第6話 サトミと腐れ縁

文字数 1,961文字

そうしてようやくロンドの局に着いた。
ちっこいのはとっくに着いてて荷物降ろしてる。
文句言ったけど、完全無視継続。
荷物降ろしたら、着替えに家に帰るらしい。

やっぱりアレは、自分でも浴びた血で気持ち悪いから機嫌が悪かったんだろう。
そういうことにしよう。
デリーじゃ、あんな失礼な奴はいないわ。

ポリスには一応連絡したけど、簡単な事情聴取で終わる。
ちっこいのがアジトまで追っていったけど、そこはまた明日聞きに来るらしい。
ロンドの人たちは、ちっこいの以外はとても優しくて、もう日も落ちてるので明日の早朝デリー行きのロンドの人と一緒に帰ることになった。

「よくポストアタッカーになったわよねえ。」

エクスプレスの事務してるキャミーがコーヒー出してくれる。
持ってきた荷物は、結局半日遅れで明日の処理になった。
いくつか手紙が血で汚れたらしいので、お詫び状を付けるらしい。
あのちっこいののせい……というか、きっと私が元凶。

くっ、落ち込む。今度来る時は無事に済みますように。

「まあ、この腕章に憧れるって感じ? セシリーちゃんにも勧められたし。
あたしセシリーちゃんとは前から友達なの。
でも〜、一人で荒野渡るの思った以上に大変よねえ。」

フフフ……と、なんか慈愛の微笑みが帰ってくる。

「他の奴ら強いからさ、きっと………標的になるよね………」

「え………」

そ、そっか………確かに………

しばらく、時間がそこで止まった。

「今夜うちに泊まりなよ。セシリーのとこに行く?明日のデリー当番誰だっけ?」

「んー、でも朝早いんでしょ?だったら、明日デリー行きの人んとこにお世話になったがいいかな。」

「それもそうね、一緒に出ればいいし。」

バタンと、ドアが開いてあのちっこいのが着替えて帰ってきた。

「なんだ、まだいたのか、クソ女。
キャミー、あの服捨てた!服代でる?なあ、出る?」

「サトミ〜、失礼でしょ?出すわよ。気持ち、古着代ぐらいね。
だから防弾スーツ着なさいって言ったでしょう?
あれなら局で洗濯出すのに。なんで意地でも着ないのかなあ。
明日朝は誰?デリー行き。」

「俺。」

おれ?ってことは、明日もこいつと……?

「げえええええええええええ!!!」

あたしは絶望した。




とは言っても、今夜寝るとこ確保せねば。
就業時間も終わりに近づいて、アタッカー達も帰ってきてみんなそろうと、だんだん言い出しにくくなってきた。
よりによって、なんで明日がちっこいのなのよう〜

でもさ、こいつだからイヤとは言い出すのも女がすたる。
こっちも軍上がり、銃抱いて山の中で一晩寝たことだってあるのよ。

フフフ……さあ、どう出るちっこいの!
みんなとソファーに座って超激甘コーヒー飲んでる、ちっこいのに後ろから声かけた。

「ねえ、ちっこいの、頼みがあるんだけど〜」

「お前が俺をそう呼ぶ限り、俺はお前の声、一切耳が拒否する。」

「え〜、だって、みんなちっこいのって呼ぶんだもん、なんであたしだけダメなのよお。」

それって、差別じゃん?

「レイルちゃん、レイルちゃん、ちょ、こいつ激怒(げきおこ)する前にちゃんとサトミ様って呼んであげてよ。
俺、怖すぎるから。」

ムウッとむくれるあたしに、向かいのダンクちゃんが声を潜めて手招きする。

「え〜、そんな敗北宣言みたいでやーだー。」

いやんいやんとクネクネするあたしに、後ろからセシリーがでっかいお尻でドンと押した。

「レイル、あんた相変わらず脳みそ空っぽねえ。
あんたのその鈍感さは、まあこの仕事に向いてるのかもしれないわ。
いいから頭潰される前にサトミって呼ぶのね。
ほんとあんたって怖い物知らず。
え〜? あたしは王子でいいのよ、あたしが王子って決めたんだから。」

セシリーが、コーヒー入れて冷蔵庫に行くと、バターをひとさじコーヒーに入れた。
バターがじわっと溶けて、コーヒーの表面に浮く。
それをズズーッと吸って、なんだか幸せそうにあたしに親指立てた。

ちぇっ


「なー、ガイド、なんでアタッカーって普通の女がいないんだろうな〜。」

サトミがため息交じりに真っ白なコーヒーに、また砂糖を入れた。
ガイドがサッと砂糖の容器を取り上げる。

砂糖めっちゃ入れてるけど、あれ、溶けるのかしら。

「お前も普通じゃ無いし、とんとんじゃネエの? まったく、砂糖入れすぎって何度言わせるんだ?」

「は? 俺普通だし……うーん、いや、普通と思ってたんだがなあ。」

「普通の奴は、銃向ける奴を友達と呼ばねえだろ。」

「仕方ねえ、あいつには俺の他に友達のなり手がねえもん。」

「なんだよそれ、ほんとお前って変な奴。」

お仲間で会話が弾んでる。
えーと、………
そうっと、あらためて声かける。

「あのー、サトミちゃん?」

「ちゃん?」

「ねえ、今夜家に泊めてくんない?」


「「   はあああ???? マジーー???  」」

「マジーー」

みんなの視線が、あたしのプリティな顔に集中した。
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登場人物紹介

レイル・グラント

デリーの新入りアタッカー。ダークブラウンのセミロングの髪、目はブラウン。

ミスが多く、脳天気で頻繁に強盗に襲われる。

酒を飲むと羞恥心が消える。いや、飲まなくても羞恥心はないのかもしれない。

・サトミ・ブラッドリー

日系クォーター、15才。黒髪、ブラウンの瞳。短髪だがボサボサ。中肉低身長、禁句はちっこい、チビ。

使用武器、主に背の日本刀

・ジェイク

デリー本局のリーダー、古参アタッカー。戦中からアタッカーをやっている強者。面倒見のいい男。

レイルの面倒で胃に穴があきそうな感じ

・セシリー・メイル

17才。プラチナブロンド、碧眼、白人ではない。

リッターとは父親違いの兄妹、可愛い系美少女。人を見て選別し、ガッツリ甘える世渡り上手。

馬は青毛の大きい馬ナイト、銃は見た目で選んだスバス。

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