第7話 禁断の恋

文字数 2,564文字

(人間と魔族が一緒になると、ふつうの村にはいられなくて、ミスティ村のようなところに流れてくることになるんだよね)
だから、ミスティ村にはそういう家庭が多い。
(人間と魔族で恋愛なんて、無理っぽい気がする……)

人間と魔族は違うことが多い。

まず魔法が使えるか使えないかの問題。人間は使えないから、手を触れずにいろいろなことができる魔族が気味悪いらしい。


それから寿命。

人間の方が短いから、残された魔族はけっこう辛いそうだ。

(それも聞いた話だけどさ……)
そういう話を本で読んだ。
(ミスティ村に住んでる人間と魔族はなんかラブラブな感じだし)

ミスティ村は、他の場所で迫害された人たちがようやくたどり着いた安住の地なのだ。

(私は物心ついた時にはミスティ村にいたから、他の場所でのことは知らないけど)

そういうことを乗り越えた恋人同士が、ようやくたどり着いた安住の地。でも、人間の方が先に死んでしまって、亡くなってしまった恋人を想って、孤独な世界を生きる。

(私が人間の男の人と付き合うと、そういう想いをすることになるんだろうな)

きっと、私の方が長く生きるから、愛しい人が死んで、残った人生を悲しんで生きなければならなくなる。その人を想って、泣いて泣いて、哀しくて哀しくて、花に囲まれても、哀しくて。


愛しい人を想って……

(あれ? なんか……、それってもしかしてロマンチックじゃない?)

でも、リアムなら、そういう心配はない。

(だからお姉ちゃんはバレンタインにリアムにチョコを渡せなんて言ってたってこと?)

こっちを見ないようにしていたリアムをこっそりと見た。

……
整った顔立ちの、赤い瞳が太陽の光を反射させてキラキラ光っていた。
(カッコいいのは認めるわよ)
私の場合、相手が人間だと、やっぱり向こうは私のことを避けるんじゃないかと思う。
(なんだかんだ言っても、私ってかわいいけど、魔法が使えるわけだし……)

魔法が使える女の子なんて、恋愛対象として見てもらえるんだろうか?

それに、私も魔族と付き合うとか、考えたこともないし……

(ちゃんとした魔族って、あんまり見たことないんだよね……)
ミスティ村に住んでいる魔族は、奥さんとか彼女とかいる。

一緒にいたいからミスティ村に来たわけで、人間の村とか魔族の城とかにはいられない。

(と、いうことはだよ……)
……
(リアム、一択ってこと?)
比較対象がいないもの……。

年齢もちょうどいいし、同じ魔族と人間の混血だし……。

……
カッコ悪いわけじゃないけど、なんか頼りないのよね……。

ひとりで魔王の城まで行けるのはすごいと思うけど、門番のモリーには敵わないわけだし。

(なんて言うか……、どこか抜けてる?)
すごいっちゃ、すごいんだけど、何か物足りなさがあるのよ。
なあ……
なに?
なんで、さっきからチラチラこっち見てるんだ?
別に……
そうか?
悪いヤツではない。

むしろ、とってもいいヤツだ。


なんだかんだ言って、何かと気が付くし、お姉ちゃんたちに使われるところはあるけれど、さりげなく優しいし。


でも、一択なのだ。

比較対象がない。


選べないのだ。

ねえ、リアム
あ?
私たちの関係って

何だろう……

はぁ?
間の抜けたような顔で聞き返してきた。
さっき

家族だって言ってたんじゃねーの?

そういえば言った。

そんなことを……

……そうじゃなくて。

他になんかないわけ?

宿屋の娘と客?
……
間違ってはいない。

その通りではある。

もうひと声。
はぁ?

何が言いたいんだよ。

おっ

幼なじみとかは?

声が裏返った……。
……
リアムが黙り込む。
……
私も黙り込んだ。
幼なじみか……
しみじみとリアムが言った。
言われてみると、俺、もうずいぶん長いことミスティ村にいるよな……
家、帰らなくてもいいの?
そろそろ

帰ってもいいのかもしれないけど……

けど?
俺、強くなるまで帰らないって決めてるし。
じゃあ、いつまで経っても帰れないんじゃない?
……
反論してこなかった。
(リアムが家に帰っちゃったら、淋しいかもしれないな……)
モリーから1本取ったら

父さんに報告しに帰ろうかと思ってるんだけど……

モリー

強いんでしょ?

あともう少しのような気もするんだけどな……
なんとなく、モリーにがんばってもらいたいって思った。
(モリー、強そうだから、大丈夫だよね)
そう思ってハッとする。
(リアムはウチの収入源だし、いなくなるとウチの宿屋が困るってだけだから)
そして、持っていたバスケットをぎゅっとに抱え込んだ。
これ、あげる。
リアムにバスケットを渡した。
いや……

もう、いら……

いらないと言おうとしているのはわかったけど、それでも強引に押し付ける。

あげる。
そう言って、リアムを睨み付ける。
……ありがとう。

観念したようにリアムは言って、バスケットを受け取った。それを膝の上に置いて、手持ち無沙汰な感じで両手で押さえていた。

今日はしかたがないわ。

魔力がなくなっているんだもん。

だから、

しかたがないから、このお菓子をあげる。

あ……うん。
はっきりしない感じでリアムはうなずいた。

リアムはわたしの幼なじみなの。

昔から知っているってだけで、べつに好きってわけじゃないからね。

は?
言ってから『しまった』と、なんか思った。

これ、チョコマフィンじゃないからね。

と、念を押す。

違う味だったし……

素な感じでリアムが言う。たしかに、クソまずい状態でも、魔法を使った後に食べたおいしい状態でも、チョコの味はしなかった。

そうよ。

だから、チョコレートじゃないの。

魔力がない時だけ、超絶においしくなるお菓子。


いいえ。お菓子でもない。

ただの、魔法のグッズってこと。


チョコレートを渡したわけじゃない。

何の問題もないわ。

わたしね、

リアムのお父さんとお母さんみたいな恋愛、してみたいの

あ”?

リアムは迷惑そうな顔をした。

みんなから反対されて、

それでも愛し合っているふたりって、よくない?

そう思ったら、ドキドキした。

はじめは反対されてたみたいだけど、いまはみんな、諦めてるって感じで……

ほら、やっぱり愛の力って、偉大じゃない?

どっちかっていうと、

いまさらって感じだと……

リアムはどうしてこの偉大さがわかんないの?

……わかんないかも?

間抜けた顔でリアムが言った。


やっぱり、リアムはお子様ね。

そう思ってため息をついた。


だって、リアムとだと禁断の恋にならない。

それは何か違うような気がした。

……
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登場人物紹介

シェリル(14)

人間と魔族の間に生まれ、魔法が使える。

宿屋の三姉妹の末っ子

リアム(16)

とある国の国王の孫だが修行の旅に出されてミスティ村に長期滞在している。

ミランダ(19)

シェリルの姉

宿屋の三姉妹の頼れる長女

ブレンダ(19)

シェリルの姉でミランダの双子の妹

宿屋の三姉妹の仕事ができる次女

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