三十五

文字数 838文字

 ショウが目を覚ますと、作業服を着た男が椅子に座ったままこちらを見ていた。手足が結束バンドで拘束されている。
「今、何時だ? ヒラノはどこに行った?」
「金曜の十八時だ。お前、万世橋の刑事なんだろう?」
「そうだが、奴は今、どこに?」
「あの方は任務遂行中だ。お前に構っている暇はない。今頃はこちらに向かっている頃だろう」
「お前たちは、麻トリだな?」
「所轄の刑事が知る必要はない」
「このヤマは本庁が動いてるんだ。もうすぐ応援が来る」
 すると男がチッと口を鳴らした。
「俺たちが長い年月をかけて準備してきたヤマだ。お前たちに邪魔されたくない」
「俺はお前たちの邪魔をするつもりなんてない」
「それはわかっている。だが、今夜の取引を押さえるのは我々であって、君たちじゃない」
「俺をどうするつもりだ?」
「どうもしない。取引が終わるまでここにいてもらう」
「ムラナカは来るのか?」
「ああ、ヒラノが必ず連れて来る」
「シグマはすでに基地内に潜入しているのか?」
「奴らは基地内にはいない。横須賀の沖合にいる。今日の取引の相手は米軍兵士だ」
「何?」
「驚くのも無理はない。我々も初めて知った時は驚いたよ。しかし、よくよく考えてみれば、米兵の全てがまともな奴とは限らない。それに米軍は奴らと密かに通じているだけじゃない。あんたら警察上層部とも通じていて、この取引を黙認している」
「何だと?」
「警察も所轄のお前が捕まったと知って大慌てだろうが、内々の捜査である以上、堂々と表から救出には来れないだろうし、対応に苦慮しているだろうな。お前の他に、この抜け穴を知っている者はいるか?」
 ショウが首を横に振る。
「お前が入ってきたビルの周りには、我々の捜査官が張り込んでいる。ムラナカたちが基地内に入り次第、穴の出口をかためる。取引を終え、外に出たところを俺たちがいただくって算段だ」
「考えたものだな」
「だから、お前たちはそのまま静かにしていろ。悪いようにはしない」
「そろそろ時間だ」
 そう言って、作業服の男が出て行った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み