三十四

文字数 608文字

 タザキコウゾウが政界を引退してから二十三年後。東京、神田神保町のマンション。ショウとユキナが夕食後、部屋でテレビを観ていた。今日はショウが非番で、ユキナも収録が休みだった。
「ショウ、暑いな、オイ、窓閉めてエアコンにしようぜ」
「お前がこんな暑い日に鍋なんか作るからだ。部屋にキムチのにおいが充満しちまっただろう」
「何だよ、文句あんのかよ、お前が毎日コンビニの弁当ばっか食ってっから、たまには手料理食わせてやろうと思っただけじゃねーか」
 ショウが苦笑する。
「六月ってこんなに蒸し暑かったっけ? 年々熱帯化してるように思えるんだけど、アタシの気のせいか?」
「いや、俺もそう思う。台湾や東南アジアに似てきた」
「ところでさ、ショウ、お前の祖父さん元気にしてっかな? こう暑い日が続いちゃ年寄りには酷だろ」
「さあな、ウチの祖父さんは特別仕様だからな」
 するとショウの携帯電話が鳴った。
「ん? 誰? 仕事なら切れよ」
 ショウが苦笑しながら携帯電話を取る。
「実家からだ」
 電話はお手伝いのシズエさんからだった。
「ショウ坊ちゃん、旦那様が・・・・・・旦那様が・・・・・・」
 ショウが言葉を失った。携帯電話を耳にあてたまま動けなかった。

 鼓動が耳元で脈打っていた。
                           (了)

※ここまでお読みいただき、誠に有難うございます。
引き続き、虫たちは明日を目指す7「醉夢」を宜しくお願いします。
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