第4話 来訪

文字数 3,097文字

 前回やってきたドローン→(トレードされてきたらしいその)少女は、先日の遥の超絶理不尽極まりない対応については咎めなかったが、かわりに自身も至らなかったと深々腰を折りつつ謝辞を告げる。
 もうすでにゲームのエンディングが見れなかった時点+部屋に上がりこまれた時点でそんな、先日の後ろ暗さも相まって、遥は一応、とりあえず来客としてもてなすべく部屋の中心にあるローテーブル(※ゲーム機のコントローラー類だけ小さなボックスに縦入れしたものが端っこにまとめてドンとつっこんで一応片付けとしてある)に座ってもらえるようお願いをして、タコ足電源タップに繋がれたひとつの家電からちいさなポットを持ち上げる。秒でお湯が沸くこのポットには遥は朝ごはんのスープ、昼ご飯のカップ麺、夜のお味噌汁など非常にお世話になっているが、今は自分でもたまにしか飲まない、買い置きの紅茶を茶こしに入れて、とぽとぽとお湯を注ぎこむ。あまり高いものでもないから、ゴールデンタイムの見極めもジャンピングも特に気にせずに、お湯に色と香りが移った頃を適当に見計らって、カップに注いだ。そして入れてから「しまった、こんな暑い日に紅茶とかってどうなのよ」とも思ってしまったが、すでにお客に提供してしまった後なので、最早やっぱやめまーす、なんて下げる事はさすがに憚られた。
 少女は、蝉の声がつんざくように鳴り響いて部屋にまで突き刺さってくるような猛暑の中、屋外で遥が出てくるのを待っていたのだから、今でこそエアコンの利いた部屋に入っているとはいえ、出されたばかりでゆらりと白い湯気が滲んでいる(おそらくまだ高温の)飲み物に対して、どう思うだろうかと遥的にはちょっとだけ気になりはしたが、少女は、別段顔をしかめるでも、溜息をついたり睨みつけてくるなどといった(遥の想像でされるかもしれないと思った候補以上3点)態度を表すことはなく、ただ出された紅茶をだまってじっと見つめていた。
 なんとなくちょっとそれにも落ち込んだ(ままとはあえて言わないよ!)の遥ではあったが、少女が沈黙を保っているだけ、うっすらゆっくりとだが、いつぞやの自分がやらかしちまったという日の事を、回想することができた。
 本当になんとなくうろ覚えの記憶ではあるが、確か自分でなんか「女の子だったらいい」とかなんとか、適当に返してしまったなあと、とにかく“雑”をしたのだけは自覚もある。
 ……つまり、真っ黒。自分でやっちまったってのに結論思い至る。
 最初はまたなぁなぁに話を聞いて、相手を怒らせてしまうならそれも仕方ないと割り切ったうえで喧嘩腰で食って掛かるか、とにかく相手に言わせたい事だけ言わせてはいはいはぁはぁそれは大変だなどと相槌3寸で先方にガス抜きをしてもらい、適当な所で「そろそろ大切な用事がありますので」とお帰りを願うつもりだった。
 3度目ではございますが、
「1、前回話も聞かなかった」
「2、出所も不明で怪しいとはいえ玄関先で扉もチェーン掛けして開けもせず、アイスコープからなんとなく見えた様子だけで私の中では完結した」
「3、その時のノリというか願望丸出しだったが趣味丸出しで好みじゃないからという理不尽な理由で全っっったく相手にせず帰ってもらった」という前科ありきで。
 今回は、まず少女が(しかもなんだよ女神かよ! と頭に雷落ちるくらいには衝撃的にヴィジュアルがモロ好みの姿でやってきたのだ。もしこれが、前回の私の放った拒絶3要素を元として改善がなされたうえでの再来訪だというのならば、さすがに客として迎えざるを得ない。
 ――ていうか、すでに勝手に中まであがられたし。
 少女は、少し冷めた紅茶のカップをソーサーごと手に取り、ふぅと一息水面に吐息を吹きかけて、一口だけ口をつけた。
 長い髪が、肩からさらりと少しだけ流れた。
 きれいな顔をしてるな、と正直に思った。





 少女は猫舌だったのかもしれない。
 紅茶がだいぶ冷め切ってから、コクンと飲むペースは上がってゆき、私はその間少女の指先や手首、食器に触れる時の少しためらいがちな様子だったり、飲むときに伏せる顔の、微かに閉じられる目元のまつげが長いを知った。
 私だったら、この時期だったら(低温であるの前提だが)間違いなく「ゴクゴク音鳴らして飲むな」と比較して、改めて自分と目の前の少女が、少なくとも乙女的な数値が某玉集めマンガの相手戦闘力を推し量ることができる機器を例えば今使って双方見比べてみたら、真逆の結果になるんだろうなとか、本当にどうでもいいことを、無言で進むお茶会(……お茶会?)のテーブルで思った。
 目線を向けている先では、とても細く、陶磁のように真っ白で綺麗な喉元なんかまでも、ぼぉっとして見つめていた。
 コトン――
 少女がカップとソーサーをテーブルの上に置き、改めて居住まいを正した。
 ああ飲み終わったのかおかわりは……と、聞こうとしたけれど、つい今しがたまで紅茶と格闘していた彼女とは変わって、再び2度目の強制来訪をかけて来た時のようなすこし、スンッと表情までもが巻き戻されている。
 私はお湯ポットに伸ばしかけていた手を一旦やめて、とりあえず。とりあえずだ。彼女のやってきた理由、何を求めてここまでやってきたのかをちゃんとまっすぐに聞くことにし、少女にならい正座で彼女に向かい合った。
「改めて、この度はご当選おめでとうございます」
 彼女の不可解な来訪の説明は、そんな軽い所から投げられ。
 ボールはすぐに、急転直下で明後日の方へと私の思考処理速度ごと、あらぬ方向へと吹っ飛ばしていきよった。



 要約すると、彼女の言う話はこうだった。

 全世界から抽出された7人がいて、その一人が私らしい。
 当選=選出
 前もって渡されたカードは、ステータスカードといい、ゲームでいうライフポイントのようなものらしい。
 選ばれた人間は、端末機のナビのもと、相手と遭遇・戦闘をし、最終的にひとりの勝者を決めるそうだ。
「というのは、書類にてお知らせをしていたハズなのですが」
 いいえ、その後もゴミと思って見ていませんでした。
「わからない点や追加事項、ナビゲーションについてはその都度お答え致します。より詳細な内容や今後についての説明に入らせていただいても」
「いやいやいや、私に戦えって、いきなり言われても困るし」
「マスターの選出は、約一月ほど前に実施されたアンケートの回答より、より最適格である人材が選ばれております。その内容の中には、世界について個人が思っている思想や理想、自分ならどうするかの行動とともに『やる気』なども問われておりました。あなた様はそれに自らイエスと応えた」
「いやでもそれはあくまでアンケート上の話で」
「キャンセル期間もありましたが、それはとうに過ぎており、あなた様はマスターとして、すでに登録が完了しております」
「ぼったくり請求みたいだ!?
「いいえ、金銭の発生はいたしません。むしろ今後、すべての戦闘終了までにかかる生活する上での食費や移動費、その他発生する諸々の経費は当方にて負担させていただきます。あなた様はこれからしばらく、財布を開ける必要はないのです」
 少し心がぐらついた。
「それって、来週発売されるゲームソフトも経費になるってこと?」
「……戦いにゲームソフトは必要ありませんが、マスターに、必要ということであれば全く問題ございません」
 かなり心が動かされた。
「また、私はマスター専属の端末機として身の回りのお世話もさせていただきますので、必要なことがございましたら何なりとお申し付けください」
 マジか。
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登場人物紹介

主人公:茅野遥(かやのはるか)・女子高生。

特待生制度を利用して、地方より東京の学校へと進学してきた。一人暮らし。

剣道部に所属するも、実質顔をめったに出すことのない幽霊部員。(※剣道の特待生であるにも関わらず)

暇さえあれば、自宅に籠ってゲームばかりをしている。ざっくばらんとした性格。

好きなジャンルはRPGとギャルゲー(指定もの)。重ねて書くが女子である。

正式名称:B326XX

(※のちに主人公によって、呼びづらいからと名前を改名される)/遥のパートナーになる(予定?)

元ドローン。結構高性能。ただしワンルームなどで飛ばすにはものっそいジャマなサイズをしていたことで、主人公の元にやってきた直後、ろくな説明もさせてもらえずに「チェンジで」と、まるでデリ●ルのような断り方をされてしまう。

その際に主人公が何気に言い放った言葉がきっかけで、このような姿となり登場するに至る。

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