第134話 泉と先生との出会い その11

文字数 888文字

ぞあぞあと背筋に寒気が来る。

「いやだ、これ、取れないんですか?」

「不思議なんですよね。本来、彼岸と現世が混じることは無いので、こんなモノを目にすることはないんですけど」

言葉に反応するでもなくぶつくさ何か言ってる先生に泉は業をにやした。

「菊留先生、お願い!早く取ってくださいよぉ」

落ち着き払った菊留先生とは対照的に当の泉は困惑気味だった。見えないのならともかく見えてしまえばこんな気持ち悪いものはない。
なのに菊留先生は臆するでもなく、それにじっと見入っている。

「せんせいーっ!聞こえてますぅ?」
「あ、はい。聞こえてますよ。そうですねぇ。
 泉さんの貧血はこの小鬼たちの仕業かもしれないですね」

「えーっ、ほんとですか?やっぱヤダ、先生とってくださいよ」
「泉さんの生命エネルギーがよほどおいしかったみたいです。でも、宿主の健康を害するほどエナジーを吸い上げるとはいただけません」
菊留先生はもっともらしい能書きを垂れる。

「餓鬼の本住所は、閻魔王が主である閻魔王界ですから、元の所にお帰りいただきましょう」
先生は再び呪を唱えた。

「天地開闢の理によりて、見えざるモノを彼岸に返せ、還元」

先生の指先にある風景がグニャリと歪み、その一角だけが色を失って薄墨色に染まった。
先生はカバンから袋に入った食パンを取り出して、色の無い世界にポンと投げ入れた。

泉の足にたかっていた餓鬼たちはその様子を見ていたが、「きーきー」と言いながら食パンを追って争うように異界へと帰って行った。

すかさず先生は「封」を唱えて異界を閉じた。

「やれやれ、明日の朝食をあげてしまいました」
「今のは?」
「施餓鬼です。もっともあげた所で餓鬼たちは食べる事はできませんが」
心無か、先生は沈んだ声でのたもうた。

「先生は陰陽師なんですか?」
「いいえ」
「じゃ、拝み屋さん?」
「ちがいます」
「私はただの教師ですよ。泉さん。
 貴女はこの世のものならざるモノを引き寄せてしまう体質なんですね」

図星をさされて泉は先生を見る。泉の顔は今にも泣きそうだった。
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