2024.4.16~2024.4.30

文字数 2,193文字

「うちのご主人、変わってんだ。おれが散歩中に出したやつを袋に入れて持って帰るんだぜ」
「うちもだよ。何でだろ?」
「もしかして、人間からしたら価値があるんじゃないか?」
「じゃあたくさん出せば……」
「褒めてもらえるかも!」
「よーし、たくさん出すぞー!」
 さて、結果は?
 (2024.4.16)


 立て札には『このはしわたるべからず』。しかし渡らなければ将軍の元にはいけない。さあ一休、この難題をどうとする?
「ならば渡らないだけです」
 その場に座り込んだ。やがて日が暮れて、
「いつまで待たせるのじゃ!」
 怒り心頭で近づいてくる将軍に、一休は無言で立て札を指差した。
 (2024.4.17)


 ヒロ先輩とチホ先輩は吹奏楽部のおしどりカップル。演奏中のアイコンタクトもバッチリだ。
「でもあんなに見つめ合って、ドキドキしちゃわないんですか?」
「バカだなあ、四六時中発情してるとでも思ってんのか?」
「は、発情って……」
「お子ちゃまねー」
 わたし、夢見すぎなのかな。
 (2024.4.18)


 老人の剣幕に圧されて、不動産業者はほうほうの体で逃げ出した。
「ひどい目にあった」
「あんな空き地、さっさと売ればいいのに」
「死体でも埋まってるんじゃないか?」
「まさか」

 事実、死体は埋まっていた。
(うるさい奴らは追い払ったよ)
 一緒の墓に入れない、彼が愛した女性の。
 (2024.4.19)


 山を駆ける。枝葉の痛みも猟銃の重みも忘れ、無心に足を動かす。笛が鳴った。灌木を飛び越えた先で、
(居た)
 銃を構える。照星は女の泣き顔を捉えた。
「お、お見逃しを――」
 引鉄を引く。
 最期に、女の口が動いた。
 どうして。
 それは俺が訊きたい。どうして、俺は撃たねばならないのか。
 (2024.4.20)


 見返りを求めないのが本当の愛なんだそうだ。ならば私は本当の愛にたどり着けそうにない。愛したぶんは愛されたい。目に見えるかたちで示されないと不安になる。だから今、この手にあるものは偽物だ。そして、彼の手にあるものも。偽物でもそれなりに、ピースは填まるようにできている。
 (2024.4.21)


 歯科の待合室に、親子が並んで座っている。子供は頬を押さえてつらそうだ。名前を呼ばれた。診察室に消えて間もなく、ドリルの音が響いてきた――が、妙な金属音に断ち切られた。親子が出てきた。
「ここもダメだったわね……」
 見送る医師の手には、刃の折れたドリル。
「お、おだいじに」
 (2024.4.22)


 一生のうちに愛はいくつも持てるもんじゃなく、たったひとつを使い回している。冷めては温めてを繰り返すうちに固くなり、焦がすほどの熱じゃないと反応しなくなってしまう。なんという欠陥品。神さまに取り替えてと訴えたら鼻で笑われた。そんな手垢にまみれた汚いの、誰がいるものか。
 (2024.4.23)


 親にねだって買ってもらったゲームなのに、いつまで経ってもクリアできない。セーブデータは1-1から進まない。冒頭、無防備に歩いてくるザコキャラは、崖があるのに止まらず、そのまま落ちていく。主人公――ぼくは一歩も動けない。平然と死に向かう彼の無表情が、ぼくの指を凍りつかせる。
 (2024.4.24)


 一見、無関係な客が隣り合って食事をしているようだが、
(誰かを張っているな)
 そう思うのは、二人の視線がある方向から一瞬も途切れないからだ。やがてひと組の客が席を立つと、一人が勘定を済ませて後に続いた。そしてもう一人も。間違いない。伊達に長いこと指名手配犯やっていない。
 (2024.4.25)


 わが社はオフィスの中で猫を飼っている。役職もあり、その名も『くつろぎ空間推進部長』だ。もちろん肩書きだけでなく、
「部長、どの案にされますか?」
「うぅ~……しゃっ!」
 決裁もちゃんとできるのだ。しかも選んだ案はすべて効果が出ていて、
「にゃあ~」
 部長自ら体感している。
 (2024.4.26)


 乗っていた飛行機が墜落し、無人島に流着して1ヶ月。何とか生きてきたが、そろそろ限界……と思ったそのとき、沖合いに船を見つけた。なりふり構わず手を降る。
「助けてくれー!」

 双眼鏡で眺める船長は、
「特攻すら辞さないテロリストも、極限状態を経験すれば死にたくなくなるのか」
 (2024.4.27)


 最近、気分が塞いでいる。小さなことでカリカリしてしまい、余裕が持てない。気にするな、頑張っていると人は言うが、気にしすぎ、頑張っているだけと聞こえてしまう。結果を出さねば成果を見せねば――頭が割れそうだ。越えなければならない壁は厚い。だけど……退くのだけは絶対に嫌だ。
 (2024.4.28)


 空港に警報音が鳴り響いた。一人の乗客に金属探知機が反応したのだ。警察が身体検査をするも、何も出てこない。しかし探知機は毎度鳴ってしまう。故障か?
「いいえ、機械は正常ですよ」
 連れの女性が乗客に触れると、頭部が開き、電子回路が露出した。
「まだまだ改良の余地があるわね」
 (2024.4.29)


 ポイ活にハマっている友人。嬉しそうにアプリを見せてくる。
「ポイント欲しさにそれ以上買ってたら意味ないんだからね」
「分かってるって」
「で、いちばん貯まってるのはどれよ?」
「これ」
 画面には、終身保険の四文字。
「夫にかけてるやつ。受け取りが楽しみだわ」
「あんた……」
 (2024.4.30)
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