妻子共々捨てるんじゃろ?
それで、女と子供が…。
母さんとうちがどれだけ苦しんだか、お前に分かるか!?
しかも、愛はいらんじゃと?
寝言も大概にしんさいや!
この、クズ亀野郎が!」

私が声をあらげて叫ぶと、乙彦は顔を上げて、キッと私を睨み付けた。
青い目は金色に変わり、真っ白な肌には、うっすらと鱗が浮かび上がった。
床についた手から金色の光か放たれ、金色の長い爪が現れる。
凄まじい力に、床が波打ちはじめる。

「お前は、何も分かってはおらぬ。
お前はもう死んでいる。
ここは、この世とあの世を繋ぐ黄泉の国。
水害で死んだ者の中で、選ばれた者だけが入れる黄泉の世界。
選ばれし者は、100年から数百年に一人この竜宮城に入れた者だけが許される、神(乙彦)との交わり。
人間と神の交わりにより、乙彦(神)は大海神となり、瀬戸内海を一層強い力で守る事が出来る。
そして、死者はその力を一度だけ使い、甦ること機会が与えられる。

しかし、その神の我に対してこの仕打ちか!」

豪華な古代衣装がバリっと破れ、背中に金の甲羅がメキメキとはえてきた。
真っ白な肌に浮かぶ金の鱗も金色に変わった目も、黄金の腕と、黄金の長い爪。
長い黒髪も金色に変わり、神の姿を露にした乙彦は、怖いと言うよりも一層美しかった。

「うちは、死にたかったんじゃ!
甦った所で何になる?
母さんは、うちがいたら、ずっと不幸なままじゃ! じゃけ…」

すると乙彦は、波打つ床を金色の爪で突き刺した。
すると床は水の鏡になり、あの日の豪雨の翌日の光景を写し出した。
さらに、ニュースの報道が混じる。

「広島県福山市の未曾有の大水害の翌日、すでに死者は100人を超え、行方不明者は200人以上と言われており…5年前の広島県小屋浦、呉地方の大水害、104人の死者を上回り…広島県では…」

さらに乙彦はまた床を突き刺す。
「ここはどこか分かるか? あのスーパーだ。 跡形もなく土砂で潰れておるわ。
お前はこの土砂の下にいるが、もはや魂の受け皿にすらならぬ姿よ。
バラバラに飛び散った肉塊に過ぎぬ。
永遠に見つかることはなかろう。」

血の気が引く。
私は死んでいるとは思っていた。
しかし、死体すら残らないほどの死に様とは。
母さんが見たらどう思うだろう。

「さらに、お前の母の事を知りたくはないか? ほれ」
そのまま床の水の鏡に写った光景に、私は思わず目を反らせた。

「あの平屋は瓦礫の山。 土砂で潰れておるわ。 お前の母の姿もまた、お前と変わらぬ肉塊。 何なら、肉の塊でも見せてやろうか?」
「止めて…。見とうない…。見とうない! 嫌じゃぁー!」

私はたまらず逃げ出した。
その時、後ろで乙彦がドサッと崩れ落ちる音がした。

しかし、私は振り替えることも出来ず、部屋を飛び出した。
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