クリスマス・タイム
文字数 1,686文字
世は師走。二十五日。
キンとした冷たい空気が広がり、けれども聖夜の飾り付けで彩られた地方都市のとある街中。
特に予定も無く、友達と電話をしながらぶらぶらと歩き回る暇人は私である。
「ケーキ」
『チキン』
「オードブル」
『プレゼント』
「靴下」
『ツリー』
クリスマスと言えば何だと思う?という問い掛けがどちらからともなく飛び出し、古今東西ゲームみたいなやり取りをしていた。
この意味の無さが何となく面白い。無駄な会話は意外と心を豊かにし、交友を深めると思う。
バックグラウンドミュージックでジングルベルな曲が響いているのも、イベント性があって良い。
「サンタクロース」
『あー!お前一番良いの言いやがっ』
「はい、アウト」
次遊ぶ時、ジュースを奢って貰える事が確定した喜びで左手をぐっと握る。
スマホの向こうでぎゃーぎゃーと抗議の声を上げている友達をあえて無視し、足をデパートへと進めていく。目当ては一階にある、巨大クリスマスツリー。ぎらぎらに輝くオーナメントやライト、そしててっぺんの大きな銀の星を眺めながらクリスマス限定クレープを食べる予定だ。
『つーか、お前今一人なの?』
「一緒に居る人間がいてこのやり取りしてたら問題だわ」
この一時間ずっと会話し通しで実は一人じゃありませんでしたなんて言われたら、私だったらそっちと話せと迷わず通話を切る。そのくらいの常識は持ち合わせているからどうか安心して欲しい。
『何、後ろうるせーけど何処居んの』
「今駅前の商店街出たとこ。これからデパート行く」
ジングルベルが響き、人が混み合う商店街から離れていくも、クリスマスの魔法にかかった街は何処でも賑やかになっている。
いつも静かなカフェ通りもあちこちに装飾が施されていて、…なんと今すれ違った宅配の人はサンタクロースの帽子を被っていた。
大きな段ボールを持ちながら何処かへ早足で歩いていく後ろ姿をチラチラ見る。配達お疲れ様です。
『デパートって…ああ、お前あれか。でかいツリー』
「うん。今日クレープ屋でクリスマス限定クレープが出るからそれも」
『思いっきり満喫してんな』
友達の軽い笑い声が耳を通る。そこで不意に、ちらりと白いものが目の前を舞い降りていった。
空を見上げれば、それは次から次へとゆっくり降り注いでくる。どうやら雪が降り始めたようだ。
「…雪降ってきた」
『マジか。ホワイトクリスマスか』
「そっちは降ってないの?」
『んー、…まだ曇り空』
折角のホワイトクリスマスの共有は、どうやらまだ出来ないらしい。
少し残念に思うも、そのまま舞降る雪を黙って眺める。とても、綺麗で。白い雪が、まるで本当に魔法の現れのようだと感じた。
「ねえ、綺麗だよ」
『そうかよ』
素っ気ない返事だけれど、電話を切らないで居てくれるこの友達は、とてもいい奴だ。
だから今日というクリスマスにずっと話をしたくなったのかも知れない。
この魔法の日に、せめて声だけでも一緒に。
『…じゃあお前、こっち来いよ』
「…うん」
せめて声だけでも。
一緒に居たかった。
「……何処居んだよ、お前は」
魔法が消えたように、静かに切れた通話。
机の上の写真立てを見ながら、文句を言う。
そこには二年前のクリスマスに病気で他界した、女友達の底抜けに明るい笑顔が在った。
…ただの気紛れのようなものだった。スマホを手に、キーパッドであいつの番号を打ち込んでみたら、何故か繋がり。
何事も無かったかのようにあいつが出た。
久し振りの、意味の無いやり取り。
何でもない暇人同士の会話。
楽しかった。時が止まったような心の中が一気に蘇ったようだった。
(でも、また言えないままだった)
あまりに楽しくて。
何処かのホワイトクリスマスに生きているお前に、好きだと伝えられなかった。
けれど、もう良い。
また、お前の声が聞けた。
きっと今頃は、デパートの中ででかいツリーを眺めながら限定クレープを頬張っているんだろう。
(どうかそのまま、幸せでいろよ)
墓に供えてやるから、と。
放りっぱなしだった上着を手に取り、奢る為のジュースを買いに行くべく、部屋を出た。
これは、クリスマスの小さな奇跡の話。
世界と世界が繋がった、ひとときの贈り物の。
キンとした冷たい空気が広がり、けれども聖夜の飾り付けで彩られた地方都市のとある街中。
特に予定も無く、友達と電話をしながらぶらぶらと歩き回る暇人は私である。
「ケーキ」
『チキン』
「オードブル」
『プレゼント』
「靴下」
『ツリー』
クリスマスと言えば何だと思う?という問い掛けがどちらからともなく飛び出し、古今東西ゲームみたいなやり取りをしていた。
この意味の無さが何となく面白い。無駄な会話は意外と心を豊かにし、交友を深めると思う。
バックグラウンドミュージックでジングルベルな曲が響いているのも、イベント性があって良い。
「サンタクロース」
『あー!お前一番良いの言いやがっ』
「はい、アウト」
次遊ぶ時、ジュースを奢って貰える事が確定した喜びで左手をぐっと握る。
スマホの向こうでぎゃーぎゃーと抗議の声を上げている友達をあえて無視し、足をデパートへと進めていく。目当ては一階にある、巨大クリスマスツリー。ぎらぎらに輝くオーナメントやライト、そしててっぺんの大きな銀の星を眺めながらクリスマス限定クレープを食べる予定だ。
『つーか、お前今一人なの?』
「一緒に居る人間がいてこのやり取りしてたら問題だわ」
この一時間ずっと会話し通しで実は一人じゃありませんでしたなんて言われたら、私だったらそっちと話せと迷わず通話を切る。そのくらいの常識は持ち合わせているからどうか安心して欲しい。
『何、後ろうるせーけど何処居んの』
「今駅前の商店街出たとこ。これからデパート行く」
ジングルベルが響き、人が混み合う商店街から離れていくも、クリスマスの魔法にかかった街は何処でも賑やかになっている。
いつも静かなカフェ通りもあちこちに装飾が施されていて、…なんと今すれ違った宅配の人はサンタクロースの帽子を被っていた。
大きな段ボールを持ちながら何処かへ早足で歩いていく後ろ姿をチラチラ見る。配達お疲れ様です。
『デパートって…ああ、お前あれか。でかいツリー』
「うん。今日クレープ屋でクリスマス限定クレープが出るからそれも」
『思いっきり満喫してんな』
友達の軽い笑い声が耳を通る。そこで不意に、ちらりと白いものが目の前を舞い降りていった。
空を見上げれば、それは次から次へとゆっくり降り注いでくる。どうやら雪が降り始めたようだ。
「…雪降ってきた」
『マジか。ホワイトクリスマスか』
「そっちは降ってないの?」
『んー、…まだ曇り空』
折角のホワイトクリスマスの共有は、どうやらまだ出来ないらしい。
少し残念に思うも、そのまま舞降る雪を黙って眺める。とても、綺麗で。白い雪が、まるで本当に魔法の現れのようだと感じた。
「ねえ、綺麗だよ」
『そうかよ』
素っ気ない返事だけれど、電話を切らないで居てくれるこの友達は、とてもいい奴だ。
だから今日というクリスマスにずっと話をしたくなったのかも知れない。
この魔法の日に、せめて声だけでも一緒に。
『…じゃあお前、こっち来いよ』
「…うん」
せめて声だけでも。
一緒に居たかった。
「……何処居んだよ、お前は」
魔法が消えたように、静かに切れた通話。
机の上の写真立てを見ながら、文句を言う。
そこには二年前のクリスマスに病気で他界した、女友達の底抜けに明るい笑顔が在った。
…ただの気紛れのようなものだった。スマホを手に、キーパッドであいつの番号を打ち込んでみたら、何故か繋がり。
何事も無かったかのようにあいつが出た。
久し振りの、意味の無いやり取り。
何でもない暇人同士の会話。
楽しかった。時が止まったような心の中が一気に蘇ったようだった。
(でも、また言えないままだった)
あまりに楽しくて。
何処かのホワイトクリスマスに生きているお前に、好きだと伝えられなかった。
けれど、もう良い。
また、お前の声が聞けた。
きっと今頃は、デパートの中ででかいツリーを眺めながら限定クレープを頬張っているんだろう。
(どうかそのまま、幸せでいろよ)
墓に供えてやるから、と。
放りっぱなしだった上着を手に取り、奢る為のジュースを買いに行くべく、部屋を出た。
これは、クリスマスの小さな奇跡の話。
世界と世界が繋がった、ひとときの贈り物の。