序章
文字数 869文字
この世に、なにか、星よりも美しいものがあるのなら、それは間違いなくあなたであろうと、信じて疑えなかった。
「ほら、来て。あっちよ、あっち」
空を指して、彼女は俺の手を引いて歩いていた。俺はされるがままに連れていかれて、彼女の背中と、ただ柔らかいだけの手のひらを感じていた。
「わたしたちはね、死んだらあれになるのよ」
そう言って嬉しそうに笑った彼女が、俺にはどうにも恐ろしくて堪らなかった。その日には既に、一体誰のせいなのか、俺にとって死というのは恐ろしいものだったのだ。
「怖くないわ。わたしたちは、浮宙を生きる人間で唯一、自分の行く先がわかるの。それはとても、誇らしいことなのよ」
わからない?と彼女が微笑んだから、俺はただ俯いた。わからないことが異常であると、俺は幼心ながらに知っていたし、それを彼女に知られてしまうことが嫌だった。俺は、彼女に「良い子」と思ってほしかったから。
「大丈夫、いつかあなたも、きっとわかるわ」
俺は漠然と、心の中で、俺には一生かけてもわからないだろうと思った。怖いと思うものには挑戦すればいい。やってみないと、本当に怖いのか、それとも案外大丈夫なのかはわからない。けれど、死には挑戦できないから。
結果的に、俺は彼女の言った通り、その気持ちがわかった。ただし、半分くらいだけ。
「あの人はあそこにいる」
弟が言った。
「あんなところに、行っちゃった」
俺はただ、兄弟たちの頭を撫でた。普段は嫌がる妹も、今日は何も言わなかったから。結局己の死に納得していたのはあのひと本人だけで、残された方は違うのだ。例え、死が怖くなったとしても。俺たちは、離別を恐れる。
「遠いな」
「遠いね」
「……私たちも、いずれあそこに行くんだわ」
死んだ後も、あの人の居場所がわかる。それはひとつの道標になった。悔しいことに、そうならざるを得なかった。不安になったとき、恋しくなったとき、俺たちはあのひとを見上げる。空のいくつもの中に、彼女を見つける。
「…………ああ」
それはきっと、遺されたほうにとっては、幾らか心が救われるべきことなのだ。
「ほら、来て。あっちよ、あっち」
空を指して、彼女は俺の手を引いて歩いていた。俺はされるがままに連れていかれて、彼女の背中と、ただ柔らかいだけの手のひらを感じていた。
「わたしたちはね、死んだらあれになるのよ」
そう言って嬉しそうに笑った彼女が、俺にはどうにも恐ろしくて堪らなかった。その日には既に、一体誰のせいなのか、俺にとって死というのは恐ろしいものだったのだ。
「怖くないわ。わたしたちは、浮宙を生きる人間で唯一、自分の行く先がわかるの。それはとても、誇らしいことなのよ」
わからない?と彼女が微笑んだから、俺はただ俯いた。わからないことが異常であると、俺は幼心ながらに知っていたし、それを彼女に知られてしまうことが嫌だった。俺は、彼女に「良い子」と思ってほしかったから。
「大丈夫、いつかあなたも、きっとわかるわ」
俺は漠然と、心の中で、俺には一生かけてもわからないだろうと思った。怖いと思うものには挑戦すればいい。やってみないと、本当に怖いのか、それとも案外大丈夫なのかはわからない。けれど、死には挑戦できないから。
結果的に、俺は彼女の言った通り、その気持ちがわかった。ただし、半分くらいだけ。
「あの人はあそこにいる」
弟が言った。
「あんなところに、行っちゃった」
俺はただ、兄弟たちの頭を撫でた。普段は嫌がる妹も、今日は何も言わなかったから。結局己の死に納得していたのはあのひと本人だけで、残された方は違うのだ。例え、死が怖くなったとしても。俺たちは、離別を恐れる。
「遠いな」
「遠いね」
「……私たちも、いずれあそこに行くんだわ」
死んだ後も、あの人の居場所がわかる。それはひとつの道標になった。悔しいことに、そうならざるを得なかった。不安になったとき、恋しくなったとき、俺たちはあのひとを見上げる。空のいくつもの中に、彼女を見つける。
「…………ああ」
それはきっと、遺されたほうにとっては、幾らか心が救われるべきことなのだ。