第2話 ミランダお姉ちゃんがくれた木の実

文字数 2,605文字

私は魔法が使える。

外見はふつうの人間と同じ。白い肌に赤毛。姿だけでミックスと言われたことはない。


赤ちゃんの時は(つの)があったらしいけど、ミランダお姉ちゃんがへし折ったそうだ。

その時のお姉ちゃんはまだ5歳だったらしい。

いらないと思ったのよ
そういう問題でもない。

でも、ミランダお姉ちゃんはそういう人だった。

お姉ちゃんに角をへし折られても、魔法は使えた。

魔法が使えたり異形の姿をしていると魔族と言われるそうだけど、

シェリルはウチの子なの。

ウチは人間の一家だからシェリルは人間よ

と、ミランダお姉ちゃんは言い切っている。

でも、私が得意なのは、よりにもよって攻撃魔法だった。

せめて

治癒魔法だったら……

治癒魔法なら怪我や病気を治せて、みんなの役に立てる。でも、私が得意なのは攻撃魔法。


だから、村のみんなは私に魔法使いの服をくれた。モスグリーンのかわいいローブ。

宿屋の仕事はしないから、メイド服はもらえなかった。

ブレンダお姉ちゃんに比べたら

何にもできないし……

仕方がないとは思う。
だって、

不器用だし……

二人がもらったメイド服を見て、
いいな……
と言ったらお姉ちゃんたちはヘッドドレスをくれた。
似合っているわよ、シェリル
私とブレンダが着けるより

ずっといいわ

と、お姉ちゃんたちは言っていたけれど、

そういう意味で「いいな」って言ったわけじゃなかったんだけど……

2つも着けられないから、洗濯した時とか交互に使っている。


魔法使いの服は着たくなかった。でも困ったことに、すっごくすっごくかわいい。腕はいいのにミスティ村に流れてきた村人が作ってくれたローブ。めちゃめちゃカワイイのだ。


お金を使って強い装備を整えられる最後の場所のミスティ村。そこで売られるのにふさわしい、魔法防御にも優れている最高級の物だけど、まだ着たことはない。


本当は僧侶の服が欲しかった。僧侶なら治療ができる。僧侶になりたいと言っても信仰心はない。でも、僧侶ならみんなが怪我をした時に、治すことができる。


私は壊すことしかできない攻撃魔法ばかりが得意。

それなのに、リアムは治癒魔法が得意だった。

宗教のことなんて

わかるわけないだろ

と、言いながら、僧侶をやらされている。

私だってわかんないのに

なんでリアムばっかり……

同じ『わからない』んだから、私でもいいじゃないかと思う。

怪我とか治せないけど……

……やっぱり無理かな?


リアムは魔王城の攻略に行く以外の日は、教会で毒を解いたり、呪いを解いたりしている。人間のお医者さんもいるけど、村人の病気や怪我はリアムが治すことが多い。


仮の資格を与えられて教会にいるだけだから、蘇生はできない。でも、いつか、蘇生ができるようなすごい僧侶になりそうな気がする。


なんだかんだ言って、他人の役に立つの、好きだから。

……リアムは。

はぁ……

ため息をついて、生地をこねる。他にやることもなかったし、ブレンダお姉ちゃんの言う通りにするのはしゃくだったけど、マフィンを作っていた。


ひまだから、しかたがなく作っているだけだし。

リアムにあげるわけじゃないし……
お客さんには出せないから

ウチの人間で食べればいいし

仕方がなく作っているのだと思いながら、ボールに入れた生地を混ぜていた。
シェリルっ

5歳で私の角をへし折ったミランダお姉ちゃんが、両手に何かを持って受付からやってきた。


怖いくらいに上機嫌だった。

何?
手を止めて聞いた。
じゃーん
ミランダお姉ちゃんの細くて綺麗な声。

お姉ちゃんたちは美人で声まで可愛い。だからめちゃめちゃモテる。


いつもニコニコなミランダお姉ちゃんが、いつもの倍以上の笑顔で両手を私の前に出す。お姉ちゃんが広げた手のひらの上に1センチくらいの木の実が5つほど乗っていた。

何? これ
丸くてしわしわな感じ。

木の実っぽい茶色で独特な匂いがした。

魔力を回復する木の実よ
……そうなんだ
……
あまりおいしそうではない木の実を見てそう言うと、お姉ちゃんは笑顔のままグイグイと私にそれを押し付けてくる。
なに?
何が言いたい?

お姉ちゃんは木の実を私に押し付けてきて、仕方がなく両手で受け取った。

トッピング、

してみたら?

首を傾げ、おっとりと言う。
これに?
練っていた生地を見て言う。
そうよ
お姉ちゃんは笑顔のまま上品にうなずく。そして、そそくさとキッチンの壁にある棚まで行き、そこからコーヒーミルを持ってきて、私の前に置く。
ハイ
……

これを使って砕けってことだろう。

コーヒー豆以外に使ったら、ブレンダお姉ちゃんが怒るんじゃないかな?

美味しいの?
食べたことないからわからないわ
味は二の次なの?
魔力は回復するんですって

気持ち悪いくらい、ニコニコしてる……。

誰に教えてもらったの?
……
……
コレ、教えてくれないヤツだ……。
……ありがとう
どういたしまして
よくわからなかったけど、受け取った。

お姉ちゃんが受付に戻って行ったので、改めて木の実を見る。


干からびた感じで、おいしそうに見えなかった。でも、ミランダお姉ちゃんが無意味な物を渡すことは少ないような気がしたから、とりあえずコーヒーミルに入れてみる。

入った
いい感じそうだったから、挽いてみる。

ゴリゴリという音がする。


ちょっと挽いてみて、様子を見る。


茶色い細かい粒になっていた。

毒物ではないような気はした。


ミランダお姉ちゃんは薬草類やキノコ類に詳しい。

誰から教わったのかわからないけれど、いろいろなところに生えている草木の活用方法を良く知っている。


食べられない物は持ってこない。

美味しくはないかもしれないけど、健康には良さそう?

干からびたような感じの匂いはした。

でも、そこも含めて健康に良さそうな気がしてきた。


健康には良さそう。

美味しいとは限らないけど、健康には良さそう。

紅茶のマフィンっぽい感じになるのかな?

そんな想像をしてみた。

そして、生地に混ぜてみる。


チョコの色になっていた生地に小さな粒が入った。

なんか、

チョコチップみたい

見かけだけは美味しそう。

甘いチョコチップが入った感じを想像して混ぜた。


ただ、この時、すぐに気づくべきだった。

どうしてブレンダお姉ちゃんが食事係で、ミランダお姉ちゃんが受付係なのかということを。


ミランダお姉ちゃんに逆らうのは無理なので、そういうことは考えず、ミランダお姉ちゃんが持ってきてくれた魔力を回復させるという木の実が入った生地を型に流し込み、ブレンダお姉ちゃんがいつもやっているようにオーブンに入れた。

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登場人物紹介

シェリル(14)

人間と魔族の間に生まれ、魔法が使える。

宿屋の三姉妹の末っ子

リアム(16)

とある国の国王の孫だが修行の旅に出されてミスティ村に長期滞在している。

ミランダ(19)

シェリルの姉

宿屋の三姉妹の頼れる長女

ブレンダ(19)

シェリルの姉でミランダの双子の妹

宿屋の三姉妹の仕事ができる次女

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