第8話(1)あんなこと良いな、出来たら良いな

文字数 1,867文字

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「急な呼び出しですけどなんでしょうね……」

 雪が歩きながら首を傾げる。

「ははっ、雪っぺ、察しが悪いね~」

 雪の隣を歩く天空が笑う。

「え? どういうことよ?」

「呼び出しときたらお説教と相場が決まっているもんでしょう?」

「お、お説教?」

「そうだよ」

 天空が頷く。

「貴様じゃあるまいし、そんなわけあるか……」

 二人の前を歩いていた葉が呟く。

「いや~分かりませんよ?」

「分かる。仮に説教だとしても……」

「だとしても?」

「それを受けるのは貴様だけだ」

「ええ?」

「自分と宙山隊員に明確な落ち度はないからな」

「言い切りますね~」

「それはそうだろう」

「自信があるんですね?」

「まあな」

「それなら賭けをしませんか?」

「賭けだと?」

「ええ、説教かそうでないか」

「ふむ……」

 葉が顎に手を当てる。

「夕飯のおごりを賭けましょうよ」

「……断る」

「ええ~ノリが悪いな~」

 天空が口を尖らせる。

「……大体、貴様のそういう態度が問題なのではないか?」

「え?」

 天空が首を捻る。

「自覚が無いのか、質が悪いな……」

 葉が額を抑える。

「着きましたよ」

 雪が二人に声をかける。部屋の前で葉が姿勢を正して、声を上げる。

「佐々美葉隊員、宙山雪隊員、雷電天空隊員、只今参りました!」

「どうぞ……」

 部屋の中から深海の声がする。

「失礼します!」

 葉を先頭に、三人が部屋に入る。

「ご苦労様です……」

「!」

「こ、これは……」

 元々雑然としていた部屋だったが、しばらく立ち入らなかった間に、紙の資料や本が山のようにうず高く積まれていることに葉と雪は驚く。天空が笑いながら呟く。

「ははっ、また随分と汚部屋に……痛っ⁉」

「余計なことを言わない……!」

 天空を雪がキッと睨む。

「足を踏むことはないだろう~」

 天空が苦い顔になる。

「すみませんね、資料が溜まってしまって……」

「あ、いえ、大丈夫ですよ~」

 天空が深海に応える。

「今日日、大量の紙の資料ですか……」

「これは神主さんとは思えないお言葉……」

 葉の呟きに深海が思わず笑う。

「い、いえ、深海隊長はデジタルな方だと思ったので……」

「こういうアナログなデータも大切にしておかないと……」

「はあ……」

「深海隊長、今日は一体なんでしょうか?」

 雪が尋ねる。深海が答える。

「訓練の後でお疲れのところ大変恐縮なのですが……」

「い、いえ……」

「皆さんにイメージトレーニングをしてもらおうと思いまして……」

「イメージトレーニング?」

 雪が首を傾げる。

「はい」

「それはどういうことでしょうか?」

 葉が尋ねる。

「……先日行われた隊長会議で今後のイレギュラー討伐に、ツインアタックをもっと積極的に使用していこうという方針が定まりまして……」

「ふむ……」

「石川隊、福井隊と合同で任務に当たる機会も増えてくると思います。その時に備えて、どのようなツインアタックが果たして可能なのか、攻撃方法を模索して欲しいのです」

「! すると、この紙の資料は……」

「お察しの通り、石川隊、福井隊の皆さんの個人データです――関係ないのも混ざってしまっていますが――そちらの小さい机の上に大体まとめて置いてありますので、一応目を通しておいて下さい。椅子やソファーはもちろん自由に使って下さい」

 深海が小さい机を指し示す。

「なるほど、了解しました……」

 葉が頷き、小さい机の上に置いてある資料を手に取り、椅子に座る。雪もそれにならう。

「……イメージですか」

「宙山隊員は疾風隊員や氷刃隊員と組んでいたな」

「ええ、そうです」

 雪が葉に返事する。

「攻撃を魔法で強化するかたちだったが……他のアプローチもあるのではないか?」

「そうですね……」

 雪が腕を組んで考える。

「……あの鬼ツインテさんの金棒を巨大化させるとかは~?」

「ああ、そういうことも出来なくはないわ」

 天空の言葉に雪が頷く。

「……あのお坊さんを分身の術で分身させるとか……」

「分身の術って忍法でしょ……」

「索敵・分析姉弟を空に浮かせるとか……」

「なかなか大変ね……」

「頭に竹のアレを付けてさ……」

「……って、天空、何を読んでいるの?」

 雪が視線を向けると、ソファーに寝そべった天空が本を読んでいる。

「何って、我が富山県が誇る偉大な漫画家の作品群だよ~」

「漫画って……もうちょっと真面目に考えろ!」

 葉が怒る。天空が不服そうに言い返す。

「考えていますよ、なんでAさんとFさんだけ有名になったんだろうって、BさんからEさんはどうして売れなかったのかなって……」

「元々居ないわよ……」

 雪が頭を抑える。
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