第3話 好きなところ
文字数 2,086文字
孝弘は俺のどこが好きなんだろう。
男で男が好きだという趣向では、人生を渡って行くのは並大抵の苦労じゃないだろう。
その上、親友だった俺に突然告白してきたんだ。
そうとう切羽詰まっていたんじゃないだろうか。
俺が見合いする相手、女と付き合うということに。
きっと、どうしようもない心の葛藤があって、追い詰められて、突然告白してきたんだ。
それを俺は「変態」だから「顔を見せんな」と言って孝弘を傷つけた。さらに自分が寂しいからとまた孝弘に近づいた。
こんな俺のどこが孝弘は好きだったんだろう。
いま思い返しても俺って最低だと思う。
自宅のアパートに帰って、ベッドの上でゴロゴロする。どうしても今考えたことが頭から離れない。
孝弘は、俺のどこが――
考え出すと落ち着かなくなって、電話することにした。
スマホ画面を開いて孝弘のページをプッシュ。通話音の間、落ち着かない気分は最高になる。こういうこと、電話して聞くことか? と自問しているうちに、すぐに電話はつながってしまった。
「和沙か。どうした?」
孝弘の低音の声が俺を気遣う。
それに俺は言葉がつまってしまった。
聞いてもいいことなのか?
「あ……俺……」
「なんだ? 言いたいことがあるなら、言えよ」
何か深刻な声音で孝弘は俺に聞く。
いい淀んでいる俺を気遣ってくれている。
そんなやさしさに俺は甘えた。
「孝弘ってさ。俺が好きなんだろ」
「……ああ」
少しの沈黙のあと、肯定の返事があった。
「どうして? 俺のどこが好きなんだ?」
「……どこって言われてもね」
そこからは俺は立て板に水のごとく、さっき思っていたことを話した。
「俺、最低なことした。孝弘のこと『変態』って言った」
「……ああ、それはな。覚悟はしてたから。お前の中の常識と俺の常識は違うし、お上品な常識の中で育ったお前に、俺のことをすぐに理解してもらうのは無理だと思ってたし」
「でもその後すぐに俺、顔を見せんなって言っておいて自分から孝弘に近づいた」
「俺は嬉しかったけどね。離れられない何かが俺にあるのかなって思って」
孝弘の言い方は茶化したものだった。そんなやさしさが心に染みる。
「ごめん」
「何が」
「今までの俺の態度。俺、すっげー失礼なことした」
そう言った途端、くすりと苦笑が聞こえた。
「そう言ったら俺も同じだ。そこに付けこんで『恋人ごっこ』しようって言ったの、俺だし。恋人ごっこ、の意味分かってるか? 俺はお前に色々したいんだ。恋人みたいなことをな」
「……」
突きつけられた事実に少し怯んで無言になってしまう。
「まあ、いい。それで俺がお前のどこが好きかだっけ?」
「……ああ」
「そういう率直なところだよ。普通曖昧にごまかすところをハッキリさせて、素直になれるところ」
「……意味が良くわからないけど」
「お前はそれでいい。今のままでいいから、今は俺のごっこ遊びに付き合ってみろ。きっと振り向かせてやるから」
「……」
「じゃあな。お前のこと、やっぱり好きだよ」
電話はプツリと、孝弘の笑みをあとに引いて切れた。
夕食を作って食べていたら、また携帯に着信があった。
今度は実家からだ。
またお見合いのことだろうか。
仕方がないので電話にでる。
「もしもし」
「ああ、和沙。元気でやってる? ご飯食べた? 実は今度の休みに例のお見合いの席を設けたのよ」
「はあ? 母さん、断ってくれって言っただろ!」
「そういう訳にもいかないって言ったでしょう。だから絶対に来るのよ。場所は父さんからメールしておいたから。都内のホテルの和風レストランを予約したから。時間通りにくるのよ」
そう言って電話は一方的に切れた。
俺に選択権はない感じだ。
ああ、今は孝弘のことで手一杯なのに、見合いまで抱えることになるなんて!
携帯を確認すると、父親からメールが入っていた。
某ホテルの高級料理店の名前と電話番号が書かれてあり、地図が添付してある。
「絶対にくるように」
と一言添えてあった。
これは……行かない訳にはいかなくなった。
少なくても、相手のお嬢様の顔をたてるという意味だけでも行くべきだ。
そうしないと、いくら何でも失礼だし、お嬢様が可哀そうだろ。
えーと、なんていったっけ。高瀬友理奈 さんだ。
名前からしてお嬢様っぽいな。
大きなため息をついたとき。
また携帯が鳴動した。
孝弘からだ。
『今度の休み、映画でもいかないか。今ヒットしている『宇宙戦争3』見に行こうぜ』
むむ。今度の休みというと、お見合いの日だ。
お見合いは昼間だから夕方からの映画ならば付き合える。
『夜の回だったら行ける。昼間は用事があるんだ』
そう返信すると、すぐにまた返信が帰ってきた。
『OK。夕方六時に迎えに行く。夕飯も食おうぜ』
『宇宙戦争3』は今一番のヒット映画だ。
楽しみだ。
でも、孝弘の家は映画館を挟んで俺の家とは正反対の場所にある。
映画館を通り越して俺の家に迎えにくるということだ。
……まめなヤツだな。
それだけ俺のことを大事に思ってくれているという事だろうか。
少しだけ、申し訳ない気がした。
男で男が好きだという趣向では、人生を渡って行くのは並大抵の苦労じゃないだろう。
その上、親友だった俺に突然告白してきたんだ。
そうとう切羽詰まっていたんじゃないだろうか。
俺が見合いする相手、女と付き合うということに。
きっと、どうしようもない心の葛藤があって、追い詰められて、突然告白してきたんだ。
それを俺は「変態」だから「顔を見せんな」と言って孝弘を傷つけた。さらに自分が寂しいからとまた孝弘に近づいた。
こんな俺のどこが孝弘は好きだったんだろう。
いま思い返しても俺って最低だと思う。
自宅のアパートに帰って、ベッドの上でゴロゴロする。どうしても今考えたことが頭から離れない。
孝弘は、俺のどこが――
考え出すと落ち着かなくなって、電話することにした。
スマホ画面を開いて孝弘のページをプッシュ。通話音の間、落ち着かない気分は最高になる。こういうこと、電話して聞くことか? と自問しているうちに、すぐに電話はつながってしまった。
「和沙か。どうした?」
孝弘の低音の声が俺を気遣う。
それに俺は言葉がつまってしまった。
聞いてもいいことなのか?
「あ……俺……」
「なんだ? 言いたいことがあるなら、言えよ」
何か深刻な声音で孝弘は俺に聞く。
いい淀んでいる俺を気遣ってくれている。
そんなやさしさに俺は甘えた。
「孝弘ってさ。俺が好きなんだろ」
「……ああ」
少しの沈黙のあと、肯定の返事があった。
「どうして? 俺のどこが好きなんだ?」
「……どこって言われてもね」
そこからは俺は立て板に水のごとく、さっき思っていたことを話した。
「俺、最低なことした。孝弘のこと『変態』って言った」
「……ああ、それはな。覚悟はしてたから。お前の中の常識と俺の常識は違うし、お上品な常識の中で育ったお前に、俺のことをすぐに理解してもらうのは無理だと思ってたし」
「でもその後すぐに俺、顔を見せんなって言っておいて自分から孝弘に近づいた」
「俺は嬉しかったけどね。離れられない何かが俺にあるのかなって思って」
孝弘の言い方は茶化したものだった。そんなやさしさが心に染みる。
「ごめん」
「何が」
「今までの俺の態度。俺、すっげー失礼なことした」
そう言った途端、くすりと苦笑が聞こえた。
「そう言ったら俺も同じだ。そこに付けこんで『恋人ごっこ』しようって言ったの、俺だし。恋人ごっこ、の意味分かってるか? 俺はお前に色々したいんだ。恋人みたいなことをな」
「……」
突きつけられた事実に少し怯んで無言になってしまう。
「まあ、いい。それで俺がお前のどこが好きかだっけ?」
「……ああ」
「そういう率直なところだよ。普通曖昧にごまかすところをハッキリさせて、素直になれるところ」
「……意味が良くわからないけど」
「お前はそれでいい。今のままでいいから、今は俺のごっこ遊びに付き合ってみろ。きっと振り向かせてやるから」
「……」
「じゃあな。お前のこと、やっぱり好きだよ」
電話はプツリと、孝弘の笑みをあとに引いて切れた。
夕食を作って食べていたら、また携帯に着信があった。
今度は実家からだ。
またお見合いのことだろうか。
仕方がないので電話にでる。
「もしもし」
「ああ、和沙。元気でやってる? ご飯食べた? 実は今度の休みに例のお見合いの席を設けたのよ」
「はあ? 母さん、断ってくれって言っただろ!」
「そういう訳にもいかないって言ったでしょう。だから絶対に来るのよ。場所は父さんからメールしておいたから。都内のホテルの和風レストランを予約したから。時間通りにくるのよ」
そう言って電話は一方的に切れた。
俺に選択権はない感じだ。
ああ、今は孝弘のことで手一杯なのに、見合いまで抱えることになるなんて!
携帯を確認すると、父親からメールが入っていた。
某ホテルの高級料理店の名前と電話番号が書かれてあり、地図が添付してある。
「絶対にくるように」
と一言添えてあった。
これは……行かない訳にはいかなくなった。
少なくても、相手のお嬢様の顔をたてるという意味だけでも行くべきだ。
そうしないと、いくら何でも失礼だし、お嬢様が可哀そうだろ。
えーと、なんていったっけ。
名前からしてお嬢様っぽいな。
大きなため息をついたとき。
また携帯が鳴動した。
孝弘からだ。
『今度の休み、映画でもいかないか。今ヒットしている『宇宙戦争3』見に行こうぜ』
むむ。今度の休みというと、お見合いの日だ。
お見合いは昼間だから夕方からの映画ならば付き合える。
『夜の回だったら行ける。昼間は用事があるんだ』
そう返信すると、すぐにまた返信が帰ってきた。
『OK。夕方六時に迎えに行く。夕飯も食おうぜ』
『宇宙戦争3』は今一番のヒット映画だ。
楽しみだ。
でも、孝弘の家は映画館を挟んで俺の家とは正反対の場所にある。
映画館を通り越して俺の家に迎えにくるということだ。
……まめなヤツだな。
それだけ俺のことを大事に思ってくれているという事だろうか。
少しだけ、申し訳ない気がした。