邪帝の最期(JRPG風FT、決戦、理不尽/約900字)
文字数 954文字
私は城の屋上にあり、城内より立ち上る血と怨嗟の匂いに目を細めた。
口惜しかった。外法に手を染めてなお覇道を阻まれんとしていることが。小気味よくもあった。かつて斬り捨てた正しさが私の牙城を食い裂いていく様が。もはや部下は誰も残っていないだろう。
汚れた夜の雲から一筋の月光が降りた。それは神話に伝わる女神の矢のようだった。
「……皇帝よ!」
階下から駆け上ってきた若き勇士の前に悠々と歩を進める。数度、言葉を交わした気がした。それは意識のうちでは刹那。私は――私たちは剣を抜き向かい合った。
勇士の引き連れた有象無象が魔導銃を乱射する。小規模な魔法を込めた属性石という魔導具を、瞬時に数十数百もばら撒く兵器。込められているのは全て光属性の『光石』だ。
(笑止!! 魔導銃は我が帝国の技術……通じると思うてか!)
自兵に与えた力に対抗する手段を、備えぬはずがない。いつ寝首を掻かれるか分からぬのだから。まして初歩的な単属性銃では目眩ましがせいぜいだ。
腕輪から展開した簡易障壁に魔導銃の攻撃は弾き散らされていく。予想通り弾幕を引き裂いて現れた白刃を、正面から受け止めた。
腑抜けた前座からは考えられぬほど、勇士の剣は苛烈だった。私が直々に屠った英雄の太刀筋を、幾重に磨きぬいた剣閃。そうか、この男は英雄が密かに育てたという愛弟子か。
ついに膝をつく時が来た。無表情の勇士がゆっくりと剣を振り上げる。重畳、その用心深さが致命的な隙となる!
「まだ、まだだ。我が大望は潰えはせぬ……ッ! この身が闇に染まろうとも!!」
胸のブローチを引きはがし、肌に直接突き立てる。殺めてきた数多の命を呪詛とし心身を変容させる禁忌の呪法。構うまい、元より人の心など持ちはしない。しかし――。
(…………。……? な、何故だ。どうして発動しない!)
ブローチの針は小さな痛みをもたらすのみ。溜め込んだ闇を私の身体に流し込むことはなかった。そして訝しむ言葉すら、喉は発しなかった。
銀の軌跡が呆気にとられた私の首を断つ瞬間、
――このバグ――最大まで改良した――銃で同一のアイテムを――発以上使用する――により『怨念の華』を不発――――。
天上から聞こえたのは、場違いに明るい声。
――――『エンパイア・ロスト』Any%、新記録達成です!!!