第壱話 はじまりと剣の道
文字数 3,001文字
「静 、今まで良く頑張りましたね。あなたはこの三年で一通りの技術を身に着けてくれました。こちらに初めて呼んでからは四年経つわね」
目の前の神々しい女性が、そう私を褒めてくださった。
「これも一重に壱与 様のご指導のたまものです。私こそ本当にありがとうございました」
「うん」
壱与様は優しい自愛に満ちたほほ笑みでそう答えてくださった。
「でもね静。本番はこれからなのよ。今までの修行はこれからのためにあったのですからね」
「はい。それでも充実した三年でした」
「修行というのは永遠に続くものですから、これで終わった訳ではありませんよ。これからも私は静を鍛えますよ」
「どうぞ、よろしくお願いいたします」
「さぁ! 時期が来ました。静、貴方は今の静岡県を離れ彼の元へ行くことになります。こちらで手回ししていますから地上でも、そうした動きが現れてきます」
「以前よりお聞きしておりましたことでございます。そうですか、時期が来たのですね」
「そうです。ですが彼はまだ何も知りません。静が彼の使命を支え、手助けしていくのですよ」
「はい。誠心誠意、頑張って参ります」
壱与様は優しくほほ笑み、
「それでは静。いってらっしゃい。私たちは、この高天ヶ原 から静たちを導いていきますから安心してね。そして覚悟して頑張ってらっしゃい」
「はい。それでは行って参ります」
この言葉の後、私は目を覚ましいつもの朝を迎えた。
『いよいよ。使命を果たすことが、そしてあの方とお会いできる日がやってきたのね』
緊張とワクワクとが入り混じった複雑だけど、心地よい気持ちに溢れていた。
***
俺(熱田 正義 )は、幼少より棒などを持つとブンブン振り回し周りに迷惑をかけながら育った。
両親がそうしたことから、家にあった竹刀を持たせると抱き着いて寝てしまっていたそうだ。
そして自然と物心がつく頃には、親が剣道道場に通わせてくれていた。
俺は、不思議と竹刀を握ると安心するのだ。
今日も、我が名古屋南部高校の剣道場で自主的に朝練をし竹刀を振っていた。
「よう!正義 。今日も早くから熱心だな」
その声の方を向くと、同じ剣道部の友人の桜木徹 だった。
声の主に振り向いて、いつもの挨拶をした。
「徹、おはよう!」
「そろそろやめにしないと一時限目に間に合わなくなるぞ」
早々に言われたが、これもいつものセリフだ。
だが時計を見ると、既に八時十五分を回っていた。
「これはいかん。徹、サンキュー」
礼をいい、片づけに入る。
「お前さ、部活は授業後だけでいいんじゃね? そんな朝からやってんの正義だけだぞ」
「いや。何か落ち着かなくてさ」
そう答えながら兜を外す。
汗臭い匂いが周りに漂う。
「うわー、くっせ! こんなんだから彼女ができないんだぞ! お前には清潔感がない!」
散々なことを言われたが、まぁ至極当然なことだ。
「悪いな。臭くってさ。でも剣道ってのはこんなもんだ。徹だって剣道部じゃないか」
「俺は、ちゃんと剣道着に消臭剤やら匂い消しの対策をしている。正義もしろよ!」
「必要なんかね?」
「必要に決まっている。正義は、結構イケメンなんだからさー、勿体ないぞ」
「ほぉぉ、ありがたいが俺にはそのような趣味はないぞ」
「まーさーきぃぃぃ」
俺の頭をポカポカ叩いてきた。
その後、急いで剣道着を脱ぎ、濡れたタオルで体中を拭く。
徹が見つめてくる。
「徹、さっきも言ったが俺にはそんな趣味はないからな!」
両腕をバツにしてに拒否反応を示した。
「いや。そうじゃなくてさ、正義の右わき腹に大きな火傷の痕があるなって。それ目立つじゃん」
「あぁ、これね。生まれてから何故かあるんだ。生まれてからこの方、ここに火傷なんてしていないし不思議だよな」
「あ! いけね。遅刻するぞ。俺は先にいくわ」
そういうや否や、徹は一直線に教室へ向かっていった。
『このペースでも五分前には教室に入れるぞ』
俺はそう思ったが、着々と片づけと着替えを済ませると教室に向かった。
二年檜 組
それが俺の教室。とは言え四月だから二年生になりたてのホヤホヤさ。
この学校は、一組とかA組とかを使わず、木の種類を組名に採用している。
だから他には、梅、桃、桜、桐、欅 などがある。
梅、桃、桜だと、なんか幼稚園みたいだが漢字だから少し印象が違う。
教室に入ると、すでに徹が窓側の自分の席に座っていた。
その後方の三席目、つまり一番後ろが俺の席なのだ。
「正義。間に合ったな」
「だから、あの時間なら間に合うって言ったろ? 徹が走っていくほどではなかったよ」
「そうですかー、俺は慎重派なんだよ」
「ほぉぉ、その割には剣道となると猛突猛進じゃん。あれを慎重派というんですかね」
と反撃してやった。
「うっ……それは言うな、剣道ってさ。竹刀を振るのが快感なんだよ」
「いや竹刀が相手に当たるのが快感なんでない? 空振りじゃ面白くないじゃん」
「いいか、正義。お前はお前。俺は俺だ!」
『開き直りやがったな』
そう話していると担任入ってきたため会話は中止となった。
担任が、なにやら言い出した。
「突然だが、来週の月曜日から転校生がこのクラスに編入してくることになった」
まったくもって突然だ。
「えぇぇ! 女の子かな?」
「違うわよ、きっと男の子よ」
クラス中が騒めきだす。
「静かにしろーーー! 静かにしないと言わないぞ」
そういうと、ピタッと静かになった。
現金なものだ。
「おっほん!」
「始 ちゃーん、勿体ぶらずに言えよ~~~」
「こら! 担任を名前でちゃん付けで呼ぶな」
そう注意はしているが、顔は怒っていなかった。
これでも、クラスのみんなから頼りにされているのだ。
「女の子だ」
「がっがり~~~」
とブーイングと共に心底ガッカリし顔を下に向ける女生徒たち、片や男子生徒は当然喜んだ。
「やったー! 始ちゃん、その子、可愛い?」
とまで言い出す始末だ。
「いやね。男って、見た目だけで判断するなんてサイテーーー」
非難ゴーゴーだ。
「だってよ。気になるじゃん。なーーーみんな!」
「そうだ、そうだ!」
男子生徒は一丸となっていた。
まぁ俺はあまり関心がないから、どうでもいいけどな。
「女子生徒がいうように外見だけで判断してはいかんぞ。女性というものは内面が繊細で美しいのだ」
「それは始ちゃんの奥さんのことでしょ?」
「妻を愛していて何が悪い。先生のお嫁さんは世界一だ!」
それはそれは誇らしく胸を張っていた。
『確か、結婚したのは三年前だと言っていたが、いまだに熱々夫婦なんだな』
俺は正直関心した。
「この話題はこれまで! 出席を取ったら、一時限目の国語に入るぞ」
そうなのだ。始ちゃん、いや一式 始 先生は担任でもあるが国語の先生なのだ。
みんなブーイングしつつ、ちゃんと始ちゃんの言うことを聞いていた。
これも始ちゃんが、生徒に対し愛情をもって接しているのをみんなが知っているからなのだ。
『なかなか、こういった先生に巡り会えないから今年はラッキーだったな』
俺は思った。
国語の授業が終わるとクラス中、転校生の話題で賑わっていた。
「正義、お前さ。関心ない訳? 本当の剣道バカだな。本当にお前は思春期なのか?」
親友の徹が容赦なく罵 ってくる。
「別に関心がない訳じゃないけどさ。その時にならないと分かんないじゃん」
「ふぅーーー冷めた奴だな」
そんなこんなで、月曜日を迎えることとなった。
目の前の神々しい女性が、そう私を褒めてくださった。
「これも一重に
「うん」
壱与様は優しい自愛に満ちたほほ笑みでそう答えてくださった。
「でもね静。本番はこれからなのよ。今までの修行はこれからのためにあったのですからね」
「はい。それでも充実した三年でした」
「修行というのは永遠に続くものですから、これで終わった訳ではありませんよ。これからも私は静を鍛えますよ」
「どうぞ、よろしくお願いいたします」
「さぁ! 時期が来ました。静、貴方は今の静岡県を離れ彼の元へ行くことになります。こちらで手回ししていますから地上でも、そうした動きが現れてきます」
「以前よりお聞きしておりましたことでございます。そうですか、時期が来たのですね」
「そうです。ですが彼はまだ何も知りません。静が彼の使命を支え、手助けしていくのですよ」
「はい。誠心誠意、頑張って参ります」
壱与様は優しくほほ笑み、
「それでは静。いってらっしゃい。私たちは、この
「はい。それでは行って参ります」
この言葉の後、私は目を覚ましいつもの朝を迎えた。
『いよいよ。使命を果たすことが、そしてあの方とお会いできる日がやってきたのね』
緊張とワクワクとが入り混じった複雑だけど、心地よい気持ちに溢れていた。
***
俺(
両親がそうしたことから、家にあった竹刀を持たせると抱き着いて寝てしまっていたそうだ。
そして自然と物心がつく頃には、親が剣道道場に通わせてくれていた。
俺は、不思議と竹刀を握ると安心するのだ。
今日も、我が名古屋南部高校の剣道場で自主的に朝練をし竹刀を振っていた。
「よう!
その声の方を向くと、同じ剣道部の友人の
声の主に振り向いて、いつもの挨拶をした。
「徹、おはよう!」
「そろそろやめにしないと一時限目に間に合わなくなるぞ」
早々に言われたが、これもいつものセリフだ。
だが時計を見ると、既に八時十五分を回っていた。
「これはいかん。徹、サンキュー」
礼をいい、片づけに入る。
「お前さ、部活は授業後だけでいいんじゃね? そんな朝からやってんの正義だけだぞ」
「いや。何か落ち着かなくてさ」
そう答えながら兜を外す。
汗臭い匂いが周りに漂う。
「うわー、くっせ! こんなんだから彼女ができないんだぞ! お前には清潔感がない!」
散々なことを言われたが、まぁ至極当然なことだ。
「悪いな。臭くってさ。でも剣道ってのはこんなもんだ。徹だって剣道部じゃないか」
「俺は、ちゃんと剣道着に消臭剤やら匂い消しの対策をしている。正義もしろよ!」
「必要なんかね?」
「必要に決まっている。正義は、結構イケメンなんだからさー、勿体ないぞ」
「ほぉぉ、ありがたいが俺にはそのような趣味はないぞ」
「まーさーきぃぃぃ」
俺の頭をポカポカ叩いてきた。
その後、急いで剣道着を脱ぎ、濡れたタオルで体中を拭く。
徹が見つめてくる。
「徹、さっきも言ったが俺にはそんな趣味はないからな!」
両腕をバツにしてに拒否反応を示した。
「いや。そうじゃなくてさ、正義の右わき腹に大きな火傷の痕があるなって。それ目立つじゃん」
「あぁ、これね。生まれてから何故かあるんだ。生まれてからこの方、ここに火傷なんてしていないし不思議だよな」
「あ! いけね。遅刻するぞ。俺は先にいくわ」
そういうや否や、徹は一直線に教室へ向かっていった。
『このペースでも五分前には教室に入れるぞ』
俺はそう思ったが、着々と片づけと着替えを済ませると教室に向かった。
二年
それが俺の教室。とは言え四月だから二年生になりたてのホヤホヤさ。
この学校は、一組とかA組とかを使わず、木の種類を組名に採用している。
だから他には、梅、桃、桜、桐、
梅、桃、桜だと、なんか幼稚園みたいだが漢字だから少し印象が違う。
教室に入ると、すでに徹が窓側の自分の席に座っていた。
その後方の三席目、つまり一番後ろが俺の席なのだ。
「正義。間に合ったな」
「だから、あの時間なら間に合うって言ったろ? 徹が走っていくほどではなかったよ」
「そうですかー、俺は慎重派なんだよ」
「ほぉぉ、その割には剣道となると猛突猛進じゃん。あれを慎重派というんですかね」
と反撃してやった。
「うっ……それは言うな、剣道ってさ。竹刀を振るのが快感なんだよ」
「いや竹刀が相手に当たるのが快感なんでない? 空振りじゃ面白くないじゃん」
「いいか、正義。お前はお前。俺は俺だ!」
『開き直りやがったな』
そう話していると担任入ってきたため会話は中止となった。
担任が、なにやら言い出した。
「突然だが、来週の月曜日から転校生がこのクラスに編入してくることになった」
まったくもって突然だ。
「えぇぇ! 女の子かな?」
「違うわよ、きっと男の子よ」
クラス中が騒めきだす。
「静かにしろーーー! 静かにしないと言わないぞ」
そういうと、ピタッと静かになった。
現金なものだ。
「おっほん!」
「
「こら! 担任を名前でちゃん付けで呼ぶな」
そう注意はしているが、顔は怒っていなかった。
これでも、クラスのみんなから頼りにされているのだ。
「女の子だ」
「がっがり~~~」
とブーイングと共に心底ガッカリし顔を下に向ける女生徒たち、片や男子生徒は当然喜んだ。
「やったー! 始ちゃん、その子、可愛い?」
とまで言い出す始末だ。
「いやね。男って、見た目だけで判断するなんてサイテーーー」
非難ゴーゴーだ。
「だってよ。気になるじゃん。なーーーみんな!」
「そうだ、そうだ!」
男子生徒は一丸となっていた。
まぁ俺はあまり関心がないから、どうでもいいけどな。
「女子生徒がいうように外見だけで判断してはいかんぞ。女性というものは内面が繊細で美しいのだ」
「それは始ちゃんの奥さんのことでしょ?」
「妻を愛していて何が悪い。先生のお嫁さんは世界一だ!」
それはそれは誇らしく胸を張っていた。
『確か、結婚したのは三年前だと言っていたが、いまだに熱々夫婦なんだな』
俺は正直関心した。
「この話題はこれまで! 出席を取ったら、一時限目の国語に入るぞ」
そうなのだ。始ちゃん、いや
みんなブーイングしつつ、ちゃんと始ちゃんの言うことを聞いていた。
これも始ちゃんが、生徒に対し愛情をもって接しているのをみんなが知っているからなのだ。
『なかなか、こういった先生に巡り会えないから今年はラッキーだったな』
俺は思った。
国語の授業が終わるとクラス中、転校生の話題で賑わっていた。
「正義、お前さ。関心ない訳? 本当の剣道バカだな。本当にお前は思春期なのか?」
親友の徹が容赦なく
「別に関心がない訳じゃないけどさ。その時にならないと分かんないじゃん」
「ふぅーーー冷めた奴だな」
そんなこんなで、月曜日を迎えることとなった。