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【【【【【【  雲霧放談   】】】】】】
vol.14  07.21.2024 

ねえ、男子ってさぁ。どうして女装したがるの??
「学園祭で女装してさ、机で作ったステージで歌ったりするのって、今じゃありえねぇのかなぁ」。……今となっては遠く彼方の思い出を、遠近両用レンズ越しに眺めている管理職世代の皆様、ご機嫌いかがでしょうか。宴会の余興で女装した上司に「課長!カワイイ〜!」の声をかけ、うっかりその道へと導いてしまったOL時代をお過ごしの皆様もようこそお越しくださいました。
こちらはたまさかスカートを履いただけで「おっ、何だ流矢。今日は女装か?」と言われてしまう、元祖ジェンダーフリー星からの使者、流矢アタルがお届けしております雲霧放談。今日も今日とて絶賛「梅雨明け十日」中、灼熱地獄の東京よりお届けいたします。

いやのっけから誤解を招く表現で失礼いたしました。別に自分がしたくてそうしてる、ってわけじゃないですよね、こういうのは。なんとかその場を盛り上げようとして一肌脱いでんだよオレは! ってことだと思うので「したがる」という表現は正確さに欠けますな。

日本各地でお祭りが盛んになる七月。中でも房主ムネアツなのが東海道戸塚宿は八坂神社の祭礼、通称「お札まき」であります。個人的に『一度この目で見てみたいお祭りランキング』堂々の第一位、毎年七月十四日に開催されるこのおまつり、氏子が集落を練り歩き踊りながら、神社のお札をまくという、聞けばシンプルな行事であります。しかし! 練り歩くのは赤い着物に襷掛け、姉さんかぶりの手拭いの下は白粉で顔を塗ったミスター和装美人たち。つまり「女装男子」がその大役を務めます。

島田髷のカツラを被った中心人物の唄う口説に合わせて、白塗りの姉さん被りがぞろぞろと練り歩く姿はなかなかにユカイです。唄が終わると手に持ったお札を高く掲げ、うちわでパタパタとあおいで宙に舞わせます。家内厄除け、ことに疫病封じとして、神社で授与されるものよりご利益絶大と噂されるこのお札、どうにか受け取って家に祀ろうと観衆がわぁわぁごった返すわけです。
このお札まき、かつては江戸や大阪の各地でさかんに行われていたそうですが、今では全国でここにしか残っていないのだとか。それにしてもなんで女装? というのも諸説あるようで、女性が芸能に関わることを禁忌とした時代背景によるものとする説、子供が疫病に罹らないように、母親たちが着物を氏子たちに託し、それを着て練り歩き踊ってもらうことで厄落としとした説などがありました。ご興味がおありの方、YOUTUBEでお札まきの様子がアップされておりますのでご覧になってみてください。

妙な祭りもあったもんだなあと思ったんですが、ふと自宅近所にある神社の例大祭、二年に一度開催される神輿巡行で、担ぎ手たちをよく見たら赤やピンクの長襦袢に襷掛けで、白粉を塗って担いでいるじゃないですか。詳しい経緯はわかりませんが、30年程前からこのスタイルでお神輿を担ぐことになってそのまま定着したとか。これは一体……?? 
あれっ、もしかすると他にも女装男子の祭りってあるの、と思って検索したら出るわ出るわ。女装した若衆が集落を走る「雷の大般若」(東京・東葛西)、漁師が女装して海に出る「大瀬まつり」(静岡・沼津)女装した若衆が神輿を担いで巡行する「おみゆきさん」(山梨・甲府)漁師が女装して神輿を担ぎ、海に入る「奥津比咩神社大祭」(石川・能登)……。一般的に漁師は女性が船に乗ることを禁忌とすることが多いのだけど、祭りの日くらい女っ気が欲しいな、だけど規則は規則だしな、ってことで折衷案としての「女装男子」なのかも。とはいえ海なし県である山梨の「おみゆきさん」は、川の氾濫防止を祈願するものだし、「お札まき」は街道筋の宿場町で疫病除けってことは、必ずしも海辺ばかりの話ではなさそうです。

「どうしてお祭りになると、日本人は女装してしまうのですか」
思わず子供電話相談室に聞いてみたくなったのをぐっと堪えているうちに、なんとなく忘れかけていたこの「お祭り女装問題」が再燃したのは先日のこと。
ふと実家で見つけた古い原稿用紙を読んでいて、その内容に目が釘付けになりました。祖父が書いたものだというその書き付けには、昭和二十年の敗戦を受けて翌年に引き揚げるまで暮らしていた、中国遼東半島の風物が記されておりました。すっかり焼けて枯葉色になった原稿用紙には、流麗とは言い難い万年筆による文字が並んでおり、とても読める代物じゃないなと思っていたのですが、じっと字面を見ていると……不思議なもんですな。どうにか読み下せてくるんです。その内容を一部抜粋してご紹介しましょう。

元宵節又は燈節
上元の夜、即ち正月十五日である正月十三日を上燈、十五日を元宵、十八日を落燈と云ふ。この間戸毎に竜灯、馬灯、猪八灯、獅子灯、氷灯等の飾灯篭を入り口に掛けてお祝いする。
一年中で最も永い最も賑やかな祭で、種々な灯篭を戸毎に掲げるのみでなく、夜々もなれば巷には女装した青少年が、各自毎に灯の入った絵灯篭を持って、腰振りも面白く鐘や太鼓につれて跳り抜く態、その間を打ち鳴らす爆竹や打揚げる花火の華麗なるなど、大変な賑やかさで、中でも十四、五才の少年が美少女に扮し、顔の化粧も花の如くなるが、灯の入った絵灯篭を両手に掲げた一行二十名ほど、これも腰振面白く跳る態、または十五、六才の少年がこれも美少女に扮して、同じく灯の入った舟型の大灯篭の中に入り、腰の辺りで両手に提げ、舟の揺れる仕草よろしく舞ふ態……(中略)……ざっとこんなのが元宵節、別名燈節の一行事である。

読みやすいように適宜句点で区切りましたが、いかがでしょう。
そして房主、間違いに気づきました。「どうしてお祭りになると日本人は女装してしまうのか」。これは設問としては正しくなかった。だって中国人も女装してるんだもん。小正月の慣わしに女装男子とはこれいかに? 祭りになると女装してしまうのはアジア共通のカルチャーなのでしょうか。もしかすると世界共通の……?? うーむ。実に興味深い。

■■■ 今回のまとめ ■■■
●ヤマトタケルも女装してたしねぇ。
●そう考えると「女装は日本のお家芸」なのかも??
●「梅雨明け十日」は、梅雨明け後の十日間はめちゃ晴天が続くよ!というお天気慣用句だよ!

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