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「夏俐ちゃんって、なんか目覚めたよね」
 へ?
 わたしは間抜けな顔を晒して、先生のほうを向きました。
 先生といってもあの自分勝手な担任でも、思い出したくもない音楽の先生でもありません。彼女はピアノの講師、こんな声を出せない小学生を快く迎えてくださった先生です。
 待って、それより、目覚めたって一体なんのこと?
「当たり前じゃん、ピアノだよ」
 書かなくても顔でわたしの混乱がわかったのか、先生はあっはっはと大口を開けて笑いながら言いました。
「ピアノ。あんたって元から耳も良いしセンスはあるけどさ、最近は特にすごい。ほんと、目覚めたって言葉がいちばんぴったりだ」
 先生はわたしの頭をわしわしと撫でます。姫花ならあるけど、大人に、それどころか親にもこんなふうにされたことがないので、いつも恥ずかしくなってしまいます。
 ピアノの先生よりスイミングスクールのコーチのほうが似合うと言われがちな、男勝りでかっこいい先生。基本誰にでも平等に厳しい彼女が言うことに、本心と違う言葉はほとんどありません。
 目覚めた、か。
 夕灯さんに続いて、先生にも褒められてしまうだなんて。とっても嬉しくなってしまい、わたしはこのことを必ず日記に書き留めると決めました。
「夏俐ちゃんにも朝日が昇ったのかな? あははっ」
 そのとき、わたしの頭にはすぐ否定の言葉が浮かびました。同時に想起したのは、夕灯さんの顔です。
 朝日じゃない。
 わたしは、ゆうひに目覚めさせられたんだ。
「…………………………」
 わたしの表情を見て、先生はすべてわかっているように微笑みました。
「そういえば伴奏したくて始めたんじゃん? もう余裕だと思うな。夏まで待つしかないけどねーっ」
 わたしはハッとしました。
 そうだ、伴奏。
 最近は楽しくてとんと忘れていました。わたしの最終目的は、伴奏をして、あの合唱の場で邪魔者になんてならなくなること。
 そうです。こんなわたしでも、役に立つために。
 ……でも。
 前までは思いもしなかったことが頭をよぎります。きっと今まで、不可能だと思っていたからです。でも先生に言われると途端に現実味が出る。
 もし、わたしが伴奏をしたら、夕灯さんはどうなるのかな。
 だって、夕灯さんも歌が……。
 わたしは、入ってはいけない迷路に片足を突っ込んでしまったような恐ろしさを感じました。とにかくその足を抜いて、このことは忘れようと頑張ります。
 いや、そもそもきっと無理。わたしが伴奏だなんて。
 そう心に言い聞かせて、わたしはそのことについて考えるのをやめました。


 そんなピアノ教室での時間を過ごした翌日のことでした。
 地獄が、始まったのは。
「当たり前ですよ?」
 こちらを冷ややかに見下すのは、やはりあの音楽の先生。
 でも、今日その視線を浴びせられているのは、わたしだけではありません。
 ここは体育館。総員100名超の5年生は区画ごとに分かれるようにして綺麗に並び、担任の先生たちは壁際で待機しています。
 まだ12月なんですが、卒業式へ向けた学年練習の最中でした。今日は初めて学年全員で合唱を、『羽ばたきの歌』の練習をしています。
 そして、先生のあの凍てつくような無情な視線の射程内にいるのは、わたしたち5年3組でした。
「ねえ、藤沢先生?」
 高くて甘ったるい声でそう言いながら、彼女は3組の担任のほうを見ます。おそらく大人陣の中で最年少の担任は、かすれて消えそうな
声で「すみません」と呟きました。
「3組のみなさん、周りを見てみなさい。なんですかその姿勢は。口は。歌声は!」
 怒声の残響が、広い体育館でわわんと揺れました。皆一様に口を閉じて、ひとつも音を鳴らすまいと微動だにしません。
 先生のそばのグランドピアノで控える夕灯さんが、気まずそうに少しうつむきます。
 このただでさえ寒い真冬の体育館が、心理的にも冷え切っている原因。
 端的に言えばそれは、3組だけ歌が下手すぎたからです。
「他のクラスは普通に朝の会で練習したり、昼休みにもパートごとに集まったりしていると聞きますよ。3組さんだけです! そんな舐めた態度でこの歌に挑んでいるのは」
 子どもの視線は3組に、大人の視線は担任に集まります。
 他クラスは音楽の授業以外にも練習しているなんて、全然知りませんでした。出遅れた3組は、面倒な説教を引き起こしてみんなの時間を奪う邪魔者。いえ、子どもからしてみれば、練習時間が潰れてラッキーかもしれないけれど。
「学年の練習時間を、3組さんだけのために奪うことはできないんです!」
 ほらやっぱり、それ言うと思った。大体いま時間を奪ってるのは説教を続けてるあんただからね。
 ほとんどの児童がそんなふうに心の中で愚痴ったことでしょう。
 わたしは、ばれない程度にほっと息をつきました。このようにひとつのクラスを貶めて他クラスの士気を上げることは、小学校ではさほど珍しくもありません。ほっとしたのはそれと、わたしは先生に完全無視されていて、標的にされることがなかったからです。
「こんな状態だと練習を続けても意味がないです。3組さん」
 音楽の先生は一度担任を見て、夕灯さんを見て、そしてまた3組のいる区画に目を戻します。
「もう帰って、クラスで練習してきなさい。周りに迷惑をかけないようになるまで参加は認めません!」
 3組のみんなは固まりました。この状況、どう動くべきか。謝るか、学年練習がしたいと意欲を見せるか、大人しくクラスに戻って練習をするか。
 この場でおしゃべりなんてできないから誰も口を開きません。たださわさわと視線を交わして、どうするべきか、クラスの動向を探ります。
 ただ、今回は、児童の思案は必要ありませんでした。
 壁に寄りかかっていた担任が音もなく動き、3組の並ぶ前まで来ます。「戻るよ」と暗い声でひとこと宣言が出ると、わたしたちは何も抵抗することはなく、訓練されたアンドロイドのように揃って担任の後をついていきました。
 夕灯さんがピアノ椅子から慌てて腰を浮かせると、音楽の先生が「あなたは残って」と優しい声で言いました。彼は戸惑っていましたが、先生には逆らえないし伴奏の仕事という正当な理由もあって、迷いを残しつつ再び椅子に戻ります。
 夕灯さん以外の3組は、冷たいコンクリートの渡り廊下を無言でとぼとぼ歩いていました。先生は振り返りません。その背中にわたしは、なにかぞっとするものを感じました。
 そして、その感覚は、間違いではありませんでした。
 どん! と教卓をぶっ叩く音。自分の席に座ったまま、凍りついたように動けないわたしたち。
 これが地獄の始まりだったとは、まだ誰も気づいていません。
 電気もついていない暗い教室の壁に刺さる、罵声、罵声、罵声。詳しく何を言われていたかは、わたしは記憶していません。ただ確かなのは、それはクラスの歌う全員に向けられたもので、全員を等しく傷つけるものでした。
 きっとみんな、心の中の自分が大声で言い返していることでしょう。
 ――だってまだ卒業式まで全然時間あるし!
 ――どうせ他クラスは先生の指示で練習してたんでしょ。
 ――だいたいそんなに下手だったなら、怒ってる今のこの時間使って練習するべきじゃん。
 ――うちのクラス音楽の授業少ないから仕方ないよ。
 でも誰も、それを口にはしません。口にしてはいけません。そんなのはどんな常識よりも常識です。
 ひと通り叫ばれ、罵倒され、悲しまれ蔑まれ比べられ、先生は「自分たちでよく考えて練習しな」とだけ言い残してどこかへ消えていきました。これは呼び戻さなければいけないパターンではありません。
 どうするどうする? とみんながそれぞれ仲良しで寄り集まって話し始めました。
 練習をするべきか。でもCDが無い。伴奏のあの子もいないから頼めないし、誰か鍵盤ハーモニカで弾ける人いるかな? 待って楽譜見たら弾けるかもしれない持ってこよう。
 そんな声が飛び交って、最初は控えめにささやき合っていたのが段々普段通りになり、そして大声へと発展していきます。
 意外と難しい無理これ! ていうかおれら超ラッキーじゃね学年練習さぼれるぞ。どうせ明日になったら忘れてら。ほら男子たち立って練習しないと! えーだるいもう遊んどこうよ。先生いないんだしいいじゃん。練習っつったって何もできんし。なあ今なら黒板使えるぜ!
 すでにすっかりいつもの休み時間のようになってしまった3組。わたしは黙ってじっとしていました。
 女子はほとんどがひとつに固まって何やら深刻そうに話していますが、一部は外側でひそひそと関係のないおしゃべりをしています。男子なんて無法地帯です。本を読む人、黒板に落書き、ガチ鬼ごっこ、などなど。
 まあ、そうなるよね。
 なんとなく予想済みでした。こうやって、さっきの説教されたストレスを発散するのです。
 でも非常にまずいのはまずいのです。この事態が露見したら怒り度はさっきの比じゃなくなるでしょう。だから中心部の女子は必死になって、中心部の男子と言い争いを繰り広げます。
 中心部には姫花がいます。双方をいい感じになだめながら、やっぱりどうにか練習する方向へ持っていこうと頑張っています。
 わたしは、混ざれるわけがありません。ひとりただ席について、クラスの流れをじっと見ていました。
 そうこうしているうちに、チャイムが鳴ってしまいました。
 このときの3組はまだ知りません。地獄へのレールを自分たちで引いてしまったこと。
 でも、どう逆らえば良かったのでしょうか。何ができたのでしょうか。
 わからないけれど、もう、結果は変えられません。
 学年練習の次の時間。戻ってきた担任のその態度に、何がなんだかわからない夕灯さんは隣の席でずっと困惑していました。
 クラスのみんなの気分は、この言葉でどん底まで落とされます。
「ねえ、隣の4年4組の先生に、さっきめちゃくちゃ騒いでてうるさかったって言われたんだけど」
 自業自得です。でも、きっと避けることはできませんでした。
 それが小学生です。
「ふざけんな!!」
 教卓にまた拳が振り下ろされ、どん! と鈍い音を立てます。先生は怒るとすぐ物にあたってまるでわたしの妹のようです。
「ねえ、どういうこと? 先生ちゃんと話したよね? 練習したんじゃなかったの? 信じてたのに。みんなのこと信じた先生が馬鹿みたいだね!」
 誰も何も言いません。「ねえ、馬鹿みたいだよね。そうだよね?」と何度言われても、何も言いません。
「はぁ、もういい。みんなだんまりか。まるで先生のことなんて見えていないみたい」
「……もういいよ。好きにしな」
 先生は教卓に両肘をついて頭を抱えたかと思うと、のそりと顔を上げて歩き始めました。
 言い捨てて、教室を出ていく。
 しばらくすると、またクラス中からざわざわと話し声が集まってきます。さっきの時間は体育館に残ったので不在だった夕灯さんが「何があったらこうなるの」という目でわたしを見て、わたしは「色々あって……」という目で見返しました。
 これが、この日の6時間目でした。


  「ていうか先生も悪いじゃん」
  「喧嘩なんてするから」
    「そんな歌で祝われても嬉しくねえな」
  「昨日のあのめんどいやつってさ」
                「もういやだ! いやだっ!」
   「どうしたらいいの? 先生に話しかけても、無視で」
 「こんな地獄……」
     「ちょっと来て! 早く!」
         「そういえばあの子さぼり?」
                「うわ、どうしよ、泣いてるけど」
  「だいたいそんなに下手じゃないのに」
     「……が吐きそうだって。先生、いや、4組の先生に」
   「次って国語? どうせ授業してくれないし」
             「帰りたい。早く帰りたい」
 「いつもはすぐ収まるのに。もう3日くらい」
       「給食抜きだけは勘弁して」
    「そういえばあいつ……」
「……夏俐?」
        「もう最悪じゃん」
 「この地獄どうしたら終わるんだろ」
       「我慢するしか」
         「私も不登校なりたいなぁ」
「……ねぇ、大丈夫?」
        「なんかすっごい息苦しい」
             「早く冬休みになってほんとに」
「……夏俐!」

「夏俐!」
 その声で、わたしははっと我に返りました。
 目の前には、わたしの右肩をつかんで揺さぶる姫花がいます。
「夏俐、ねぇ、大丈夫……?」
 今までにないほど不安げ、だけど聞き慣れていて安心する声。自然と周りの雑音が引いて楽になっていきます。
 うなずいてみせるとほっとしたようですが、姫花の表情の曇りは消えません。
「顔色死んでるよ……まあ、夏俐は繊細だし無理もないけど……」
 そう言う姫花だって、あの元気さがまったくありません。
 でも、きっとそれは、このクラスのみんな同じこと。
 座ったままクラスを見渡します。不自然に活発で暴れまわる男子や、暖をとるようにかたまってなにかを話す女子。机に突っ伏して寝ている人もいます。うずくまって動かない女の子に、駆けつけた隣のクラスの担任。ひとりで泣いている人。空席。
 わたしのいるクラス、5年3組は今、戦場のような空気がただよっています。
「夏俐……」
 姫花の弱々しい声で、わたしはふと視線を戻しました。
「…………!」
 視界が揺らぎ、ショックの勢いで乱暴に立ち上がる音が響く。みんなの話し声が一気に頭へ戻ってきます。
「ひ、姫花さん……!」
 隣の席にいた夕灯さんが気づいてくれました。
 姫花が、姫花がわたしの前で倒れたのです。
「おい姫花! どうした!!」
 怜歩さんの声が聞こえます。慌てた夕灯さんが呼んできたのでしょうか。
「誰か保健室の先生!」
「え、そっちも!?」
「やばいって」
 みんなが助けてくれています。
 わたしもしっかりしなきゃ。
 姫花が倒れた。しっかり、しっかり……。
 ……でも、なにも……見えない。
「な、な、なつりさ……ん」
 すべてがぼやけてなにも見えません。顔から何かが流れていきます。
「だ、大丈夫、だからっ……お、落ち着いて」
 か細い手が肩に触れたのを感じます。
 わたしは姫花みたいに強くない。
 怖い。
 どうしよう。
 どうしたらいいの!
 顔を覆ってその場にうずくまってしまい、気がついたらわたしも保健室に連れて行かれていました。
 ずっと手の震えが止まりません。違和感を感じて袖をまくってみると、手首から肘のあたりにかけて蕁麻疹ができています。
 保健室の先生に、なにがあったのかと訊かれました。
 わたしは、……いや。
 わたしも、なにも言えませんでした。


 言えなかった真実は、ここで話しておきましょう。
 まずは一昨日。先生が2度も職員室に帰ったあの日の、その次の日のことです。
 朝から異常でしかありませんでした。
「だから声が小さいって言ってんだよ!!」
 何にも爽やかじゃない朝の怒声、飛んでくる健康観察簿。
 直撃した前方の男の子は、驚いてフリーズしたまま目を押さえています。
 朝の挨拶を10回以上もやり直しさせた挙げ句、先生は健康観察簿をぶん投げ、そしてまた教室から出ていってしまったのです。
 あまりに衝撃的な出来事に、クラスメイトたちはしばし固まっていました。どんなに怒っていても、次の日にはけろりと元通りになっているのが常なわたしたちの担任だったのに、これは一体どういうことだ。
 その日は、先生に代わって保健委員さんが健康観察をしました。宿題は回収して届ける派と黙ってズルする派でしばらく揉めていましたが、後が面倒だという結論になり結局全部回収してしまいました。
 みんな、心がざわついていました。不安とイライラに曇天の暗さが相まって、教室はまるで泥沼の中のように冷たくじっとりとしていました。
 1時間目は、算数でした。算数の、はずでした。
 教卓に置かれた大きなラジカセと、髪が乱れ病人のような雰囲気の漂う担任。
「練習、するよ。あんたたちがやらないなら先生がさせればいいんでしょ」
 小学生人生、前代未聞でした。
 この日の担任だけでやる授業、つまり3時間目の体育と5時間目の理科以外、すべてが独自での合唱練習に充てられたのです。
 つまりそう、6分の4時間、わたしは邪魔者として突っ立っていることになりました。
 でもこの日ばかりはそのいたたまれなさもクラスの異様な空気に飲み込まれてさほど気になることがありませんでした。歌えない邪魔者より、歌う邪魔者のほうが攻撃されているというこの異様さに。
「どうして、どうしてできないのっ!」
 ひとりの半袖の男子が突き飛ばされます。入り口の引き戸に背中を強く打って、見開いた目で先生を見上げていました。
「違うって、違うって何回も言ってるでしょ! あんた、聞いてんの!? その音は違う! 違うの!」
 確かに彼があまり音程がとれていないのは事実でした。その上かなり声の大きい彼は、何度も先生に名指しで怒鳴られています。
 怒鳴り声を聞くたび、肺を圧迫されるような苦しさを感じました。きっと多くのクラスメイトも同じです。
 みんなの真似をするように楽譜を持って立っているわたしを、近くの人がたまにちらりと振り見ています。気づかれていないつもりなのでしょうか。彼女らがわたしを憐れんでいるのか、ずるいと思っているのかは知らないけど。
 そんなわたしの隣には、伴奏の夕灯さんはいません。彼は先生の横で鍵盤ハーモニカを持ち、必要に応じて音を取る係に任命されていました。やっぱりピアノができると、こうやって役に立てる。でくのぼうじゃなくなる。
 歌えないわたしは、楽譜を穴が空くほど見つめながらバレない程度に指を動かします。
 ……あれ?
 歌の音取りくらいなら、全然弾けそう……。
「ねえ!」
 びくっ、と肩を跳ね上げます。
「ほら全員、背筋伸ばして姿勢良く! もう1回最初から行くよ」
 永遠に続く「もう1回」に、集中力はそろそろ限界が近づいているようでした。歌えないわたしでさえ、足がつらくなっています。
 やがて限界が来てまた質が落ち、しこたま怒鳴られてまた練習、ずっとそれの繰り返しでした。
 これが、1日目です。学年練習があった日を0日として、この地獄は進んでいきます。

「あれ……保健室……?」
 わたしはその声に驚いてベッドのほうに駆け寄ります。ピンクの仕切りカーテンを開けて中に入ると、白い顔の姫花が身体を起こして不思議そうにしていました。
「わ! 夏俐……!」
 一瞬で滲む涙。抱きつきたい衝動に駆られていると、「勝手に開けないで」と養護教諭の先生に服の首の後ろを掴まれてしまいました。
 追い出されてソファーに逆戻りしたわたしは、安堵となお残る心配でぐちゃぐちゃになりそうな心をぐっと抑えて耳をそばだてました。
 先生と姫花の話し声。気持ち悪い感じはあるけどどこも痛くない。吐き気はない。頭痛。腹痛。
 きっと疲れとかストレスによるものね。安静にしていなさい。
 疲れ、ね。
 優しい姫花。クラスの女子の真ん中にいる姫花。彼女はきっと、疲れるということばじゃ表せないほど疲弊しているはずです。ストレスの4文字に収まらないほどの負担がかかっています。
 知っていても、何もできなかったんです。

 昨日。2日目。
 あの吸えば毒触れても毒の空気は変わっていませんでした。毎秒ごとにお腹に石が詰められていくような感覚がして、わたしは昔読んだ赤ずきんに出てくる狼のつらさを知りました。
 しかし1日目よりも良かったのは、時間割です。先生すらも支配するあのます目に書かれていたのは、家庭科、家庭科、パソコン、体育。移動が大変すぎてこれを組んだ人を恨みそうですが、今回ばかりは救世主以外の何者でもありません。もっとも今日は、だいぶ前からやばい時間割があるぞと噂されて皆が待ち遠しく思っていた日です。
 午前のすべては担任以外が関わるもののため限りなくいつも通りに近い状態で過ごすことができました。問題があったのは4時間目の体育、内容は持久走です。
「ほら、遅いよー! こんなの3組だけだよー!」
 担任から何度も飛んできた大声。彼女は同僚の苦笑いに早く気がつくべきです。
 ただでさえ、夏と同じ体育着を着た児童が、厚いダウンで防寒した上に動かない先生を心底呪う時間。こんなことをされたらたまったもんじゃありません。反省しなかったわたしたちへの仕返しだと考えて納得するべきなのでしょうか。いや、そんなに上手く考えられる人は、きっといません。
 先生だって人間だとよく言われますが、それを言うなら子どもだって人間です。そのひとことで、やる気や体力は一気に地まで落ちるのです。
 それは、走り終えたあともずっと長引きました。坂を上って校舎へ戻り、体育着を着替えて、さらに給食着へ着替えてからの給食準備。スムーズにいくわけがあるでしょうか。しかも、午後はきっとあの地獄の練習が控えているとわかっているのに。
「………………何これ」
 全員が席につけたのは、給食片付け開始時刻の約5分前。
 このときはまだ思っていました。大丈夫きっとどうにかなる。前もプールの直後とかこういうことあったし、ちょっと片付け開始を遅らせてとにかく急げばあのときもどうにかなった。
 いいえ、あのときと比べてはいけません。
「馬鹿じゃないの。給食室に迷惑かけないようにいつも通り片付けするからね」
 わたしは大きいおかずの担当ですが、あんなに多い残飯は初めて見ました。逆に給食のおばちゃんが悲しむんじゃないかな、とも思いました。
 5分しか食べられなかった給食。みんなおなかが空いて、イライラが止まりません。
 そんな昼休みのことでした。
 わたしは最初逃げるように図書室へ行き、借りていた本を返して次の巻を借りました。そうして教室へ戻ると、空気の異様さが今までの比じゃない状態になっていたのです。
 冷たい雨が降るせいで外は寒く、人が集まるせいで微妙に暖かい教室とはかなりの温度差を感じます。それと同時に、何かがおかしいのを一瞬で悟りました。
 見ると女子がぎゅうぎゅうに集まっていて、中心で誰かが泣いています。そばでなだめているのは姫花です。
 何があったのかは全くわかりません。近寄ることはもちろんできず、だからと行って立ち止まったまま眺めていても怪しまれるので、自分のロッカーに本を直しながら様子を伺いました。
 中心の子は泣いている。ひとりが大きな声を上げる、その子の腕を誰かが掴む。振り払う。姫花が手を伸ばす。最初に声を上げた子が泣きながらなにか怒鳴りつけるようにまくし立てる。仲裁に動く姫花。泣き続ける中心の子。いらついた声。ため息。叫ぶような言葉。
「やめてっ……」
 何が原因かは知りません。
 クラスの女子のほとんどを巻き込む喧嘩の中で姫花が溺れそうにも見えて、声なんて出ないくせに喉の奥がヒュッと締まりました。
 それでも、動けない。
 いつも助けてもらっているのに、こういうときわたしは姫花に手のひとつも差し伸べられません。あの輪に入り込む勇気も、喧嘩を収められそうな希望のある彼女を引っ張り出す度胸も、ありませんでした。
 わたしには助けられない。同じ教室内なのにあの輪が別の世界にしか見えない。わたしが入ったって何ができるのか。言葉、言葉はわたしの味方じゃない。わたしには声がない。
 怖い。
 蝋人形みたいに固まったまま何もできないくせに、一丁前に心配はしていました。
 どれだけ気丈で明るい姫花にだって、これは耐えられないんじゃないか。
 ……でも、人の心配をしている場合では、なかったのです。

 2日目の5時間目は、本来道徳の授業でした。
 一応全員の机の上に置かれた、空色の道徳の教科書。最終的に、開かれることは一度もなく教室の棚に戻されることとなります。
 静かな雨が降る外は暗いというより黒い。蛍光灯の明かりだけが、閉め切られた教室に生きた人の気配を灯しています。
 道徳は担任の先生がする授業です。どうせまたあの練習が始まるのだと、それはもうみんな覚悟していました。
 しかし、現実は、覚悟を遥かに上回ります。
 身体中の血が気持ちの悪いゆっくりさで変な方向に流れるような感触がしました。目の前には何もないのになぜか、不気味にゆったりと動くマーブル模様が視界にちらつきます。
 隣同士の机をくっつけたものが16対、碁版の目のようにきっちりと並んでいます。空席はなし。
 その誰もが凍りついたように動きません。いつも手遊びをして怒られるあの子も、暇さえあれば髪の毛をいじるあの子も、今日ばかりはうつむいた姿勢のままぴくりとも動きません。
 内容は聞かずとも声だけで相当な不機嫌が伝わる先生の話。返事や反応なんてするわけないわたしたち。
 どれだけ反応を迫られてもできないわたし。
「ひとりずつ、さあ言っていってよ。こっちの列から、ほら!」
 先生がわたしたちに求めたのは合唱練習ではなく、ひとりずつ現状の反省と今後どうすればいいかを言っていくこと。「自分たちのなにが悪かったのか、これからどうしたらいいのか。ひとりずつだよ、全員。あんたたちのクラスのことくらい自分たちで考えてどうにかしなさい!」。
 合唱も散々で、給食準備の行動も遅く、最近は宿題を出さない人もいてとにかくひどい3組。そうやって合唱に関係ない歴代の愚痴をひと通り言い終えると、先生は公開処刑を要求しました。
 公開処刑。ひとりずつ全員が発表するこのような状態の呼び名です。
 列のいちばん前の右端の子が、こわごわと口を開きます。教卓横の机に足を組んで座っている先生を、震える目で見上げながら。
 くぐもった、恐怖をいっぱいに含んだ声。停止ボタンを押したように表情すら動かない先生。外は雨。
 わたしたちはいつでも逃げ出せます。前の扉も、後ろの扉も、閉まっているけど鍵はかかっていません。かかっていたところで中から開ければ良い話。
 それなのに、なぜでしょう。わたしは、絶対にここからは出られないと、そうとしか思えませんでした。
 あのとき、音楽発表会に向けた練習のとき、駆け出して学校の外まで逃げ出したわたしでも。
 ここからは絶対に、誰ひとりとも逃げられない。これは意識の檻。
 いつもより教室がずっと狭いような気がします。どこか息苦しく、世界が暗く、灰色と涙の色しかない。
 夕灯さんに針の雨が注がれたあの春の日よりも、何倍も空気が淀んでいます。あの日の夕灯さんが、今日はこの教室の全員。
 あの日の夕灯さんもこんな感覚だったのでしょうか。こんな、暗く淀んだ檻に閉じ込められて身動きが取れないような。
 少しずつ、ひとりひとりの懺悔が進んでいきます。たまに先生に小言を挟まれ、声が小さいと怒鳴られ、しかし進めば進むほど前例が増えるのでスムーズになっていく。
 処刑までのカウントダウンがどんどん加速していく。
 この、教室という名の檻の中で。
 わたしは、ズキズキと痛む胸を押さえながら必死に考えていました。
 わたしの席は窓際から数えて2列目。その前から5番目。隣の席は夕灯さんですが、わたしのほうが先に順番が来ます。
 今は窓から4列目の姫花が話しています。この状況でも震えず、先生を刺激せず、「はい、次」だけのコメントで終わらせた姫花はさすがです。でも親友に感心している余裕なんてありません。
 どうしよう。
 わたしにとって、最もまずいと言える状況でした。
 先生はわたしの番を飛ばしてくれるでしょうか。喋ることのできないわたしは、処刑から免除してくれるでしょうか。
 いいえ、この状況でそうなるとは思えません。
 声が出なくともわたしだってクラスの一員だと、反省を述べろと、理不尽に言い迫るに決まっている。
 君だけ逃げるのか。それを理由にして逃げるのか。ずるいね。声が出なくてよかったね。みんな怖かったり恥ずかしい思いしてんのに君は本当にいいね。確かに仕方ないってなるもんね。
 先生の台詞がありありと浮かびます。こうなるはずです、いや、これよりひどいことを言われるかもしれません。
 わたしはどう頑張ってもその場で言い返せない。だからわたしに向けた非難の言葉は、エスカレートすることも多いんです。
 ――「声が出なくてよかったね」。
 またそう言われたら、今のわたしは、泣かずに耐えることができるでしょうか。
 込み上げてきた数年前の記憶にぐっと蓋をして、熱がこもる頭を懸命に動かして考えます。誰にも迷惑をかけず、最短でこの場を乗り切る方法。メモに書くか。いや、時間がかかるとなにを言われるかわからない。それに、立ち上がって発表しないだけでどれだけ楽か。今だってきっと心の中で、せめて書いて提出するだけならいいのにと思っている人もいる。
 処刑はどんどん進みます。どうしても歌が上手くいかない男子が数分間なにも言えない様子でした。凍りつくようなあまりに長い無言に、先生は彼を立たせたまま次の人に進めます。そして、またさっきまでと同じテンポで進んでいきました。
 口の中をぐっと噛みます。どうしよう。どうしよう。どうしよう。
 声が出ない。わたしは声が出ない。
 口パクもだめ。手話も通じない。前もって今から書き始める手もあるけど、確実に見つかる上に、怒られても声での弁明はわたしにはできない。全員が席に縛り付けられたこの状況じゃ誰にも頼れない。……頼れたとしても頼るべきではない。
 血の味が広がります。顎の力を緩めると、頬の裏側が鈍く痛みました。
 ああ、ああ。わたしは……。
 夕灯さんだったらどうするんだろう。いや、まず彼は何も悪くないんだ。伴奏者として誰よりも褒められるべきで、今回の処刑には全くの無関係。今の先生でもさすがにすぐそれに気がついてくれるでしょう。だから多分、大丈夫。
 じゃあ、わたしは?
 何の役にも立たず、ただ突っ立っているだけ。歌ってないとはいえ、無関係と言って免除して良い人だとは思えません。
 ただの、邪魔者。
 わたしは、どうしたらいいの?
 だんだんと自分の番が近づいてきます。前に倣った回答が増え、進むのがさらに速くなっていきます。
 前に倣え。小学校で生きていくために重要なことのひとつです。
 でも、わたしの前なんて、いない。
 心臓がひどく痛みます。吐き気を深呼吸で抑えて、手の甲に爪を立てて耐えます。
「次の人」
 喋ることなんてできないくせに唇が震えます。冷えて感覚のないつま先、気を抜くとガクガクと震えそうになる膝。
「次」
 めまいがしてきました。マーブル模様がまた見えます。汗で肌着が背中に張り付いて、気持ち悪い感覚がぞっと広がります。
「次」
 もう、どうしようもありません。
 もたもたせず素早く立ち上がると、きちんと椅子を机の中に入れて手は椅子の背から離します。これだけは前に倣うことができました。誰かが怒られていたので。
 高くなった視界の中心に教卓の先生を据えます。しっかり目が合っても、彼女は何も言いません。
 爪痕だらけになった手をぐっと握り込みます。
 なんでもいい。なにか、なにか、これを打開するには……!
 でも、考えれば考えるほど、思考は散らばってめちゃくちゃになっていくだけです。
 息が苦しい。胸が無数の針で突き刺されたように痛い。痛い。
「ねぇ、早く」
 急かされてしまいました。まずい。早く考えなきゃ。いや、まだ2度目までは大丈夫かもしれない。
 でも3度目はきっとない。
 カタッ、と横からかすかに音がしました。目は先生からそらしすぎないように視界の端で確認すると、夕灯さんがかすかに椅子を引いて立ち上がるための第一段階のような姿勢をしていました。しかし彼はそのまま動くことなく、青白い顔で斜め前方を見つめています。
 そこになにがあるのかと、わたしも視線の先を負いました。彼が見ていたのは姫花。彼女は覚悟を決めたような顔で立ち上がろうとしていました。
 ここまでが約3秒間の出来事。
 わたしをかばうためなのか夕灯さんが立ち上がろうとした、しかし姫花が同じく立ち上がろうとしていたので止まった。恐らくそういうことでしょうが、当時のわたしはそこまで詳細にわかっていたわけがありません。
 しかしふたりが参入すると非常にまずいことだけはわかりました。わたしだけなら何を言われようともまだ良い。でも誰かを巻き込むのは絶対に嫌だ。姫花はもう処刑を終えている。夕灯さんだって話すのが苦手なのに。
 どうしよう。早くしなきゃ。どうしよう。どうしよう。どうしよう。
「早くして!」
 その鋭い声で、立ち上がろうとしていた姫花がピタッと止まりました。
 急かされるの2度目だ。きっと3度目はない。
 姫花が声を上げる前に自分でなんとかしなきゃ。
 ……「早くして」って、そんな。
 わたしが声が出ないこと、忘れているのでしょうか。それか、声が出ないなりにどうにかしろということでしょうか。
 大人っていつもそうです。できないならできないなりに何とかしろと言ってきます。
 でもそれで何とかしたら、絶対に文句を垂れるくせに。
 口をおもむろに開きます。ですが声は出ない。出るわけもない。
 怖い。
 姫花が一瞬わたしを返り見て、また先生に目線を戻します。きっと、やる気です。
 だめ!
 わたしが、どうにかし
「先生」
 驚いて、息が止まります。
 立ち上がったのは、姫花でも夕灯さんでも、何か言おうとするふたりを見て青い顔になっていた怜歩さんでもありませんでした。
 わたしの顔にすっと影が落ちます。わたしより背の高い人が前で立ち上がったからです。
 憤りをはらんだ、よく通る声と共に立ち上がったひとつ前の席の女子。
 そういえばこの席順は、どこか既視感があります。
 ――『ねぇ、これ、なんて読むの?』
 始業式の日、わたしの名前の読みを訪ねてきたあの子です。最初はわたしが声を持たないことを知らなかったようだけど、姫花に聞いてからは返事ができなくても挨拶をしてくれたり、気を遣ってくれたり。
「夏俐さんは声が出ないんです。だから……」
 姫花がこちらを、ぎょっとした顔で見つめていました。姫花だけじゃありません。多くの女子が怪訝そうに、煙たそうに、男子はただ驚いたように、彼女を見つめていました。
「だから、夏俐さんは飛ばして次の人に」
「え、なんで?」
 心理的にざわついていた教室が、冷水をばらまいたかのようにしんと静まり返ります。
「なんで?」
「……夏俐さんは話せないので」
「だからなんで?」
「…………………………」
 わたしが話せない理由でしょうか。生まれつき声を持たないからです。
 生まれつき声を持たない理由でしょうか。知りません。わたしの身体を作った神様に聞いてください。
 でもこのどれも自分で言い返せなくて、ただ人に迷惑ばかりかけて、それなのに足がすくんで動けずまだ突っ立っている。
「……なんでって」
 前に立つ彼女の声色が変わりました。
「なんでって、先生、夏俐さんは喋らないんじゃなくて喋れないんです」
 そこにははっきりとした怒りを感じました。当事者のわたしですら怯えて出せない、輪郭のくっきりとした怒り。
「先生なら当たり前に知っていますよね!? それなのに今日も、合唱のときも、いつも……」
 はっとしました。
 彼女の怒りは、今日この状況だけに向けて発せられたものではなかったのです。
 彼女はずっと見ていたのです。こんなわたしと、わたしの向けられた言葉のことを。
 わたしにとっては日常茶飯事。でも、正義感のある彼女にとって、看過できるものじゃなかったのかもしれません。
「だからね、先生はそういうことを訊いてるんじゃないの」
 非常に面倒くさそうに、先生が言い放ちました。
「あのね、なんで? 全部夏俐さんの問題なのに、あんたが勝手に声を上げてなんやらかんやら言っているのはなんで?」
「っ…………………………」
「あんた関係ないよね? 時間ないんだけど」
 そのとき、ぷつん、と、なにかが切れる音が聞こえたような気がしました。
「……はあ?」
 彼女のその声は、とても「先生」に向けられてよいものではありませんでした。
「あ? はあって何?」
「ふざけるな!!」
 目の前で爆発した怒り。圧倒されて、わたしはなにもできません。
 先生の言う通り、全部わたしの問題なのに。
 それに、衝撃的なことが他にも起きていまいた。
 ――くすっ。
 教室のどこかで、小さな、呆れたような笑い声が上がったのです。
「……ふざけてるのはあんたでしょうが! もういい、ほら、出ていって」
 こちらにずかずかと寄ってきた先生は、彼女の服の首元を掴みます。怒りでいっぱいだった彼女の顔にたちまち恐怖の色が広がりました。
 彼女は無理やり引っ張られ続け、教室前方の扉からぐいっと押されて外に出されました。ガラガラ、バン、と、先生が激しく引き戸を閉めます。
 わたしの目の前にぽっかり空いた空席。
 立っていたわたしは、くらっと倒れそうになりました。しかし、この空席の冷たい重みが、わたしを床に突き刺していました。
「もういい、もうどうでもいい。あんたも座って」
 命令に逆らうととてもよくありません。逡巡したのも一瞬で、わたしは素直に椅子に座ります。
「あああああもういい。もう、いいよあんたたち。反省なんてしてもどうせだめでしょもう」
「もう終わり。そういえば道徳だったね。教科書後ろから集めて片付けて。もう時間ないし」
 命令に逆らうととてもよくありません。いちばん後ろに座る子たちが立ち上がり、無言で列の教科書を集めていきました。
 前の扉は開きません。後ろの扉も開きません。
 あの子は、ひとつ前の席のあの子、レナさんは、戻ってきません。
 その後もずっと。ずっと。帰りの会が終わっても。
 姫花はわたしよりももっとひどい顔色でした。あの子は、姫花と特に仲が良かった子です。
 姫花以外の女子たちは、話題には上げていても、レナさんを心から心配しているような様子はあまりありませんでした。
 そんな女子たちの会話を盗み聞いて、知りました。
 昼休みのあの喧嘩の発端は、レナさんの正義感だったようです。

 彼女はもう、学校には来ないかもしれません。
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