第4話

文字数 3,502文字

登場人物
子美琴
子広瀬
美琴の母
美琴の父
莉沙
木村
莉沙の教え子
三好
同僚
ガス会社の人

 ○過去回想。雨。小学校で子美琴(すでに女装している)が泣いている
子美琴「うぇ~ん、お母さ~ん…」
 ○子広瀬(すでに男装している)がやって来て、傘をさしてあげる
子広瀬「どうしたの?」
 ○広瀬の顔をまじまじと見る美琴。
子広瀬「はぐれちゃった? ボクがさがしてあげようか?」
子美琴「…うん」
 ○手をつなぐ二人。
子美琴「見て、きれいなお花でしょ」
子広瀬「あ~うん…だれかの花壇のお花をつむと怒られちゃうよ」
子美琴「む…」
子広瀬「でも、綺麗だね」
子美琴「…! でしょっ!」
美琴の母「美琴! 見つかってよかった、探したのよ。大丈夫だった?」
子美琴「うん。あのね、おにーちゃんがたすけてくれたの」
美琴の母「そう、よかったわねぇ、あ、莉沙のお友達よね。ありがとう」
子広瀬「見つかってよかったね。バイバイ」
子美琴「バイバイ」
 ○歩いていく広瀬。
子美琴「しゅてきなひとだね、ママ。また会えるかな?」
美琴の母「そうね、きっとね」
子美琴「あたち、ああいうしゅてきなひとと結婚ちたい!」
美琴の母「ふふふ、美琴ならきっとできるわよ」
 ○歩いている広瀬。
広瀬の母「あっ、いた。もうどこ行ってたの。伸びちゃうでしょ」
子広瀬「ちょっと、迷子の子を…」
広瀬の母「まったくいつもどっかフラフラして、学校でみんなに迷惑かけてないでしょうね!? ほら、また青い帽子にしてる。女の子は赤って言われてるでしょ! 恥ずかしいったらありゃしない。これ以上恥かかせるようなら、お母さん帰るよ!」
 ○子広瀬、寂しそうに、きた方向に目をやる。
 ○回想終了、朝。美琴の二人目の姉の部屋で目を覚ます広瀬。
OP
美琴の母「これ、ジャムね。それからバターに、マーガリン」
広瀬「あああのあの、お構いなく…」
美琴の母「いいのよ、ありったけ食べてってね」
美琴の父「そうだぞ、食事は基本だ、戦う男にはな」
広瀬「えーと…は、はい…」
美琴「パパ、広瀬さんは女の人って言ってるじゃん」
美琴の父「俺は気概の話をしてるんだ」
莉沙「ゴメンね、うるさくて」
広瀬「いえ、うちの母は料理とかしなかったので、なんだか、新鮮です…」
美琴の母「ふふ、このまま美琴をもらってくれてもいいのよー」
美琴「ちょ、お母さん何言ってんの!?」
美琴の母「あら、だって昔…」
美琴「あ、大変もうこんな時間、行こ、広瀬さん!」
広瀬「ご馳走様でした」
美琴の母「また食べにいらしてね」
莉沙「あっ、広瀬くん」
 ○ネクタイをしている広瀬に莉沙が話しかける。
莉沙「ちょっと、相談したいことがあるの。今度会える…?」
広瀬「はい、僕にですか…? 僕でよければ…」
莉沙「よかった…また、連絡するね。あの…会えてよかった。ちゃんとお返事できてなかったから…」
広瀬「…ぼ、僕も…です」
莉沙「行ってらっしゃい」
広瀬「行ってきます」
美琴「……?」
 ○歩いている
美琴「昨日、眠れた? もう一人のお姉ちゃんの部屋なんだけど、すっごい散らかってて、汚かったでしょ。花梨おねーちゃんオタクだからさ」
広瀬「いえ、よく眠れましたよ。何から何までしていただいて…申し訳ないです」
美琴「今度あんたの家にも行かせてよ」
広瀬「僕の家は、本当に何もないですよ」
美琴「へー?」
 ○会社に着くと、みんなが広瀬を見る。
広瀬「…?」
同僚「ちょっと広瀬、あんた三好さんに黙って勝手に設計変えたんだって? そういうことするの、やめてくれない?」
広瀬「へ? いえ、僕はちゃんと連絡…」
 ○ニヤニヤしている三好。
同僚「とにかくこれ以上勝手な仕事するようなら、私たち黙ってないから」
広瀬「…すみません」
美琴「ちょっと、広瀬さんはちゃんと連絡したって言ってるじゃない!」
同僚「アンタ、三好さんよりクズヒロセの肩を持つつもり?」
美琴「広瀬さんはクズじゃない! センスあるし、優しいし、かっこいいし…」
広瀬「美琴さん…」
木村「おーい、林原と広瀬、ちょっと来い。」
次のプロジェクトでは…
木村「今回のプロジェクトはお台場に新しくできる帝都ガスのツインタワーなんだが、ちょっと遠くて構造設計上ブリッジが作りにくい。しかしビル間の移動ができるようにとのクライアントの依頼なんだ。みんなの知恵を貸してくれ。坂井、何かあるか?」
坂井「…部長、ここは皆で答えを見つていくべきでは?」
木村「ふむ、まあ期限まであと一週間ある。それまでに各自アイディアを出してきてくれ」
全員「はい」
 ○場面転換、カフェで待ち合わせる莉沙と広瀬。
広瀬「すみません、待ちました?」
莉沙「いいえ。こちらこそ、学校近くまで来てもらってありがとう」
広瀬「いえ…」
莉沙「広瀬君…変わらないね。あの、私ずっと謝らなきゃって思ってたの、あのあと、お父さん、大阪に転勤が決まっちゃって…」
広瀬「いえ全然、こちらこそ…ヘンなことを言って…申し訳なかったです。あの、それで、相談と言うのは…?」
莉沙「あ、そ、そうなの。うちの生徒のことなんだけど…女の子なんだけど、自分のことを男の子だって言うの」
広瀬「あ…はい」
莉沙「更衣室も男子のを使いたがるし、胸が成長してきてるのに上半身を脱いだりするし…それで周りとうまく馴染めなくて…教師としてどう対応していけばいいのか、広瀬くんにアドバイスをもらおうと思ったの」
広瀬「僕なら…やっぱり…全部、受け入れてもらいたいです。特に大人には…更衣室も、修学旅行も…否定されるのは、やっぱり悲しいです」
莉沙「でも…何か間違いが起こったらどうするの? 学校が責任を取らなくちゃいけないのよ。もちろんそんな人は一部だし、起こるかどうか分からないことで二の足踏んで、その子を蔑ろにするのもどうかしてるけど、でも…やっぱり生徒にも保護者にも、色んな人がいるから」
広瀬「そうですね…学校に迷惑は掛けられません。だけどせめて、先生には…理解してほしい。現実に男子と同じ輪に入れなくても、いつかは入れるって励ましてほしいです。できれば卒業したあとも」
莉沙「そうだよね、生徒を励ますのが教師の仕事だもんね…広瀬くんのおかげで吹っ切れた…ありがとう。」
広瀬「良かった。莉沙さんは強いですから、きっと負けないですよ。僕はそんな所が…あ、いや…忘れて下さい」
莉沙「…ねぇ、美琴と付き合ってるの?」
広瀬「え!? あ、いや、えーと…ま、まだ…」
莉沙「まだ?」
広瀬「あ、いやその、まだ僕が勝手に思ってるだけで!」
莉沙「広瀬君…あの時の返事って…まだ、聞きたい? 告白の返事…」
CM
広瀬「…告白の…返事? Noだったんじゃ…」
莉沙「違うの、さっきも言ったけど急に引っ越すことになっちゃって…返事は…Yesです。私、ずっと広瀬君のこと、尊敬してた…けど自分に自信が持てなくて…お返事できないままでいたの」
広瀬「…莉沙さん…」
莉沙「でも、もう広瀬君には、美琴がいるんだもんね。ごめんなさい、忘れて」
 ○立ち去る莉沙。
広瀬「り、莉沙さん!」
 ○場面転換
美琴「以上が私の提案です」
木村「じゃ次広瀬」
広瀬「はい」
 ○眼鏡をかける広瀬。
広瀬「今回提案させていただくのは『気球タクシー』です。ガス会社ですから宣伝にもなりますし、東京の町が一望できます。コストもかからず済みます」
ガス会社の人「しかし、雨風の日は使えんじゃないか」
広瀬「ええ…」
坂井「雨風の日はブリッジを作ったとしても耐えられない可能性がある。危ない橋を作って災害で壊れて非難を受けるのとどちらがいいかしら」
ガス会社の人「うむぅ」
坂井「あたしは好きよ。東京の町を気球でのんびり眺められるなんて、そうできる体験じゃないものね」
ガス会社の人「考えてみよう」
 ○ホッとする広瀬
 ○場面転換
美琴の母「それではプロジェクト通過を祝って…」
全員「カンパーイ!」
広瀬「ありがとうございます」
美琴の母「どう? おいしい?」
広瀬「こんなに手の込んだ料理食べるの初めてで…」
美琴の母「やーね、ほめても何も出ないってー」
 ○場面転換、花梨ねーちゃんの部屋
美琴「もー、わざわざ掃除なんかしなくていいのに」
広瀬「でもそのくらいはしないと悪いですよ…大丈夫、ものを動かしたりはしないですから…あ」
 ○つまづく広瀬で床ドン
美琴「……」
広瀬「あ、ち、違います、ホントにつまづいて…ご、ごめんなさい!」
美琴「……待って」
 ○広瀬のネクタイを掴む美琴。
広瀬「……!」
 ○キスしようとする広瀬。
莉沙「どう? 手伝おうか?」
 ○莉沙の声がしたので慌てて離れる二人
美琴「だ大丈夫! 大丈夫だから!」
莉沙「そう、お願いね」
広瀬「………」
美琴「…やっぱり、片付けよ」
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