第弐話 転校生
文字数 3,158文字
俺はいつものように朝練で汗を流し、いつものように親友の徹 が呼びに来てくれて教室に向かった。
『今日は、転校生がやってくると始 ちゃんが言っていたな。女の子か……、俺はどっちだっていいや。俺は少し変わっているんかな?』
二年檜 組の教室に入って一番窓側の、これまた一番後ろの席に座った。
徹が能天気に、
「お! ちゃんと来たな。今日は転校生ちゃんが来るもんな。楽しみだなー」
ワクワクした顔でいる。
正直言って、俺はそれほど関心がなかったから窓の外を見ていると、担任の始ちゃんが入ってきた。
「みんな席に座って静かにしてな」
今日に限ってクラスのみんなは、とても素直だった。
『現金なこった』と思ったが、これが普通なんだろう。
「うん。みんな、いつもこうだと先生は助かるぞ」
笑顔を絶やさぬ担任だった。
「先週、話をした転校生が今日からこのクラスの仲間になる。仲良くやって欲しい」
そう始ちゃんが言うと、みんなが頷いた。
始ちゃんは廊下まで移動し、また入ってきた。
その後ろには女生徒が付いてきた。
クラスのみんなの視線が集中する。
『例の転校生か、物静かな感じだな』
少し興味が湧き、その姿を追う。
メガネをかけ、そばかすのある女生徒だった。
だが、漆黒 の背中まで伸びた綺麗な髪がとても美しかった。
「では自己紹介してもらおうかな」
そういうと始ちゃんは、転校生を促した。
転校生が挨拶を始めた。
「静岡県から転校してきました伊勢 静香 と申します。皆さんと仲良く学生生活を送れると嬉しく思いますので、どうぞよろしくお願いいたします」
その後、深々と頭を下げた。
頭を上げ、髪を整える姿が凛としていた。
『見た目は地味だけど気丈な感じがするな』
それが俺の第一印象だった。
周りの男子生徒からはガッカリ感が伝わってきた。
『転校生の無礼ではないか?』
ちょっと怒りが湧いてきたが深呼吸で感情を抑えた。
剣の道と書いて剣道。
日本のは単なるスポーツではなく人格も鍛え上げる”人の道”をとの意味から”道”がつく。
柔道だってそうだ。
そして、運動系だけでなく華道、茶道だって”道”と書く。
昔から、これが不思議だったが、今では言葉では説明できないが何となくなら解る気がしている。
だから精神鍛錬も兼ねているため怒りの感情が抑えることができた。
その為か、良く同年代より大人びていると言われる。
伊勢さんの凛とした姿にクラスのみんなは息を呑んだ。
始ちゃんが、
「しっかりしている子だな。席は室長の椿 の隣だ。椿、よろしくな」
そう女子の室長である椿さんに転校生を託した。
椿さんが前まで転校生を迎えに行き、
「私が、このクラスの室長の椿未来 です。伊勢さん、これからよろしくね」
爽やかに言ったことから、クラス中にあった緊張感が薄れた。
転校生の伊勢さんが、
「椿さん、私こそ、これからよろしくお願いいたします」
丁寧な挨拶を返したものだから、
「そんな丁寧な言葉でなくていいわよ。同い年だしね。じゃ席まで案内するから付いてきて」
彼女らしい気遣いを見せてくれた。
実は、先週の金曜日に転校生を迎えるにあたり席替えがあったのだ。
だから教室のど真ん中が伊勢さんの席になる。
二人が席に座るといつもの始ちゃんに戻った。
「では一時限目は俺の国語の授業だ。早速始めるぞ」
あっさりと授業に移っていった。
*
「ふ~~~。やっと休憩時間だ」
友人の桜木徹が俺の席までやってきた。
「そうだな。俺は国語は好きだから、そんな風に思わんが」
「お前な。ちょっとは合わせろよ!」
そう文句をいいつつも笑顔だった。
伊勢さんの周りにはクラスの女生徒が群がっていた。
「ねー伊勢さんは、静岡県のどの辺りに居たの?」
「綺麗な黒髪だねー。ここまで綺麗な漆黒だと正直羨 ましいわ」
「その髪、どうやって手入れしているの?」
「部活、何かやってた?」
女生徒のキャイキャイした会話が聞こえてくる。
『良かった。これなら問題なくクラスに打ち解けそうだ。とは言え女生徒は派閥を作るからなー』
俺は、そんな風景を見ながら、ぼんやりとそう感じていた。
「ほー、流石の熱田くんも転校生には興味がいったんだな。ちょっと安心したぜ」
真剣な顔でいう徹をみて思わず、ぷっと笑えてきた。
「なに吹き出してんだよ」
「いや徹が面白かった」
「失礼な奴だ。しかし転校生ちゃん、地味だな……、黒髪にメガネにそばかす」
俺だけ聞こえるように呟 いた。
「いいんじゃないか? あの漆黒の髪は目を惹 いたぞ」
「そうだな」
俺たちは、こんな会話だったのだが、他の男子生徒では本人に聞こえるボリュームで、
「マジ、ガッカリ」
「可愛い子が転校してくると期待してたのになー」
「あんな地味子ちゃんなら男の方が良かったぜ」
など会話しているのだ。
女生徒たちが文句を言おうとした矢先、俺の方が先に動いていた。
「お前たちな。彼女は他の県から来たばかりで友達もいない状態なんだぞ。ちったぁ気をつかえよ!」
強い口調で文句を言ってやった。
「なんだ熱田。名前のように正義の味方のつもりか? お前、女に興味なかったんじゃないのか? それともこういう地味~な子が好み だったのか?」
このように反省もせず、更なる非礼なことを言ったため思わず手が出た。
が……何とか寸止めで止めることができた。
「あ~、シラケた! はいはい。ヒーローさんカッコイイぜ」
そう言いながら奴らは教室から出て行った。
『言わせとけばいいさ』
席に戻ると徹がビックリしていたが、こう言ってくれた。
「むちゃくちゃ早く動いたから止めることもできんかったわ。でも俺はお前が正しいと思う」
「サンキュー。流石、俺の親友だ」
「いや武道家だね」
「徹だって同じ剣道部じゃんか」
本当に親友と呼べる存在はありがたい。
「喧嘩 になるかと思ったが、正義 のことだから勝っちまうがな」
「いざとなったら徹が助太刀 してくれただろ?」
わざとらしくウインクしてやった。
「うげぇぇぇ、キモイ! 二度と俺にウインクなんてすんなよ!!」
むちゃくちゃ真剣に訴えてきたので笑ってしまった。
「まーさーきぃぃぃ!」
頭を思いっきり拳 でグリグリされ、めっちゃ痛かったが友情が伝わってきた。
「サンキュな」
「なんだ? キモイぞ」
二人して笑い出した。
『noblesse oblige 弱き者を助けるのが力のある者の使命なんだぞ』
父の言葉が頭によぎった。
笑っている間に椿 さんが俺たちのところきていた。
「熱田くん、ありがとう。とても助かったわ」
優し気な笑顔でそれだけを言葉にし、また伊勢さんの隣の自分の席に戻っていった。
ふわぁっとした、とても良い香りを残して……
「いい子だな。椿さん、室長は彼女にあっている」
俺が呟くと、
「そうなんだよ! いい子だよなー」
徹もそういった。
その目には、ちょっとした恋心が浮かんでいたが気づかぬふりをした。
「俺は、ああいうのが許せんたちなんだ」
「俺たち、スポーツマンだからな!」
「って徹は何もしてないじゃん!」
「だから、いざとなったら助太刀するつもりだったんだよ」
そこで俺は、わざと椿さんに視線を移した。
「なら俺より早く動いていた方が誰か さんの印象アップだったんでねえの?」
「な! 何いってるんだよ」
『耳まで赤くして可愛い奴だ』
「休憩時間終わりだから席に戻る!」
徹はそう言って席に戻っていった。
『徹くんよ。休憩時間は、まだ三分以上のこってまっせ』
と心の中で呟いた。
その瞬間、
『辰時 様、ありがとう』
と聞こえた気がしてビックリした。
『え!? 誰もいないよな? 気のせいか……大体、辰時って聞こえたから俺じゃないな。でもこのクラスも辰時って奴はいないな。なんなんだ?』
そう思っていると、二時限目のチャイムが鳴った。
『今日は、転校生がやってくると
二年
徹が能天気に、
「お! ちゃんと来たな。今日は転校生ちゃんが来るもんな。楽しみだなー」
ワクワクした顔でいる。
正直言って、俺はそれほど関心がなかったから窓の外を見ていると、担任の始ちゃんが入ってきた。
「みんな席に座って静かにしてな」
今日に限ってクラスのみんなは、とても素直だった。
『現金なこった』と思ったが、これが普通なんだろう。
「うん。みんな、いつもこうだと先生は助かるぞ」
笑顔を絶やさぬ担任だった。
「先週、話をした転校生が今日からこのクラスの仲間になる。仲良くやって欲しい」
そう始ちゃんが言うと、みんなが頷いた。
始ちゃんは廊下まで移動し、また入ってきた。
その後ろには女生徒が付いてきた。
クラスのみんなの視線が集中する。
『例の転校生か、物静かな感じだな』
少し興味が湧き、その姿を追う。
メガネをかけ、そばかすのある女生徒だった。
だが、
「では自己紹介してもらおうかな」
そういうと始ちゃんは、転校生を促した。
転校生が挨拶を始めた。
「静岡県から転校してきました
その後、深々と頭を下げた。
頭を上げ、髪を整える姿が凛としていた。
『見た目は地味だけど気丈な感じがするな』
それが俺の第一印象だった。
周りの男子生徒からはガッカリ感が伝わってきた。
『転校生の無礼ではないか?』
ちょっと怒りが湧いてきたが深呼吸で感情を抑えた。
剣の道と書いて剣道。
日本のは単なるスポーツではなく人格も鍛え上げる”人の道”をとの意味から”道”がつく。
柔道だってそうだ。
そして、運動系だけでなく華道、茶道だって”道”と書く。
昔から、これが不思議だったが、今では言葉では説明できないが何となくなら解る気がしている。
だから精神鍛錬も兼ねているため怒りの感情が抑えることができた。
その為か、良く同年代より大人びていると言われる。
伊勢さんの凛とした姿にクラスのみんなは息を呑んだ。
始ちゃんが、
「しっかりしている子だな。席は室長の
そう女子の室長である椿さんに転校生を託した。
椿さんが前まで転校生を迎えに行き、
「私が、このクラスの室長の椿
爽やかに言ったことから、クラス中にあった緊張感が薄れた。
転校生の伊勢さんが、
「椿さん、私こそ、これからよろしくお願いいたします」
丁寧な挨拶を返したものだから、
「そんな丁寧な言葉でなくていいわよ。同い年だしね。じゃ席まで案内するから付いてきて」
彼女らしい気遣いを見せてくれた。
実は、先週の金曜日に転校生を迎えるにあたり席替えがあったのだ。
だから教室のど真ん中が伊勢さんの席になる。
二人が席に座るといつもの始ちゃんに戻った。
「では一時限目は俺の国語の授業だ。早速始めるぞ」
あっさりと授業に移っていった。
*
「ふ~~~。やっと休憩時間だ」
友人の桜木徹が俺の席までやってきた。
「そうだな。俺は国語は好きだから、そんな風に思わんが」
「お前な。ちょっとは合わせろよ!」
そう文句をいいつつも笑顔だった。
伊勢さんの周りにはクラスの女生徒が群がっていた。
「ねー伊勢さんは、静岡県のどの辺りに居たの?」
「綺麗な黒髪だねー。ここまで綺麗な漆黒だと正直
「その髪、どうやって手入れしているの?」
「部活、何かやってた?」
女生徒のキャイキャイした会話が聞こえてくる。
『良かった。これなら問題なくクラスに打ち解けそうだ。とは言え女生徒は派閥を作るからなー』
俺は、そんな風景を見ながら、ぼんやりとそう感じていた。
「ほー、流石の熱田くんも転校生には興味がいったんだな。ちょっと安心したぜ」
真剣な顔でいう徹をみて思わず、ぷっと笑えてきた。
「なに吹き出してんだよ」
「いや徹が面白かった」
「失礼な奴だ。しかし転校生ちゃん、地味だな……、黒髪にメガネにそばかす」
俺だけ聞こえるように
「いいんじゃないか? あの漆黒の髪は目を
「そうだな」
俺たちは、こんな会話だったのだが、他の男子生徒では本人に聞こえるボリュームで、
「マジ、ガッカリ」
「可愛い子が転校してくると期待してたのになー」
「あんな地味子ちゃんなら男の方が良かったぜ」
など会話しているのだ。
女生徒たちが文句を言おうとした矢先、俺の方が先に動いていた。
「お前たちな。彼女は他の県から来たばかりで友達もいない状態なんだぞ。ちったぁ気をつかえよ!」
強い口調で文句を言ってやった。
「なんだ熱田。名前のように正義の味方のつもりか? お前、女に興味なかったんじゃないのか? それともこういう地味~な子が
このように反省もせず、更なる非礼なことを言ったため思わず手が出た。
が……何とか寸止めで止めることができた。
「あ~、シラケた! はいはい。ヒーローさんカッコイイぜ」
そう言いながら奴らは教室から出て行った。
『言わせとけばいいさ』
席に戻ると徹がビックリしていたが、こう言ってくれた。
「むちゃくちゃ早く動いたから止めることもできんかったわ。でも俺はお前が正しいと思う」
「サンキュー。流石、俺の親友だ」
「いや武道家だね」
「徹だって同じ剣道部じゃんか」
本当に親友と呼べる存在はありがたい。
「
「いざとなったら徹が
わざとらしくウインクしてやった。
「うげぇぇぇ、キモイ! 二度と俺にウインクなんてすんなよ!!」
むちゃくちゃ真剣に訴えてきたので笑ってしまった。
「まーさーきぃぃぃ!」
頭を思いっきり
「サンキュな」
「なんだ? キモイぞ」
二人して笑い出した。
『
父の言葉が頭によぎった。
笑っている間に
「熱田くん、ありがとう。とても助かったわ」
優し気な笑顔でそれだけを言葉にし、また伊勢さんの隣の自分の席に戻っていった。
ふわぁっとした、とても良い香りを残して……
「いい子だな。椿さん、室長は彼女にあっている」
俺が呟くと、
「そうなんだよ! いい子だよなー」
徹もそういった。
その目には、ちょっとした恋心が浮かんでいたが気づかぬふりをした。
「俺は、ああいうのが許せんたちなんだ」
「俺たち、スポーツマンだからな!」
「って徹は何もしてないじゃん!」
「だから、いざとなったら助太刀するつもりだったんだよ」
そこで俺は、わざと椿さんに視線を移した。
「なら俺より早く動いていた方が
「な! 何いってるんだよ」
『耳まで赤くして可愛い奴だ』
「休憩時間終わりだから席に戻る!」
徹はそう言って席に戻っていった。
『徹くんよ。休憩時間は、まだ三分以上のこってまっせ』
と心の中で呟いた。
その瞬間、
『
と聞こえた気がしてビックリした。
『え!? 誰もいないよな? 気のせいか……大体、辰時って聞こえたから俺じゃないな。でもこのクラスも辰時って奴はいないな。なんなんだ?』
そう思っていると、二時限目のチャイムが鳴った。