第4話 無人島に花を咲かせよう係は活動しない

文字数 1,470文字

 無人島に花を咲かせよう係に就任した。そんなつもりはなかったのに。
 この係に立候補したのは、私と倉持賢、丹原颯の3人だった。学級委員の男(この男については後日詳細に記述する〔そういえば、この前も私が超能力者であり、その能力については追々説明すると言っていたのに、それを放置したままこの日を迎えてしまった[タスクの管理がなっていないと怒られそうだ{誰に?}]〕)はクラスの係を決めるという重要な役割を背負っているにもかかわらず、もうやる気を削がれてしまったのだろう、虚空を見つめて棒立ちしていた。使い物にならなくなった学級委員は、腐っても鯛ではなかった。
 その結果というべきか、私たち3人は無人島に花を咲かせよう係、隠語で言うところの無花果係になってしまった。私たちは表面上立候補したことになっているが、最後まで誰もやりたがらなかった係に、たまたま残った3人があてがわれただけだ。
 これから、私たちスリーマンセルの過酷で痛快な物語が始まっても始まらなくても、多分世界はとっても綺麗なままだろう。
 役割を終えた学級委員の男と女は、吸い込まれるように自席に戻り、その反動が出たのか早弁を始めた。誰にも彼らを咎める資格はなかった。嘘だった。彼らを咎める自由は残されていた。その残った自由を掬うだけ掬って、最後は握りつぶした倉持のことを私は未だに許せそうにない。
 倉持賢は母子家庭だった。それ以外のことは一つも知らない。知るべき情報の順番が捻じれていた。そんなことは言われなくても私は分かっていた。放課後、倉持が私と丹原を集めて、語り出した。
「俺は、無人島に花を咲かせるつもりは、これっぽっちもないからな。そんなことに時間を割いている暇なんてない」
 丹原は何も言わなかった。丹原の目を見たが、そこからも何も読み取れず、丹原の目は口と同等にものを言わなかった。
「じゃあなんで、無花果係になったの?」
「一番楽そうだったから」
 倉持は私の質問を予想していたかのように即答した。
「仕事しないなら、どの係になっても楽だろ」
 丹原は倉持の即答を予測していたかのように即答した。
「ああ分かってないな、お前ら二人はなんだかんだ何も考えず馬鹿真面目に係の仕事をするだろ。だから俺はこの係にしたんだよ。内容で選んだんじゃない。メンツで選んだの。分かるかい?」
 花より団子よりメンツってか?
 私は流石に込みあげる怒りを花火にできなかった。だけど、喧嘩をするほど、無人島に花を咲かせることに誇りも蔑みもなかった。それにカップルでない男と女の喧嘩は、本気の女同士の喧嘩、お互いに本気ではない男同士の喧嘩に次いで、エンタメとして見ていられなかった。そして、これ以上会話する気力もないので、笑っておいた。笑えば私の周りだけでも平和が作れた。それは、無人島に花を咲かせる手段の一つでもあった。
「コインで決めよう」
 丹原は随分と冷静だった。そして左胸のポケットからコインを取り出した。用意が良すぎる。絆創膏を持ってたら女子力高い。ダンベルを持っていたら男子力高い、では、コインを持っていたら何が高いのだろう。
「コインでは決めない。自分のことは自分で決める。俺は無人島に花は咲かせない」
 倉持はそう言って足早に帰ってしまった。倉持の背中を憎むことは簡単だったが、それでも母子家庭が引っかかった。
「まあ、どこに花を咲かせるかは人それぞれだよな」
 丹原の言葉には共感できなった。人それぞれで、皆違って皆素晴らしいなら、苦しいのは自分じゃないか。丹原は苦笑していた。そうするしかないみたいに。

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