1:みんな誰かによって代弁されている
文字数 1,693文字
これは、俺が大学生の頃の話。
俺は経済学部で、経済について学びつつ、やがて自分の手で会社を興そうと思っていた。
だから、大学に友達なんて求めていなかった。
俺は、こいつらとは違うという明確な意思を持っていた。
そう周りを蔑んでいなくては、大学に通う意味が見いだせなかったから。世界が俺を取り残して楽しんでいる孤独感に寂しくなり、大学構内に溢れる笑い声にも腹が立つ。
昔からこうして一人でいた。男とも女とも、親密な関係にはなれたことがなかった。距離感が分からず、気が付けば人は離れていく。
内心馬鹿にしていながらも実は友人関係なんかに憧れている。
大学なんか代弁してもらうのが一番だ。特にこんな全学部学科共通の講義は、単位数のためだけにある。どれだけ出席したかが大事なんだ。代弁を活用しろと暗示している。
真面目な人間が就活でも、単位の修得でも馬鹿をみるのだ。そう思いながら、落第が怖くて今日も真面目に講義に出る。
今日も世界は俺を残して回る。必要とされていない現実。
(ああ、早く必要とされたい……必要としてくれたら、俺のすべてを懸けてでもその人だけに尽くすのに)
(おい、講義中だというのに声を出すな、くそビッチが。声が聞こえんだろう。)
ってこの女に言いたいけど、言わない。変に注目を浴びたくない。
(いや、正確にはもう始まっているのだが……5分経ってるぞ。こうも雑然としていたら始まってないも同然か。出席も取っていないしな。)
あ、……いや、こちらこそ
そう言ってその人は俺ににっこりとほほ笑んだ。
ドキリとした。美人だった。隣のくそビッチ女なんか目じゃないほど、その男は笑顔が可憐だった。
だから、頭がテンパってしまって、口からついてでた言葉がしどろもどろになった。
こちらこそってなんだよ、わけがわからん。この場の返答としてはふさわしくなかった。ここは、気にしてない。とか次から気を付けろ。とかそういう系で返すべきだった。……次から気を付けろなんてこんな次元の人に言ったら、偉そうだと揶揄され、馬鹿にされるだろうな。講義中の態度として正しいのは俺だが。
(久しぶりに人に話しかけられたと思ったらこんな返答しか出来ないとか、自分が嫌になる。)
(おい、イく~~~~とか言うな、くそビッチが。聞かされるこっちの身にもなってくれ。まあ、俺に言ってるわけじゃないが)
(真面目も何も、それが普通の対応なんだがな。常人ぶってるけど俺的にはお前もうるさい。同罪だぞ。話しかけられてるのに無視しとけば対話は成り立たないのだからな。これだから文学部の連中はうるさい。)
勝手にさっきの2人を文学部だと決めつけ、俺は講義に集中した。