第27話 悪党のうごめき
文字数 1,763文字
レスラーたちはNWEの飛躍を喜び、ファンはレスラーたちの躍動を喜ぶ。
アレックスの活躍はすべての人に幸福をもたらしたかに思われたが、例外がいた。オーフェンである。
時刻は午後10時。オーフェンの執務室からはニューヨークの夜景が一望できる。そこに集められた暗殺チームは、全員が直立不動で雇い主オーフェンの言葉を待っている。
「やれやれ困りましたね。ローカルではあるが、新聞記事にまでなってるじゃないですか。力づくで毛皮を奪うプランは見送りですね」
オーフェンが新聞をデスクに放り投げた。その新聞はニューヨークの地方紙であり、スポーツ面でアレックスの活躍を伝えている。小さいながらも写真まで掲載されており、あろうことかライオンの毛皮を被った状態で映っている。もはやアレックスは無名の若者ではない。オカルト王国の住人およびプロレスファンは彼と毛皮をよく知っている。アレックスが殺害された後、身の回りから毛皮が失われていれば一大事だ。オカルト好きが騒ぎ、警察は毛皮を奪うための犯行として捜査するだろう。
「すみませんミスターオーフェン、我々の力不足でした。ですがどうかもう一度チャンスをください。次こそは必ず毛皮を奪ってきます」
暗殺チームのリーダー、シーザーは深々と頭を下げた。
オーフェンはいいのだよ、と軽く手を振る。その顔は怒っているどころか笑顔であった。
「別に気にすることはない。神話の力が目覚めていたのだから、君たちが奪えなくて当然さ。というより、奪えてしまえば神話の力が疑わしくなる。それに私は今機嫌がいいんだ。君たちが素晴らしい情報をもたらしてくれたからね。さあ、君たちも見てごらん」
そう言ってオーフェンがパソコンを操作すると、先日、オーフェンの屋敷でアレックスと暗殺チームが争った様子が動画として再生された。屋敷内の防犯カメラに写っていたものだ。毛皮を被ったアレックスが暗殺チームを軽く蹴散らしている。
「確かにすごいパワーですね」
「そうじゃない。見るべきはここだよ、ここ」
オーフェンはそう言って映像を巻き戻し、画面を指さす。指し示したのはライオンの毛皮、ヘラクレスの口元だった。
「ここ……、ここだ。よく見てみたまえ。このライオンの毛皮、口を動かしているだろう。何か話したのだ。その直後、アレックスは毛皮の顔を見つめてやはり口を動かしている。つまり会話が発生したのだよ。このライオンの毛皮は意志を持ち、会話することが可能なのだ」
「はあ……、そうですね。そういえばあの時、毛皮が口をきいていたような気がしますね」
オーフェンは興奮した口ぶりだったが、シーザーは不思議だった。毛皮が言葉を話すのはすごいが、今更騒ぐほどのことだろうか。あの毛皮は身に着けるだけですごいパワーが身につく。走行中のベンツを正面からぶっ飛ばすそれを見た後では、そちらのほうが重大に思えてしまい、どうもインパクトに欠ける。
暗殺チームのほかの面々もそう思ったようで、
「へへ……、口をきくライオンがお好みなら、俺がトイザらスで買ってきてあげましょうか」
と軽口をたたく者がいた。
直後、オーフェンの持つ花から炎が噴き出し、軽口をたたいた者の前髪が焦げた。
「まさかこの素晴らしさを理解できない愚か者がいようとは。あの毛皮が言葉を話すということは、神々の持つ知識や、失われた太古の歴史を手に入れられるということだぞ。他の何を差し置いても手に入れる価値がある。軽々しい口をきくんじゃない」
「はい、どうもすみません。こいつらにはよく言って聞かせておきます」冷たく睨みつけられ、シーザーは身震いした。「しかし、それほどの一品なら見逃す手はありません。何とか策を練り、手に入れなくては」
「当然さ。新プランはすでに発動している」
「発動している、のですか? 我々暗殺チームは何も命じられていませんが……」
「さっきも言っただろう、力づくは見送りだと。私の本業であるビジネスで攻めているのさ。これなら奪うのではなく、アレックスのほうから毛皮を差し出すことになるだろう。今から楽しみだよ、毛皮をこの手にする日が」
オーフェンが高笑いするのを見て、シーザーの背筋が冷たくなった。人殺しも放火もいとわぬ者が行う『ビジネス』とはいったい何なのだろうか。恐るべきやり口に違いない。
アレックスの活躍はすべての人に幸福をもたらしたかに思われたが、例外がいた。オーフェンである。
時刻は午後10時。オーフェンの執務室からはニューヨークの夜景が一望できる。そこに集められた暗殺チームは、全員が直立不動で雇い主オーフェンの言葉を待っている。
「やれやれ困りましたね。ローカルではあるが、新聞記事にまでなってるじゃないですか。力づくで毛皮を奪うプランは見送りですね」
オーフェンが新聞をデスクに放り投げた。その新聞はニューヨークの地方紙であり、スポーツ面でアレックスの活躍を伝えている。小さいながらも写真まで掲載されており、あろうことかライオンの毛皮を被った状態で映っている。もはやアレックスは無名の若者ではない。オカルト王国の住人およびプロレスファンは彼と毛皮をよく知っている。アレックスが殺害された後、身の回りから毛皮が失われていれば一大事だ。オカルト好きが騒ぎ、警察は毛皮を奪うための犯行として捜査するだろう。
「すみませんミスターオーフェン、我々の力不足でした。ですがどうかもう一度チャンスをください。次こそは必ず毛皮を奪ってきます」
暗殺チームのリーダー、シーザーは深々と頭を下げた。
オーフェンはいいのだよ、と軽く手を振る。その顔は怒っているどころか笑顔であった。
「別に気にすることはない。神話の力が目覚めていたのだから、君たちが奪えなくて当然さ。というより、奪えてしまえば神話の力が疑わしくなる。それに私は今機嫌がいいんだ。君たちが素晴らしい情報をもたらしてくれたからね。さあ、君たちも見てごらん」
そう言ってオーフェンがパソコンを操作すると、先日、オーフェンの屋敷でアレックスと暗殺チームが争った様子が動画として再生された。屋敷内の防犯カメラに写っていたものだ。毛皮を被ったアレックスが暗殺チームを軽く蹴散らしている。
「確かにすごいパワーですね」
「そうじゃない。見るべきはここだよ、ここ」
オーフェンはそう言って映像を巻き戻し、画面を指さす。指し示したのはライオンの毛皮、ヘラクレスの口元だった。
「ここ……、ここだ。よく見てみたまえ。このライオンの毛皮、口を動かしているだろう。何か話したのだ。その直後、アレックスは毛皮の顔を見つめてやはり口を動かしている。つまり会話が発生したのだよ。このライオンの毛皮は意志を持ち、会話することが可能なのだ」
「はあ……、そうですね。そういえばあの時、毛皮が口をきいていたような気がしますね」
オーフェンは興奮した口ぶりだったが、シーザーは不思議だった。毛皮が言葉を話すのはすごいが、今更騒ぐほどのことだろうか。あの毛皮は身に着けるだけですごいパワーが身につく。走行中のベンツを正面からぶっ飛ばすそれを見た後では、そちらのほうが重大に思えてしまい、どうもインパクトに欠ける。
暗殺チームのほかの面々もそう思ったようで、
「へへ……、口をきくライオンがお好みなら、俺がトイザらスで買ってきてあげましょうか」
と軽口をたたく者がいた。
直後、オーフェンの持つ花から炎が噴き出し、軽口をたたいた者の前髪が焦げた。
「まさかこの素晴らしさを理解できない愚か者がいようとは。あの毛皮が言葉を話すということは、神々の持つ知識や、失われた太古の歴史を手に入れられるということだぞ。他の何を差し置いても手に入れる価値がある。軽々しい口をきくんじゃない」
「はい、どうもすみません。こいつらにはよく言って聞かせておきます」冷たく睨みつけられ、シーザーは身震いした。「しかし、それほどの一品なら見逃す手はありません。何とか策を練り、手に入れなくては」
「当然さ。新プランはすでに発動している」
「発動している、のですか? 我々暗殺チームは何も命じられていませんが……」
「さっきも言っただろう、力づくは見送りだと。私の本業であるビジネスで攻めているのさ。これなら奪うのではなく、アレックスのほうから毛皮を差し出すことになるだろう。今から楽しみだよ、毛皮をこの手にする日が」
オーフェンが高笑いするのを見て、シーザーの背筋が冷たくなった。人殺しも放火もいとわぬ者が行う『ビジネス』とはいったい何なのだろうか。恐るべきやり口に違いない。