第17話 さよならクレーマー

文字数 1,091文字

「だから。さっきから言ってじゃないの。こんな薬返すから、返金してちょうだい」

「お客様。申し訳ありません。お薬の返品はお受けできないことになっております」

「なにいってるの。 この薬のせいで、手が痛くて痛くて。どうしてくれるの」

(なんだよ このばばぁ。 もう1時間になるぞ。典型的なクレーマーだ。ああ、この世の中からクレーマーがいなくなったらどんなにいいか)

マサヒデは調剤薬局の店長。もうすぐ後期高齢者と思われる女性の理不尽なクレームに必死に耐えていた。
薬の処方は医師であり、人によって効能の差があり、時には副反応が発生する。それを、すべて調剤薬局のせいにされてはかなわない。
平身低頭で、なんとか嵐は過ぎ去ったが、マサヒデのメンタルはボロボロになっていた。

「店長さん。 ちょっとよろしいでしょうか」

満面に笑みの小柄な男から声をかけられた。

「はい」

「私、こういう者です」

その名刺には、 Kコーポレイション 佐々木 と記されている。

「どういったご用件でしょうか」

「さきほどの、お困りのご様子を拝見して、弊社の製品がお役にたてるかと」

佐々木が説明した製品とは、クレーマー撃退装置であった。 
クレーマーの顔を店内の防犯カメラから切り取って、システムに認識させる。するとクレーマーが入店しようとすると、そのクレーマーに合わせた催眠作用のある薬剤は噴出される。クレーマーは、その店には入らないという考えが深層心理に刻まれ、決して入ってくることはなくなる。

「本当に、そんなことができるんですか」 

マサヒデは半信半疑である。

「それでは、お試しをされてはいかがですか。1週間無料ですよ」

マサヒデは、1週間その装置を試した。すると驚くべきことに、しつこく薬剤の効能を質問する客10人を登録したところ、全員入店せず、ほかの調剤薬局に行ってしまったのである。

(これはすごい! 客の選別ができる、すごいシステムだ)

マサヒデは、自らの心の平穏の為に、決して安くはない費用を自腹で支払ってシステムを導入した。

(ちょっと売り上げが減ったけど、いいってことよ。効率よく調剤ができて、今日も早く帰れそうだ)

薬局を後にしたマサヒデが向かったのは、横浜の風俗店である。

(今日も、みきちゃん指名しよう)

目指す風俗店の店先に立ったマサヒデ。

(あれっ 俺はなにをしようとしてきたんだっけ?)

気が付くとマサヒデは関内駅に立っていた。

そのころお店では。

「みきさん あの客 撃退しましたぜ」とボーイ。

「よかった。あのお客さんのプレイ、なんか独特で苦手なのよ」

そしてみきと呼ばれた女性は、気の弱そうな初老のお客の待つ部屋に向かった。


おしまい
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