第2話 仕事

文字数 1,303文字

「いってきます。洗濯物、干しといてね」
「はいよ」
夜勤明けで朝食を食べている芳樹に向かって、朝美は声をかけ、会社に向かった。朝美の勤めている会社は株式会社ゆうゆう倶楽部と言い、車で十分程のところにある。もともとは建設会社で、介護部門を創ったのだが、地元の建設不況や昨今の介護需要の増加で五年前に会社として独立した。訪問ヘルパー部門とショートステイ部門・デイサービス部門があり、市内でも有数の事業所である。
朝美は初め訪問ヘルパーとして入社したが、現在はデイサービス部門で働いている。訪問ヘルパーは収入や仕事が不安定な部分があり、他のパートでも探そうかな、と上司に相談したところ、半年前にデイサービス部門に配置転換となった。そのために沖本美智子と同僚となってしまったのだが。デイサービスでは、主に入浴を担当していた。
「今日は特浴十人かあ、人数多いからやだな。でも、沖本さんは今日休みだから、まあまあかな」
ゆうゆう倶楽部のデイサービスでの介護の仕事は、リハビリの介助、食事や入浴・トイレの介助、カラオケやお絵かき、簡単なゲームなどのレクリエーションの実施、そして見守りがある。入浴の介助に二業務があり、普通に入浴の介助をする業務と、特浴と言って機械入浴を介助する業務がある。特浴は歩行が困難な利用者や、お風呂場や浴槽内で座っていられない利用者を入浴用の機械に乗せ、全身を洗い、着替えを行う。一人二十分の目安で、十人いれば三時間半も風呂場に居続けなければならない。九月とはいえ、まだまだ残暑厳しい宇和島では大変だった。そんなことを考えているうちに、会社に到着した。
「おはようございます」
職場の同僚とあいさつを交わし、朝美は職員控室に入った。そこには、デイサービスの職員の他に一人の女性が座っていた。訪問ヘルパーをしていた時に、仲の良かった田中日登美だ。
日登美は、朝美を見つけると手招きをした。ショートステイ部門とデイサービス部門は本社に併設しているが、訪問ヘルパー部門は広い範囲に利用者がいるため、市内に三か所にわかれて事務所が開かれていた。本社の訪問ヘルパーの同僚たちとは、顔を合わせる機会も多いし、デイサービスと訪問ヘルパーの掛け持ちもいる。ただ日登美は、今は別の事務所で働いていた。それもあって、朝美は日登美と会うのは久しぶりとなった。最後に会ったのは、二か月ほど前だったろうか。
「どうしたのよ、日登美ちゃん」
「ちょっと本社に用があって、ついでに朝美ちゃんに話があって」
「なあに?携帯で連絡してくれればよかったのに」
「久しぶりだから、ついでに顔を見たかったのよ」
「長くなる?今日特浴だから、もう入らないといけないんだけど」
「そうなの、今日終わってからはどう?」
「いいわよ。それじゃあね」
朝美は日登美と別れると、荷物をロッカーに入れ、特浴の準備のためにフロアに急いだ。まず、入浴予定の利用者をトイレに連れて行かなければならない。なにせ十人も入浴させなければならないのだから、ぐずぐずしていると昼ごはんもたべられなくなってしまう。デイサービスのスケジュールは、きっちりと組まれているからだ。
「さて、今日も頑張るぞ」
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