第2話

文字数 3,903文字

「……え?殺し……?」

「いや……、それがそのナイフについていた指紋は被害者のものだったらしいよ。仏さんを調べたところ、どうやら麻薬が検出されたらしい。恐らく麻薬を使用しての自殺だという見解だよ」

 何か手伝うことはないかとやって来た冴子に玄が苦々しく言葉を綴る。

 今日の朝、ホテルの清掃員が部屋を掃除しようと思い、その部屋に入ったところ、女性の遺体が発見された。揉み合った形跡はなく、凶器のナイフにも被害者の指紋しか検出されなかったため、自殺として判断された。その部屋には被害者の女性ともう一人いたそうだが、そのもう一人は現場にいなかった。恐らく、女性がどういう状況かは分からないが、死亡したことにより、逃げ出したのだろうと警察は踏んでいる。なので、その逃げた人物を追っていると同時に麻薬の入手経路を調べるという事になった。

 玄が「なんでそんなのに手を出したんかね……?」と呟きながら言葉を綴った。

「……その逃げた男が麻薬を所持していた可能性があるってことよね?」

 冴子が話を聞いてそう言葉を綴る。しかし、玄から出てきた言葉は驚く言葉だった。

「いや、逃げたのは男ではなく女だよ。後、仏さんもその逃げた女も『売り』をしていたんじゃないかという話だ。防犯カメラに写っていた格好からそう踏んでいるらしい……」

 玄の言葉に冴子は何も言えずにいる。『売り』をしている女性の理由は様々だ。大半はお金のためにそういうことをしているのだが、中には自暴自棄になってそういった事に身を堕とす人もいる。他には、裏社会とつながっており、そういう事を無理やりされられている人もいたりと様々だ。

「まぁ、今はその逃げた女の行方を追っているそうだよ」

 玄がそう言葉を綴る。

「その事件は誰が担当しているのかしら?」

「担当することになったのは本山さんと杉原さんだよ」

「あの二人か……」

 玄の言葉に冴子がそう言葉を漏らす。

 本山と杉原は奏が特殊捜査員になった事件を担当した警察官だ。場合によっては本山と杉原から何か情報が得られるかもしれない。

「じゃあ、また何か手伝うことがあったら言ってね♪」

 冴子はそう言うと、玄のいる捜査室を後にした。



「……ふぅ、疲れたな……」

 徳二は部屋に着くと、上着を脱いでコンビニで買ってきたビール缶を開けた。そして、ビール缶を片手にリモコンを取りテレビを付ける。

『……本日、あるホテルで女性の遺体が発見されました。発見されたのは女性で死因はナイフによる刺殺死という事です。尚、被害女性は売春行為をしていたらしく、警察は事件と事故の両方で捜査をしているという事です……』

 テレビからそんなニュースが流れてくる。徳二はそのニュースをぼんやりと見ていた。ビールを飲みながらつまみに買ったビーンズをポリポリと音を鳴らしながら食べる。

(……昨日の子もあんなことを続けていたらいつかは殺されるかもな……)

 そんなことを心で呟く。

 昨日の夜、徳二に声を掛けてきた女性を徳二は結局断った。そんな気分になれないのもあったし、自分の年齢を考えると娘ともいえる年齢の女性を抱けるかと言われれば、出来ないというのもあった。

 黙々とビーンズを食べながらビールを飲む。やがて、睡魔が襲ってきて、徳二はそのまま深い眠りに落ちていった。



「……じゃあ、この子は国籍がないってことなのかな?」

 杉原の質問に少女たちが頷く。

 本山と杉原は例のホテルで亡くなった女性の素性を調べるために夜の繁華街で聞き込みをしていた。この辺りは夜になると、女性が男性に売り目的としての溜まり場になる。女性はそこで男を買い、ホテルに行き、行為をする代わりに金銭を受け取っている。そこに目を付けて、本山と杉原はそこで何か情報が得られないかと聞き込みを行っていたら、亡くなった女性が無国籍であることが分かった。国籍がないためにまともな職に付けずに、そういった事でお金を稼いでいたという。

「ちなみに、この人と仲良かった人っていなかったかな?」

 杉原の質問に少女たちが「うーん……」と考える。

「……仲が良いかどうかは分からないけど、たまに二人で男をひっかけているのは見たことあるよ?」

 少女の言葉に杉原が内ポケットから一枚の写真を取りだす。

「それは、この人?」

「……はっきりとは言えないけど、多分この人だと思う……」

 写真を見ながら一人の少女がそう呟く。その写真に写っているのは、ホテルの防犯カメラが捉えた逃げた女性だった。

「協力ありがとう。ところで、君たちは何故ここに?まだ未成年だよね?」

 杉原の質問に少女たちがどこか焦りを見せる。

「ちょ……ちょっと、買い物してただけで……そろそろ帰ろうかな~って話していたところだよ!ねぇ?!」

 一人の少女がそう言って一緒にいる少女にそう言葉を発する。

「う……うん!買い物、終わったしね!」

 少女たちはそう言いながら慌てふためいている。きっと、彼女らも誰か男をひっかけてそういう行為をする代わりに金銭を貰おうと、その場にいたのだろう。しかし、そういった事は現場を押さえないと捕まえることはできない。

「もう、遅いから気を付けて帰るんだよ?」

 杉原が少女たちにそう声を掛ける。少女たちは返事をすると、足早にその場を去って行った。

「やれやれ……。平気で自分の体を売る人間が増えているな……」

 去って行った少女たちを見ながら本山がため息交じりにそう呟く。

「そうですね……。まぁ、彼女たちからすれば、その方法が稼ぐのに手っ取り早いのでしょうね……」

「まともな大人にならんな……。全く、日本の行く末が心配だぜ……」

「えぇ……」

 本山と杉原がため息をつく。そして、亡くなった女性がよく一緒にいた女性が何かを知っていると踏んで、その女性の捜査を再開した。



「……はぁ、なかなか終わらないぜ……」

 連日の書類整理に紅蓮がため息を吐く。

「これも仕事だ」

 紅蓮の言葉に槙がそう言葉を放つ。

「こんな……こんなことをしていたら俺はもやしになってしまう~!!」

 紅蓮が泣きそうになりながらそう声を発する。

「勝手に泣いてろ」
「相棒に酷いわ!!」
「知るか、オカマ男」
「オカマじゃねぇよ!!」
「じゃあ、もやし男。仕事しろ」
「うるせー!!」

 紅蓮と槙の相変わらずのやり取りが続く。

「……仲が良いのか悪いのか分からないですね」

 奏がその様子を見てそう言葉を綴る。

「まぁ、あれはあれでいいんじゃないのか?」

 透が興味なさげに言う。


 ――――ガチャ!


「ハァ~イ♪書類整理は進んでいる~♪」

 そこへ冴子が戻ってきて、陽気な声を上げる。

「何とか進んでいますよ」

 冴子の言葉に透が返事をする。

「そうそう、さっき玄さんに聞いたんだけど、ホテルで女性の遺体が発見されたそうよ。まぁ、私たちにお呼びはかかっていないんだけどね。その事件は本山さんと杉原さんが担当しているみたい。奏ちゃん、この二人覚えてる?」

「え?」

 突然、冴子に質問を冴子に投げつけられて、奏が声を出す。そして、しばらく考えてその二人のことを思い出した。

「……あっ!あの事件の時の……!」

 奏が声を上げる。

「そうよ♪奏ちゃんが身代わり誘拐された時に担当した警察官よ♪」

 冴子が嬉しそうに声を上げる。

「そこで、奏ちゃん♪良かったらなんだけど……」

 冴子がそう言って、ある事を奏に提案した。



「……はぁ~、参ったな~……」

 ある一室で一人の女性がそう言いながら項垂れている。

「まさか、死んじゃうなんて……」

 そう呟きながらため息を吐き続ける。

「……どうしたんだよ、絵梨佳(えりか)。ため息ばっかついて」

 そこへ、タバコを吸いながら一人の男が絵梨佳と呼ばれた女性に声を掛ける。

「おかえり。ちょっと、やばいことになってさ……」

「やばいこと?」

 絵梨佳がそう言うと、男はその言葉を繰り返す。

「マサから貰った例のやつ……、リコに使ったら狂ったように踊りだして、ナイフで自分の胸を刺しちゃったんだ……」

「マジかよ……」

 絵梨佳の言葉にマサが愕然とした表情で言う。

「……マサがあれは気分が明るくなる魔法の薬って言ってたけど、あれってもしかして……」

 絵梨佳がそこまで言って言葉を詰まらす。

「……麻薬かなんか……だよね?」

 絵梨佳が意を決して言葉を綴る。その言葉にマサは何も答えない。沈黙が続く。

「……ちょっくら出掛けてくるわ」

 マサがそう言って、腰を上げて部屋を出て行こうとする。

「ちょっと待ってよ!マサ!!」

 絵梨佳が引き止めようとするが、マサはそのまま部屋を出ていった。一人残された部屋で絵梨佳が鞄から例のものを出す。

「……なんでこんなもの持っているのよ……」

 そのものを見つめながらポツリと呟く。



「あ、政明(まさあき)だけど、例のやつをあの女に渡したらどうやら別の女に使ったみたいで、その女が死んだらしい……。ったく……、予想外だったぜ……。あいつが使って狂わすのが目的だったのに、まさか別のやつに使うなんてな……」

 政明が苦々しく言葉を吐く。あの麻薬は元々、絵梨佳を狂わすために絵梨佳に渡したものだ。『気分が明るくなる魔法の薬』と言えば、躊躇わずに使うと思ったのでそう言って渡した。しかし、それをまさか他人に使うのは予想外だった。計画が狂い、更に死人が出たことで警察も絵梨佳を探している可能性がある。なので、どうすればいいか相談をするためにある人物に電話を掛けた。

「……あぁ……あぁ………、分かった……」

 政明が電話で話しながらそう答える。そして、更に電話の相手が綴った言葉に政明は背筋を凍り付かせた。そして、電話が終わるとそっと呟く。

「……殺されてたまるかよ……」

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