第8話 二人の姉たち

文字数 1,913文字

ピ~
空からピーちゃんの声が聞こえてきた。
ん?
上を見るとピーちゃんはクルクル回ってこちらに向かって来る。

そして、バスケットを持ったリアムの頭に止まった。

イテッ

降りてきた衝撃もあり、リアムの頭が前に倒れた。

ぴぴっ
(ピーちゃん、嬉しそう)
リアムの頭の上でさえずっていた。
シェリル!
シェリル

揃った声がして、ピーちゃんに続いてお姉ちゃんたちが走ってこっちにやってきた。


シェリル。大丈夫?

怪我とかしてない?

二人に囲まれた。

近くて少し驚いた。

お姉ちゃんたち……

怒ったようなブレンダお姉ちゃん、安心させるかのように微笑しているミランダお姉ちゃん。それぞれがそれぞれなりの心配そうな感じで来てくれた。

そんなお姉ちゃんたちを見ていたら、じわっと涙が出てきた。

どうしたの?

何があったの?

心配そうな声で、ブレンダお姉ちゃんが言って、きゅっと肩を抱かれた。

ブレンダお姉ちゃん……
リアム、

これは何?

えっと……
ミランダお姉ちゃんは、リアムの持っていたバスケットを見ていた。

いつの間にか、リアムはマントをすっぽりとかぶっている。

……
マント、隠してたのに、持って行かれたの気づかなかった。
シェリル、

これが原因?

バスケットの中を見て、ミランダお姉ちゃんが言った。
どれ?
ブレンダお姉ちゃんがそう言うと、ミランダお姉ちゃんがリアムからバスケットを取り上げてブレンダお姉ちゃんに渡す。

コレは何?

はじけ飛んだような形の、魔力は回復できるけど、とてもじゃないけど食べ物には見えない物体を見てお姉ちゃんが言った。
……
答えられなかった。

ブレンダお姉ちゃんのレシピの通りなら、フワフワなチョコマフィンができていたはずだから。

たぶん、私が用意した魔力を回復する木の実のせいだと思うわ。

わたしの代わりにミランダお姉ちゃんが答えた。

トッピングしなさいって言ったじゃない。火を通すとはじけとんじゃうのよ。

困ったことをした子供をたしなめるように、お姉ちゃんはわたしに言う。


言われてみたら、ミランダお姉ちゃんは「トッピングしろ」と言っていた。あれは完成品にふりかけろということだったのか? それなら、ブレンダお姉ちゃんのフワフワなチョコマフィンの上に、少しだけあの薬っぽい実が乗った程度で、ここまですごくまずいお菓子にはならなかったかも……。

堅そうだったから、

中に入れた方がいいかなって……

ミランダお姉ちゃんもブレンダお姉ちゃんも、わざと私にこんな物を作らせようとしていなかった。心配して来てくれて、抱きしめてくれて、怒ってくれて……。


そう思ったら、涙が出てきた。

もう、シェリル。

泣かなくてもいいでしょ。

ミランダお姉ちゃんが私の頭を優しく撫でてくれた。
う……。
ほっとして、温かくて……。

余計に涙が出た。

ちゃんと言わなかった、私が悪かったわ。

ごめんなさいね、シェリル。

ミランダお姉ちゃんの言葉に、思い切り首を振る。

お姉ちゃんがくれた木の実、細かく砕くより、入れちゃった方が早いかなって思っちゃったの。

コーヒーミルでガリガリするのが面倒になって、途中で生地に放り込んでいた。
そんな時はどうするか

今度、教えるから。

うん
今度こそ、ちゃんとした物ができるように、ブレンダお姉ちゃんから料理を教わる……
それに

失敗したからって何も言わずにいなくなったら心配するでしょ?

怒るというより、心配しているようにブレンダお姉ちゃんが言った。


失敗なんて

誰にでもあるんだから。

優しくミランダお姉ちゃんに言われて、言葉に詰まった。

……
どうしたの?

ミランダお姉ちゃんが、わたしの顔を覗きこむ。

……わざと、失敗するように、

ふたりで相談したのかなって

それを言うと、喉の奥がキュッと痛くなった。

まるで、言ってはいけないことを言ってしまって、声が出るのを止めるみたいに。

……
二人が息を飲むのが分かった。
……

すると、ミランダお姉ちゃんが、わたしとブレンダお姉ちゃんを優しく抱きしめた。

おバカさんね、シェリルは。

誰もそんなことしないわよ。

でも、魔法、使えるし。

血、つながってないし。


……

そう言うと、ブレンダお姉ちゃんが、力強く抱きしめてきた。

そんなこと関係ないわ。

シェリルは大切な私たちの家族よ。

強く強く、ブレンダお姉ちゃんは言った。

使える魔法だって

攻撃魔法で、みんなに迷惑かけちゃうし……

わたしが使う魔法は、何も直さない。

壊してばかり。

かわいい妹がすることだもの。

迷惑だなんて思わないわよ。

壊れたら直せばいいのよ。

お姉ちゃ~ん

ふたりに抱きついて、思いっきり泣いた。

しょうがない妹ね。
ほんと、やんなっちゃうわよ。

こんなことでわたしたちに心配かけて。

ごめんなさ~い
 

 

 

 

 

 

 

 


……
リアムは困ったようにわたしたち姉妹の様子を見ていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

シェリル(14)

人間と魔族の間に生まれ、魔法が使える。

宿屋の三姉妹の末っ子

リアム(16)

とある国の国王の孫だが修行の旅に出されてミスティ村に長期滞在している。

ミランダ(19)

シェリルの姉

宿屋の三姉妹の頼れる長女

ブレンダ(19)

シェリルの姉でミランダの双子の妹

宿屋の三姉妹の仕事ができる次女

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色