第21話 おとうと、と(2)

文字数 625文字

 おとうとに、約束をしたものの何をどうしてよいか思案が
つかない。誰にも頼れない。相談もできない。

 お金がなくてはバスにも乗れない。まず軍資金の調達だ。
貯めに貯め込んだ竹の貯金箱より他に思案がなかった。納屋の隅で
そっと貯金箱を割った。胸にキユーウンときた。

 有り金を縞の巾着に入れ、枕元に置いて寝た。目はだんだんと冴えて
なかなか眠れなかった。町の三ツ合橋の近くに祖母の姪(春江おばさん)が
いることは知っていた。
 それは、就学して以来、辿々しい字で祖母の代筆をしていたから、番地まで
記憶にあったのだ。そこで、まず春江おばさんを訪ねようと考えた。

 翌日、早朝、そっと家を出た。
バスの始発は家の近くで、運転手はよく知っている坂本のおじさんである。
定員十人ぐらいの小さい木炭バスであった。

 戦中戦後は後ろに積んだ窯で木炭を燃やしガスを発生させて、そのガスの
噴射でエンジンを回転させ走行していたのだ。乗合バスと呼んでいて、馬力も
弱かった。炭を燃焼させるのに村の鍛冶屋さんのように何かで空気を送っていた
記憶がある。

 私は三ツ合橋の近くへ行くとおじさんに話した。
「それなら駅で降りずに車庫まで乗ってゆきな。その方が近いよ」とおじさんは
親切だったが、尋常でない姉弟の成行きを不思議な思いで見ていたことだろう。

  帰りのバスの時間を確かめて車を降りた。
メモは考えの及ばないことだったから、最終便の時間を脳に詰め込んだ。

 とりあえず三ツ合橋だ。三ツ合橋目指して歩き始めた。





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