第捌話 旅は道連れ世は情け
文字数 3,492文字
『椿 さん、結構強引なのね』
私 は、彼女の意外な姿をみた。
男の子たちの周辺は凄く空気変わっていて、クラスの雰囲気にまで影響していた。
『椿さん、おモテになるものね。明るく美人で室長を務めているくらいですもの。本人曰く成績は上の下らしいけど』
その思いながら、光景を冷静に眺めていた。
『私には……嫉妬心は湧かないわね。辰時 様のことは前々からお聞きしていて婚約者だったこともあり憧れていた。だから今世に転生した彼 に会えることはとても楽しみだった。ちゃんと無事に巡り会えたので安心もした。更には転校初日に助けてもらえて嬉しかったし頼もしく感じたけれど、あの後それほど会話もしていない。彼に恋をしている訳ではないから嫉妬しないのかな?』
などと冷静に自己分析までしていた。
『熱田さん……か、私は彼の使命を支えていかなければならないのよね』
などと考えていると声が聞こえてきた。
「男に二言はありません! ごめんな」
彼は、そうキッパリと椿さんに言い放ち颯爽 と席に向かっていく。
何故か席に着くまで、ひょいひょいと体を動かしていたけれど……
その姿を見て、とても嬉しかった。
『あれ? 私、自然と嬉しくなった?』
そんな不思議な感覚を覚えた。
***
「徹 ~~~」
昨日、和解したはずの徹に泣き言を聞いてもらった。
椿さんのスカウトは、なかなかにしつこい。今日も一度誘われた。
あんなキラキラ目で言われると、断るのが辛いんだよ!
それよりも、それよりもだ!
クラスの男全員が敵になったかと思えるくらいだ。
椿さん、周りが見えていないのか?
「正義 、それはな罪だ。諦めろ」
ふんっと窓の外を向いてしまった。
「徹、冷たいぞ。昨日、わかってくれたんじゃないのか?」
「わかってるって!」
「俺、なんも悪くないってばー」
ようやく俺の方に顔を向けてくれた。
「ちゃんとわかってるよ。でもなー、これがキッカケで椿さん、正義のことを好きになっていたりしないよな?」
「俺に聞くなよ」
「あんなキラキラした目で頼まれて、よく断れるな!」
「おまえ、どっちの味方なんだ? あぁ、そうだ! 徹が椿さんを彼女にしたら万事解決だな」
「っつ! それはそうと椿さん、本当に弓道好きなんだな。あんな彼女を初めて見た」
『ったく。すぐに話を逸らすな。例のごとく耳まで赤いぞ』
「俺も意外だった! それでだね。徹くんや、俺の代わりに君が弓道部に入って、更に椿さんにアタックしてみたら?」
むちゃくちゃ驚いた顔をしたと思ったら、
「な!」
口をパクパクさせ金魚みたいで面白かった。
「あぁ、次の授業の準備をせんとな」
そそくさと自分の席に戻っていった。
『せっかく背中押しているのになー。誘えば一度くらいはデートできるんじゃね? やっぱ直球で伝えないとダメか。世話の焼ける奴 だ』
窓の外を眺めながら、
『まぁ、椿さんも次の弓道のときの俺をみたら諦めるだろう』
などと考えていた。
***
そして、翌週の弓道の時間になった。
クラスのみんなも楽しみなんだろう、地味な基礎を素直に習っていた。
『先週、最低限だけ教え最後に好きなようにさせた裕子 先生の作戦勝ちだな』
つつがなく授業は終了したところで、ささっと教室に戻ろうとしたが無理だった。
目の前には伊勢さん、後ろには椿さんと挟み撃ちにあったのだ。
椿さんの後方で目を光らせている裕子先生。
『う~~~ん。まぁ、普段の俺を見せれば諦めてくれるかな? しかし伊勢さんまで抱き込んだのか……弓道部員だもんな」
伊勢さんを見るとその目は、俺の心の奥までジーっと見つめているような感じがした。
「伊勢さん、通して欲しんだけど」
「残念ですが、それは出来ません。引き受けた以上、約束は守ります」
伊勢さんは両手を少し広げ、とーせんぼしながら『ここは譲りません!』とばかりに答えた。
『やっぱ、抱き込まれたか。物腰は柔らかな感じだけど普段、クールな彼女からはこの堂々とした感じは意外だな』
そう思いつつも、似合ってるなとも思った。
後ろから椿さんが、声を掛けてきた。
「熱田くん、諦めて弓道部に来る気になった? さぁ! もう一回、射ってみようよ」
俺は白旗を上げた。そして、教室に戻ろうとした徹を捕まえた。
「徹、旅は道連れ世は情けだよな?」
「あぁ……そう……だな」
『しめしめ、椿さんがいるから留まったな』
俺は心の中で、ニヤリとした。
「わかりました。無いとは言われたけど、ビギナーズラックだよ。あと今回も、もし的に当たったとしても俺は剣道部から移るつもりはない。でもその代わり、桜木くんを差し上げます!」
「そ、そんな勝手なことを言うなーーー」
そんな情けない声を出す徹は無視だ!
「了解はしないけど弓は射ってくれるのね?」
腕組しながら椿さんが圧力を掛けてきた。
言葉の代わりに、頷 いてみせた。
そして俺は弓と矢を持ち、的に向かって集中した。
先週のようなあの感覚はない。
『千葉先生の言ってた通りだ』
そう思いつつも身体が覚えている感じはあった。
「射ますよ」
「どうぞ」と椿さん。
集中すると、的が大きくなるのを感じた。
『この感覚はあるんだな』
弓を引き、矢を放つ。
放たれた矢は大きな弧を描き、的の左下ギリギリに刺さった。
『あ! そういえば、”ある程度はできる”って先生言ってたな。こ……これか……嬉しいけど、今回だけは参ったな……』
「お見事! これが見たかったのよねー」
いつの間にか、俺の左右に裕子先生と椿さんが来ていた。
「あーーー、俺って筋がいいのかな?」
「これは天性ね! はい、弓道部の入部届はコレね」
って裕子先生、素早いよ!
「う~~~ん。先生、椿さん、俺は悪いけど剣道が好きだから、先週も言ったように弓道は授業で楽しみたいです」
この際、きっぱり言わないとダメだと思った。
「勿体ないわね。強要はできないから、今 回 は 身を引くわ。でも、いつでも気持ちは変わっていいからね!!」
裕子先生が、こうして引き下がってくれた? ため、椿さんも渋々、諦めてくれた(ように見える)
伊勢さんはというと、単に引き止める手伝いをしただけだったらしく見ているだけだった。
「はい。それでは気 持 ち が 変 わ っ た ら 俺 か ら 言いますね!」
釘を差しておかねばと強調しておいた。
それから徹と急いで教室に戻る。
「椿さんじゃないけど、正義凄いな。マジで!」
「俺も驚いているよ」
とは言いつつも真相を知っているため冷静だった。
『これで諦めてくれたな。良かった良かった』
こうして弓道部行きを、なんとか凌ぐことに成功した。
***
「先生、今日の俺のこと見ていてくれましたか?」
千葉先生に聞いてみた。
俺呼びについては当初、”わたくし”と言っていたんだが先生が、”2週間近く経っているのだから、もう俺呼びで良いぞ”と言ってくれたからだ。
「無論だ。また的に当てるとは見事だった」
「ありがとうございます。先生から、ある程度はとお聞きしていたので、あまり驚きませんでした」
「それだけ正義が、過去の転生で弓の修練も頑張っていたという証明だな」
「素直に喜んでおきます。でも先生、俺は霊刀の天翔 は授かりましたが弓はありません。ひょっとして弓もいただけたりするのですか?」
千葉先生は、ニッコリして、
「弓の支給はないな。でも、そのうちの……楽しみはあるな」
意味深なことをおっしゃるが、真意は読めない。
「また勿体ぶるんですね」
ちょっと、ふてくされてみせた。
「楽しみは残しておかんとな!」
歯がキラッと輝いていた。
「わかりました。それでは本日の修行をお願いします」
気持ちを切り替えて、礼をとった。
「では、本日も座禅から始めるぞ」
既に、すり足を卒業し座禅に変わっていた。
精神的に鍛えること、そして精神統一がとても重要だからだそうだ。
そして座禅のあと、竹刀での修行も始まっていた。
***
私 は就寝前、初めて高天ヶ原に呼ばれたあの日のことを思い起こしていた。
高天ヶ原の社から見た古代の日本というのが一番しっくりとくる、あの風景。
「天照様 、日向様 、失礼とは存じ上げておりますが、外のあの風景。高天ヶ原のあちこちが崩れたりしているのは何故なのでしょうか?」
「静、それはね。先の大戦、地上では第二次世界大戦、わたくしどもは大東亜 戦争と呼ぶけど、その敗戦のためなのよ」
神々しい天照様が自らお答えくださった。
*
『先の大戦。その敗戦の傷が、未だに癒えていないのには驚いたわ。日本の神様も有色人種の解放のために一緒に戦っていたなんて考えもしなかった』
私は、そのまま思いにふける時間を過ごしていた。
男の子たちの周辺は凄く空気変わっていて、クラスの雰囲気にまで影響していた。
『椿さん、おモテになるものね。明るく美人で室長を務めているくらいですもの。本人曰く成績は上の下らしいけど』
その思いながら、光景を冷静に眺めていた。
『私には……嫉妬心は湧かないわね。
などと冷静に自己分析までしていた。
『熱田さん……か、私は彼の使命を支えていかなければならないのよね』
などと考えていると声が聞こえてきた。
「男に二言はありません! ごめんな」
彼は、そうキッパリと椿さんに言い放ち
何故か席に着くまで、ひょいひょいと体を動かしていたけれど……
その姿を見て、とても嬉しかった。
『あれ? 私、自然と嬉しくなった?』
そんな不思議な感覚を覚えた。
***
「
昨日、和解したはずの徹に泣き言を聞いてもらった。
椿さんのスカウトは、なかなかにしつこい。今日も一度誘われた。
あんなキラキラ目で言われると、断るのが辛いんだよ!
それよりも、それよりもだ!
クラスの男全員が敵になったかと思えるくらいだ。
椿さん、周りが見えていないのか?
「
ふんっと窓の外を向いてしまった。
「徹、冷たいぞ。昨日、わかってくれたんじゃないのか?」
「わかってるって!」
「俺、なんも悪くないってばー」
ようやく俺の方に顔を向けてくれた。
「ちゃんとわかってるよ。でもなー、これがキッカケで椿さん、正義のことを好きになっていたりしないよな?」
「俺に聞くなよ」
「あんなキラキラした目で頼まれて、よく断れるな!」
「おまえ、どっちの味方なんだ? あぁ、そうだ! 徹が椿さんを彼女にしたら万事解決だな」
「っつ! それはそうと椿さん、本当に弓道好きなんだな。あんな彼女を初めて見た」
『ったく。すぐに話を逸らすな。例のごとく耳まで赤いぞ』
「俺も意外だった! それでだね。徹くんや、俺の代わりに君が弓道部に入って、更に椿さんにアタックしてみたら?」
むちゃくちゃ驚いた顔をしたと思ったら、
「な!」
口をパクパクさせ金魚みたいで面白かった。
「あぁ、次の授業の準備をせんとな」
そそくさと自分の席に戻っていった。
『せっかく背中押しているのになー。誘えば一度くらいはデートできるんじゃね? やっぱ直球で伝えないとダメか。世話の焼ける
窓の外を眺めながら、
『まぁ、椿さんも次の弓道のときの俺をみたら諦めるだろう』
などと考えていた。
***
そして、翌週の弓道の時間になった。
クラスのみんなも楽しみなんだろう、地味な基礎を素直に習っていた。
『先週、最低限だけ教え最後に好きなようにさせた
つつがなく授業は終了したところで、ささっと教室に戻ろうとしたが無理だった。
目の前には伊勢さん、後ろには椿さんと挟み撃ちにあったのだ。
椿さんの後方で目を光らせている裕子先生。
『う~~~ん。まぁ、普段の俺を見せれば諦めてくれるかな? しかし伊勢さんまで抱き込んだのか……弓道部員だもんな」
伊勢さんを見るとその目は、俺の心の奥までジーっと見つめているような感じがした。
「伊勢さん、通して欲しんだけど」
「残念ですが、それは出来ません。引き受けた以上、約束は守ります」
伊勢さんは両手を少し広げ、とーせんぼしながら『ここは譲りません!』とばかりに答えた。
『やっぱ、抱き込まれたか。物腰は柔らかな感じだけど普段、クールな彼女からはこの堂々とした感じは意外だな』
そう思いつつも、似合ってるなとも思った。
後ろから椿さんが、声を掛けてきた。
「熱田くん、諦めて弓道部に来る気になった? さぁ! もう一回、射ってみようよ」
俺は白旗を上げた。そして、教室に戻ろうとした徹を捕まえた。
「徹、旅は道連れ世は情けだよな?」
「あぁ……そう……だな」
『しめしめ、椿さんがいるから留まったな』
俺は心の中で、ニヤリとした。
「わかりました。無いとは言われたけど、ビギナーズラックだよ。あと今回も、もし的に当たったとしても俺は剣道部から移るつもりはない。でもその代わり、桜木くんを差し上げます!」
「そ、そんな勝手なことを言うなーーー」
そんな情けない声を出す徹は無視だ!
「了解はしないけど弓は射ってくれるのね?」
腕組しながら椿さんが圧力を掛けてきた。
言葉の代わりに、
そして俺は弓と矢を持ち、的に向かって集中した。
先週のようなあの感覚はない。
『千葉先生の言ってた通りだ』
そう思いつつも身体が覚えている感じはあった。
「射ますよ」
「どうぞ」と椿さん。
集中すると、的が大きくなるのを感じた。
『この感覚はあるんだな』
弓を引き、矢を放つ。
放たれた矢は大きな弧を描き、的の左下ギリギリに刺さった。
『あ! そういえば、”ある程度はできる”って先生言ってたな。こ……これか……嬉しいけど、今回だけは参ったな……』
「お見事! これが見たかったのよねー」
いつの間にか、俺の左右に裕子先生と椿さんが来ていた。
「あーーー、俺って筋がいいのかな?」
「これは天性ね! はい、弓道部の入部届はコレね」
って裕子先生、素早いよ!
「う~~~ん。先生、椿さん、俺は悪いけど剣道が好きだから、先週も言ったように弓道は授業で楽しみたいです」
この際、きっぱり言わないとダメだと思った。
「勿体ないわね。強要はできないから、
裕子先生が、こうして引き下がってくれた? ため、椿さんも渋々、諦めてくれた(ように見える)
伊勢さんはというと、単に引き止める手伝いをしただけだったらしく見ているだけだった。
「はい。それでは
釘を差しておかねばと強調しておいた。
それから徹と急いで教室に戻る。
「椿さんじゃないけど、正義凄いな。マジで!」
「俺も驚いているよ」
とは言いつつも真相を知っているため冷静だった。
『これで諦めてくれたな。良かった良かった』
こうして弓道部行きを、なんとか凌ぐことに成功した。
***
「先生、今日の俺のこと見ていてくれましたか?」
千葉先生に聞いてみた。
俺呼びについては当初、”わたくし”と言っていたんだが先生が、”2週間近く経っているのだから、もう俺呼びで良いぞ”と言ってくれたからだ。
「無論だ。また的に当てるとは見事だった」
「ありがとうございます。先生から、ある程度はとお聞きしていたので、あまり驚きませんでした」
「それだけ正義が、過去の転生で弓の修練も頑張っていたという証明だな」
「素直に喜んでおきます。でも先生、俺は霊刀の
千葉先生は、ニッコリして、
「弓の支給はないな。でも、そのうちの……楽しみはあるな」
意味深なことをおっしゃるが、真意は読めない。
「また勿体ぶるんですね」
ちょっと、ふてくされてみせた。
「楽しみは残しておかんとな!」
歯がキラッと輝いていた。
「わかりました。それでは本日の修行をお願いします」
気持ちを切り替えて、礼をとった。
「では、本日も座禅から始めるぞ」
既に、すり足を卒業し座禅に変わっていた。
精神的に鍛えること、そして精神統一がとても重要だからだそうだ。
そして座禅のあと、竹刀での修行も始まっていた。
***
高天ヶ原の社から見た古代の日本というのが一番しっくりとくる、あの風景。
「
「静、それはね。先の大戦、地上では第二次世界大戦、わたくしどもは
神々しい天照様が自らお答えくださった。
*
『先の大戦。その敗戦の傷が、未だに癒えていないのには驚いたわ。日本の神様も有色人種の解放のために一緒に戦っていたなんて考えもしなかった』
私は、そのまま思いにふける時間を過ごしていた。