椿の落ちる音

文字数 300文字

勤め人の肩を叩く仕事をしている。今日もまた一通の退職届を受理して帰途についた。季節柄、最寄駅から自宅までの道には椿が落ちている。「首が落ちることを連想させるから武士がこの花を嫌う」というのは「東京」を闊歩し、政治を牛耳る椿好きの薩長人に対する、江戸っ子の当て擦りに由来する俗信だという。
「いいご身分なこった」
 無理もない、
「澄ました顔しやがって」
 よそ者が全てを決めるのを、
「俺らを何だと思ってる」
 黙って見ているのは辛いだろう。
「お前に何が分かる!」
 俺とてそう思う。靴の下から聞こえる恨みがましい声、萎れた花弁の中に見える口惜しそうに歪む顔が誰のものか判ってしまわないよう、俺は歩く速度を速める。
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